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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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クロノス市街戦

クァールが味方となる者たちを集めていたその数時間前。


クロノス本拠地であるクロノスの都市郊外に数名の者たちが集まっていた。


彼らは生き残りのR一族一派の者たち。


天使界の女帝アクローマ、ヴィオラートの法王アズラエル、魔界の覇王ドレッドノート、魔界の邪神ミネウス、そして竜人のアーティ。


「皆、準備はいいかしら?」


腕を組みながら、アクローマは話す。


「最初から準備は整っている、さっさと戦闘へ移るべきだ」


魔導士風の白いローブをまとうドレッドノートが若干イライラした様子で語る。


「うるさい、貴方はさっさと能力発動して」


「ふん……」


過去に敗北を喫し、既に殺害されていたはずの者の姿が見受けられる。


彼らに取って、あの時の死は偽り。


スキル・ポテンシャルによって見せかけただけのものに過ぎない。


「アクローマ、相馬の姿が見えませんが……」


司祭の服装のアズラエルが問いかける。


相変わらず、アズラエルは神聖なオーラをまとい、徳の高そうな様相。


「相馬?」


アクローマは不機嫌そうな表情になる。


「死地へ向かうというのに戦闘向けではない、あのドールマスターがいる必要などない」


アズラエルの問いかけに答える。


アクローマは相馬が嫌い。


相馬は初老に差しかかった身なりの良い紳士。


R一族派であるが自ら望んでクロノスの中枢に身を置き、なおかつ敗北主義的な発想の持ち主。


色々と策を考えるのは得意だが、戦場に身を置くのを良しとはしない。


クロノスへ入った経緯も、戦闘に関する認識もアクローマとは対極的な位置に存在し、それが嫌いな理由。


「アーティ」


元エルフ族であり、旧魔界の邪神ミネウスがアーティに呼びかける。


「オレと君はスキル・ポテンシャルが扱えない。オレたちはともに戦い、ともにお互いを守り合おう。頼れる者はお互いに一人だけだ」


「ああ」


アーティはうなずく。


「にしても、不思議なものだな。レオーネでは互いに殺し合いをした仲なのに、今では唯一頼れる者とは」


「そういうこともある。それが、面白いんじゃないか」


気さくにミネウスは頬笑む。


クロノス本拠地は都市ということもあり、城や要塞などのように防衛特化の形を取っていない。


クロノス全体像は、一つの大きな都市であり誰でも住もうと思えば住める環境。


一見すればなにも警戒態勢が敷かれていないように見えるが当然そんなことはない。


タルワールやジリオン、ゲマなどに認められた強力な能力者たちが数十万と暮らしている。


「アズラエル、ミネウス、ドレッドノート、アーティ」


アクローマが他の者たちに呼びかける。


「命を懸けましょう、この戦いに。自らの誇りを汚そうとも卑しいくらい悪あがきをして、一人でも多くの敵を殺すのよ。私たちができるのはただそれだけでも、R・クァール様が必ず私たちを救ってくださるわ」


「………」


無言のまま、全員が頷く。


「では、ドレッドノート。先手必勝の策を頼むわ」


「了解した」


ドレッドノートは元から無限に匹敵する魔力をさらに高める。


高めた魔力を駆使し、一瞬の内に周囲には大軍とも言える程の数の人に似た姿をしたなにかが現れた。


人の平均的な身長程度の大きさをした薄く半透明の怪物。


幻人と呼ばれる怪物の軍隊を作り上げていく。


スキル・ポテンシャル“アウトブレイク”の発動であった。


「行け、幻人たち。なんの遠慮もいらん、この世界の新たな支配者はお前たちだ」


幻人の大軍は、ドレッドノートの話を聞き終えると各々が空間転移を詠唱し、クロノスの都市全体に散っていった。


「空間転移まで扱えるのね、あの半透明」


アクローマが不満げにつぶやく。


ドレッドノートが味方である内は非常に有用な能力であるが、あのような者たちを天使界で出されれば想像を絶することになる。


「驚いただろう、アクローマ。それ程に彼らは強力無比だというわけだ。今では、一体レベル七万程度まで押し上げられるようになった。複数の世界を襲わせていた甲斐があったというものだよ」


ドレッドノートは鼻高々に語っている。


「ミネウスが貴方みたいな異常者を自由にさせていたのには驚きね」


クロノス全体から爆発音などが聞こえ始めてから、アクローマ以外の全員がクロノスの都市へと散っていった。


「さて、皆は戦いに行ったわね……」


アクローマは一人うつむく。


このまま自らもクロノスで戦えば、確実に桜沢有紗とも出会うだろう。


その時に自らはどうするのかが、アクローマには分からない。


決心がつかぬまま、アクローマもクロノスの街へ走っていく。


全てはクァールのために。


「………」


彼らがクロノスの街へ向かっていくのを、遠目から一人見ていた者がいた。


それは今まで行方をくらませていたエージ。


耳や尻尾を垂らし、その小さな身体をふるふると震わせている。


「ここまで来たんだ。オレも戦わないと……」


エージからは全く殺気や闘気などが感じられない。


戦うことが怖くて戦えずにいたが、身を晒せばきっとなんとかなると思っていた。


「でも、オレは綾香の役に立ちたい」


エージもクロノスの街へ歩んでいく。


怖い、という対象が本質的に他の者たちとは違かった。





クァール派の先発隊が戦い出してから数時間後。


クァール、ジャスティン、ルミナスの三人も、クロノスの街へ現れる。


アクローマたちが現れた場所と丁度反対側に位置するクロノスのエリア区に三人はいた。


遠目に見える近代的なビル群が立ち並ぶ別のエリア区からは次々に燃え広がる火の手、立ち昇る黒煙が周囲一帯を覆っている。


さらには爆撃のような音がこの離れたエリア区にも絶え間なく響き渡っていた。


「ここが……クロノス?」


クァールは呆然としている。


「凄いですね、あちらこちらから火の手が上がっている」


能力者による近代的な街中での市街戦を今まで見たことのなかったジャスティン。


戦いの様相に少し圧倒されていた。


「辺りは僕の故郷エリアースのような近代的な街となにも変わらないのに戦場だなんて……」


「まさか……」


クァールは街の様子を見て、なにかを思いつく。


「なぜ、クロノスなのかと思いましたが、おそらくは再利用したのでしょう。周囲は一変してしまいましたが、あの場所は変わらないと思います。今はそこへ向かいましょう」


「その必要はない」


三人以外の誰かが答えた。


声がする方を三人は反射的に確認する。


背後に数メートル程を離れたその先に巨躯の体格を有した男性がいた。


「私だ。今、任務から戻った。貴様らもこの場にいつまでもおらず、迅速に対応するように……とは言ったもののジェノサイドの者でもなさそうだな」


彼らの前に現れた男性は、ジェノサイドの執行官兼大臣のジリオン。


最強の戦力である彼が現れたことにより、三人は最初から最悪な状況に置かれていた。


「よし、ならばこうしよう」


両手を音を立てて合わせ、なにかを思いついたように語る。


と、同時に空中へ一本の大剣が現れる。


空間転移により現れたそれを、ジリオンは一瞬で掴み取った。


地面を蹴り、速攻でジリオンはクァールに迫る。


速度は恐ろしく速い。


並みの者ではなにかが隣を横切ったとの思いに至る頃には既に死を迎えてしまう。


しかし、ジリオンがクァールを横切った時、倒れたのはジリオンだった。


「おっそろしい……わ。水人でなければ、この身体でも一撃だった……」


クァールが態勢を崩し、地面に片足をつく。


クァールの右肩側に裂傷痕の形跡があった。


身体を右肩側から一気にぶったぎられる瞬間、クァールは水人化。


その際に数発カウンターを行い、攻撃を仕掛けた側のジリオンが逆に地面に平伏す結果となった。


「……ところで、彼がまだ生きているみたい。誰が戦う? 先に言うけど、私は御免こうむるわ」


ジリオンを警戒しながら、ルミナスは尋ねた。


「ジャスティン、私の近くにいた君も問題なく攻撃を避けられている。さっきの攻撃が見えていたね? 対処はできそう?」


地面に片足をつけ、休憩していたクァールが立ち上がる。


「今のところ五分五分かな、あの男とは僕の戦い方が全然違うし」


「ジャスティン」


クァールはそれ以上を語らなかった。


「分かっています、最初から生きて帰れないことも。あいつが相当の手練れだとも手に取るように分かる」


ジャスティンは小さな空間転移のゲートを発動させた。


そこへ手を入れ、数本の小型ナイフを取り出す。


「だからこそ、僕が命を懸けるだけの価値がある。勝ってください……“クァール”さん」


「とやっ!」


かけ声を上げ、ジリオンは倒れていた状態から一気に立ち上がる。


「どうしたというんだ、貴様ら。わざわざ隙だらけの相手が目の前にいたのに、なぜかかってこない。さては、怖気づいたな?」


挑発をする。


しかし、ジリオンは先程のダメージを隠しきれていない。


「なんか、勝てそうな……気がする」


「よし、ジャスティン。お願いするよ」


ジャスティンを残して、クァール、ルミナスは市街地へ走っていく。


「二人、逃がしたか」


「僕が相手をするよ」


「貴様は何者だ? 他の確信犯どもと同じく、目的は変わらずか? R一族がどういう者たちなのか、分かっているのか?」


「R一族がどうとかは知らない。でも、ミールもノールさんも優しくて大事な人たちだよ」


「そのような印象についてを話しているのではない。恐るべき能力が目覚めてしまう、それが問題なのだ。能力の汎用性はいずれ全てを巻き込む。独裁が当然だと思い込まされ、その通りにしか考えも行動も取れなくされては困るのだよ、こちらは」


「さっきからなにを言っているの? 能力の話なの?」


「ふむ、なにも知らぬようだな。傭兵か、貴様は」


なにかを悟ったのか再び大剣を両腕で握り、ジリオンは身構える。

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