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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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ルーメイア

「なんだ、色があるじゃないか」


一人の兵士が合図を出し、兵士たちは各々構えていた武器を下ろした。


「すまない、君たちを誤解していた」


若干、疲れた表情をした兵士が話し始める。


「なんのこと?」


「君たちが幻人(げんじん)だと思っていたんだ」


「幻人って?」


「幻人を知らないのか? ここで話をするのはとても危険だ、街の中に入ろう。こうしている間に奴らが襲ってくるとも限らないからな」


兵士たちは綾香たちを城壁の中に連れていく。


城壁内に入り、城壁の門を閉じると兵士が再び話しかける。


「本当に幻人を知らないのか?」


「ええ、知らないわ」


「そうなのか、君たちは今まで一体どこで暮らしていたんだ?」


「スロートよ」


「聞き覚えのない国だな。そこに幻人が現われていないのならとても平和な国なんだろうね。今日にでもその国に移住したいところだよ、ははは……」


「幻人ってそんなに不味い相手なの?」


「そうさ、奴らは今までにいくつもの城や街を壊滅させ、人々を徹底的に殺し尽くしてきた」


「普通に不味いわね、そんな奴らがいるなんて」


「幻人は数年前に突然現われた人間とは全く別の怪物なんだ、おそらく奴らは生命体ではない。奴らの見た目は人間のようだが身体が肉体ではなく霧のようで全身白っぽい色をしている。我々人間を見ると突然襲いかかってくるんだ」


「白っぽい色をしているなら私たちを幻人だと間違わないはずじゃない?」


「最近の奴らは巧妙になっている。死者の衣服や皮膚を剥ぎ取ってまとい、泥や血、すすだらけになって色素をつけるなど見分けが瞬時にできない時もある」


「それ、本当? 変に知識をつけて成長するタイプとか厄介だわ」


「そういえば、君たちはなぜここへ? 今この街は戦場の最前線だ」


「このフォートが私の故郷だからよ。以前よりもボロボロになっているけどね」


より見やすくなった街の風景を綾香は眺める。


「だとしたら、君の故郷のためにも私たちとともに戦ってくれないか?」


「もっちろん! 一緒に戦ってあげる!」


「それなら街の中心にある城へ向かってくれ。兵士として登用されるから」


「皆も聞いたわね? さっさとお城に行きましょう」


城に向かって綾香は歩き出す。


「ちょっと、綾香さん。ここも幻人の被害があるのは分かったけど、フォートに依頼者がいるとは限らないんだよ。これ以上勝手な行動は……」


先程からの綾香の自由過ぎる行動にルウが流石に引き留めた。


「私の故郷が壊されてもルウ君はなんとも思わないの? 酷い、貴方は決してそんな子じゃないと思っていたのに。私、悲しい……泣いちゃいそう。こんなに悲しい気持ちになったのは初めて」


持っていたバッグからハンカチを取り出し、綾香は目元にハンカチを当てる。


「そういう意味で言ったんじゃ……」


「そっ。なら良いじゃないの、まずはお城に行きましょう」


全く濡れていないハンカチをさっさとバッグにしまい、半ば強引に綾香は三人を城に連れていく。


城へ向かうため、フォートの街を歩いていると沢山の兵士とすれ違った。


すれ違う兵士たちは全て鎧をまとい、剣や槍などの武器で完全武装していた。


それで、このフォートが戦場の最前線なんだと各々実感した。


「このお城で良いのよね?」


街の中心にある城に綾香たちは辿り着く。


「そこの四人、お前らは志願兵か?」


深紅の甲冑を身にまとう将校風の男性が綾香たちに気付き、声をかけてきた。


「志願兵よ」


「そうか」


どれ程の力量なのかを見定めるように男性は四人を眺める。


「今は人間と幻人の総力戦で誰であろうと幻人と戦わなくてはならない状況だ。ただでさえ、人間の数が不足し始めている今、女子供であろうとも兵士ともなれば最前線で戦うぞ。それでも良いんだな?」


「問題ないわ、だって私たちは強いし」


「それは頼もしいな。だが、これだけは覚えておいてほしい。そのように語った人間から順に死んでいった。蛮勇さだけではなく引き際も知らんと生きていけんぞ」


「ところで手続きはどこでするの?」


「ついてこい」


男性は四人を城内へ引きつれ、赤い絨毯が敷き詰められた謁見の間へと導く。


「この城の王にでも会わせるの?」


綾香は男性に尋ねた。


「そうではない。この街に城を築城した際の王はとっくの昔に戦死している」


「だったらどうして謁見の間に?」


「今は亡き王とともに戦う勇士として登録手続きは全てこの謁見の間で行う。それと、自己紹介がまだだったな。オレはこの最前線で兵たちを率いる隊長のトレインだ。よろしくな」


「ええ、よろしくね」


「話は変わるが、お前たちは他世界から来た能力者だろう?」


「あら、分かるの?」


「勿論だ。オレだってこの世界の外から来て登用された身だ。お前たちの立ち居振る舞いを見れば容易に分かる。それでお前らが依頼を出してから未だに参戦していなかった傭兵団の一味なんだろ?」


「モンスターハンターにも依頼を出したの?」


「ああ、依頼を出したよ。あの竜人族の男はどうした? いないのか?」


「彼なら別の戦場にいます。あと、遅れてすみません」


女性が可愛らしく謝る素振りを綾香は行う。


「それなら仕方がない。今やルーメイア全土が戦場みたいなもんだ。お前たちはこのフォートで戦うように分けられた別動隊なんだろ? 明日は幻人が集結している拠点に攻め込む予定だ。今のうちに戦う準備を整えてほしい。ここにある物は限られるがな」


トレインは話し終えると契約書を渡し、四人を兵士として登用。


手柄を立てる度に報酬を支払うことになった。


そして、手続きの済んだ四人は城の外に出る。


「これから、どうする? 時間を潰せる場所でもあればいいんだけど」


ライルが綾香に尋ねた。


「多分、今でもあの子がフォートを離れずに暮らしているはずだわ。一度、皆でそこに行きましょう」


「まだ、この街にいるかな?」


「だったらいいなと思っているの。よし、そうと決まれば出発よ」


綾香が率先して三人を知り合いの家まで連れていく。


先程までは上機嫌だった綾香だが、次第に不安そうな表情をし始める。


綾香の暮らしていたあの時のフォートはもうすでに変わっていた。


住宅街だというのに人も少なくまばらで、空き家や廃屋が目立った。


「まだ暮らしていればいいのだけど……」


住宅街にある一軒の二階建住宅の扉を綾香が軽くノックする。


庭などがしっかりと手入れされ、誰かが住んでいるのは確か。


「はい、どちら様ですか?」


待つこと数十秒後、ゆっくりと扉が開く。


そこにはアニメチックなサメを模したぶかぶかなパーカーを着た、約10歳くらいの可愛らしい男の子が立っていた。


パーカーは帽子をかぶれば丁度サメの口から顔が出るような作りのもの。


男の子は若干うつむき加減で目元が見えなかったが……


「もしかして……綾香?」


訪れた人物が綾香だと気付き、男の子は綾香を見上げる。


その時、パーカーの帽子が男の子から、するっと取れた。


男の子には犬のような耳が頭部についており、お尻にも犬のような尻尾をついている。


イヌ人という種族の男の子だった。


「やっぱり、綾香だ!」


訪れたのが綾香だと分かると耳と尻尾をピンと立たせた状態で駆け出し、綾香に抱きつく。


「綾香、ずーっと心配していたんだよ。突然いなくなるんだもん」


「本当にごめんなさいね、エージ君。あの時はお母さんが死んで寂しくて堪らなくてこの街にいたくなかったの」


「あの、ちょっと?」


綾香とエージという男の子が会話しているとライルが話しかける。


「この子が綾香さんの知り合い?」


「ええ、そうよ。私たちはとっても仲が良いの。ねえ、エージ君。私たちを家に泊めてくれない?」


「うーん、どうしよっかな?」


エージは少し悩んでいるような素振りをする。


だが、すぐに笑顔へと戻ると綾香に再び抱きついた。


「良いよ、綾香が一緒に居てくれるなら!」


「それじゃあ決まりね」


エージの許しを得られた綾香たちは家に入った。


建物の中は外観から見た通りの二階建構造となっており、部屋数もこの人数であっても十分の様子。


とりあえず、エージは綾香たちをリビングへ連れてきた。


リビングには様々な家具が置いてあり、暖炉なども備えてあった。


「君って、一人暮らしなの?」


ルウがエージに声をかける。


自身よりも年令が低そうに思えたため聞いていた。


「そうだよ、オレは数十年前からここで一人暮らしだよ」


「数十年前? エージ君の年は?」


「オレかい? オレは今年で46歳だよ」


「ええ!」


ルウの驚く様を見て、綾香は頬笑む。


「ルウ君知らなかったの? エージ君はイヌ人という種族なの。当然、人間とは身体の成長の速さと寿命の長さが違うのよ」


「ということは、エージさん?」


「オレをエージさんと呼ぶのは止めてほしいな……」


そわそわしながら、エージは恥ずかしそうな様子。


「エージ君は年令の割りに見た目と同じくらい価値観も子供っぽいの。気にしないでね」


「そうなんだ」


綾香の話を三人は妙に納得ができた。


そのうちにエージは、わたわたしながらテーブルの椅子に座る。


「ほら、早く早く。綾香、今までどこに行っていたのか話を聞かせて!」


自分の座る椅子の隣の椅子を座りやすいように少しだけ引き、パシパシと叩いている。


椅子には子供向けアニメのような絵柄のチェアパッドが敷かれていた。


「良いわよ、一緒に話しましょう」


綾香はテーブルの方へ歩み出し、なぜかエージの背後に立つ。


エージも不思議そうにしていたが、綾香はそんなエージのイヌ耳をさわる。


特に耳の内側の和毛(にこげ)をふれるようにして。


「あわわ……」


驚くエージに気が済んだ綾香はエージの隣の椅子へ座った。


なにごともなかったように二人は話し出し、お互いずっと会っていなかったからか話が尽きない。

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