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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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不確定要素

ラミング帝国兵士の奇襲から、二日が経過した。


テイル上級将軍率いる軍団はラミング側の伏兵やゲリラ攻撃を予期し、敵の早期発見や各個撃破を優先させるため斥候を放っていたが、誰一人として現れることはなかった。


これにより、兵士たちは言い知れぬ不安を抱き始める。


既にラミング帝国国境を越え、ラミング帝都まで半日もない距離となっても出くわさない敵。


本来ならば今すぐにでも再び戦いが起きなくてはならない状態なはずなのに。


この状況になにかあると思わずにはいられなかった。


「ふむ、奇襲を仕掛ける程の思いがあったはずにもかかわらず依然伏兵なしか。なにをしたいのか検討のつけようがない」


攻撃を一切受けず、予定よりも早期にラミング帝都へ到着しようとする中、テイルは違和感を覚えていた。


「テイル様、いかが致しましょうか?」


同じような思いを抱いているテイルの側近ミラディンがテイルへ尋ねる。


「全く困った相手だよ。ここまで動きが読めないのは初めてだ」


「我々に恐れ、帝都へ引き返したのではないでしょうか?」


「そうではないと私は思うよ、ミラディン。出方は分からないとしても推測はできるのだからな。こちらにとって都合のいい事態が起きるとは考えない方が良い」


それから数時間後、テイル上級将軍率いる軍団はラミング帝都を見通せる付近まで辿り着く。


この時、兵士たちはラミング帝都の異変に気づく。


ラミング帝都からは煙が立ち上り、明らかに様子がおかしかった。


「まさか、我々は二番手か?」


テイルは、そう口にする。


「一体どの国へ、我々にしたようなことをしたのだろうか? 複数の国へ攻撃を仕掛けていたから、我々への対処が遅れたとでも言うのだろうか?」


独り言のように話したテイルは側近のミラディン、時雨へ指示を出し、軍全体の隊列を整えさせる。


続けて、スロート軍旗を掲げた。


すると、ラミング帝都方面に動きが見られた。


テイルの軍の接近にラミング帝国兵士も察知した様子。


「さて、どのような動きを見せるか見物だな」


テイルは時雨ら側近へ指示を出し、行軍を一度止めさせる。


ラミング帝都側からは編隊を組まれた無数の布陣を確認できた。


直後、ラミング帝都側から出てきた編隊は、テイルの軍団へ迫り出す。


「なんなのだ、あれは?」


テイルはラミング帝国兵士側の動きに驚かされる。


それは、隊列も策も関係ないと言わんばかりに適当な突撃を仕掛けてきたから。


「采配はいかがなさいましょう?」


ミラディンがテイルに尋ねる。


「両翼の部隊は貴公らに任せる。両翼から包み上げれば、この戦いは勝てるだろう」


テイルは口元付近に手を置き、ラミング軍を眺める。


「了解致しました」


ミラディン、時雨は自らが率いる部隊へ急いで向かう。


「テイル上級将軍」


「おお、君か」


テイルは笑みを浮かべ、親しく接する。


その相手は数ヶ月前にスロート軍へ加入され、スロート軍少将となったばかりのジャスティンだった。


以前の男装していた時とは違い、ジャスティンは女性将校らしい服装を着用している。


テイルが王国時代の貴族しか重用しないにもかかわらず、新参のジャスティンがいるのには理由がある。


「ジャスティン少将、ここまでの采配はいかがだったかな?」


「悪くないよ、正確そのもの。僕らの勝ちは決まったようなもの」


「ははは、そうか。それならば良かった」


ジャスティンの返答にテイルは機嫌が良い。


身分や応対にこだわる典型的な貴族思想のテイルが自らへの言葉遣いに気にもせず。


クロノと同様にゲマから、ジャスティンもスキル・ポテンシャルを開花されていた。


能力名は、悟り。


相手の動向などを分析も解析も理解することも必要なく、端からジャスティンには手に取るように分かる。


つまりジャスティンさえいればミスのしようがなく、ジャスティンの采配通りにやれば負けようがない。


これが、テイルが自らの私兵だけで戦いを挑んだ理由であり、早期に行動を移せた理由。


これ程の才能があれば、身分や応対など些末なもの。


「あの、僕が思うには……」


重用されていても、ジャスティンには不満があった。


「なぜ、最初から貴公の能力を扱わなかったか、であるのだろう?」


「まあ、そんなところです」


「私の読みが今でも正しいかを確認して起きたかったのだ。最初から君に任せられんよ」


「良いんですよ、僕に気を遣わなくても」


「貴公にそのようなことは不要か。新参の貴公は私の配下としてもまだまだ若い。例え少将としての地位にあっても私の配下の中には貴公を快く思っていない者もいるのだ」


「そういうのには慣れてます」


慣れていて当然である。


元々、エリアースの五指に入る程の資産家令嬢として生まれたジャスティンは嫉妬などいちいち相手にしない。


無論それは資産家令嬢だという本当の正体を知らぬ者たちの間でも同じく。


「それよりも、作戦についてお聞きしたいことがありまして」


「なにかな、ジャスティン少将。正しさは先程貴公も確認したであろう?」


「はい、今作戦は僕たちの勝利で終わるでしょう。でも、それだけではなにか腑に落ちないというか」


この戦いにジャスティンは不自然さを感じている。


勝つことだけは間違いないが、そこから先が読めていない。


「ふむ、そうか。いずれこの戦いも終わる。それが我々の勝利でだと言うのであれば、後に考察を行えば良かろう。さて、それとだがジャスティン少将」


「なんでしょうか?」


「女性である貴公は後列に下がると良い」


両翼の展開を見計らい、テイルの部隊も突撃を仕掛けていく。


戦略もなく、ただただ突っ込んできたラミング軍をテイルの軍団は徐々に包囲していき、次々に倒していった。


戦いは最初からテイル側の優勢のまま、ラミング軍の完全降伏という形で終結した。


テイルの考え通りに進み、紛れもなく圧倒的な勝利を収めた。


「さて、ラミング兵士の武装解除は終わったな」


テイルは降伏した兵士たちの武装解除を部下の者たちに行わせていた。


「テイル様」


そこへ、側近のミラディンがやってきた。


「ラミング側には指揮系統を担える者がおりませんでした」


「やはりか」


あの適当な戦い方から分かっていたが、それが事実だと知り、テイルの疑問は深まるばかりだった。


「これより、私はラミング帝王との謁見を申しつける。貴公も私とともに来るように」


「了解致しました、テイル様」


テイルはミラディンと数名の兵士を率いて、ラミング帝都へ入る。


その途中、時雨やジャスティンたちとも合流してラミング帝都内にある城へ入った。


「テイル様、捕虜にした兵士から興味深い発言がありました」


時雨がテイルへ語る。


「なにかな、それは?」


「スロート側がラミング帝国を攻撃するのは、これで三度目だと申しております。また帝王は……」


「話はそれくらいで良い。そのような妄言を間に受ける必要はない」


「確かに……失礼致しました、テイル様」


「それはともかくとしてなぜ我が国家への侵略なのか、私はそれが知りたい。我が国家は軍備を整え、過去とは比較にならぬ程の力を保有した。攻めるのならば自らよりも力を保有していない国を攻めるべきだ。ひとまず、現段階の対応はクロノ氏に代わり、私がラミングへの対応を行う。貴公らも私に従うように」


ラミング帝都の城へ辿り着いたテイルたちは城門前にいた兵士に案内され、応接間へ通された。


応接間にいたのは執政官と貴族の男性二人、そして大臣相当の男性二人。


四名ともに表情は暗く疲弊しきり、覇気を感じられない。


「お待ちしておりました……」


協議を執り行えるよう縦長のテーブルへ招くため、大臣の一人が応接間入り口でテイルたちを出迎える。


その後、テイルたちは各々席に座り、協議へと移行する。


「さて早速だが此度の一件、これは我々にとって甚だ許しがたいものだ。貴公らはどのようにしてスロートへ……」


「それは我々にとってもだ」


テイルの会話途中で、貴族の男性が割り込む。


「なぜ、同盟国である我々に奇襲を行った? それも三度も。我々はそれが許せん」


「済まないが、私には貴公の話が見えない。一体なにを申しているのだ、貴公は? そもそも貴公ら国家がスロートを侵略したことから始まった戦争ではないか。我々をこれ以上怒らせるのは止めたまえ」


「テイル上級将軍と言ったかな? 貴公もラミング帝都の現状を見たであろう」


「無論だ」


「ならば、どちらが先かを再確認できたはずだ。貴公らの奇襲が原因だ。我々はこの侵略を許しがたく思い……」


「許しがたい……だと?」


テイルは応接室のテーブルを思い切り叩く。


「我々を前によくも言えたものだな、貴公らでは話にもならない。早急に帝王を呼んで参れ。さあ、早くしろ!」


この時、初めてテイルは声を荒げた。


テイルにとって、それ以前にスロート側の者たちにとってもこのやり取りは不愉快極まりないものだった。


「帝王は……既に崩御なされた。名誉ある戦死であった」


力なく貴族の男性は椅子へ座り、頭を抱える。


「戦死? なぜだ?」


「スロート側の侵略は、これで三度目だと話したではないか。援軍ももうすぐ来てくださるはずだ」


「援軍だと、そんなものが一体どこに?」


「救援を送ったのだ、ロイゼン魔法国家およびクラスム共和国へ。今の我が国の現状と貴公らの姿を見れば、我々の味方になってくれるはずだ」


テイルは貴族の男性からジャスティンに視線を送る。


「……嘘ではないです。話し合いの場を設けようとしても取り合ってもらえなさそう。この数では向こうが有利で、一気に攻め込まれて終わりですね。全滅の危険性もあります」


ジャスティンはすらすらと言葉を口にする。


簡単に言うと、ジャスティンだけは生き残り、一人で三国を同時に対処ができる。


ただ、ジャスティンも当然総世界法を知っているため、テイルたちに判断を任せた。


「そうか、だとすれば……」


テイルは席を立つ。


「ミラディン、時雨、ジャスティン。これより我が軍は撤退する」


分の悪さを知り、テイルはスロートまで退却することにした。


「はあ……」


ジャスティンは溜息を吐く。


スキル・ポテンシャルの悟りにも弱点がある。


確認する範囲が多岐に渡ると、流石に全てにまでは目が行き届かない。


勝つのは間違いないと先読みができたが、腑に落ちない点まで読み込むには至らなかった。

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