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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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対応策

命懸けで城内から逃げ出したミールは、城の庭園内へと入った。


この死地を抜け出すには、ラミング城を出た程度でなんとかなるものではない。


「待て!」


間髪入れず、ジークハルトもミールを追って城外へやってきた。


ジークハルトは右腕に氷の刄を出現させ、ミールを襲いかかろうとする。


「クソ、やるしかないか……」


ミールは空間転移を発動し、先端に星型がついた子供のおもちゃのような魔法の杖を右手に出現させる。


ミールの戦闘態勢への移行を確認したジークハルトは距離を取り、立ち止まった。


膠着状態へ移るのかと、ミールが思ったのも束の間、ミールの身体に衝撃が走った。


「相手は一人ではありませんよ?」


ミールの背後には、ルウが立っていた。


ルウの両手に発現された魔法剣が、ミールの喉元及び心臓付近を刺し貫いている。


魔力体化によって空中を漂う魔力へまで変化し接近していたルウを人の身であるミールには看破できなかった。


「この程度で死ぬとは思っていません。致命傷は与えたので、さっさと失神してください」


わざと雑で強引な勢いをつけ、ルウは魔法剣を引き抜く。


魔法剣を引き抜くと膝から体勢を崩しながら倒れ込もうとしているミールを背中から蹴り倒し、駄目押しを決めた。


「今ので死んだんじゃないか?」


自らをジークハルトと語っていた男性が、ルウに声をかける。


「まさか? この程度でR一族を倒せると思っているの?」


「そりゃそうだけどな」


男性はそう語りながら、徐々に身体が変化していく。


数秒程度で姿は完全に別人へと変わり、水人のライルになった。


水人であるライルは自らの思った形に身体を変化させることができる。


その変化は自由自在であり、大抵のものには変化が可能。


とはいえ、水人なら誰でも変化ができるというわけではない。


それだけ、ライルには変化の素質があった。


「とにかく、ミールを拘束するぞ」


「分かっているよ」


蹴り倒してから、ミールをまだ踏みつけていたルウは足を退かす。


その瞬間、ミールは一気に立ち上がった。


喉元や心臓の酷い出血からダメージは相当だが、ミールは諦める様子がない。


このような状態に追い込まれようとも、ミールには勝機があった。


「………」


ミールは口を動かしながら、なにかを発している。


当然だが喉元を刺し貫かれ声など出るはずもない。


「止めるぞ……」


ライルの声に覇気は感じられない。


状況が状況とはいえ、相手にしているのは仲間と思っていた者。


酷く負傷した姿に、ライルの判断力を低下させていた。


「なにやってんの、ライル!」


一瞬出遅れたライルに代わり、ルウが両手に持つ魔法剣で切りつける。


直後、ライル、ルウともに異変に気づく。


ルウの魔法剣がミールの身体を通り過ぎたのである。


「スゲーな、これ。これが、水人化なんだ……」


ミールが感嘆の声を発する。


水人ではないミールが、水人にしかできない水人化をしていた。


その変化により身体の傷は癒え、声が出せていた。


ミールの身体は魔力同然となり、その強力な魔力からルウの魔法剣に影響されず斬られていない。


それを可能にさせたのは、ミールのスキル・ポテンシャル能力同化。


能力同化により、水人であるライルの能力をそっくりそのまま自らへと上乗せして自在に扱った。


ワードスキルのため、言葉を発する表現を行う必要があった。


「さっきはよくもやってくれたな」


ミールに強い覇気が宿る。


能力同化には、さらに追加効果があった。


対象者の能力を得ると同時に、対象者の実力の半分程度基礎的な能力値が上昇する。


そうでないと対象者が扱える能力を使用できないため欠点を補うはずの効果だが、もはやそれがメインだといっても過言ではない程の強力な効果。


「………」


ライル、ルウともにミールの変化を目の当たりにしてたじろぐ。


これ程までにミールという男は強いのか。


ルインと遜色ない存在が目の前にいるようなプレッシャーを感じていた。


「ライルさん、ルウ君。君たちを見損なったよ。僕たちは仲間じゃなかったの?」


ミールは魔法の杖をバトンのように片手で回転させ、二人に向けた。


「発動、ハルマゲドン」


ミールの目の前に大きな魔方陣が現れる。


そこから、神聖魔法ハルマゲドンが放たれ、ライルとルウを襲う。


「てやああああ!」


ルウがライルの前に立ち、死力を尽くして二人の正面に硬度の高い魔法障壁を張る。


自らが出せ得る限界まで高めた魔力を魔法障壁として正面一点集中で張った強力なもの。


それでも、強力な強さを得たのミールには太刀打ちできず、二人ともハルマゲドンによって弾き飛ばされた。


「……やり過ぎじゃないのか?」


全身傷だらけになったライルが立ち上がる。


ルウは致命傷を負っているが、なんとか生きている様子。


「まだ、ジャブ程度だけど?」


「そっか」


ライルは頬笑みを浮かべる。


「ミールは甘いな」


「どこが?」


「オレたちを未だに仲間だと、心のどこかで思っている。オレたちはもうそういう考えは捨てたんだ」


「………?」


ミールは自らの身体から魔力が消失しているのを感じた。


先程まであった強力な力もなくなるどころか、もう魔力自体を身体から感じない。


「敵だと思ったのなら、誰であろうと素早く倒すべきだ」


再び、氷の刃をライルは腕に出現させた。


ミールの敗因は強くなれることに油断してしまった点。


自らがスキル・ポテンシャルを扱えるように、ライルもまたスキル・ポテンシャルを扱える。


ルウが自らの命を投げ打ってでも全力でライルの盾になったのはライルの能力発動の時間を作るため。


「ミールは事故死した、ということにする。スロート軍に壊された家々が崩れ、押し潰されて死んだとな」


魔力がなくなり、なにもできなくなったミールを氷の刃で貫く。


「僕らがラミングを襲ったと本気で思っているのか? 甘いのはどっちだ……」


ミールはライルの襟首を掴み、そう訴えたが徐々に意識を失い、絶命した。





数日後、スロートへロイゼン魔法国家の使者が訪れる。


クロノが職務を執り行う図書館へと通された使者はクロノと謁見し、ミールら兵士一団がラミング帝都内を視察中に家屋などの倒壊に巻き込まれ、死去したと伝えた。


ロイゼンからの使者が訪れたと知り、クロノとともに図書館にいたテイル上級大将など数名の者たちは困惑しながらも仕方なく受け入れるような反応を見せた。


だが、クロノ、ジャスティンには到底理解し難い内容。


あの男が高々家屋の倒壊程度で死ねるわけがない。


「ジャスティン少将」


使者が帰国の途に着く際まで呆然としたままだったジャスティンにテイルが声をかける。


「遺体は数日後、スロートへ運ばれるそうだ……この場合、私はなんと言って良いのか分からん。ミール大将は貴公にとって、我々以上に思い入れがあったようであるからな」


軍人であるジャスティンに気を使ってか、はぐらかす表現を避けてテイルは話していたが、ジャスティンにその言葉は耳に入らない。


どうやってかは知らないが、何者かにミールが殺されたのだと悟った。


そう考えるとジャスティンは悔しくて堪らなかった。


「帝クロノ、僕に暇をください」


「職務に戻りなさい、ジャスティン少将」


涙ながら訴えるジャスティンに一言だけさらっとクロノは答える。


「どうしてですか、僕がいなくても関係ないじゃないですか!」


「落ち着かないか、ジャスティン」


クロノは少し声を荒げた。


「一人でなにができる。相手は、ミールさえ倒してのける程の実力者だ。勝てるはずがないだろう」


「ああ~……ちょっと良いかな、クロノ殿」


テイルがクロノに話しかける。


「私には色々と話が見えんのだが? それとだが、クロノ殿とジャスティン少将はどのような関係なのかね? そのような口調、公式の場で扱うべきではない」


「これは失礼しました。少し熱くなってしまったようです。確かに部下の者に対しての口調ではなかった」


「そうであったか、それともう一つ。なぜ、ミール大将が何者かに殺害されたかのように言えるのかな? 是非、私にも教えて頂きたい」


「彼は強いのですよ。その強さは我々の考えを遥かに凌駕するものです」


「本当にそのような力を有しているならば、我々はミール大将を救世主さながら讃えているでしょうな。もし本当にそうであるなら今回のような戦争など起きさえしなかった。いや、今の現状にもしなどという非現実的な話は語るだけ無駄ではありますがね」


当然、テイルはクロノの話を信じない。


それどころか、軽く流し今はそれどころではないといった様子。


「ところで……ジャスティン少将。貴公は公務を数日行わなくていい。気持ちの整理をつけなさい」


「はい……」


ジャスティンは決心した目をして、図書館を離れていく。


クロノが拒否した内容を、さも当然のようにテイルが許可する辺り、露骨な権力闘争が行われていた。

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