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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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ギルド組員として

空間転移により、有紗はエージの家の前に戻ってきた。


「有紗」


戻ってきたと同時に、有紗は何者かに肩を掴まれる。


有紗の隣に、ルインの姿があった。


「一体、どこへ?」


「どこでもいいだろ?」


「もしかしたら、貴方が内通者だったりするのではないかと私は思っているの」


「オレが桜沢一族を売るとでも言うのか?」


「今まで私が平穏無事に人生を送ってきたと思う? こういう感が冴えているから生きて来れたの。ちなみに今、私は貴方の身体に答えを聞く方がベストだと考えていることも伝えておく」


ルインは有紗の肩に置いた手に力を入れ出す。


有紗は万力に押し潰されるような痛みを感じ始めた。


「しょうがないな」


おもむろに、有紗はポケットからなにかの袋を取り出す。


袋の中には、マタタビが数本程入っていた。


「マタタビ……じゃないかしら? おかしいわね?」


なぜか、ルインは挙動不審な態度を取る。


両耳をピンと立たせ、尻尾も振るわせながら、マタタビを見ていないようで見ている動作を行なった。


「ああ、そうみたいだね。どうしても欲しいなら、ルインにだけ特別だよ?」


ルインにマタタビが入った袋を差し出す。


「私を買収するつもりなの? で、でも私が変に言いがかりをつけたのも事実ね。桜沢一族の貴方が私にだけとまで言うのであれば、ここはもらうのが筋か」


肩から手を離し、代わりに袋を持つと先にルインは家の中に入っていった。


「まさか、本当に効くとはな」


以前、ルインに負けたこともあり、有紗はネコ人についてを調べていた。


ルインに効くはずがないと思っていたマタタビが普通に効いたことで有紗は、追加購入しようと思った。


「有紗」


先に入ったルインが玄関の扉を少しだけ開き、呼びかける。


「どうした、足りなかったか?」


「いえ、数は足りている。それよりも、ノールと組んでいるテリー、リュウがどういう人物なのか分かる?」


「オレに聞くよりも、綾香に聞いた方がいい。以前は同じギルドに綾香も所属していたから」


「綾香を信用していないわけじゃないけど、こういうのはギルドの身内からではなく、他からの視点で相手を見られる者からの情報じゃないと」


「気になるなら、ルインが会ってきたら? あの二人は別にR一族派でもないから特に問題はないはず」


「それもそうね」


とりあえず、ルイン、有紗は家に入る。


エージ宅のリビングまで行くと、綾香とエージがテーブルの椅子に腰かけ、お茶をしていた。


「有紗さん、帰って来たのね」


「ああ」


有紗もテーブルの椅子に腰かける。


「なにか飲む? コーヒーでいいよね?」


エージが椅子から立ち上がり、キッチンへ向かう。


「ありがとう、エージ」


「ねえ、綾香」


ルインが綾香に話しかける。


「今からギルド仲間に会いたいの」


「えっ、今からなの?」


「ノールと杏里以外にもあと二人いるらしいけど、顔も名前も知らないんじゃ連携が取れないでしょ? 会わせてほしいな」


「今いるかしら?」


綾香は椅子から立ち上がる。


「有紗さん、私も出かけてくるわ」


「分かったよ、綾香」


綾香とルインはスロート城を指定し、空間転移を発動した。


一瞬で綾香とルインは有紗の前から消える。


「はい、有紗」


エージは有紗の前にコーヒーを置いた。


「エージは行かなくてもいいの?」


「オレは別に。同じギルドに所属しているのなら、いずれその人たちとも会えるでしょ」





空間転移により、綾香・ルインはスロート城の兵士宿舎に現れた。


「確か、ここがノールちゃんの部屋」


以前、一緒にスロート城の兵士宿舎に住んでいた綾香はノール・杏里の暮らす部屋を知っていた。


「ノールちゃん、いるかしら?」


扉をノックし、室内に呼びかける。


数秒間を置いてから扉が開いた。


「誰?」


ノールが部屋から出てくる。


「来ちゃった」


「あれ、綾香さんとルイン? 入りなよ」


「ええ、お邪魔させてもらうわ」


ノールは部屋へと招く。


室内には、ノール以外にも杏里、テリー、リュウの全てのメンバーがいた。


先に部屋に入ったノールは、さっさとテーブルの椅子へ座る。


「綾香さんじゃん。今、綾香さんたちがリバースに所属したのをノールに聞かされていたんだ」


テーブルに頬杖を突きながら、椅子に座っていたテリーは語る。


ノール、杏里が帰ってきてから、まだ数十分しか経過していない。


「ところで、そっちの綺麗な人は新メンバーの人?」


床にあぐらを搔き、座っていたリュウは綾香の後ろにいたルインに気づき、立ち上がる。


「紹介するわ、こちらが……」


「いいの、綾香。自己紹介なら私がするから」


ルインが綾香を遮る。


「私はネコ人のルイン。貴方は忘れてしまって結構よ、私が覚えておくから」


「そうか、ルインというのか。オレは竜賢人のリュウだ、よろしくな」


「へえ、貴方は竜人族なの。生きている竜人族を見たのは久しぶり」


意外にもルインの方から握手を求め、リュウは手を握った。


「レベルは意外と高いのね、有紗と同列くらいかな?」


「有紗? ああ、確か綾香さんの兄貴だったか?」


「ええ。リュウ、貴方とのファーストコンタクトは敵同士だったら良かった。もっと貴方には伸びしろがあるから楽しめたはず」


「ははっ、そうかい」


リュウは握手していた手を引く。


なにか、ルインから異質なものを感じていた。


「ところで、貴方」


ルインはテリーの傍に行く。


「オレか? オレはテリーだ。まあ、仲良くやろう」


「聖帝でしょ、この時代の」


「せ、聖帝を知っているのか?」


驚き、テリーは椅子から立ち上がった。


「なあ、ルイン。お前は一目見ただけで分かったんだ。聖帝について、なにか知っているんだろう? なんでもいいからオレに教えてくれないか?」


「別に構わない。聖帝というのは、簡単に説明すると生き神、つまりは神様なの」


「神だって? このオレが?」


「そう、この世にたった一人だけの存在」


「そんなの有り得ないだろ、オレが神だなんて」


「でも、貴方は聖帝。数万年前から聖帝=生き神と決まっているのだから、私の話すことは正しいの」


ルインは真剣に物事を語っている。


その反応から、テリーは事実なのだと動揺を示す。


「聖ミーティア帝国を知っている?」


「それは……オレの故郷だ」


「今の年令は?」


「21だ」


「知っての通り、聖ミーティア帝国が貴方の故郷。貴方は20才の時に、聖女として正式な方法で新たな聖帝となるはずだったの。ルーメイアに待機している際、現地を見に行ったのだけど流石に私も驚いたわ。聖ミーティア帝国は既に廃墟と化していた。貴方が聖帝としての能力を手にしていないのはそれが原因なのか」


「オレの故郷が滅んだのとなにか関係があるのか? それに、オレの能力ってなんだ?」


「生死を司る能力。それが、貴方の能力よ」


「生死を……? それって、天使が使える復活の魔法リザレクとか?」


「最早そんなレベルじゃないの、話のスケール自体が違う。いずれ、貴方もその能力が扱えるようになるでしょう。今は楽しみにしておきなさい」


「……オレに嘘吐いているんじゃないだろうな?」


「生憎、初対面の相手に聖帝ですか?と嘘を吐けるような女じゃないの。貴方の一代前の聖帝と会ったことがあるから、私には貴方が聖帝だと分かる。なにせ、私は聖帝から輸血してもらったのよ。おかげで魔力の波動から、聖帝を感知できる」


「意味があるのか、それって」


「勿論。魔力の波動を感知したいがために輸血したわけじゃないから。それは単なる副産物。欲しかったのは、対象から受ける能力の無効化」


「そんなことができるのか?」


「できる、戦いの場で生きてきた貴方も本当は気づいているんじゃないの?」


ふと、あることをテリーは思い出す。


過去にルミナスから魔族化する能力をかけられた際や、シスイに洗脳させられる能力を受けた際にも全く効果を示さなかったことを。


「オレは……ちょっと、席を外すよ」


雪崩のように様々な情報を受け、テリーはふらふらしながら部屋を出ていく。


「あいつ、大丈夫かな? オレも行くわ」


テリーの様子が心配なのか、リュウもついていった。


「なんかさ、話の内容がよく分からなかった」


テーブルの椅子に座りながら、紅茶を飲んでいたノールがつぶやく。


以前、聞いた聖帝という言葉。


それに、そこまでの意味があったとは全く思わなかった。


「テリーは、テリーのままでいられるよね?」


ノールはルインに聞く。


「私は無理だと思う。能力が使えるのと、使えないのとでは全然話が違うから。もし、気になるようならシナリオで見てみたら?」


「シナリオ?」


「覚醒した者のみが見られる一種の未来予知よ。ノールは使えないの?」


「どうやったら見えるの、それ?」


「ノールの場合は、覚醒化しないと発動はできないかな?」


「ふーん?」


「簡単に説明すると、ノールは水人の上位形態である水神化ができる?」


「できない、ボクには無理」


「となると、やっぱり覚醒化しかない。覚醒化は、種族に関係なく人や魔力体自体をもう一段階強くさせる変化だからできるようになって損はない」


「覚醒化ってどうやる……」


ノールが聞こうとした瞬間。


ルインのストレートのパンチがノールの鼻先で止まった。


ルインが動いたのは勿論、その初動さえノールには全く分からなかった。


「簡単よ、二度死ぬの。それが一番簡単な覚醒方法。貴方の強さなら死で覚醒ができる。一度死んだ時点で普通は終わりだから、通常なら丹念に時間をかけて覚醒に至るのだけどね」


「殴られたかと思ったよ」


目前の拳を眺めてから少し離れて、ルインを見る。


ルインは少しだけ冷や汗をかいていた。


ルインの背後にはノールにストレートを放った側の腕を握る、綾香の姿があった。


ノールを非常に体よく殺害するつもりだったのは、綾香からすれば丸分かりもいいところ。


「ごめんなさいね、ノールちゃん。私の方から言い聞かせておくから」


「そう、お願いね」


ひとまず、覚醒の方法を聞けたノールは再び紅茶を飲む。


「とりあえず、テリー、リュウと会えて良かった。それじゃあ、私は帰るわ。二人とも今日はありがとうね」


いそいそとルインは空間転移を発動し、ルインと綾香は部屋から消えた。


「もしかして、あの二人。テリーとリュウに会いに来ただけ? お茶でも飲んでいけばいいのに」


すぐ帰ってしまったので、ノールはガッカリしている。


「ノール、覚醒の仕方だけど」


「なに、杏里くん?」


「ボクがノールを……その、覚醒化させてあげてもいいよ」


少しだけ恥ずかしそうに、二つのトンファーをテーブルの上に置く。


「君、本気で言ってんの?」


正直、この子の頭の中はどうなっているのだろう?とノールはドン引きしていた。

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