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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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総世界間での依頼

翌朝、ノールは朝食を作っていた。


今日は色々としなくてはならない予定がノールにはあった。


「はい、どうぞ」


テーブルの椅子に座ってノールの料理を待っていた杏里の前に朝食を置く。


今日のメニューはサニーサイドアップとバターの塗られたトースト、インスタントのコンソメスープ。


「ノール、今日は張り切っていないかい?」


「分かった?」


杏里と向かい合うようにノールもテーブルの椅子に座る。


ノール自身の朝食は用意していなかった。


「お腹空いていないの?」


「ん?」


数秒間、きょとんとした表情をノールはしていた。


「多分、そんなところ」


「ふーん?」


杏里はこのようなノールの反応を一緒に生活し始めてから何度か見ていた。


「今日はね、他の世界のギルドに行ってみようと思うの」


「他の世界から依頼を請け負うんだね。どこの世界のギルドへ行く?」


「さあねえ。適当に空間転移で他の世界のギルドを指定すればいいんじゃないのかな? ボクらは他のギルドについてなにも分からないしね」


「それじゃあ、ご飯を食べ終わったら空間転移で行ってみようか」


「うん。あっ、食べるのは急がなくていいよ。時間はたっぷりあるから」


杏里の食事が終わり、キッチンで食器を洗うと二人は支度を始める。


そして、ノールと杏里は空間転移を発動した。


指定先は、総世界を巡る広域の依頼や請負が可能なギルドが経営されている世界。


ノール、杏里の周囲は一瞬にして変化していき、二人とも全く見覚えのない街のとあるレンガ造りの建物前へ立っていた。


比較的近代の世界であるのか、雑踏には人の姿が多く、近くの街道にはレトロな車両が走っていた。


「間違いなければ、この建物がギルドのはず。入ってみよう」


レンガ造りの建物へとノールと杏里は入っていく。


建物内はレンガ造りのカウンターにバーテンダーが一人、また等間隔に二人がけ程度のテーブル席が複数あった。


「酒場なのかな?」


不思議そうに杏里は店内を見回す。


店内奥の方に明らかに柄の悪そうな輩が数人屯っていた。


その連中は二人の女性が入ってきたと思っているのか、にやにやと笑っている。


「とりあえず、あの人に聞いてみようよ」


ノールがバーテンダーの前に行く。


「ここでギルドの仕事がもらえると思うんだけど」


「あっ?」


睨みつけるようにして、バーテンダーはノールにガンを飛ばす。


「女、お前にやるような仕事はない」


それだけ言うと、食器を拭き出す。


端から二人は眼中になかった。


「聞け」


ノールはカウンターを拳で叩く。


「ここは、ギルドなんだろう。分かったのなら仕事をさっさと提供しろ」


微妙に怒っているノール。


杏里はノールが怒っているのを楽しげに眺めていた。


「なんだと?」


バーテンダーが屯っていた柄の悪い連中に合図を送る。


「なんだ、仕事か?」


やる気のなさそうにその者たちが合図を見て、ノールたちに近づいてきた。


「いるんだよな、お前らみたいな奴。今から一つだけ仕事をやろう。喜べ、あいつらが今日からお前らのご主人様だ」


「アホくさ」


白けた顔をし、溜息を吐くとノールは杏里の顔を見る。


「手を出すなよ」


「ねーちゃん、どこを見てんだ?」


柄の悪い連中の一人がノールの肩を掴む。


掴まれると同時にノールはその男性の腕を掴み、一気に腕だけで振り回して、店内奥の方に吹っ飛ばした。


激しい速度で投げられ壁にぶち当たった男性は、腕がぐちゃぐちゃにへし折れており、生きているかも定かではなかった。


「汚い手で、水人衣装にさわるな」


吹っ飛ばした男性を確認することなく、ノールは語る。


端から柄の悪い連中など眼中になかった。


それが事実である通り、他の柄の悪い連中がすぐ傍にいるのに一度も見向きもしない。


挑める気概があるのならかかってこいと、ノールは強者としての態度を取っていた。


「う、うわ……」


残った柄の悪い連中は自分たちが、いかに危機的な状況にいるのかを否が応でも分かってしまっていた。


殺される、それ以外にはもうなにも考えられない状態。


「はよ、仕事」


バーテンダーにノールは語る。


吹っ飛ばされていた男性を呆然とした表情で見ていたバーテンダーはゆっくりとノールに視線を移した。


「し、仕事の話だったっけ? 色々……いっぱいあるんだよ。なにをやりたいんだい?」


震えた手つきで食器を置き、バーテンダーは非常にフレンドリーに接し始めた。


それから、急いでカウンター下の棚から複数の依頼書を取り出す。


「ほら、やっぱりあった。杏里くん、適当なのを持っていこう」


楽しげにノールは依頼書を見始める。


杏里はノールの楽しげな様子に頬笑み、依頼書には見向きもしない。


怒っている表情と楽しげな表情を見られ、杏里は満足していた。


二人の注意が逸れたと思ったのか、柄の悪い連中たちは吹っ飛ばされた男性を背負い、なにも語らず素早く店から逃げて行った。


「あのさ」


ノールがバーテンダーに語りかける。


「この世界の他に知っているギルドがあったのなら場所を教えて。どうもこの世界の依頼は一日程度で終わりそうなものばかりなんだ」


「あ、ああ。なんでも教えます。許してください……」


「どうしたの一体?」


怪訝な表情をノールはする。


ノールにとってそれはもう終わった話なので、いちいち引っ張るバーテンダーにイラッとしていた。


「そういえば」


杏里の方を見る。


「さっき、また女の子だと思われていたよ?」


「気のせいじゃないかな? ボクが女の子に見えるだなんて、ノールが男の子に見えるくらいにありえないことだよ」


「冗談が上手くなったね」


ひとまず、この世界での依頼書は回収できた。


その後でバーテンダーから教えられた他の世界のギルドも数件回り、二人はスロートへ戻った。





「皆、今日は集まってくれてありがとう」


ノール・杏里の自室兼リバース事務所へメンバー全員をノールは集めていた。


午前中には大体の依頼書を集め終え、他のメンバーにも見せようとしていた。


「おお、仕事か。クロノからのじゃないよな?」


金の話なので、テリーが食いつく。


「クロノさんからの仕事じゃないよ。受けて依頼をしっかりこなせば全額担当した人の総取り」


「本当に全額なのか?」


「このギルドは歩合制傭兵部隊リバースだよ。ボクは皆の上前をはねたりなんかしない」


わざわざ歩合制を強調して、ノールは話す。


「じゃあ、ちょっと見てみようか」


まず、ノールからテリーが依頼書を受け取る。


「やっぱり、オレは指名手配者とか名のある悪党を殺したいな。オレ自身の能力も名も上げたいからな」


数枚程テリーは依頼書を抜き取り、隣にいた綾香に依頼書を渡す。


「私は私らしく医者としての仕事ができる依頼が良いなあ。ないなら、スナイパーの仕事かな」


「私は戦争の加担とかそういうのが良いわ。綾香の考えに合わせる」


ルインが綾香から依頼書を勝手に奪い取り、数枚依頼書を取ってから杏里に渡す。


自分が担当するものも勝手に選ばれた綾香は表情に出さないが明らかに怒っていた。


「ボクはそうだな……」


杏里は依頼書を見始める。


「リュウ、有紗さん、エージ君はどういったのが良い?」


一応、ノールが先に聞く。


「リバースに所属をしていても、オレは元々天使界での職務があるからあんまり傭兵稼業はしないつもり。どうしても対応できない時に手を貸すよ。第一、ノールもオレと同じ大天使長なんだからノールもそんなに時間が……」


「そういえば、リュウはどうする?」


聞いていなかったように、ノールは有紗からリュウへ視線を移す。


「オレはクロノの依頼の方をやろうかな。あいつも急に誰も仕事をしなくなったら可哀想だろ」


「そうしてくれると助かるよ。依頼金も少ないだろうから、ボクがこなした依頼のお金をいくらか補填するね」


「あら、金くれるの? 悪いね、歩合制なのに」


「誰かがクロノの犠牲にならないといけないからしょうがないよ」


「ははっ、ノールも言うようになったな。クロノに聞かせたい言葉だ」


リュウは素でウケている。


実際のところ、クロノへの六割分配はおかしいとノールも考えていた。


「オレは……戦闘タイプじゃないから後方支援するよ」


エージはメンバー内で一番乗り気ではなかった。


「そうなの? それじゃあ、エージ君は……綾香さんと一緒に行動してもらおうかな」


ノールは綾香に話を振る。


「ええ、構わないわ。エージ君、私と一緒ね」


各々が依頼書を受け取り終わり、仕事を行いに事務所を離れた。


「杏里くん、いつまで見ているの?」


まだ杏里が依頼書を見ていたため、仕方なくノールは聞く。


「この人は今、地獄にいる」


「はあ?」


地獄ってどこだよと、ノールは思った。


これは単に杏里の比喩的表現であり、依頼者が地獄のような責め苦を受けていると表していた。


「この依頼書には依頼者の無念の思いが切々と綴ってあったよ。必ずボクがこの人を救う」


「……ちょっと聞きたいけど、いくらの内容?」


「五万だよ、相当追い詰められていてもう払えるものもこれしかないみたいなんだ」


「うわ、なんなのそれ、こっちは命懸けなのに随分少ないね。その依頼書は返してこよう」


「勿論、一銭もいらない。こういうのはお金でやっちゃ駄目だ。駄目なんだ!」


「そう」


久しぶりにぶち切れている杏里を見て、ノールは本当にお金を稼ぐ気があるのか心配になった。


「今すぐに殺しに行くよ。その方が依頼者も喜んでくれるはずだから」


目元に手を置き、杏里は涙を拭った。


それから空間転移を発動し、杏里は消える。


杏里は依頼書を何枚か手にしていたが、他のも安い金額のものだろうとノールは思った。


「さて、残りは……」


残った依頼書は、十数枚程あった。


「微妙な……なんていうか、微妙な依頼内容ばかりだな。よく内容を確かめてから持ってくるんだった」


ノール的には微妙なものだけが残り、少し不満げ。


人探しや盗まれた物を取り返す、他の勢力への襲撃の手伝いなど内容がバラバラ。


杏里が持っていった程のものではないが、金額も微々たるものが多い。


「とりあえず適当に持ってくるのは止めた方がいいな。誰もやらない依頼をボランティアで熟している状態だよ、これじゃあ」


愚痴を語りつつも、ノールは依頼を熟すことを決める。


「これはボクが全て消化して、ボクの取り分にしよう。多分、ボクが杏里くんを養うことになるんだろうな」


ノールも一番最初に取りかかろうとする世界へ空間転移を発動した。

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