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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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残った者たち 2

数日振りに目覚めたノールは、ゆっくり身体を起こす。


すると、杏里が隣で自らに寄り添うように寝ていた。


看病しているうちに杏里は疲れてしまい、うたた寝をしていた。


なんとなくノールは杏里の鼻をつつく。


「えっ、なになに?」


少し驚いた様子で杏里は起き上がった。


「ノールちゃんなの? 目が覚めたんだね」


とても嬉しくて、杏里はノールを抱き締める。


「良かった……もう目を覚まさないんじゃないかって凄く心配したんだよ」


本当に嬉しくて杏里は涙を流す。


だが、寝ていただけのノールには杏里が泣く程の理由が分からない。


「杏里くん、どうして泣いているの?」


「ノールちゃん、君が目を覚ましてくれたからだよ」


「そう?」


抱きついていた杏里をノールは退かす。


「ボクは夢を見たんだ」


「どんな夢?」


問いかけ、ふと杏里は思い出す。


魔力体は夢を見ないのである。


「シスイ君の夢を見たんだ。シスイ君の思いや決意したことにふれられた気がした。あの子は、ボクのために命を懸けたんだよ。守るっていう約束をずっと覚えていてくれたの」


ノールは肩を震わせながら涙を流す。


「ボクのせいで、あの子は死んだんだ」


「でも……ノールちゃん」


「杏里くん、ボクを心配してくれて嬉しかった。ちょっと、ボクは用があるから部屋を出ていってくれない?」


「部屋を?」


「うん」


ノールは俯いたまま、小さく答える。


「なにかあるんだったらなんでもボクに言って」


様子がおかしいと悟った杏里は心配そうに接する。


「じゃあ、部屋から出ていって」


「……うん、分かったよ」


仕方なく杏里は部屋から出ていく。


杏里が向かった先はミールたちの部屋。


ミール、ジャスティンは自室のソファーに座り、テレビをゆったりしながら見ていた。


「杏里くん、どうしたの? 姉さんになにかあった?」


「ノールちゃんが目を覚ましたの」


「姉さん、目を覚ましたの? それなら会いに行こう」


ミールはソファーから立ち上がり、部屋を出ていく。


「ノールさんが目覚めて良かったね」


「そうなんだけど……」


嬉しいはずなのだが、杏里は不安な気持ちで一杯だった。


「杏里さん」


「どうしたの?」


「本当はこんなタイミングで話したくなかったんだけど、僕はどうやったらミールと恋人関係になれると思う?」


「ミール君と? そうだねえ……」


「ミールの傍にいて、寄り添って楽しく話していても以前よりもどこか反応が悪いというか」


「裸になって誘えばいいと思うよ?」


「君って見た目の割に素で男の子みたいなこと言うんだね。女の子側に立った話をしてくれると思ったのに」


「そういう関係になりたいんでしょ? ボクはそれまでに数ヶ月かかったけど」


二人が話していると、ミールが部屋へ戻ってきた。


「姉さん、今は僕と話したくないみたい……やっぱり、僕じゃ駄目なのかな」


「ボクはノールちゃんと一緒にいるよ」


元々、ノールが心配だった杏里は部屋へと戻る。


自室に戻る間、杏里は悩んでいた。


酷く落ち込んでいるであろうノールを自分が支えられるか不安で。


一度はノール自身から部屋を出て行ってほしいと言われたのだから尚更だった。


そんな心持ちで自室に入った杏里は驚くべき光景を目にする。


ノールが床に座った状態で、逆手に両手でナイフを持ち、胸へ突き刺していた。


「なにやっているの!」


直ぐ様、杏里はノールに怒鳴る。


ふと、ノールが杏里を見た。


そこで杏里はノールが自身の心臓の位置を突き刺していたと知る。


「ま、待って!」


ノールに近寄り、ノールの腕を掴む。


魔力でノールの両腕、ナイフをそのまま包み、それ以上の損傷を避けるようにした。


「戻ってくるのが早いよ」


「……えっ」


ノールは何事もなかったようにナイフを床に置く。


ノールの身体には出血もなく、怪我一つなかった。


「ボクは料理の時でも手を怪我したことがないの。どうやら、自ら危害を加えようとするとオートで水人能力が発動するみたいなんだ」


「ノールちゃん、落ち着いて。どうしてこんなことしたの?」


心配しながら杏里は尋ねた。


「シスイ君に会えるかと思って」


うつむきながら、ノールはナイフを杏里に手渡す。


ナイフを手渡され、杏里は一瞬ほっとした。


ひとまず、杏里はナイフを自らの背後へ置く。


「ノールちゃん、いいかい。ボクの話をよく聞いてほしいんだ」


「………?」


ノールは一度ナイフに目をやってから杏里を見る。


「シスイ君が死んでボクも悲しい。でも、ボクたちだって生きているんだよ。ボクにはノールちゃんがいなくなるなんて考えられない。ノールちゃんが本当に必要なんだ!」


ノールを抱き締め、杏里は涙を流す。


「どうしてそんなこと言うの……」


「大好きだからに決まっているじゃん、いつもボクの傍にいてほしいの」


杏里はノールの目を真剣に見つめて答えた。


杏里の言葉を聞いて、ノールはゆっくり深呼吸をする。


「こんな状況で告白されるとは思わなかったよ。君がボクを好きかどうかだなんて、ボクが生きるか死ぬかに全く関係がないのにね」


「でも、ボクは本当にノールちゃんに生きていてほしいの」


「………」


ノールはシスイの死に際に残した言葉を思い出す。


ずっと心の中でシスイを深く考えていた。


しかし、シスイの死はとても割り切れるはずがない。


シスイは自らに降りかかるはずだったなんらかの厄災を、命を捨ててまで伝えてくれた。


自らを救ってくれたシスイのために死ぬのではなく、生きてみようと少しずつ考えを変えようとしていた。


「ボクは生きるよ。シスイ君のために、杏里くんのためにも」


杏里をノールは見る。


「ちょっと、気分を変えたいな」


「うん、どこに行く?」


「城の中庭かな?」


二人は部屋を出て、中庭へと向かった。


その途中、城の回廊でクロノと見覚えのない二人の男性と出会う。


腰まで伸びた長いブロンドヘアーの華奢な男性と、自らの迫力のある筋肉を見せびらかす筋骨隆々とした傭兵風の男性がいた。


「やあ、ノール、杏里。アーティたちの姿が見えないんだけど、どこに行ったんだ?」


「他の世界へ仕事に行っているはずだよ。ところで、後ろにいる二人は誰なの?」


「えっ、他の世界って? まさか、スロート城へ帰ってこないつもりか、あいつら」


どうやら、寝耳に水だったようでクロノは不満げ。


「ありえなくね、人がこんなに良くしてあげたのになにも言わずに、はいさいならってか」


クロノは二人の男性の方へ視線を移す。


「この二人は城に仕えてくれる新たな仲間だ」


クロノが紹介しようとすると、先に一人が語り出す。


「ノールさん、杏里さん。私の名は、ゲマと申します。隣にいる筋肉質な男は、ソルと言います。私たちはクロノ様の考えに引かれ、スロートへ仕官をしに参りました」


「他と違って給料も結構高いし、クロノには感謝しているよ」


「ソル、口を謹め。クロノ様は私たちのこれからの領主様だ」


「構わないよ、これからは仲間なんだから」


「それでは貴方の領主としての威厳が……」


クロノたちは会話をしている最中だったが、ノールはクロノたちの脇を通過していく。


「クロノさんたちの話を聞かなくていいの?」


杏里もノールについてきた。


「どうでもいいよ、早く行こう」


「それにしても強そうな覇気をしていたね、あの二人」


杏里の話を聞き、ノールは不思議な顔をする。


「筋肉質な人は強そうだったけど、華奢な人は明らかに弱そうだよ?」


「どちらかというとゲマさんの方が、ソルさんより強そうだよ?」


杏里は話している途中であることに気付く。


「能力じゃなくて見た目で判断するなんていつもと違うなと思ったら、そういうことか」


「能力は見た目だけでは測れないなんて常識なのに杏里くんの話を聞いて、たった今思い出せたよ。そんな常識をすぐに考えられないなんて、ボクは本当に弱くなってしまったんだね」


二人で歩きながら会話をしているうちに中庭へと着いた。


一通り中庭にある観葉植物などを見て回っていると数日振りに目覚め、病み上がりに近いノールは身体に倦怠感を覚え、中庭に数ヶ所備えつけてあるベンチに座る。


三名程が座れる大きさのベンチだったため、杏里もノールの隣に座った。


「………」


言葉もなく、ノールは杏里に寄り添う。


ノール側から杏里に寄り添ったのは、これが初めてだった。





その頃、ミールとジャスティンは部屋で会話をしていた。


二人はエリアースから持ってきたテレビを見ながら、ソファーに腰掛けている。


「ノールさん、目が覚めたみたいだよ。ついさっき様子を見に行ったら杏里さんとノールさん、中庭で恋人同士らしく寄り添っていたよ。杏里さんはノールさんが目覚めたことが凄く嬉しかったんだね」


ジャスティンは中庭でノールと杏里が寄り添っているのを見ただけ。


彼らがどんな悩みを感じ、今まで生きるか死ぬかで葛藤していたのかを知らない。


「僕はミールが好きだよ」


以前同様、素直な気持ちをストレートに伝える。


「うん」


ミールはそれだけ答える。


「ミールはどうなの? 僕のこと好き?」


「好き……だね」


「ミールは僕のこと、どうしたい?」


「ん?」


ミールはよく分かっていない様子。


今までミールは恋をしたことも誰かに一目惚れしたこともなく、誰かが自分を好きになるだろうなどとも考えたことがなかった。


それが分かるように、ミールにジャスティンが告白しても今までの友人関係としての距離感でミールは接している。


それをジャスティンはどうしても変えたかった。


「よいしょ」


ソファーからジャスティンは立ち上がる。


ミールの前で気にしていない素振りで服を脱ぎ出す。


ミールは何事かとただ見つめていた。


ブラとショーツだけの姿になると、ジャスティンは部屋の扉の前に行き、扉に鍵をかけた。


「ミール」


すたすたとミールの前に行き、ジャスティンはミールの手を引く。


そのまま、ミールはジャスティンに二段ベットまで連れていかれる。


「さあ、ミールも」


「うん」


頷くと、素直に服を脱ぎ出す。


「僕たち、もう今までの関係じゃいられない気がするんだ。ジャスティン君はそれでもいい?」


脱いでいる途中にミールは語る。


「僕はもうその方が良いと思ったの」

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