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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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負け戦

「流石は完全武装だ! 金欠の誰かとは違うねえ!」


敵陣の中、怒声を上げるアーティ。


丁度迫ってきていた二人のステイ兵士の首根っこ辺りを片手ずつで掴み上げる。


「うわっ!」


完全武装なのに軽々と掴み上げられた兵士たちは叫び声を上げた。


「はいはい、分かった分かった」


そのまま、アーティは敵兵の多い方へと突っ込んでいく。


兵士を盾にしているのではない。


これから進む直線状を薙ぎ倒す面積を増やしているのだ。


ただ思いっきりぶつかる。


それだけで正面および掴み上げた兵士に大ダメージを与えられる。


「あっ」


アーティは声を発して立ち止まり、持っていた兵士二人を放り投げる。


すでに使いものにならなくなっていた。


掴み上げた兵士がいくら消耗しようと、アーティにはどうでもいい。


周囲には、いくらでもいるのだから。


「くらえ!」


その隙をついて、他のステイ兵士がアーティに背後から剣で斬り込む。


だが、刃先は背中に接触したまま、一ミリも先へは進まない。


ダメージが与えられていなかった。


攻撃も防御も、魔力を扱って通常の人以上に対応ができる。


それが魔導剣士の強さといってもいい。


この破格の強さは魔力があるがゆえ。


「おっ、丁度良いところにあった」


アーティは背後から斬り込んできた兵士を掴み上げる。


それから再び敵陣正面に向けて突っ込む。


人の戦い方ではなかった。


そのような戦い方を見せつけられてしまっては、人は心が折れる。


このような“化け物”と戦いたいがために、この戦場へ出向いたわけではない。


「尋常ではない強さだ。貴様、まさか魔導剣士なのか?」


圧倒され手出しができずにいたステイ兵士たちの人波を掻き分け、一人の人物がアーティの前に立つ。


綺麗な装飾がなされた貴族らしい鎧を身にまとう将校の男性がサーベルを構えていた。


将校は三剣士の一人、サーボ。


「お前が、この部隊の将校か?」


アーティはサーボの顔を見るなり、なにか肩透かしでも食らったような反応をする。


「お前の指揮は見事なものだったぞ。敵ながら呆れるばかりだったわ。顔や格好と同じく指揮能力さえも三流だな。お前のせいで死んだ奴らが早くこっちへ来いと泣いているぞ」


相手を挑発するようにわざとあざける口調。


「信じられんな、スロートごとき敗戦国にお前程の者を雇い入れる資金があったのか」


「オレを雇い入れるだあ? 馬鹿を言うなよ、金だけが原動力の浅ましいお前とこのオレを一緒にするな。分からねえと思うけどな……」


握った拳をアーティは自らの胸に当てる。


「心だよ、オレの清廉潔白さが正義の行いを自然とさせているんだろう」


心にもない発言をしている。


アーティとは初対面だが、サーボにはそれが手に取るように分かる。


「なんとでも言え、貴様には死んでもらう」


挑発に乗せられたサーボは直ぐ様、アーティに追撃する。


アーティは自らの間合いにサーボが入った瞬間、剣を振った。


しかし、縦一線に一気に剣を振ったアーティの剣先は、サーボの手にするサーベルの切っ先で簡単に弾かれる。


「はあ?」


細身のサーベルの切っ先で弾かれる予定外の反撃に一瞬、アーティは体勢を崩した。


アーティに対して、サーボはなおも追撃。


「はっ!」


かけ声とともにアーティを貫く。


直後、サーボは死を悟った。


サーベルに手応えがない。


即座にアーティは接近を許してしまったサーボに体当たりをし、地面に押し倒す。


転がり逃げようとするサーボを剣で一気に刺し貫いた。


呻き声を上げ、両手で刃を引き抜こうとするサーボだったが血を吐き絶命する。


「思ったより……強かったじゃないか」


サーボから剣を引き抜き、アーティはそうつぶやいた。


アーティの右腹部から血が流れている。


他のステイ兵士からはノーダメージでも、互いに魔導剣士と同格同士の戦いではそうならない。


では、なぜサーボは手応えがないと誤認したか。


あえて、アーティは魔力を極小まで抑え、攻撃をしくじったと思い込ませた。


一瞬の判断で、その行動が取れなければサーベルで横薙ぎにされ、真っ二つにされていただろう。


「なんだ、サーボ。初めて使える奴になれたのか、やればできるじゃないか!」


突然、誰かの声が聞こえた。


声の主を確認したアーティは状況の悪さを理解する。


声の主は、魔導使いのデュラン。


死んだサーボと同じく、ステイの三剣士の一人。


初めからサーボを使った漁夫の利を狙っていたらしく、アーティに大技の魔法を放とうとしている。


大きな木製の杖をデュランは豪快に振るわせ、アーティに向けると詠唱も間もなく即座に魔法を発動した。


アーティも即座にデュランを叩き切ろうとしたが距離からして、とても間に合わない。


「フレイムタン!」


灼熱を帯びた火球が杖の先端から発現し、一気にアーティへと向かう。


火球はアーティの全身を覆い尽くし、アーティは消滅した。


「アーティ……?」


アーティの近くで戦っていたテリーはその光景を目にして動きが止まる。


その隙を取られ、背後から来たステイの兵にテリーは斬り倒された。


極度の動揺が魔力の流れを滞らせ、一般兵の攻撃も致命傷となってしまっていた。


薄れる意識の中、ある言葉をテリーは聞く。


「情報は大切だ。遠目から見ていたが、お前も魔導剣士なのだろう? 本日の第一、そして第二戦果だ」


再び、デュランはフレイムタンを発動した。


身動きがほとんど取れないテリーは火球の直撃を受け、消えてなくなった。


「このデュランがスロートに巣くう悪しき魔導剣士二人を討ち取ったぞ!」


木製の杖を掲げ、デュランは勝ち名乗りをする。


紛れもなく、状況が一変した瞬間だった。


最早スロート側が戦うなど有り得ない。


敗戦濃厚を悟った者たちは続々と一目散に撤退していく。


「あいつらを追う必要はないぞ。まずは、被害状況の確認が先だ!」


デュランが叫び、命令を下す。


逃げるスロート軍の背をここぞとばかりに討ちたかったはずだが、スロート軍同様にステイ軍の被害も甚大。


この戦いで、魔導剣士のサーボが戦死した。


このままデュラン自らが先陣となり、スロートに進軍するわけには行かなかった。


初手からスロート側のゲリラ攻撃が決まったのは、正にデュランのせいだった。


今回の戦いはステイ側の戦力を五部隊に分け、編成されていた。


先陣を切って行軍していたのが、デュランの第一部隊。


簡単に勝てるだろうと勝手に思い込み、こういった乱戦に最も適した部隊であるクロウの部隊を最後尾とする愚行を行っていた。


なぜならば、スロートを奪われたのはクロウの部隊のせいであり、今回の戦いにも役に立たなかったと当てつけを行いたいがため。


ただそれだけに過ぎない。


アーティ、テリーの魔導剣士二人を討てたのも、デュランの部隊の次に控えていた第二部隊のサーボが救援に駆けつけてくれたからである。


本来ならば後方から遠距離攻撃を行うデュランがこれ程にも前線にいたのは、全て彼自身に原因がある。


魔導剣士二人を討てても先に進まないのは、基本的に自分の命が大切だから。


他の兵士たちの編成が終わるまでは、自分が生き残るためになによりも肉壁を一兵たりとも損なわないようにしたかった。


「おい、デュラン!」


デュランが生き残った兵たちの再編成を行っていると、最後尾の第五部隊率いていたクロウがやってきた。


怒り心頭のようで、デュランを睨みつけている。


「なぜだ! なぜ、先に進まない! 被害はどれだけある!」


「被害? ああ、そういえばそんなものもあったな。サーボが死んだよ、本当に使えん奴だ。最後まで私の手を煩わさせる」


「はあ? それはどういうことだよ……」


クロウは頭を抱えた。


こんな戦いで、サーボが死ぬとは思ってもみなかった。


クロウも編成が整うまでは進軍を取り止めた。


デュランとは異なり、極力兵士たちの損耗を避けたい気持ちがあった。


そんな二人の利害の一致から、なんとか生き延びられたスロートの兵士たちはスロートの城下街へと命からがら帰還していく。


この砦での戦いでスロート軍も軍隊再編に入る。


魔導剣士頼りもいいところだった戦力を、魔導剣士が欠けた状態でも打ち勝てるレベルまで巻き返さなくてはならない。


この軍隊再編の際にアーティ、テリー両名の戦死を知ったリュウもまた姿を消していた。


一度に魔導剣士の三人を失ったスロートには今すぐにでも強力な味方が必要だった。

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