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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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新規参入

異世界空間転移により、ノールはスロート城内の自室へと帰宅した。


いつもの見慣れた風景に、ノールは深く溜息を吐く。


「はあ」


部屋中央にあるテーブルの椅子に腰かけ、うつむく。


「杏里くん、どうして?」


ノールの心境は複雑だった。


数時間前までは、この部屋で杏里と過ごせていたのに。


気付くと、ノールは自分自身知らないうちに涙を流していた。


「泣いてもなんにもならないのに……」


止まらない涙をノールは手の甲で拭う。


それから数十分程、ノールは考え込んでいた。


心の傷が癒えていないのに辛い時に一人で考える時間だけはあるのは、悲惨である。


どうしても、悪い方向だけに考えが巡る。


その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「ノール、いるか?」


どこかで聞いたような声にノールは扉の方を見る。


「誰なの?」


「テリーだ、部屋に入っていいか?」


「テリーなの? いいよ、入っても」


「ああ」


その声とともに扉が開く。


「よう、久しぶり」


テリーとリュウ、ヴェイグが部屋に入ってきた。


「どうしたの、急に」


「急にじゃないって。ちゃんと前もって連絡していたじゃん。連絡した後に訪ねたら留守だったから、スロート城で待機していたんだ」


「ああ、ゴメンね。こっちも電話の後に色々あってね」


「ところで……邪魔だったか? 泣いていたみたいだけど」


「構わないよ、話を続けて」


再び、ノールは顔を手の甲で拭う。


「なにがあったんだ?」


「今は話したくないな」


「そっか」


「なあ、ところで杏里はどうした? いないのか?」


気になったのか、リュウが尋ねる。


杏里という言葉を聞いたノールは再び泣きそうな表情で項垂れる。


それを見たテリーは少しムッとした様子で、リュウの足を踏みつけた。


「テリーはなにしに来たの?」


気持ちを切り替えるために、ノールから尋ねた。


「電話でも話したろ、アーティを見付けてほしいんだ。ノールにしか頼れないんだ」


「いいよ……と、言いたいけど」


「なにか問題があるのか?」


「実は今、ボクの魔力量が少ないから一日二日は待ってもらいたいの。でも、今すぐがいいなら手を貸して」


「なにをすればいいんだ?」


「だから、手を貸して」


ノールはテリーに右手を、リュウには左手を伸ばす。


「掴めばいいのか?」


テリーは不思議そうにリュウに合図を送ると、二人は同時にノールの手を掴んだ。


「じゃあ、水人検索を発動するね」


ノールは水人能力の水人検索を発動する。


テリー、リュウには即座にある変化が起きた。


それは、急激な魔力の消耗。


「えっ、えっ、これヤバくない!」


驚いたテリーはノールの手を離そうとする。


だが、全く手が離せない。


テリーは手の方を見て、さらに驚く。


自分の手とノールの水人化して若干薄くなった手が同化したように一つになっていた。


「水人検索は本当に燃費が悪いから使いたくないんだよね。あーあと、今魔力切れするとボクは間違いなく死ぬから二人の手を離すつもりはないよ」


眠そうな目でノールは語る。


二人を媒体として無理やり水人検索を発動させ、アーティの居場所を探っていたが……


「ん?」


ノールは首を傾げ、魔力の消費が止まる。


そして、ノールは二人の手を離した。


「す、水人検索ってヤバいな。こんなに魔力が減るもんなのか?」


自らの手を見ながら、極度の疲労をテリーは感じていた。


同化したように見えた手は繋ぐ前となにも変わらず、今までの形と変わらない。


だが、先程までは万全だった調子は形なしとなっている。


リュウも態度には出さないが、普通に冷や汗を搔き、なにも話さずできるだけ体力を温存していた。


「アーティは生きているよ。生きているけど、水人検索をされたら困るのか結界を張っているね。ボクにもどこにいるかまでは分からない」


「生きてはいるんだな、アーティは。そっか、それなら少し安心したよ」


疲れたように語り、テリーはテーブルの椅子に座った。


「良かったね」


「でも、どうしてアーティはオレたちの前から姿を消したんだろう?」


「もしかして、アーティって行方不明? あっ、そうだ。皆、椅子に座って。立ち話もあれだし」


ノールはリュウ、ヴェイグにも座るよう促す。


「ちょっと良いかい?」


その前に、ヴェイグが三人に声をかける。


「オレは妹のジャスティンに会ってくるよ。故郷のエリアースに帰るからな」


「ヴェイグ帰っちゃうの?」


「そうだよ、ノール。オレはギルドを辞めて、エリアースでボディーガードになることにしたんだ。これからは国賓級の大物を護る高給取りな生活が始まるのさ。本当にルミナスには感謝だよ、魔族にしてくれて」


「ボディーガード? 今の仕事とは真逆だね」


「まっ、そりゃな」


ヴェイグは若干、言葉を濁す。


「そういうわけで、オレはジャスティンに会ってくる。皆、またな」


ジャスティンに会うため、ヴェイグは部屋を出ていった。


「また、ギルドのメンバーが減ったね。これでボクらを含めると五人目」


そう、ノールがささやく。


「ヴェイグには向いていなかったんだ。戦いってのは悪い面ばかりしかないのに、無理して良い人でいようなんてできない。それでは、やっていけない」


「なにかあったの?」


座って話しているテリーと同じく、ノール、リュウも椅子に座る。


「オレたちが向かった先のレオーネでは泥臭い嫌な戦いばかりだった。それに相手がモンスターならまだ良かったが、相手はエルフ族。普通の人たちだ」


「そんなの当たり前じゃん。人と人同士の戦いなんだから」


「ノール、お前100点。その当たり前を誤魔化さずにどこまで割り切れるかが重要。でないと、人の心は壊れちまう。やっぱり、ノールは城でメイドなんかやらずに傭兵やっていた方がいいよ」


「あー、その話なんだけど……」


「まあ、良いって少し話を聞け」


新たなギルドを作る話を切り出そうとしたが、テリーが遮る。


「ヴェイグは駄目だった。普通の人を普通に殺せなかった。仕方ないさ、誰にも向き不向きがあるんだから。そういうわけで、なっ」


テリーはリュウに呼びかける。


「ああ。オレの方から人を護るボディーガードを勧めた。あいつは筋がある。ここで終わらせるには惜しい素質や才能がある」


自信を持ってリュウは語る。


ヴェイグに新たな道を示したのは、リュウだった。


「それで、ヴェイグは途中から後方支援に回ったわけだが、そこからエルフ側に強力な味方がついた」


再び、テリーが語り出す。


テーブルに頬杖をつき、なにか愚痴っぽく語っていた。


「いーよな、綾香さんたちにはとんでもなく強い味方がついて。オレたちにはとんでもなく強い敵が現れて、戦況悪化でついこの間までレオーネで戦い続きだったのに。向こうはなんか知らないけど、合流してから一週間ちょっとくらいで終戦だってさ」


かと思うと、テリーは急にしおらしくなる。


「アーティがオレたちを救ってくれたんだ。エルフ側についた魔族の邪神ミネウスを命を懸けて引き離してくれて、二人ともどこにいるのか分からなくなっちまった。それから戦争も終わった。人間もエルフも人数が少なくなってもう戦うべきじゃないと考えが自然と動いたみたいだ」


「アーティが心配?」


「当たり前だろ」


「心配しなくてもそのうちアーティは戻ってくるよ」


「だったら、いいんだけどな。その方があいつらしくて」


「アーティがいないとなると、ギルドとしての活動はどうするの?」


「実際のところ、モンスターハンターはとっくに瓦解している。アーティがいなくなって、綾香さんたちも他にすることを見つけて辞めてしまったし。残されたのはやることなんてない半端者のオレとリュウだけ」


「じゃあさ、ボクが新しいギルドを作るよ」


「本当か? でも、ノールは仕事の管理できるの? オレはモンスターハンターで経理しかやっていないし、リュウは全然仕事の管理はしないし、全部アーティだけでギルドが成り立つように経営していたから……」


「モンスターハンターを始めた頃、テリーは経営についてを深く考えていたかい?」


「考えていなかった」


「だよね。できる、できないじゃなくて、するか、しないかなんだよ。ボクはもうギルドを作ると決めているからね」


「なら、オレも参加するよ。リュウもやるよな?」


「あっ? いいけど?」


恐らく話を聞いていなかったリュウはなんとなく相槌を打つ。


「とりあえず、一つ一つ決めていくか。ノールを統領とするギルドの名前は? というか、事業所とかはどうする?」


「名前は……まだ決めていない。あと事業所は、このスロート城のボクの自室だよ」


「この部屋かよ。絶対にクロノがとやかく言ってきそうだな。で、名前は?」


「R・ノール連盟会」


「却下」


「裏R・ノール組」


「マフィア的な雰囲気を醸す名前はいけないと思います」


「じゃあ、なにがいいの!」


急にノールは感情的になった。


「ノール、名前とか考えるのって普通に苦手だろ?」


「そ、そんなことないよ。ただ、テリーにも聞いてみただけ」


突然、挙動不審な態度をノールは取る。


「図星か。じゃあその、裏R・ノール……なんだったっけ?」


「さあ?」


既に忘れているのか、ノールは他人事。


「だったら、この際格好つける感じで、リバースでいいわ」


ともあれ、新たなギルド“リバース”は発足された。


リュウはともかく二人のやる気が高まった時、ふいに部屋の扉が開く。


ノールたちが扉の方を見ると、クロノの姿があった。


そして、クロノは笑顔で語る。


「随分と面白そうな金儲けの話をしているじゃないか。オレも混ぜてくれよ。そうだな、オレが仕事を持ってきてやる。仲介料金で成功報酬の六割はオレが貰うけどな」


「ちょっ……」


営業を代わりにするから仲介料金六割寄越せという発言により、三人は機能停止する。


しかも、スロート国内でのギルド開業を許可するためにはほとんどクロノ主導での仕事をこなさなければならないと勝手に決められてしまった。

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