魔導剣士修練場
翌朝、ノールの自室にシスイとともに魔導剣士修練場へ向かうのを頼まれた四人が集まった。
集まったのは杏里、ミール、ヴェイグ、テリーの四人。
「皆、おはよう。これからシスイ君と一緒に魔導剣士修練場へ行ってもらうよ」
やけにノールはテンションが高い。
息子の出立を喜ばないわけがなかった。
「修練場に行くのは久しぶりだな。今どうなっているか気になるからさっさと行きたいわ」
テリーは魔導剣士修練場へ行くのを二つ返事で受け入れていた。
シスイのためというよりは自らの息抜きのために。
「やっぱり、テリーは話が分かる人だよ。あと、これ」
ノールはテリーにケータイを手渡す。
「なんなのこれって?」
「これは、ケータイ。遠くの相手とも会話ができる便利な機械だよ。これでね、シスイ君の成長を伝えてほしいの。あと動力源は魔力だからどこでも使えるよ」
「こんな小さい物で遠くの相手と話すのか? 遠くの相手ってどのくらいの距離?」
「そういうのはヴェイグに聞いて。ヴェイグに頼んだのもケータイを使った経験があったり、機械に詳しいからだし」
「そっか、よろしくな、ヴェイグ」
「ああ、オレに任せてくれ」
軽く親指を上げ、ヴェイグは頬笑む。
誰かに頼られるのがヴェイグは好きだった。
そして、真新しいなにかを学べるかもしれない機会を得るのも好きだった。
ヴェイグが魔導剣士修練場行きを受け入れたのはそういった理由。
早速ノールは空間転移を詠唱し、シスイを含めた五人をスロートから魔導剣士修練場がある世界へと移動させた。
一瞬に近い速度で、シスイたちは魔導剣士修練場の施設前へ出現する。
「やっぱり、この場所か。この魔導剣士修練場で、オレは魔導剣士になったんだ」
懐かしいものを見るように、テリーが魔導剣士修練場の方をじっくり眺めている。
「テリーさん、ここにいたの?」
「ああ、この場で修練を積み、魔導剣士になったんだ。でも、他世界にあるとは知らなかった。オレやアーティ、リュウは魔導剣士になった後、スロートのある世界に空間転移されていたんだな」
自らに問いかけてきたミールに言う。
「そんなことより、中に入ろうぜ?」
他の者を急かすようにテリーは続ける。
魔導剣士修練場の敷地内へと五人は入った。
その広大な敷地には闘技場のようなエリアと宿舎らしき建物などが多数あった。
エリア―スとまではいかないが、この世界も比較的に近代的なようだった。
「入会金は必要ない。在籍する魔導剣士が賞金首を討伐したり、依頼された仕事をこなしたりして手に入れた金や、スポンサーからの支援金によって経営が成り立っているからな。後進にもしっかりと門は開いている、いつでも大歓迎ってな」
以前訪れたコロシアムによく似た闘技場の建物の方へとテリーは他の者たちを先導する。
「テリーさんは魔導剣士修練場に入会する前も強かったの?」
何気なくミールが尋ねる。
「んなわけがない。自慢じゃないが、あの頃のオレは剣どころか重い物自体持ったことがなかった。食事を取る道具とか、衣服とか、書籍とかそれくらいしか持たなかったからな。今までの生活が180度一変して本当に毎日毎日がキツくて辛かった」
なにかを思い出したのか、斜め上の方をテリーは見ている。
「オレのつまんねえ話を聞くよりも軽くウォームアップしとけよ。入会審査に能力測定があるからな」
テリーの案内で五人は闘技場内にある受付まで行き、入会審査を受ける。
その時、能力測定のため最初にテリーが呼ばれた。
「まずは、オレからか」
杏里たちの方に少し手を挙げ、闘技場の戦闘エリアへとテリーが移動する。
戦闘エリアはコロシアムとほとんど変わらない石造り。
周囲を見渡しながら、テリーは懐かしさを感じている。
誰もなにも言わなかったが、この入会審査をテリーは受ける必要がない。
それどころか、OB側の立ち位置のはず。
なのに、さも当然のように入会審査を受けていた。
その戦闘エリアにもう一人の人物がやってくる。
テリーの力量を図る相手となる見習いの魔導剣士だった。
「悪いことは言わない。格好悪い負け方をして恥を掻く前に、試合放棄した方がいいぞ」
テリーは両腕を組み、仁王立ちしている。
「男装をして意気がっている女になにができる?」
「あっ?」
魔導剣士が語った言葉に、テリーの眉間に皺が寄り、目の下がピクピクと震える。
テリーの前で語ってはならない言葉を口にしていた。
「よーし、雑魚。ぶち殺す」
恐るべき速さで駆け出し、テリーは魔導剣士に突撃をかける。
殺気を漲らせたテリーの突撃に見習いの魔導剣士に恐れを抱かせた。
魔導剣士は剣を抜刀し、一気に剣を振ったが全く当たらない。
簡単に懐へ入られ、魔導剣士は右頬に左フックを受け、卒倒した。
戦闘後、受付までテリーは戻ってきた。
「一発入れられたぐらいで卒倒してやがる。一体どちらが教官なのやら、なっさけない。あんな体たらくでは話にならないぞ。魔導剣士の質も落ちたものだ」
テリーはグチグチと文句を語っている。
テリーの次にミール、ヴェイグ、杏里と戦う順番が回る。
魔法を駆使し戦うミールと巨大な鎌を扱って戦うヴェイグは至って普通に戦っていたが、トンファーを用いる杏里の戦い方は最低だった。
頭部へトンファーで一撃を加え意識を失わせた後、魔導剣士の首にトンファーの柄を押し当て窒息死させようとした。
一人だけ、さも当然のように死に至らしめようとしていた杏里は他の魔導剣士たちによって制止させられたが結果的に四人は魔導剣士との戦いで勝利を収めた。
そして最後に、シスイへ順番が回った。
「誰かと戦うのは初めてか?」
「はい」
四人の戦いを見て、困惑していたシスイにテリーは声をかける。
「僕は母さんを守るために来たのですが……」
「他の奴らの戦いを見た程度で怖気づいたか? だとすれば、洗礼を受けるな」
「洗礼?」
その問いかけの後、シスイが呼ばれる。
戸惑いながらもシスイは戦闘エリアまで歩いていく。
シスイの相手は見た目が屈強そうな魔導剣士の男性。
二人が向かい合うと、戦闘の合図が流れた。
だからといって、シスイはなにも行動しない。
構えもなく、睨みつけたりするわけでもないシスイに魔導剣士は間合いを狭めていく。
魔導剣士が目前まで迫ってもシスイはぼんやりと見つめるだけ。
魔導剣士はシスイの顔を鷲掴みにすると背後へ押し倒す。
倒れたシスイの腹部を踏みつけ、そこで勝負は決してしまった。
それはもう戦いというよりかは児戯に等しいレベル。
「シスイ君!」
シスイを倒した魔導剣士に連れられ、受付まで戻ってきたシスイに杏里は駆け寄る。
「杏里姉さん?」
「大丈夫? 回復魔法をかけてあげるね」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫って、顔やお腹を潰されかけたんだよ?」
シスイが我慢していると杏里は受け取り、回復魔法を詠唱する。
杏里にはそう見えただけで、実際は非常に手加減されていた。
「杏里姉さん」
「どうしたの?」
「戦うにはどうすれば良いんですか? 僕は杏里姉さんのように戦えませんでした」
「戦う? そんなの自分の思うがまま、相手を痛めつければいいんだよ。戦うというのはそういうこと」
杏里は白い歯を見せ、笑顔を作る。
「そのような……できるはずが……」
「それよりも、シスイ君。もう疲れたでしょう? お昼寝しよっか」
「はい、杏里姉さん」
杏里はシスイを背負い、シスイは寝に入った。
「シスイは寝ているのか?」
杏里にテリーは声をかける。
「うん、寝てるの」
「へえ、あの後でもう寝られるのか。痛みや悔しさで到底寝られるはずがないんだけどな。こいつ、意外と大物になりそうだ」
テリーはシスイの頭に手を置く。
「にしても、シスイはズルいわ。オレの時は腕を折られたり、顔にまで傷をつけられたのに」
「では、皆さんの能力も把握できましたので、この魔導剣士修練場をご案内しましょう」
ある一人の男性が声をかけてきた。
「ん? アンタ誰だ?」
「初めまして、私は魔導剣士修練場に所属する魔導剣士ヴォルトです。では、皆さん行きましょうか」
五人は修練場内をヴォルトに案内される。
ヴォルトに魔導剣士修練場を案内され、この場所の内容を各々が大体理解できた。
新しい場所を見てまわり、各々新鮮な気持ちを抱いていたが特にその気持ちになっていたのは、テリーだった。
「なんというか……意外に近代的な施設だな。オレは当時こんな施設だと気付かなかったぞ。自分のことだけで精一杯だったからかな? あいつら二人は気付いていたのかな?」
案内が終わり、五人で受付まで戻ると、そのようにテリーはささやいた。
「テリーさん、ボクたちはこれからどうしようか?」
「そうだな、こんなところにいてもしょうがないから、ひとまず宿舎の方へ行こうか」
受付から離れ、テリーたちは宿舎の方へと向かう。
テリーたちが修練場内に建てられている宿舎に着くと、建物内には数部屋の空き部屋があった。
そのため、テリーたちは部屋分けをすることになった。
室内にシングルベッドが二つ、クローゼット、テレビ、机などの家具があるキッチンつきのワンルーム。
部屋は二人部屋の造りになっていた。
「どういう風に部屋分けする? あと、オレは一人部屋だからな」
結果、テリーは一人部屋、ミールとシスイ、杏里とヴェイグに部屋分けが行われ、それぞれの部屋に解散する。