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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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奪還

傭兵たちの士気は非常に高くなっていた。


スロートで名声名高いクロノの協力と、クロノの支持をする魔導剣士たちが味方になってくれたから。


ほとんど流れ作業的にスロート解放へ向けての話が進み、今日中に城へ攻め込むことになった。


城の奪還に向け、城への潜入や見張りなどをして情報を得ていた者たちがアーティたちに様々な提案をした。


城の警備兵の交代の時間や城内への潜入経路などである。


情報によれば数時間後に、スロート城を見回る警備兵が交代の時間となるため、見張りの数が一時的に少なくなる。


時刻も辺りが暗闇に包み込まれる頃合いで、城への奇襲が成功しやすくなるらしい。


人数差の関係で気づいていても仕方のない情報だったが、今では役に立つ。


「なにごとも犠牲は少ない方がいい、その時間帯を狙おう。どうせ今の執政官さえ殺せば、城の兵士たちも逃げていくだろう」


アーティは数時間後の奇襲を決める。


当然のようにアーティが決定権を有していた。


情報のやり取りによって、戦いの中で生きてきた傭兵たちは肌で感じた。


この者は間違いなく本物の魔導剣士だと。


若い見た目に、最初は誰も魔導剣士だとは思わなかったが。


作戦の話し合いの過程から出てくる、アーティのどこか切れている感性。


戦闘の知識に長けており、豊富な経験から傭兵たちは自らの命を懸けてみようと思い至った。


それから時は過ぎ。


予定時刻に近づいた頃、全員で城の傍まで移動を開始した。


全員といっても数十人程度であり、これだけが唯一の戦力。


発見されぬよう闇に潜み、城の様子を窺う。


情報通り、ほとんどの兵たちは詰め所の方に戻っている様子で、城壁の上を見回っている人影が見えない。


「はーっと、もうこうなったらしょうがねえ」


両手を挙げて背伸びをしつつ、アーティはノリに乗っている。


本当はこういう戦いがとにかく好きな魔導剣士。


実のところ、楽しくてしょうがない。


「いいか、作戦通りだ。お前らは用意した梯子やロープで城壁を駆け上がれ。前の者が打ち倒されようとも踏み越えて進め。お前らはここになにをしに来たかだけを考えて行動しろ、いいな?」


「了解」


傭兵たちはアーティの言葉に深く頷く。


「そして、魔導剣士のオレたちは……」


城の城門側を指差す。


「あそこから丁寧に御挨拶をしようと思う」


にやっと、アーティは笑った。


アーティ同様にテリーもリュウもにやにやしている。


「では、作戦開始だ。無事を祈る」


一気に傭兵たちは作戦に移り、城へと展開していく。


「あいつらも向かったことだし、オレたちも行きますかっと……」


傭兵たちを見送り、テリーが歩を進めようとしたその時。


アーティは全力で駆け出し、城の城門側へと走っていく。


「あの……あんの野郎!」


先手を取られ、テリーはぶち切れ。


テリーも全力で走り出す。


「ははっ、まるで子供だな。あいつら、やっぱり面白いわ」


笑いながら、リュウも駆け出していく。


全力で駆け出していたアーティは閉じた城門前まで辿り着いた。


「オラァ!」


勢いそのままに体当たりをかまし、(かんぬき)を一気に破砕させる。


一度の体当たりで城門は開かれた。


「な、なにごとだ!」


城門近くにいた門番の二人が異変に気づき、駆け寄ってきた。


ここでもアーティの行動は早かった。


即座に抜刀し、門番の一人を下段から肩に目がけて斬りつけ、もう片方の門番を振り上げた剣で一気に叩き斬る。


わずか数秒で二人を殺害した。


「なにをしているんだ、敵が目の前に来たらさっさと殺さんかい」


一瞥もせずにアーティは城内へと駆け出す。


そこへ、テリーも城門まで来た。


「クソ、あいつが一番乗りか。でも、第一勲功は渡さねえ!」


城内へとテリーも続いた。


「一番乗りとか第一勲功とかどうでもいいだろ。こんな小さな戦いで……」


あとから来たリュウは城内へ入らず、他の傭兵たちが侵入する予定の場所へと駆け出す。


他の傭兵たちをフォローしに向かっていた。


奇襲攻撃は成功し内部は大混乱に陥る。


魔導剣士たちが強過ぎて、作戦通りに展開しなくとも簡単に勝てる戦いであった。


戦いの最中に捕らえた執政官を殺すと指揮系統を失った兵士たちはこれ以上戦わず一目散に逃げていく。


「呆気なさ過ぎる、これでは日が高くとも勝てたな」


あまりの呆気なさに、アーティは無駄にはしゃぎ過ぎたと後悔する。


「アーティ、残念だったな。第一勲功はオレのもの」


テリーがアーティへ自慢する。


一番乗りはアーティだったが、執政官を殺したのはテリーだった。


敵陣最前線に真っ先に飛び込み、名のある者を殺す。


その戦果だけは他へ譲れない。


そういった心情が、二人にはあった。


リュウはどちらかと言えば、死者数を抑える戦い方が好き。


同じ魔導剣士でもやはり考え方に違いがあった。


「なあ、お前ら」


クロノとリュウが二人のもとへやってくる。


リュウは静かな雰囲気だったが、クロノは勝利に酔いはしゃいでいる。


「さあ、スロート解放を街の皆に伝えに行くぞ。解放者のオレたちを街の皆が待っている」


クロノが自信を持って語る。


「オレらは別に」


少し斜め上の方を見て、アーティは話す。


乗り気でない反応はテリー、リュウも変わらない。


「どうしてだ? 主役のお前らがいないと始まらないだろ」


「だったら、リュウ。お前が行けよ。お前が始めた戦いだ」


「やっぱりそうなる? しょうがないな……」


アーティ、テリーは全く乗り気でなかったため、普通に店に戻っていく。


クロノ、リュウと傭兵たちは街の人々に解放されたことを伝えに行ったが、もうすでにその情報はほとんど伝わっていた。


城から蜘蛛の子を散らすように逃げていくステイの兵士たちを人々は見ていたのだ。


クロノたちは街の人々から、とても感謝された。


スロートの勝利、解放。


ついに手に入れた自由。


感謝をし、喜ぶに決まっている。


偉業を成し遂げたクロノたちを祝福し、もうすでに夜となっていたが街総出で祭りが行われた。





翌日、スロート城に多くの者たちが集まった。


スロート領民の商人や学者、元兵士など様々。


解放したとはいえ、スロートには肝心の指導者がいない。


その結果、前スロート王と血縁関係者であり、名声のあるクロノが新たなスロートの指導者にと領民たちから選任された。


選ばれたクロノにはやるべき仕事が山程ある。


ステイの従属国となっていたスロートを完全に独立した共和国として確立させなくてはならない。


しかし、解放されたばかりのスロートは人材も物資も不足している。


まずは領民の意見などを反映させるために議会を作り、独自の国造りをすることが決まった。


「これから、このスロートは良い国になっていくだろう。皆、頑張ろうな」


取り戻したスロート城で領民たちと一緒に議論を交わしていたクロノは最後にこう語る。


クロノも集まった領民たちもスロートが今後良くなっていくと感じていた。


「あいつらにも知らせてくるか」


城での会合が終わり、クロノはギルドまで向かう。


ギルドまで向かう際にクロノはスロートの変化を感じていた。


隣国の兵士はおらず、人々は解放の歓喜を味わい、平和に満ち足りている。


クロノは街行く人々に声をかけられ、ギルドに辿り着くまでに普段よりも時間がかかった。


「皆、いるか?」


店内に入り、呼びかけたがなんの反応もない。


鍵もかけずに出かけている様子。


「全く不用心だな。もし泥棒が入ったらどうするつもりだ?」


そう言いながら店内のものをクロノは手慣れた様子で漁る。


値打ちものがあれば持ち帰るつもり。


「おい、主人」


店内に呼びかける声が聞こえた。


「なっ……」


びっくりしながら、クロノはカウンターの方を向く。


そこには四名の男女がいた。


「このギルドなら仕事がもらえるって聞いたんだけど」


カウンター越しから、青い髪の冒険者風の青年が話している。


「仕事がもらえる? 君たちは客じゃないのか」


クロノの問いかけに、一人の赤い髪の少年がカウンターに身を乗り出す。


「僕たちはこのギルドに加入したいの! 僕らは強いから雇うべきだよ!」


特になにも考えず、クロノは彼らを数秒だけ見つめる。


クロノの商人としての勘が冴え渡り、この四人は使えるとの判断に至った。


「うん、構わないよ。よろしくな」


アーティたちになにも相談せずクロノは四人をギルドへ加入させる。


店内に招きいれ、店内の住居スペースに一度休ませることにした。

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