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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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獅子身中の虫

朝食後、ノールと杏里は支度を始める。


二人が復縁し、仲直りできたことを綾香、有紗に伝えるために。


「じゃあ、杏里くん。空間転移をお願い」


「うん」


ノールは綾香たちがどこにいるのか、既に分かっている杏里に空間転移を頼んだ。


そして、杏里は空間転移を発動する。


発動により、ノールたちの見る風景は変わっていき、とある家の前にいた。


ルーメイアのエージ宅前にノールたちは移動していた。


「この家にいるの?」


「そうだよ、エージ君の家に居候しているの」


「へえ……その人って強い?」


「ボクは分からない。そもそも戦えるのかな、エージ君って」


「とりあえず、エージ君って人もリバースにスカウトしようかな」


「リバース?」


「リバースは新しくボクが作ったギルドだよ。このボクが統領。ボクの他にテリー、リュウの三人で活動しているよ」


「ボクも入りたいな」


「ありがとう、一緒に頑張ろうね」


「ノールが休んでいてもいいくらいボクが働くから」


それを聞いて、ノールは嬉しそうに頬笑む。


「ノール、家に入ろっか」


杏里が率先して、エージ宅の玄関の扉を開く。


扉を開けてもらったノールがエージ宅に入ると、綾香が待っていた。


「ようこそ、ノールちゃん。シナリオで貴方たちが来ることはもう確認済みよ」


「やあ、綾香さん」


「ノールちゃんと杏里くんが一緒に来たということは、皆同じ考えでいいのよね?」


「ボクもR一族とか桜沢一族とか関係ないと思っている。以前と同じ関係でいようよ」


「やっぱり、私たちと同じね」


親しげに綾香は頬笑む。


「ノール、来たんだね」


綾香とノールが話していると、有紗も玄関まで来た。


「オレも一族同士の戦いは無意味のように感じていたんだ。君と杏里の関係も壊したくないしね」


「そっか、それならボクも同じ考え」


「そうと分かれば、あとは他のR一族や桜沢一族の者。二つの一族の関係者たちを戦わないように説得しないとね」


「他の人たちは戦っているの?」


「互いの一族に気づいた途端、目の色を変えて殺しに来るよ。ルインが君に飛びかかった時のように」


「怖いね……それは」


「今のところ分かっているのは、現在でも生き残っているR派、桜沢派の関係者は両方足しても20名くらいしかいない」


「案外少ないね」


「一族同士が大規模に戦っていた頃から時間が経過しているからね。でも、その関係者が組織などの頂点に君臨しているならば、その者の部下とも戦わなくてはならない」


「それじゃあ、多くなるね。天使界だけでも人口が一億くらいいるから」


「ノールは……天使界の女帝アクローマ様を知っているのか?」


「知っているもなにも、ボクは天使界の大天使長だし」


「そんな馬鹿な。アクローマ様は今でも大天使長の座は空位だと……」


「ボクは白瀬さんとレティシアさん以外にあと一人大天使長がいるとは聞いていたけど、もしかして貴方だったりする? とても強そうな気配がする」


「そうだよ、ノール。オレが大天使長の桜沢有紗だ」


「なるほどね」


アクローマがR一族の関係者だというのが、ノールもよく分かった気がした。


「アクローマ様について、今は一度話を流そう。桜沢一族、R一族以外の第三勢力の存在には気づいているかい?」


「確か、総世界政府クロノスだっけ? ボクはそこで懸賞金一兆だってさ」


「ルインと綾香はノールより上だよ」


「えっ?」


「ルインは誰彼構わず殺し過ぎていたから、そもそも普段聞くことのない単位だ。そのルインと主従関係を結ぶ綾香もそうならざるを得ないというか……」


「そうなのよね。私にも懸賞金がついちゃったの」


先程から、ぼんやりとしていた綾香が思い出したように語る。


シナリオで見た内容を普通に話してしまったため、今さっきまでのことを忘れていた。


「二人ともリバースに入らない?」


「なにそれ?」


「ボクが新しく作ったギルドだよ。皆で一緒にいれば、クロノスも向こうから仕掛け辛くなるだろうし。他の関係者の人たちも今の好意的な印象を見れば考えを改めてくれるかも」


「そうだね。戦力を高めれば、クロノスと対等に戦えるかもしれない。バラバラでいる時よりも急に攻め込まれたりもしないだろう。ひとまず、二人とも家の中に入って」


有紗に促され、ノールと杏里はエージの家に入った。


ノールたちがダイニングまで来ると、そこにはルイン、エージがいた。


「あっ、この前のネコ人。あと、なんだか可愛い子がいるね」


「あれ、ノール?」


ルインはノールがこの場に現れ、驚いた様子。


「客として、ここに来ているのよね?」


「そうだけど?」


「………」


綾香、有紗の方をルインは見ている。


エージもそれは同じだった。


「どうしたの?」


視線に気づき、綾香は尋ねる。


「仲良く、だったよね?」


「そうしてほしいわ」


軽く頷き、ルインは静かにしている。


「ルインにエージ君だよね。ボクが新しく作ったギルドに入ってくれませんか?」


「ギルド?」


一瞬、なんらかの緊張が走る。


明らかに敵意がにじんでいた。


「二人とも、ギルドに入りましょうよ」


なにかを感じ取った綾香がルイン、エージに問いかける。


「綾香がそういうのなら、オレは綾香を信じるよ」


本当は納得がいかないのか、エージは強く不満を覚えている。


この言葉を発する際にも、エージ自身の声や表情にそれが現れてしまっていた。


「私も綾香を信じる。どんなに愚かでも貴方に仕えていますから」


ルインはエージのような反応を示さないが、確かに怒っている。


「嫌……だった?」


二人の反応にノールは衝撃を受けている。


R一族、桜沢一族の自分たちが和解できればなんとかなると思っていたが、それが即座に間違いだと気づかされて。


「嫌ではないよ、ノール。仲良くしようね」


エージは普段通りの子供らしい笑みを表情に浮かべる。


ルインは白けたような表情をし、特になにも話さない。


「そう、良かった。二人とも」


ノールは積極的にエージ、ルインに握手をし、二人も問題なくそれに答えた。


「ノール、貴方とは二人きりで会話がしたいな」


ルインは握手の時にそう語った。


「ん? いいよ」


別にノールは問題なさそうに話す。


「ギルド、どこでやっているの?」


「スロート城宿舎のボクの部屋」


「面白いことを言うじゃない」


ルインはその一言でノールなら、それ程の敵意を持たずともいいかと思った。


今までのR一族とは一線を画す存在過ぎて、逆に哀れみを感じた。


ひとまず、リバースのメンバーが増えたことでノールは以前から考えていた事務所移転について考える。


現状は、ノール、杏里、テリー、リュウがスロート城の宿舎暮らしを続け、綾香、有紗、ルイン、エージがエージ宅でそのまま暮らすことになった。


「そういえば、ライルたちは? テリーからルーメイアに行ったと聞いたことがあるけど」


ノールが綾香に尋ねる。


「ライル君たちなら、故郷のロイゼン魔法国家へ帰ったわ。ジーニアス君も一緒についていった。そこでエルフ族を布教するとかなんとかで」


「そっかあ。三人もリバースにスカウトしたかったな」


「ノールちゃん、今度のギルドでの活動はどうするの?」


「今は、クロノさんから仕事をもらっているけど、メンバーが8人になったから他の世界にも回って仕事を探してくるよ。その時まで、綾香さんたちはエージ君の家で待機してて」


「ええ、分かったわ」


とりあえず話し合いも終わり、今後の目途もついたことからノール、杏里は空間転移を発動し、スロートへ帰っていった。


「あの、オレもちょっと用事があるから出かけてくるね」


ノール、杏里が帰ってから有紗が綾香に語る。


「どこに行くの?」


「いや、まあちょっとね」


有紗は異世界空間転移を発動する。


目的地は、天使界。


どうしてもアクローマから今回の件を聞き出さなくてはならなかった。


有紗は、いつも通りアクローマの宮殿前に現れる。


そこから宮殿内を通り、謁見の間へ向かう。


謁見の間には、丁度アクローマがおり、他の者たちはいなかった。


「アクローマ様、只今戻りました」


アクローマの座る玉座の位置から数メートル程、離れた位置で有紗はひざまずく。


「ご苦労様、有紗……」


少しだけ、アクローマは不思議そうにしている。


「ああ、そっか。有紗、その謁見の仕方はもうしなくてもいいの」


「えっ」


有紗は顔を上げる。


「部下の者から提案があったの。どうしても、私に近づきたいとの提案が」


「さては、レティシア様と口論になりましたね? そして、この謁見の仕方をアクローマ様自身が取り下げたと」


「どういうことかしら……? でも、私は有紗の柔軟なその発想を大事にしたいと思うの」


有紗の読み通り大体合っていたが、アクローマはとぼける。


有紗は立ち上がり、アクローマの近くまで歩んだ。


「アクローマ様、本日はどうしてもお聞きしなくてはならないことがあります」


「どうしたの、なんでも聞いて?」


「なぜ、オレにR・ノールについてを知らせてくれなかったのですか?」


ノールの名を聞き、一瞬だけアクローマが反応する。


「……有紗、ノールちゃんを知らなかったの? 多分、天使界のほとんどの人たちが知っているはずだけど」


「ここ最近、オレを天使界から遠ざけていた理由はそういうことなのでしょう。まさかと思いますが、クロノスにはノールについてを伝えているのですよね?」


「勿論よ」


「この天使界に暮らす者たちは皆、貴方を信頼している者たちだ。貴方が同族のノールを売るような真似をするなと言えば、必ず皆がそうするでしょう」


「推測だけで全てを知ったように話されても私は困ってしまうわ」


「そうですか。では、アクローマ様。今から私とともにクロノスへ行き、R・ノールについての情報を伝えましょう」


「………」


なにも語らず、アクローマは悲しそうな表情をした。


そのアクローマを有紗は見つめている。


暫し、二人は黙していたが……


「分かりました、アクローマ様。今は貴方を信じましょう。ですが、次はありませんよ」


有紗はアクローマに頭を下げる。


そして、異世界空間転移を発動し、ルーメイアのエージ宅まで帰っていった。


「次、か。あの子はいつも次と言うわ」


少しだけ、ほっとしたのかアクローマは語る。


二人とも互いに互いのことを分かっているような反応をしていた。


アクローマと桜沢有紗は敵同士のはず。


しかし、二人にはそういったことを差し置いてもいいと思える一つの絆が確かにある。


春川杏里にも、橘綾香にも育ての親が存在したように、有紗にも同じく育ての親がいた。


幼い杏里、綾香を育ての親に引き渡してから行き倒れになりかけていた有紗に天使の魔力を感知してスカウトしに来たのが、アクローマだった。


アクローマも一目見た時点で、すぐに有紗が桜沢一族だと気づく。


当時、唯一残されていたR一族の一家が何者かの襲撃を受け、R一族は全て死に絶えたとされていた。


誰が襲撃したのかも分かっていても、どうすることもできず腑抜けていたアクローマにとって、有紗はある意味で心の支えとなっていった。


「あの様子なら、ノールちゃんと有紗は戦うことを避け、手を組んだのでしょう。本当に良かった、このタイミングで二人を会わせられて」


ゆっくりと、アクローマは玉座に座る。


アクローマは非常に良いタイミングで二人を会わせられたと思っている。


杏里という存在を引き合いに、互いを戦いへ向かわせなかったのは良い流れだと。


能力を知っていた通り、アクローマ自身もまたリターンを普通に扱える。


だが、そこは有紗のおかげで杏里は元に戻り、ノールは恩を感じて、有紗もノールに恩を売れた形に持っていきたかった。


R一族の復権は確実と考えるアクローマは、いずれ根絶やしにされてしまう桜沢一族の中で有紗だけでも生き残らせたがっていた。

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