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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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雷神戦

シスイが修練場内の者たちを操作し始めてから数日が経過した。


その間、テリーから毎日受け取っていた連絡が途絶えていた。


ノールにとっては連絡が途切れるなど想定外の出来事。


ノールは四人がけのテーブルの椅子に腰かけながらケータイを見ている。


なぜか、アーティとジーニアスの部屋で。


そのアーティ、ジーニアスもテーブルの椅子に座り、向かい合う形でトランプ遊びをしていた。


「連絡が来ないの」


「そっか」


アーティはテーブルの上に置かれた数枚のトランプを食い入るように見つめている。


ノールとの会話にはまるで興味がない。


「そっかで終わらせないでよ。どうしてかな?」


「お前から連絡を取ればいいだろ?」


「取れないんだよ。電源が入っているのに」


「そっか」


再び、一言だけで済ますとアーティは山札のトランプをシャッフルする。


「さっきからなにやっているの?」


「ブラックジャック。ジーニアスがカードゲーム強いらしいから賭け勝負している」


ブラックジャックは配られた2枚以上のカードの数値を21に近づけさせ、互いの数値を競い合うカードゲーム。


まずは互いにカードを2枚配り、そこからさらにカードを引くか、勝負に打って出るかを選択する。


ただし、21よりも数値が上回ったらゲームに敗北となる。


今回はアーティがディーラー側となり、カードを配っている。


勝敗の都度にお金の手渡しが面倒なので、5回負けたら2万払うルールとしていた。


ちなみに各種絵札・エースの2枚でナチュラル21となり、一撃で勝負あり。


「もしかして、賭け勝負をするから立会人としてボクを呼んだの?」


「どうせ暇なんだろ? 少しは役に立てよ」


「うわ、うっざ」


アーティは、シャッフルした山札をテーブルに置く。


「ジーニアス、ちょっと休憩な。オレたちもテリーたちのところに行くぞ」


連絡が取れないと知り、なにか不自然さを感じたアーティは魔導剣士修練場へ向かうことにする。


各々が支度をし終え、ノールが率先して空間転移を詠唱した。


空間転移により一瞬に近い速さで世界が切り替わる。


行き着いた先は魔導剣士修練場近くにある街であった。


街にはビル群などが立ち並び、車両のためのアスファルトでできた道路が敷き詰められている。


この世界は、エリアース並みの文明が発達していた。


「おかしいな、魔導剣士修練場の前を目標地点にしたはずなんだけど?」


しかし、返答がない。


疑問に思ったノールは辺りを見渡すと自分以外に誰もいなかった。


「アーティもジーニアス君も来ていないの?」


正直イラッとしたノールは、スロートを指定し、再び空間転移を詠唱する。


「ちょっと、どうして二人とも来ないの?」


アーティの部屋に戻ると、二人は先程同様にブラックジャックをしていた。


「知らないよ、オレたちもお前と一緒に移動できると思っていた」


「わざと来なかったんじゃなくて?」


「一体どうやってだよ?」


「なら、また魔法を詠唱するから今度はついてくるんだよ?」


再び、ノールは空間転移を詠唱し始める。


また今回も一瞬に近い速度で世界が切り替わる。


景色が変わると同時に、ノールは周囲を確認する。


しかし、二人はいなかった。


「どういうことなんだろうなあ……」


ぶつぶつとノールは文句を言いながら空間転移を発動する。


ノールが部屋に戻ると、アーティとジーニアスはブラックジャックの続きをしていた。


「ちょっと」


「言いたいことは分かる」


と言いつつも、アーティは山札からトランプを配っていく。


「ダイヤのクイーンと……スペードの5。どうするかな?」


アーティは引いた二枚のトランプを見て、なにかを考えている。


「僕はスペードの1とハートのキングだよ」


ジーニアスは笑顔でトランプを見せる。


「……もう一回勝負だ!」


勝負がついたので、アーティはトランプをまとめてシャッフルする。


「………」


テーブルの傍に立ったまま、腕を組み暇そうにノールはブラックジャックを眺めている。


「今度で積み重ねた額が丁度二万だ。勿論やるよな?」


「勿論だよ、アーティさん」


とにかくアーティはノールを無視して、またジーニアスとブラックジャックを始める。


山札から再び配り、二人は引いたトランプを見せる。


「オレはハートの3、ハートのキング。また引かせてもらうよ」


「僕が引いたのはミツバの1とダイヤのジャックだよ」


「………」


アーティはどこかを眺め、無言になった。


「それじゃあ約束通り」


圧勝したジーニアスは表情に笑顔を浮かべ、テーブルに置いてあったアーティの財布から二万取り出す。


「やっぱり僕は強いな、強過ぎる。強過ぎてもうこれは犯罪レベルかも。アーティさん、ありがとう」


とても嬉しそうにジーニアスは部屋から出ていった。


「ねえ、アーティ」


「……全て負けた。随分強気だったからイカサマを警戒してオレがディーラーとしての役割を果たしていたんだ。なのに、あいつには勝つためのカードだけが配られている。行くなら他の奴と一緒に行ってくれ」


アーティはテーブルに視線を落し、静かにしている。


「弱いのにどうしてこんな賭けなんかしたの?」


「弱くはない。あの賭け金2万はついさっきエリアースのカジノでオレがブラックジャックをして勝ち取った金額だ。それをジーニアスに話したら、強過ぎて敵なしとか自慢げに語っていたから……」


「井の中の蛙らしい最後だったね」


「お前うるさい。そういう次元じゃないぞ、あいつは。オレはもう駄目だ。シスイのところには他の連中と向かってくれ」


「だったら仕方ないね。じゃ、ボクは別の人を誘っていくから」


仕方なく、ノールはアーティの部屋から出ていく。


城内に誰かいないか探していると、城の中庭を散歩していたライル、ルウを見つけた。


「どうかしましたか?」


そわそわしながら、ルウはノールに聞く。


「今からシスイ君に会いにいくの。ボクと一緒に来てくれるかい?」


「杏里たちになにかあったのか?」


シスイという言葉に反応したライルはノールに迫る。


「テリーから連絡が来ないんだよ」


「どういうことだ、そういうのはお前が管理しないと駄目だろ!」


ライルが迫ってくるため、ノールは後退りをする。


そのためか、壁に背をつける格好になった。


「ライル、恐いよ……」


「……悪い」


実際に悪かったと思っているのか視線を逸らし、ライルはノールから離れる。


「ノールさん、大丈夫?」


「なんだか、ゴメンね」


「皆が気になるな。二人とも、空間転移を詠唱するぞ」


ライルは空間転移を詠唱し始めた。


そして、三人はついさっきノールが着いた街へと現れる。


「今度は三人で来れたね」


先程とは異なり、ライルとルウが確認できたノールは不思議に思う。


その時、ルウが頭を抱え、しゃがみ込む。


「僕、ここに居たくない……」


「ルウ、どうしたんだ?」


慌てた様子でライルはルウに駆け寄る。


「僕、スロートに戻るね」


苦しそうに頭を抱えながら、ルウは空間転移を詠唱し、その場から消えた。


「ルウ君、どうしたの? 大丈夫かな?」


「なにがあったんだろう……とても心配だ。でも今、確認もせず戻るわけには……」


「ルウ君の行動や、アーティたちがここに来れなかった理由はなにか関係があるのかな?」


ぼんやりとしながらノールは修練場がある方向を眺める。


その際、不意に上空から魔力の波動を感じ取った。


「ねえ、ライル。空に水の膜みたいなものが張ってあるよ?」


「空に?」


ライルも空を見上げる。


「あれなに?」


「魔力で構成された水の膜だ。水人能力の類だろ」


「水の膜? なんの意味があるんだろ?」


「シスイか、他の水人がなにかをしているのは間違いないな」


「シスイ君がするはずないでしょ」


ノール、ライルは魔導剣士修練場へと向かって歩き始めた。


二人が街を歩き出した頃、この世界にノールが現われたのをシスイは察知していた。


上空の水の膜により、シスイにはその周囲一帯で対象が行った行動全てを把握できていた。


シスイの作り出した水の膜には複数の魔法が込められている。


水の膜の範囲内にいる対象を操り、範囲内にいる対象の行動が全て把握でき、範囲外の対象は侵入できないようになっていた。


ただし、シスイと同じ水人は自由に行動ができ、影響されない。


そのため、シスイはノール、ライルがいる街へと操っている魔導剣士たちを向かわせる。


そうとは露知らず、ノール、ライルは街を探索していた。


「この街、なにかおかしくない?」


「ああ、オレもそう思っていたところ」


「さっきから歩いているけどさ、道路を車が一台も通らないし、人一人いない。ここはゴーストタウンじゃないはずなのに」


「ところでさ、こんな街をうろつく意味があるのか? 魔導剣士修練場へ空間転移したらどうだ?」


「それがさ、修練場を対象に選択できなかったの」


二人が話していると、目前にある丁字路の通りから数名の集団が近付いてきた。


「誰もいないのに全く不思議に思っていない。ボクらを見つけて、一直線に向かってくる辺り、あの人たちはなにかを知っていて、それでいて敵だろうね」


「だろうな、連中の身体に聞いてみるか」


「軽く叩けば友好的な人たちになってくれると思うよ。魔力をほとんど感じないし」


「それじゃあ、半々で」


一気にノール、ライルは駆け出す。


ライルとノールは戦いを挑み、集団をたったの一分で壊滅させた。


「弱くない?」


あまりの弱さに、ノールは逆に不安になっていた。


「弱くても問題ないだろ。誰でもいいから叩き起こして色々と聞き出すぞ」


ライルが話していると、倒したはずの一人が立ち上がった。


その男性は、魔導剣士修練場でシスイを担当していた雷人のヴォルト。


「強いですね、ノールさん」


「ボクの名前を知っているの?」


ノールが尋ねた瞬間、ヴォルトが消える。


次の瞬間にはノールの傍らに空間転移で現れ、ノールの腕を掴む。


直後、ノールの身体に強烈な魔力による電流が流れる。


ノールはなにもできぬまま、地べたにひれ伏した。


「油断をし過ぎています。魔力を最小限に抑えていた私を雷人だと全く気付けないなんて」


「ノール!」


ライルが叫び、ノールの救援に向かうとする。


だが、ヴォルトが魔法剣を作り出し、ライルへ迫る。


斬られる寸前でライルも抜刀し、鍔迫り合いになった。


「さあ、シスイの下へと運びなさい」


先程まで同じように地面に倒れていた者たちもいつの間にか全員が立ち上がっていた。


彼らはライルとヴォルトが戦っている間に、ノールを担ぎ上げ、どこかへ行ってしまう。


「街へ踏み入れられる者は水人のみ。ならば弱点が分かる、私の存在だ」


ヴォルトは突如、雷人化の高度化である雷神化を行う。


それは常に電流を身体から発している状態なため、水人にとっては危険な相手。


「先程が私の実力であると思うな。半端者はすぐつけ上がり油断する。それを逆手に取ったに過ぎない」


「雷神化だと!」


ライルはヴォルトと距離を取る。


「どうした? 逃げ腰では私を倒せんぞ?」


ヴォルトは持っている魔法剣にも電流を通電させる。


水人をどうすれば如何に素早く殺せるかを熟知していた。


「こいつは本当にヤバい。なんとかしなければ……」


ヴォルトと距離を取りつつ、ライルはこれから雷神化した雷人相手にどう戦えば勝利できるのか思案する。


雷人は水人の天敵。


水人のライルは雷人のヴォルトが傍にいるだけでダメージを受ける。


しかも雷人化の高度化である雷神化ならば、ダメージ量は増加。


そのため、ライルには短期決戦以外に勝つ見込みがない。


「雷神化した雷人をオレが相手取るのか。クソ、ふざけやがって……」


そんなことを考えつつ、ライルは迫ってきたヴォルトの魔法剣による攻撃を躱す。


しかし、ライルは躱しながらもヴォルト自身や魔法剣から流れている電流のダメージを受けていた。


再び、ヴォルトの振るった魔法剣による攻撃を躱すと、ライルは即座に態勢を直す。


通常、水人が雷人に勝利するためには接近戦を確実に避け、魔法による長距離戦で対応しなくてはならない。


でなければ、剣を交じ合わせる接近戦を強いられ、電流の直流しの一撃で仕留められてしまう危険性が高い。


それでもライルはヴォルトに剣での戦いを仕掛けた。


当然、ヴォルトはライルの攻撃を躱さずに電流の流れる魔法剣で受けた。


「剣を交えた理由は? 私たちがどういう種族なのかを貴方は痛みで、より深く理解しているはず。この悪手は単なる自殺行為だ」


ヴォルトの魔法剣から伝わった電流がライルの身体を蝕む。


強い激痛がライルの全身を襲った。


「まだ、オレは剣で受けただけだ……こんなに強烈なんて……」


攻撃をいなすため、ライルはヴォルトの攻撃を何度も剣で受けたため、身体に電流が帯電し始めていく。


それにより、ライルの動きは見るからに鈍り、動きを抑圧され始めた。


「動きが鈍ってきたな?」


「………」


「返事をする気力もないか?」


ライルの様子から止めを刺せると判断し、ヴォルトはライルから一旦距離を置く。


身体にも流していた電流を、自らの剣一点に集中させた。


ヴォルトの行動を見ても、ライルは距離を稼げない。


既に満身創痍のライルは距離を取ること自体が不可能だった。


「一撃で仕留めよう」


一気に距離を縮め、ヴォルトはライルに剣を突き刺す。


ライルが攻撃を耐えられるはずがなく、地面に崩れ落ちた。


ヴォルトは剣を引き抜き、自らの雷神化を解く。


「では、私もシスイの下へ戻りますか」


ヴォルトはライルから離れようとしたが、なにかが足に引っかかる。


それと略同時に、ヴォルトは呼吸ができなくなった。


足に引っかかった物は、必死にしがみついたライルの腕だった。


「ははっ……死んだと思ったろ。雷神化まで解くとは随分気を抜いたな。素の状態なら水人能力が効くだろうと踏んだが上手く行ったな……」


かすれた呻き声を上げ、ヴォルトは倒れた。


ヴォルトの体内に魔力による水を流し込んだ上での勝利だった。


「雷神化した雷人を相手取るにはこれ程苦戦するというのに、雷神化した状態に変化した上でも操った状態を維持できるとは……シスイには一体どれ程の能力が……」


貫かれた部位を押さえ、ライルは立ち上がる。


立ち上がれたからといっても、身体に電流が帯電し魔力の操作も覚束ず、ライルに戦う力は残されていなかった。

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