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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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光体化

天使の翼をはためかせ、ルミナスは魔界の空を飛行する。


ルーク・ドレアムと同盟を結び、ついででカルナックも倒せたルミナスは早期に次なる行動へと移っていた。


次に倒すべきは魔界将軍の一人、大魔導士イーブル。


魔界で覇王ドレッドノートに次ぐ、魔力量を誇る魔導士である。


他の魔界将軍とは異なり、好戦的な人物ではないが戦うとなれば非常に厄介な相手だった。





ルミナスが向かうイーブルのもとには、事前にルーシェの息のかかった魔族から、ある通知がされていた。


それは、カルナックの敗北やルミナスが向かってきていることなど。


今すぐに現状を理解し、同盟を組むのならば助けてやらんでもないとでも言いたげ。


「本当に困ったねえ。なぜ、若い子たちは皆こうなんだろう」


とある屋敷のサロンで、年令的に初老に差しかかった細身の紳士が独り言を話している。


彼こそが魔界将軍の一人であり、大魔導士のイーブル。


此度の権力闘争にはいささかの興味もないイーブルにとっては勝手に巻き込まないでほしいという印象しかなかった。


「我々が逆賊となったルミナスを討伐し、魔界に平和と安定をもたらす行動を起こすべきだと考えます」


イーブルの独り言に対し、答える人物がいた。


「クレアちゃん、どうしましたか?」


イーブルに声をかけた人物は、クレアという女性天使。


彼女は魔法の教えを乞うため、イーブルのもとを訪れていた。


ノールがアクローマに会った際、名前を指定された熾天使階級の天使でもある。


そもそも最初から魔界にクレアはいたので、ノールが会うことはできなかった。


「クレア“さん”です。そんなことより、ルミナスはなぜ反乱を起こしたのでしょうか?」


「私もそれを考えていました。元々“彼女”は、ミネウスさんに直々に命ぜられ魔王の称号を授けられました。しかし、今まで彼女は魔王という階級に全く固執せず、その権力にも興味を示しておりません。ですからなぜ今になり、しかも邪神という権力にすがろうとするのかが私にも見当がつきません」


「どうせ、大したことのない支配欲のせいでしょう」


彼女と語ったイーブルの発言に、クレアは特に反応しない。


ルミナスになにがあったのかを二人は知っていた。


「そろそろルミナスさんが私を訪ねる頃です。一度、屋敷を出ましょう」


イーブルとクレアの二人は屋敷から出ていく。


その時丁度、上空から接近している人物を確認できた。


それは天使の翼を出現させ、空を飛行するルミナスであった。


「どうやら来たようですね」


数秒後、ルミナスは屋敷の庭園へ着地する。


「気付いていたの?」


ルミナスはイーブルに問う。


「最初から気付いていましたよ」


「なら、要件は分かるね?」


「いいえ、分かりません。分かる気もありませんが」


「どうして?」


「私たちは貴方たちの権力闘争に巻き込まれたくないのです」


「貴方たちのというと、誰にもつく気がないの?」


「ええ、その通りです」


「それならそれでいいの、それじゃあ私はこれで」


「一つ、よろしいですか?」


「なにかしら?」


「なぜ、今まで権力に興味のなかったルミナスさんがこのような行動を?」


「貴方に話したところで意味はある?」


「いいえ、なにもないでしょう。ただ、私が納得するかしないかに過ぎません」


イーブルの返答後、ルミナスは沈黙した。


邪神になる理由は、ルミナスなりに思うことがあった。


「理由は、それは……私と、ミネウスとの約束なんだ。彼の身になにかあったら、私が邪神になると」


静かに答えると、ルミナスはクレアの方を見る。


ルミナスはクレアに小さく手を振った。


クレアもそれに応じて、手を振る。


互いに同じ熾天使階級者の二人は以前から仲が良い。


しかし、それ以上の干渉をしようとはしない。


そして、ルミナスは天使の翼を羽ばたかせる。


「私はもう行くよ。イーブル、今は貴方だけに構っていられる程、暇じゃないの」


ルミナスは空へと飛び立っていった。


「ルミナスは隙だらけですよ、魔法で打ち落とさないのですか?」


「いえ、そのような卑劣な行為はしません。それよりも……」


「それよりも、なんですか?」


「魔界へ光体化した天使が現れました」


「光体化が?」


クレアに動揺が窺える。


「誰なのか知りませんが、光体化の強いオーラを辿れば簡単に見つかるでしょう」


「光体化した天使に私たちだけで勝てるでしょうか……」


「まず、勝てないでしょう。光体化した人物にとって私たち二人の戦力では太刀打ちできません」


あっさりとイーブルは答える。


「イーサン将軍、ブリザード将軍などに支援を求めましょう」


早速イーブルは二人の魔界将軍へ支援を求め、光体化した天使、つまりはノールを止める準備を行い始めた。


だが、イーブルたちが光体化への対策を講じ始めた時、ルミナスが魔界将軍のイーサンを打ち倒すため、彼の管轄地である西エリアに向かっていた。


当然ながら、ルミナスは光体化が現れたのを知らない。


「イーブルの時に気付いたけど、私の行動は全て筒抜けのようね。空間転移を発動すれば魔力の発生で行動がバレるからと思って使わなかったのに、それ以前の話だったとは……」


結局、飛行中にルミナスは空間転移を詠唱し、イーサンの西エリアまで瞬時に移動する。


ルミナスの眼前には、西エリアの大きな都市があった。


都市を囲うように高い城壁が築かれ、敵の侵入を許さない造りになっている。


ルミナスはこの都市の城門前へと現れていた。


ルミナスの行動はこちらでも筒抜けで、空間転移結界が一帯に張り巡らされており、都市内部に侵入できない。


また、飛行できる者たちの世界では常道であるが、空からの侵入を防ぐ強力なバリアも張り巡らされている。


そのため、ルミナスは敵地に城門から堂々と入らなくてはならなかった。


「君が、ルミナス?」


ルミナスが現れた城門に漆黒に染まる甲冑を身にまとう人物がいた。


その人物は表情を窺い知れないようになのか、顔全体を覆うヘルムを被っている。


「私の西エリア地区に君が来るのは事前に分かっていた。急ぎの用事があるが、君を待っていたよ」


「イーサン、出迎えのつもり?」


イーサンは初対面だが、ルミナスは相手が魔界将軍だということでイーサンがダークナイトであるのも事前に知っていた。


「君は最初からマークされていたよ。ルーシェの子飼いの者たちが、私には必要ないのに情報を届けてくる」


「というと、貴方はルーシェの味方?」


「私と戦うのならば、君を撃退しよう。回れ右するのならば、君とは戦わない。今は君の相手をしてあげられる程、暇じゃないんだ。光体化した天使が魔界へ現れたからね」


「光体化が……」


ルミナスに衝撃が走る。


光体化はいわば強者への変化。


もし、それがルーシェなら不味いどころではない。


「怖いよね、光体化は。どうだい、ルミナス。もう邪神になるのは諦めて、一緒に光体化を討伐しよう」


「嫌だ、私は邪神にならないといけない」


「迷惑だな、君は」


「迷惑だって!」


「今がどういう状況なのかも分からないの? 第一、君は魔界将軍との戦いが重要だと勘違いしている。魔界将軍に打ち勝ったところで誰でも邪神になれるというわけじゃないよ」


「知ったような口振りね」


「君よりも内情を知っているから、わざわざ話しているんだよ」


イーサンはルミナスに言い終えると近付く。


まるで敵意のないイーサンにルミナスも臨戦態勢にならず、静かにしていた。


「君がなにを考え、なにをしたいのか私には分からない。もし本当に邪神になりたいのであれば、魔界の平和と秩序の安定を第一に考えよう。野蛮に自らの力を振りかざすのでは高が知れるものだよ」


それだけ言うと、イーサンは空間転移を詠唱し、どこかへ消えた。


「今の権力者たちを一掃すれば私が邪神になれるはずじゃないの……?」


ルミナスはイーサンが消えた場所を眺めながら思う。


ルミナスの内にあった最初の自信が次第に小さくなっていった。





「私が最後のようだね」


イーサンが空間転移で向かった先は、荒涼とした大地の続く、なにもない荒野。


そして、ある方向を眺めている三人の者たちに声をかける。


その三人は魔界将軍のイーブルとブリザード、イーブルとともに来たクレアだった。


「そのようですねえ、イーサン将軍にしては珍しい」


イーブルが答える。


「向かう途中に色々とありましてな。ところで、ルーシェさんは?」


「ルーシェは今ちょっと立て込んでいるんだ。一人のお嬢ちゃんがどうも記憶がどうこうとか言っていて」


次にブリザードが答えた。


「そうか、ならこの四人で光体化を止めよう。君たちが眺めている先から光体化が来るのだろう?」


他の者たちと同じくイーサンも空を眺める。


「ええ、来ますよ。一直線に飛んでいるようですから。クレアさんのお陰でルートを割り出せました……」


なにかを感知し、イーブルは沈黙する。


「光体化が来たようです。皆さん、準備をお願いします。では、イーサン将軍とブリザード将軍は私が光体化した天使を魔法で打ち落としたところを一斉に攻撃し、確実に仕留めてください。もし、一度で仕留められなければ二人は光体化から退いてください。その後、また私が魔法を放ちますのでその繰り返しでお願いします」


「ああ、任せてくれ」


イーサンは親しみ深い口調で答えると自らの愛刀、ツヴァイハンダーと呼ばれる二メートル半程の大剣を空間転移により出現させ、構えた。


「魔界将軍との共闘は久しぶりだ。こいつを最大限に生かしてみせよう」


ブリザードも意識を集中させ、全身の魔力が研ぎ澄まされていった。


「来るなら来いってんだ。オレが倒してやるぜ」


各々がやる気十分の中、物凄いスピードで飛行する天使が接近しているのを各々がその目で確認する。


光体化し、強力な魔力をまとったノールがいた。


ここぞとばかりにイーブルは暗黒魔法ダークマターを詠唱し、ノールへ放つ。


ルーシェを倒すこと以外、頭になかったノールは突然の攻撃に回避が間に合わず直撃を受け、地上へと落下した。


「今だ!」


イーサンはかけ声とともに落下したノールに一斉攻撃を仕掛ける。


攻撃を開始した瞬間に、光体化した天使が女性であると知ったが大剣を振り下ろすことを止めない。


ノールの身体へ大剣を振り下ろすと同時にイーサンは異変に気付く。


斬った感触がなく、思いっきり剣を振り下ろしてしまい、イーサンは態勢を崩した。


この瞬間、イーサンはノールが水人だと悟る。


「あの天使の味方か!」


怒りが爆発したノールは絶叫し、集まった四人を殺害しようとする。


相当の怒りが我を忘れさせていた。


瞬時にノールは立ち上がり、魔法を集中させる。


「デスメテオ発動!」


二つの声音が入り混じった声で、ノールはデスメテオという暗黒魔法を発動させた。


膨大な魔力量を誇る暗黒の衝撃波が四人を巻き込む。


魔法の威力は絶大で四人どころか周囲一帯を破壊していった。


「邪魔をするな!」


粉塵が巻き起こる中、再びノールは空へと飛翔する。


数分程が経過し、粉塵も収まった頃、岩や石に埋まっていたある人物が大地へ這い上がってきた。


それは、漆黒の甲冑をまとうイーサンだった。


「本当に、酷い目に遭ったよ……」


なんとか這い上がってきたイーサンは仰向けに倒れ、空を見たまま動けなくなった。


もうこれ以上イーサンには体力がなく、どうすることもできない。


死を悟ったイーサンに近付く人物がいた。


それは、クレアだった。


「良かった、貴方も生きていたのね」


「クレアさん?」


倒れているイーサンに回復魔法をかけるため、クレアはしゃがむ。


「恐るべき能力者だったわ。あんな魔法、私たちの神聖魔法なんかじゃない。見たこともない……」


「他の者たちは、どうしました?」


ようやく、イーサンは他の二人を思い出す。


「イーブル様とブリザードさんも致命傷を負い、私が回復させたのですが……二人とも戦意を喪失し、とても戦える状態にありません」


「そう……だろうな」


事態の把握から、イーサンは混乱し始めていた。


光体化相手になにもできず敗北し、ミネウスの代わりに魔界を守るはずだった魔界将軍は自らを含めて機能不全に陥っている。


魔界将軍さえも圧倒してしまう光体化を魔界に野放しにしているにもかかわらず、太刀打ちでき得る者が誰もいない。


しかし、この悪夢のような状況でもなんとかでき得るだろう強者の存在をイーサンは知っていた。


天使界と魔界で定期的に行われる侵略もとい交流戦は、こういった時に結果が実る。


「クレアさん、一刻も早くこの事態を伝えてほしい人がいるんだ」

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