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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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会合

「こんにちは」


ノール・杏里の部屋をルインが尋ねた。


それは丁度、ジャスティンがミールの敵討ちを決意した時と同時刻。


「やあ、いらっしゃい」


いつものアウトレットソファーに寝そべりながら、ノールは応対した。


「随分安っ……気に入っているのね、そのソファー」


「まあね」


ソファーから立ち上がったノールはキッチンへ歩いていく。


「座ってて。今、紅茶を持っていくから」


「本当に優しいのね、貴方。R一族で自らお茶を出してくれる人、貴方しか見たことがない」


促されたルインは先に高級ソファーに腰かけた。


「どうぞ」


それから、ノールがルインの前にあるテーブルに紅茶の入った白いカップを置いた。


「ありがとう」


出された紅茶をルインは毒が入っていないかなどを確認もせずに飲む。


初対面時とは異なり、ルインはノールを信頼していた。


「今日はどうしたの?」


テーブルを挟んで置かれたソファーにノールも座った。


「ん、ちょっとね」


静かにカップをテーブルへと置く。


ルインはノールの様子を窺っていた。


なぜなら、ルインはこの世界に起きている異変に気づいている。


「この世界の戦争に手を貸す?」


「あまり、ボクは乗り気じゃないな」


「そう」


反応を見て、ルインは誤認をする。


ルインが信頼しているのはR一族でノールただ一人。


もしも、この前に死んだR一族となんらかの関係があるのなら手を貸そうとしていた。


「貴方がそうなら私もそうするかな」


ルインは人と人との繋がりに強い関心を持っている。


自らが気づけたのならば、ノールもだろうと。


気づけたのは単にルインの能力が高過ぎてしまったがゆえ。


大事な人の死に気づけるなどというオカルトはノールに発生していない。


「ノール」


その時、寝室から杏里が出てきた。


精一杯おめかししていたのか、服装がいつもよりもより女の子らしい。


それに伴い、さらに杏里は可愛らしくなり、どこか甘く心地よい香りも感じる。


「貴方、男だよね?」


出てきた杏里にルインは眉をひそめる。


「見ての通りだよ」


「なるほど」


肯定も否定もせず、ルインはそれだけ答えた。


「じゃあ、ボクはギルドの会合に行ってくるね」


「うん、お願いね」


ノールが答えた。


総世界でギルド稼業を行うには必ず通る道がある。


総世界を股にかけ活動する他のギルドや傭兵部隊と足並みを揃えること。


また、統括役には必ず利益が及ぶよう行動すること。


いわばそれはマフィアの連合となにも変わりない。


己の利益のためだけに足並みを揃えず身勝手に振る舞い、その道を違えた組織は徹底的に排除され、死を持って償わされる鉄の掟があった。


普段なら会合へ統領のノールが出向いていた。


だが、いずれはR・クァールへと変化すると考えているノールは杏里に問題なく傭兵稼業を存続していけるよう自らが熟していた分野を少しずつ任せようとしていた。


「行けば分かると思うけど、相当クセが強い人だらけだからあんまり気にしないでね」


一応、ノールが杏里にどういう輩がいるのかを伝える。


正直ノールも最初は面食らったものだった。


「ボクなら大丈夫。やれるものならやってみろ、だね」


親しげに杏里は笑い、空間転移を発動してどこかへ消えた。


「成長したのね、あの子。一人か二人は殺しそう」


なにがおかしいのか、ルインはクスクス笑っている。


「変な人ってのは、やっぱりどこにでもいるものなんだよね」


多分あの見た目では喧嘩を売られるだろうなと、ノールはぼんやり考えていた。





「確か、ここで合っているよね」


空間転移によって、杏里はとある場所に移動していた。


周囲は建物が立ち並びどこか薄暗い道。


その先には看板のネオンの輝きや、人々が行く雑踏が見える。


この場所は、近代的な世界の繁華街の路地裏だった。


「ここは、好みの場所じゃないな……」


杏里は微妙な表情に変わった。


とりあえず杏里は繁華街方向ではなく、路地裏のさらに奥へと歩む。


事前にノールからはその先に集会場となる施設があると伝えられていた。


進んでいくと古い倉庫の建物近くで杏里は立ち止まった。


杏里は直感的にこの場所が目的地であると悟る。


なぜなら、倉庫の入口近くに眼光鋭い、明らかに堅気ではない短髪の男性が倉庫の壁を背に立っていたから。


杏里からでも、この男性はできると思える程の強さを持っている。


「なんだ、このアマ。さっさと失せろ」


男性は決まり文句を語っている。


「?」


自らへ語られているとは毛頭思っていない杏里はなにも問題なく近づく。


「聞いてんのか」


男性は壁から離れ、即座に魔法剣を作りだし、杏里の胸元付近スレスレに切っ先を向ける。


「これは……」


自らに向けられた魔法剣を見下ろしていた杏里が男性へ視線を向ける。


「宣戦布告でいいのか?」


杏里の瞳は覚醒化によって、銀色へ変化していた。


いつの間にか、杏里の腰にはトンファーの入ったサイドパックが出現している。


「お前、まさか……名前は?」


「ボクは歩合制傭兵部隊リバース副統領の春川杏里」


「ほう、お前があの悪鬼羅刹の春川杏里か」


男性は魔法剣を消し、杏里に非常に興味を持っている反応を示す。


敵意がないのを確認して杏里も覚醒化を解いたが問題はそこではなく……


「悪鬼羅刹……? どういうこと?」


「お前は相当キレている女だ。思っても普通じゃできないような所業、悪行の数々に背が震えたものだぞ。あれらは本当にお前一人で行ったのか?」


「請け負った仕事は基本的に一人で達成するのがリバースでは普通かな、歩合制だから。それよりも悪鬼羅刹って」


いつになく、杏里は焦っていた。


杏里にとって傭兵稼業は弱者救済、そして平和への手段。


悪鬼羅刹ではまるで印象が真逆。


「お前は知らなかったのか? 凄まじい行いで、しかもたった一人でマフィアだろうが暗殺集団だろうが、情け容赦なく虱潰しに殺害していく異常性から、いつからかついた異名だ」


「悪党から見れば、とても異常だろうね。安心したよ、ボクは弱者救済を志す平和の使者だから」


「いいねえ、お前」


にやっと、男性は笑う。


杏里からすれば額面通りの内容であり行動だが、男性からすればどうしようもない程にイカれた女。


「お前のような女を待っていたんだぜ。ウチの組に入らねえか?」


「組?」


「オレはスミル。総世界のギルド、傭兵部隊の統括役を担う組織の統領だ。小さい組織に所属していてもつまらんぞ。お前はそこにいるスケールの女じゃない」


「リバースはボクが命を懸けて守らなきゃいけない大事な人が作った組織だから、引き抜きには応じないよ」


「やっぱ、無理か。お前みたいな逸材はそうそういない。諦めるには惜しいが仕方ないか」


スミルは倉庫の扉へ手のひらを向ける。


「他の組の者も来ている。さあ、お前も入れ」


「ところで、貴方は統括役なのにどうして門番みたいなことをしているの?」


「簡単だろ。オレが一番強いからだ」


「へえ。確かに貴方は……強いね。あと、ボクは男だから」


「冗談だろ」


笑って、スミルはその話を流した。


ひとまず、杏里は倉庫内へ入った。


倉庫内は薄暗く殺風景で物がほとんどない。


各々が適当な位置に立っていたり、しゃがんでいたり、壁に寄りかかっていたりで会合が始まるのを待っている。


「よう、お前ら待たせたな。今日はこいつで最後だ」


杏里の後に入ってきたスミルが他の者たちに呼びかける。


「なんだ、スミル。その女はお前の連れか?」


倉庫内にいた一人の男がスミルに茶化すように言う。


「いいや、そうだったなら良かったなとは思うがな。こいつはお前らもよく知る女だ。歩合制傭兵部隊リバースの副統領春川杏里とはこいつのことだ」


「こいつが……」


明らかに倉庫内の雰囲気が変わる。


なにか張りつめたものを杏里自身が感じていた。


「なにをいきなりびびり散らしてやがる。情けねえなあ……」


他の者たちの反応に、スミルは小さく声を漏らした。


「じゃあ、お前ら。これから今月の予定について話していこうか」


こうして、スミルたちは話し合いを始めた。


一応、寄り合いとしての会合ではあるが話す内容は不平や不満が多い。


そもそも武力で名を上げたり、金や権力を欲するような野心溢れる者ばかりの悪党集団。


口を開けば、あの組織はクズだとか、あの傭兵は死ぬべきだとかをとにかく言いたい放題。


統括役のスミルもまとめる気がなく、逆に煽ってヒートアップさせている。


こういう面白おかしく人を茶化すのがどうしても好きなようで、おかげで会合は遅々として進まない。


杏里はそういった場面を腕を組みながら眺めていた。


なにをしに来たんだっけ?


そう静かに杏里は思っていた。


同時に杏里はノールの言葉を理解する。


相当クセが強い人ばかりとはこのことだったのだろうと。


それから数時間後、なんだかんだで会合が終わる。


とにかくなにもまとまらなかったが、統括役の組織へ上納する金額と請け負える仕事の数だけは明確に決まった。

登場人物紹介など


傭兵集団(総世界を股にかけた傭兵稼業を行う際には、必ず上位組織が取り仕切る傭兵集団に所属しなくてはならない。傭兵集団に所属さえすれば、上位組織が総世界政府クロノスの暗部ジェノサイドとも繋がっており、どんな悪党でも必要悪として生かされる。ただし、やり方が度を超えてしまった者は傭兵集団の内々で秘密裏に処分される)

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