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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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新たな仕事

現在、アーティたちは長く滞在していたスロートを離れ、ジャスティン、ヴェイグの故郷エリアースへ移動していた。


仕事に取かかる前の腹ごしらえのため、ファーストフード店で食事を取っている。


スロートよりも近代的な設備が整ったエリアースの方が次の仕事に移りやすいとの理由でアーティはエリアースへ連れ出していたが、ジャスティン、ヴェイグの実家が資産家だから支援を申し出に行くのだろうと他の者は考えていた。


しかし、理由はそうではなかった。


アーティには分かっていた。


シナリオでの未来改変が今後の変調の兆しになると。


「おい、アーティ!」


「あっ?」


ファーストフード店のカフェテラスの席に座るアーティにテリーが呼びかける。


その瞬間、アーティは顔になにかを押しつけられた。


「お前の分のハンバーガーだ、さっさと食え」


包装されたハンバーガーを片手でわざと潰しながらアーティの顔に押しつけている。


アーティとテーブルを挟んだ反対側の席に座るリュウはその様子をにやにやしながら見ていた。


「意外と美味いよ、これって。味付けがオレ好み」


もう片方の手に持っていたハンバーガーをテリーはバクバクと豪快に食べていく。


「テリー、ちょっといい?」


「なに?」


「少しは女の子らしく振舞ったらどうだ?」


「はあ?」


語尾を強めに発すると、アーティの目線に合わせるように、テリーは少ししゃがむ。


「いつからそんなに節穴になったんだ、アーティ。よく見てみろ、可愛げのある女の子が優しく手渡している上に、上品に食べているだろ」


「どういう理屈だよ」


「でさ、アーティ」


少ししゃがんだ姿勢から、テリーは普通に立った状態に戻り、持っていたハンバーガーをアーティの前のテーブルへ置く。


「次の仕事の班分けは、レオーネ行きがオレ、お前、リュウ、ヴェイグだよな」


「ああ」


「で、ルーメイア行きが綾香さん、ライル、ルウ、ジーニアスの四人ずつの分け方でいいんだよな?」


「ノールたち三人が辞めたら、そうなるわな」


「ついでに、ジャスティンもな。ヴェイグはどこに行ったのかを知っているみたい。知っているのなら今すぐ連れてこいとは思うのよ」


すっと、テリーはアーティに顔を寄せ、耳元でささやく。


「そもそも綾香さんがルーメイア行きのまとめ役で大丈夫なの?」


「同じ部屋で寝食をともにした仲なのに知らなかったのか? 綾香さんは強いぞ、オレたちよりも」


「お、おう……」


綾香が強いとは考えていないテリーには、随分投げやりな対応だとしか思えなかった。


「それよりも問題はオレたちだ、やるべきことがあり過ぎて……」


「やるべきこと?」


「ああ……」


「お前さ、なにか隠しているだろ?」


反応が微妙なアーティに、テリーはなにかを感づいている。


「例えば?」


「知るかよ。だから今それを話せって言ってんの」


イラッとしたのか、テリーは再びアーティの顔へハンバーガーを押しつける。


「はっは、マジでそれ面白いから止めてくれない?」


にやにやしながら、リュウは話している。


「まあ、テリー落ち着けよ」


さっさと話を切り上げ、他に食事を取っているメンバー全員にアーティは呼びかける。


「次にオレたちが向かうのは、レオーネとルーメイアという世界だ。今回の仕事は長期間を要する激しい戦いになるだろう。命に関わる自体が起きたなら、すぐに逃げろ。今のオレたちには復活の魔法を扱えるノールがいない」


今まであった大きな利点がなくなり、戦術的な物も変わってしまう。


そういった事柄を他の者たちにもアーティは促しておきたかった。


ただ、ファーストフード店の一角で綾香はぼんやりとあることを考えていた。


それはスロートを去る時の出来事。


綾香は容姿が似ている杏里に姉弟であるかを聞いていた。


他に身寄りのない綾香はもう会えなくなると思い聞いてみたが、出会う前から暮らしていた世界も親も異なり、関係性は皆無。


「杏里くんが私の弟だったら良かったなあ」


綾香は独り言を語る。


特にそれ程の印象はなかったが、いざ離れると寂しさを覚えた。


「綾香さん?」


「どうしたのかしら?」


考え事をしていた綾香にアーティが声をかける。


「オレたちはレオーネに行くから、ライルたちと一緒にルーメイアに行ってくれ」


綾香が周囲を見ると他の者は支度を整えた状態であった。


「そうねえ、私は久しぶりの故郷でゆっくりしてくるわ」


「ついさっき注意を促したつもりだったんだけどな。まっ、戦いも長引くだろうし、オレも気を張らずゆっくりしながら仕事をするかな」


各々のやる気は区々だったが、二つの世界へと別れていった。





丁度、アーティたちが二つの世界へ別れたのと同時刻。


ルーメイアの、とある森の近くで輝く光線のような光が発せられる。


次第に光は収束し、そこには一人の女性の姿が。


長く綺麗な銀髪が特徴的で、しおらしい可憐な女性。


女性の耳はまるでネコのように頭部につき、まとう白い法衣からは白い尻尾が出ている。


ネコ人という種族の女性、ルインが出現していた。


なぜ、ルインがルーメイアの地に出現したかは不明。


当然ながら、ルイン自身もこの地に自らが現われた理由を知らない。


それでも、ルインにはただ一つだけ分かることがあった。


「私は再び異次元空間から抜け出せたのね」


静かに涙を流す。


「今度はいつまで総世界にいられるのか分からない。これがもう最後なのかもしれない」


ルインは涙を拭った。


「でも、ただこれだけは言えるわ。私の神が再び私に機会を与えてくれたのだと」


静かに頬笑むと、ルインは近くの森へ消えていった。





エリアースのファーストフード店から綾香が空間転移を詠唱してから数秒後。


綾香、ライル、ルウ、ジーニアスの四人は小さい池の畔に現れた。


そこは周囲を見渡しても人工物すらなく、木々が立ち並ぶ森林地帯だった。


「ここは?」


疑問に思ったジーニアスが綾香に尋ねる。


「ここはね、私のお気に入りの場所。この綺麗な景色、澄んだ空気を私と一緒に体感してもらいたくて」


「それが僕たちの仕事となにか関係あるの? 早く幻人を倒しに行かないと」


「なんなの、ジーニアス君!」


いきなり大声を出して、ジーニアスに綾香は詰め寄る。


「あ、あの……綾香さん?」


「見ての通り、全く関係がないわ。今度は私の故郷であるフォートへ寄りましょう」


綾香は他の三人を完全に仕切り、フォートまで連れていく。


綾香の故郷フォートは小さな池がある森林地帯から北に歩いた先にあった。


そして、フォートの街がかすかに見える辺りまで綾香たちは移動した。


「なんかおかしいのよね」


里帰りができるため、はしゃぎながら歩き回っていた綾香だったが態度を変化させる。


「どの辺がおかしいんだ?」


ルーメイアの世界へ初めてきたライルはどこがおかしいのか分からない。


勿論、それ以外の者たちもそうだった。


「街の様子が。だって、私が暮らしていた頃には街の中に城なんてなかったの」


「それじゃあ、王都になったのか」


「そういうのとは違うような。街並の景観をとっても崩しているわ」


綾香の故郷であるフォートは煉瓦造りの綺麗な街並みをしている。


しかし今では街の外周を覆うように城壁が構築され、街の丁度中心に最近築城されたばかりの真新しい城があった。


できるだけ見栄えだけでも城らしくしたいのか、いくつかの尖塔が立っているが見張り台として扱えるのは一つだけのようだ。


「ともかく、フォートまで行きましょうか」


綾香たちは街へと再び歩み出す。


街全体が城壁に囲まれているので仕方なく城門の方へ向かった。


城壁や城門には戦いがあったせいか、至るところに突破しようとした際についた傷があった。


「もしかして、これって……」


なんとなく、ルウがライルに話す。


「おそらく、そうだろうな。ここが幻人との戦争が起きた場所で間違いないだろう」


その時、城壁の上から駆け足の音が聞こえた。


「お前ら! その場を動くな!」


四人は声が聞こえた方を見上げ、城壁の上の見張り台に数人の兵士を確認する。


「呼んだ~?」


綾香が兵士に向かって叫ぶ。


「そこを動くんじゃないぞ!」


兵士たちは綾香たちに向かい、ボウガンを構えた。


同時に城門が開き、十数人程の兵士が様々な武器を構えた状態で綾香たちに近付く。


「なにこれ? もしかして捕まりそう?」


怪訝な顔をしながら、ライルは腕を組む。


「さあねえ、話せば分かってもらえると思うけど」


武器を構えられていても綾香もライルも別に気にしていない。


もし攻撃を加えられても余裕で対処が可能なため、至近距離でもなんとも思っていない。

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