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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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二つの依頼

一足先に自室へノールたち三人は戻っていた。


ノールはシスイの手を握ったまま、気にしていない素振りをしているが杏里にはすぐ分かる。


相当気にしていると。


「どうしよう」


一言だけ、ノールはささやく。


「ノールちゃん、元気出してよ」


「ボクは元気だよ?」


「皆も分かってくれるから心配しなくても大丈夫だよ」


「それならいいけど……」


じーっと、ノールはベッドを見ている。


「どうしたの?」


「杏里くんとボクしか寝るスペースがないベッドにどうやって三人で寝る?」


「えっ」


杏里もベッドに目を向ける。


言われてみればと杏里も思った。


そもそもこの部屋は二人部屋でスペースが足りない。


「ノールちゃんとシスイ君はベッドを使いなよ、ボクは床で寝るから」


「そうしてもらえると助かるよ。それじゃあ、シスイ君は二段ベットの上の方で寝ようね」


中庭へ行く前に入浴などは済ませておいたので、シスイに就寝を促す。


「うん、母さん。おやすみ」


既に当たり前のように会話をしているシスイは二段ベット上部へと登る。


「ボクたちも寝よっか?」


ノールも二段ベット下部へと入る。


「あっ、杏里くん。一緒にボクと寝よ? スペース作るから」


横になってみると案外スペースがあったため、一緒に寝ることを提案した。


「いいの? これならいつも一緒に眠れるね」


「この狭いベッドでね」


ノールは嫌そうにしているが、一緒に寝られることに杏里は嬉しさがあった。


ベッドで眠りにつくまでの間、ノールは他者との考えに相当の差異があったと痛感していた。


なぜなら、ノールはシスイに対して一切の違和感がない。


大事な我が子として以外には他の認識が存在しなかった。


翌日から毎日のようにノールはシスイと接した。


親子としての日々が過ぎていくうちに一ヶ月が経過していた。


元々、孤児院暮らしでの日々やミールとエールを姉として親として育て上げていたノールには確固たる子育て方法が構築されていたため、シスイは品行方正な少年へと育っていった。


だが、父親にされた杏里を含め、他の者たちはシスイとの距離感がよく分からない。


それは誰一人、子育て経験がないうえに、シスイがどこか無機質な感じがするのが原因だった。


そんなある日、部屋を訪れていた綾香にノールは不安を打ち明ける。


「皆のシスイ君に対する接し方が気になるの」


テーブルにノールと向かい合う形で椅子に座っていた綾香へ問う。


室内には杏里、シスイの姿がない。


シスイの運動不足を気にした杏里が城の中庭へシスイを連れ出していた。


「ええ、私もそう思う。でもね、私にもよく分からないの。シスイ君は良い子だと思うのだけど」


問いかけに綾香は答える。


「やっぱり、魔力体と人では認識の差が大きいのかな?」


「いずれは皆も慣れていくと思うわ」


二人が会話していると、部屋の扉が開く。


「よう」


ノックもせずにアーティが扉を開いていた。


「アーティ、いたんだ?」


呼びかけでノールはアーティの存在に気付く。


「いたんだじゃないだろ? 何回も呼びかけまでしたのに」


「うっそよ~、女の子の部屋にノックもなしに入るだなんて最低」


「そうだね、綾香さんが正しいよ。アーティ、やり直せ」


「良いのか、それで? せっかく良い話を持ってきたんだけどな」


「やり直せ」


「………」


仕方なく、アーティはやり直す。


「よう、ノール。いるか?」


扉をノックした上で部屋へと入り、ノールに呼びかける。


「はい、いらっしゃい。紅茶でも飲む?」


「いや、いらない。ノール、お前に良い話を持ってきたんだ」


「なに?」


「一度、シスイを魔導剣士修練場に預けてみるのはどうかな?」


微妙に顔を引きつらせ、アーティは無理矢理笑みを表情に浮かべる。


魔導剣士修練場とは、魔導剣士として人を育て上げる施設。


以前入会したハンター養成所のような施設だった。


「裏があるとすぐに分かる人なんだね」


「オレがそんな男に見えるか? それより、シスイは?」


「杏里くんと散歩しているよ。あと今の話はさ、ボクからシスイ君を引き離そうとしているよね」


「こっちとしては離れてほしい。シスイがこのまま、ギルドでなにもせずに暮らしているのは困る。ノールにも、シスイにも仕事をして貰わないと」


「仕事して貰わないと困るだって? よく言うよ、スロート城でお世話になっているだけなのに」


「仕事はもう請け負ったんだ。これから、ルーメイア、レオーネという世界での戦争へオレたちも参戦する。それまでにシスイを鍛えたい」


「どういう依頼?」


「ルーメイア?」


綾香はルーメイアの名にだけ反応を示した。


「ルーメイアからは、幻人という種族の討伐依頼。レオーネからは、長年戦い続けている人間とエルフ族の戦いを終わらせる依頼だ」


「いつそんな仕事を請け負ったの?」


「オレたちは元々そういう仕事をするために集ったんじゃないか。時期が来れば、そりゃ請け負うさ」


「ふーん」


腕を組み、ノールは考え始める。


数十秒間、なにも語らず真剣に悩んでいた。


「ボクもシスイ君に強くなってもらいたい。でも、離れ離れになってしまっても、シスイ君は大丈夫かな。一人でやっていけるのかな」


「他の連中と一緒に行ってみたらどうだ? 魔導剣士の肩書が欲しい奴もいるだろうから」


「それなら、少しは安心かな。シスイ君に聞いてみようか」


椅子からノールは立ち上がる。


「シスイ君にも聞いてくるから、二人は帰ってくれない?」


そう話すと空間転移を詠唱し、ノールは消えた。


「アーティ君、ルーメイアはなにを隠そう私の故郷よ。さっきの依頼では、私はルーメイアに行くわ」


「あれ、ルーメイアが綾香さんの故郷なの? 全然知らなかったけど、偶然てあるんだな。受ける時はルーメイアの仕事に当たってもらうよ」


「ところで、いつ参戦するの?」


「どちらも数年以上戦っているから、いつ参戦しても問題はないらしい」


「数年も? 私がルーメイアを離れた時は戦争なんてしていなかったのになあ」


「故郷が心配なら先に行ってもいいぞ?」


「一人では帰りたくないかな。私、寂しくてルーメイアを離れたから」


「そっか、ならシスイが帰ってきた辺りで仕事に取りかかろう」


ノールの部屋から二人は出ていった。





城の中庭を散歩していた杏里、シスイのもとへノールは空間転移で現れた。


二人は仲良く手を繋ぎ、花壇に咲いている花を見ている。


「あれ、ノールちゃん」


「やあ、杏里くん、シスイ君。二人に話があるの」


「なに?」


「なんですか?」


杏里、シスイは同じようなことを語る。


「シスイ君には魔導剣士修練場へ行ってもらいたいの」


「魔導剣士修練場?」


杏里は聞き覚えのない言葉に首を傾げる。


なんとなく魔導剣士に関わるなにかなのかな?という感じで。


「………」


シスイは言葉もなくノールを眺めていた。


「母さんは……僕を嫌いになったのですか?」


「違うよ」


「僕がいない方が……」


シスイの目から涙が伝う。


「違うよ!」


ノールはシスイを抱き締める。


「ボクはシスイ君が大好きだよ。シスイ君とは離れ離れになりたくない。でも、これからは皆と一緒に仕事もしないといけない。君には一人前になれるだけの能力が必要なんだよ」


「嫌だよ、母さん。僕を見捨てないで」


「見捨てるなんてしないよ。君にはボクを守れるくらい強くなってほしいの。シスイ君はボクを守ってくれるよね?」


「僕が母さんを……?」


ただ泣きじゃくっていたシスイだったが、ノールの目をしっかりと見る。


それをノールは頬笑みで返す。


「僕でも母さんを守れる?」


「君なら絶対にできるはずだよ」


「母さん。僕、なんだか自信が出てきました」


「よし、良い子だ、シスイ君!」


ノールはシスイの頭を撫でた。


「話が随分急だね、なにかあったの?」


「それがね、杏里くん。戦争に参戦する依頼が二つあるらしいの。ボクにもシスイ君にも戦ってもらいたいから戦闘経験のないシスイ君には心身ともにできるだけ強くなってもらいたいの」


「そうなの? でもさ、シスイ君が一人で魔導剣士修練場へ行くのって不味くない?」


「シスイ君と一緒に杏里くんも行くから大丈夫」


「えっ、ボクも?」


「杏里くんはシスイ君を助けたいと思わないの?」


「ボクにできることならするよ」


そう言いつつも、杏里はあまり納得していない。


最近ノールが杏里よりもシスイ中心の生活をし出していたのは分かっていた。


だからこそ、相談もせずにどんどん勝手に決めていくのが気にくわない。


杏里もノールに似たシスイは大事な存在だと感じ始めていたが、やはり杏里もノールと離れて生活するのが寂しかった。


「ありがとう、杏里くんに相談して良かったよ。もしかしたら、他の人も魔導剣士修練場へは行くかもしれないから他の人にも聞いてくるね」


「ノールちゃんは一緒に行かないの?」


「ボクは行かないよ、シスイ君の自立のためにね」


「そうなんだ」


「じゃあ、話は決まりね」


ノールは空間転移を発動し、他の者へ移動する。


杏里は素っ気ない態度に寂しさを感じた。

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