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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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R一族と桜沢一族

腕を斬り落とされ死を覚悟した法王であったが、ノールは静かに佇んだまま動かない。


法王の強さを体感したノールが次に移す行動は、まず間違いなく一も二もなく法王の命を奪うこと。


だが、ノールの行動は違った。


「エクス」


法王へ最上級回復魔法エクスをノールは放つ。


ノールが持っていた法王の腕は消え、一瞬で法王の身体についた状態で復元する。


「なにを……しているのですか?」


腕が復元された法王には今の行動が理解できない。


「落ち着いて、アズラエル」


ゆっくりとした足取りで近づくノールからは、今までの強力な魔力のオーラはない。


まして、ノールの雰囲気や声色までが異なっていた。


「もしや、クァール様なのですか?」


「お久しぶりですね、アズラエル」


法王の傍まで来たクァールは法王を抱き締める。


「良かった。本当に、本当にクァール様なのですね……」


堰を切ったように法王の目からは涙が流れる。


法王にとって、R・クァールは神と呼べる存在。


神自身が自らのもとへ再び手を差し伸べてくれた事実は歓喜以外の何物でもない。


「アズラエル、他の者たちはどこにいますか?」


法王から離れると、クァールは周囲を見渡す。


「は、はい……申し訳ありません」


なぜか、法王は謝る。


「現在、我々R一族派の者たちは極めて少ない人数しかおりません」


「生き残っている同志たちの数は?」


「同志は既に数える程度しかおりません。私とアクローマ、相馬、ミネウス、ドレッドノートなどです」


「そうなの」


「……どうかなさいましたか?」


法王は妙な違和感を覚えていた。


「ああ、なんでもないよ。ボクのせいで皆には迷惑をかけてしまっていたんだなと思って」


「クァール様? 貴方は本当にクァール様なのですよね? 私の名を知っているのですから……」


「どうして? ボクはクァールだよ?」


「いえ、確かにそうなのですが……クァール様の言葉や雰囲気がまるで別人のようで」


「これは、ボクに身体を与えてくれたノールの影響だと思う。転生しても完全にボクだけが残るわけではないから。この身体には、ボクとノールの二つの人格が宿っているの」


「それで、ご自身を“ボク”と」


「こっちの方が今は当たり前な気がするの」


「これから、いかがなさいますか? クァール様の転生が成し遂げられた今この時が決起の時だと私は感じております」


「ううん、今は決起の時ではないよ。まだ配役が揃っていないから」


「配役とは?」


「………」


法王の問いかけに、クァールは無言で返す。


法王の部屋の外になにかの気配が近づくのを感じ取れたからだった。


おもむろに法王の部屋の扉が開く。


法王とクァールはそちらへ注意を向けた。


「あっ」


扉を開いたのは、別行動で正面から侵入していた綾香だった。


「R・クァール!」


そう叫び綾香は手を自らの前にかざす。


手をかざした先には、いつの間にか空間転移のゲートが現れていた。


そのゲートから、綾香はなにかを取り出す。


取り出したものは、手榴弾。


それをクァールたちの方へ投げつけた。


「遅い!」


法王の手のひらには既に手榴弾のビジョンがあった。


もう片方の手で拳を作ると、手のひらのビジョンを殴りつける。


瞬間、屋根から1㎥程の大きさのなにかが空中にあった手榴弾ごと床まで射抜いていった。


そして、手榴弾は下層階で爆発音を響かせた。


「禁止令発動、空間転移」


法王は手のひらから拳を退かす。


すると、天井から床を射抜いていたなにかが消えた。


ついでに禁止令の発動で綾香は空間転移を発動できなくなった。


「ああ、そういう原理。貴方が、私を潰そうとしたんだ。私は優しいから、今日は無料で神様のもとへ行かせてあげる」


目の前のできごとに対して特に問題なさそうにルインは語り、室内へ入ろうとした。


「ルイン、お前ではクァールに勝てない! エージと一緒にアズラエルを狙え!」


綾香は次なる手として魔法剣を作り出す。


「綾香、接近戦ができるの? それができないから銃火器専門なんじゃない……あれ、口調が変わった? ちょっと綾香には似合わないかも」


先程同様にルインは反応が微妙。


ルインからすれば、ノール対法王の戦いが今まさに起きている。


武人としての発想から、いくら自らも戦いたいとはいえ手を貸すような真似は無粋だと思い、やる気がない。


「ルイン、話は後だ!」


綾香は魔法剣を全力でクァールへ投擲する。


しかし、魔法剣はクァールたちへ全く届かず、先程開いた床の穴に落ちていく。


「綾香、手榴弾と違って魔法剣は投擲するべきものじゃない。私たち内側の魔力と繋がっているものだから、手放しても簡単に投げられるわけじゃないから。接近戦が苦手な貴方なら知らないのも仕方ないけど」


「これは、どういうことだ?」


理解が追いつかないのか、はたと綾香の攻撃が止む。


「一体どうしたの、綾香? 権利発動、魔力を扱えない」


クァールの言葉の後、綾香をまとう魔力が急激に弱まり、普段生活している際のレベルまで魔力が感じ取れなくなった。


「今の綾香なら簡単に権利が効くみたい。そこで、綾香。貴方と対話がしたい。今はお互いの一族が無益な争いをしている場合ではないと分かっているでしょう?」


「……ああ、分かっているとも」


状況を掴めていない綾香は、仕方なく話に応じる。


「あれ、なんかおかしくない?」


ルインが首を傾げる。


「ノールが権利を扱っている……まだ、あの子にはそんなものが扱えるはずがない。それに、綾香に? もしかして、綾香、貴方は……桜沢綾香なの?」


ノール、綾香に変化が生じていることにルインは気づく。


「そうだぞ、どうしたんだ、ルイン?」


綾香は不思議そうに語る。


綾香の今までの口調や雰囲気や戦い方の変化から、ルインが悟ったものは事実だった。


「綾香、本当に貴方なの……」


ルインは綾香の背後から手を回し、強く抱き締める。


なにも語らず、ルインは泣いていた。


「お、おい、ルイン。クァールが前にいるんだぞ」


クァールを警戒していた綾香だったが、ルインの行動で注意が逸れる。


「ボクの話を聞いてほしいの」


クァールは特に攻撃を仕掛けず、対話を続けた。


「……分かった、話を聞こう」


「ボクと手を組んでほしいの。一緒に総世界を平和と平等の世界にしようよ」


「………」


考えごとをしているからか、綾香は一定の間を置く。


「条件がある」


「なに?」


「手を組みたいのであれば、オレたちにはスキル・ポテンシャルの権利を発動するな」


「構わないよ。戦いを挑まなければ、それまでは味方だってことだから。はい、そういうわけで権利解除」


再び綾香から魔力が感じ取れるようになった。


「クァール。ひとまず、今日は引かせてもらう。行くぞ、ルイン、エージ」


「どこに行くの?」


ルインが涙を流しながら答える。


最早ルインにはクァールも法王もひたすらにどうでもいい。


「とにかく、今は状況を確認したいんだ」


綾香たちは部屋から出て、どこかに行ってしまった。


「アズラエル、ボクも今の状況が知りたいな」


「でしたら、アクローマへ会いに行きましょう」


「それじゃあ、異世界空間転移をよろしくね」


「承知しました、クァール様。ところで、あの娘はいかがなさいますか?」


「うん?」


法王の問いかけにクァールは法王の視線の方を向く。


そこにはまだ気絶していた杏里が横たわっていた。


「連れていくよ。彼はとてもこれからの戦いに関係しているから」


「彼? それは誰ですか?」


「杏里くんだよ」


「………?」


不思議そうな表情をしたまま、じっと杏里を法王は見つめる。


法王は杏里を女性としか認識できていない。


「アズラエル、無事か!」


その時、勢いよく部屋に飛び込んでくる人物がいた。


服装は所謂ゴスロリ。


黒やモノトーンを基調とする着衣にフリルやレースなどを用いて可愛らしさを表現しているものに、十字架や棺のような装飾がアクセントとしてあしらわれていた。


肌も陶器のように白く塗られ、瞳もカラーコンタクトで黒く染まり、唇やアイラインにもダーク系のものを使った姿はまるで人形のような少女だった。


「あれ……アズラエル。貴方の隣にいる人って……」


ゴスロリ風の服装をまとう少女は驚きを隠せない。


「姉貴!」


そう叫び、クァールへと駆け出す。


だが、駆け出した先に法王の能力で開いた穴があり、落下していった。


「今の女の子は?」


「彼女は、R・エールと言います。彼女は若干16才という年令で既に権利を習得しております」


「凄い、本当に凄いとしか例えようがない。このボクよりも30才近くも能力開花が早いなんて……あの子はとても優秀なんだね」


「いえ、エールは」


「馬鹿野郎! 舐めやがって、こんなところに落とし穴掘った奴は誰だ! ぶっ殺してやる!」


酷く怒声を上げ喚きながら、エールは床に開いた穴から這い上がってきた。


先程とは打って変わり目つきも酷く、可愛らしさは消え失せている。


「それは落とし穴ではありませんが、床に穴を開けたのは私ですよ。どうですか、エール。ぶっ殺してみますか?」


這い上がってきたエールに優しそうな笑みを法王は浮かべる。


「ああ? ……ヤだな、アズラエル~。冗談だよ、冗談。アタシが本当にそんなことすると思う?」


酷い目つきをしていたが、アズラエルを見た途端に先程のような可愛らしい少女らしさをエールは見せた。


「そうですか、エールは優しい方ですからね」


再び優しそうな笑みを法王は浮かべる。


「ともかく、本命はこっち!」


エールはクァールを歓喜の眼差しで見つめ、嬉しそうに指差す。


「姉貴!」


クァールへ勢いをつけて突進し、音がする程のタックルをかます。


勢いのまま、クァールはエールとともに床へ倒れた。


「姉貴、ずっと会いたかったよ。ゴメンな、勝手に家出してさ……」


謝罪の言葉を口にしながら、エールはクァールに抱きつく。


「姉貴の体温、やっぱり冷たくて気持ちいい」


「もう止めなさい、エール。そのようなはしたない真似は。その方は貴方の姉上ではありません」


「はっ? 嘘だろ?」


クァールを凝視し、一度エールは離れる。


「どう見たって、姉貴だろ。この見た目で水人の魔力体……とは言ってもそりゃそうか。姉貴がこんなところにいるはずがない。今でもスロートで兄貴と仲良く暮らしているだろうな」


がっかりした気持ちを悟られないよう、エールは無理に頬笑んでみせたが表情がぎこちない。


「ボクは大丈夫。ボクもエールが好きだから」


服を叩きながら埃を落とし、クァールは立ち上がる。


「ボクはR・クァール。エールと同じR一族だよ」


「クァールもR一族? アタシら兄弟以外にも生き残っている人がまだいたんだな。でも、やっぱり似ているなあ。雰囲気も見た目も温もり(つめたさ)も瓜二つとしか……」


「どうしたの、エール?」


「な、なんでもない。独り言だから」


「そう?」


それからクァールは杏里のもとまで行き、背負ってあげる。


「そろそろよろしいですか?」


「アズラエル、異世界空間転移をよろしく」


法王が異世界空間転移を発動し、クァールたちは天使界まで移動した。

登場人物紹介など


R・エール(年令16才、身長164cm、B86W57H81、人造人間の女性、出身は旧グラール帝国。普段は親しげで誰とでも友達になれる性格だが、実際は勝ち気な性格。分かりやすいくらいの猫かぶり。スキル・ポテンシャルは“権利”、流体兵器。ゴスロリでお嬢様風、ゴシックを重視している服装を主に着ている。人造人間としての特性か、体内に増幅器を持っていて身体を強化している)


権利(行動や動作などの事象を対象に扱う権利を与える、もしくは強制させる高等系ワード・スキル・ポテンシャル。ただし、その権利という能力にも扱えないパターンがある。生命を奪うこと、権利を与えた対象が生涯を懸けても行えないこと、生物の蘇生、生物の具現化の四つが扱えない。権利は使用者自身、聖帝、権利や支配という能力を有している者に対して扱えず、無機物にも扱えない。能力を簡単に説明すると“できることをさせる”である)


流体兵器(通常はゲル状の物体だが、対象と同一化させることができるスキル・ポテンシャル。能力者の試行錯誤で、流体兵器をフルオートで戦わせたりできるようになる)

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