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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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シナリオ

同時刻、自室のソファーで寛いでいたアーティが不思議な現象を目にしていた。


それは、同室のジーニアスが図書館で本を読む姿。


だが、ジーニアスは自室にいて、魔力で機能している冷蔵庫の中を眺めている。


なんとなく、今の現象からアーティはジーニアスに聞いてみたくなった。


「今から図書館へ行こうとしていないか?」


「へえ?」


キッチンの冷蔵庫から牛乳を取り出していたジーニアスは不思議そうに振り替える。


ジーニアスは自身の130cmという身長の低さを気にしていた。


牛乳やヨーグルトなどの乳製品を飲食するのが日々の日課。


「これ飲んでから行こうとしていたよ?」


「ああ、やっぱり」


「どうして、そう思ったの?」


「いや、特に意味はないんだ。なんとなくそう思ったくらいで」


「そう? やっぱり、ジャスティン君に会ってこようかな」


「ああ」


ジーニアスは不思議そうな表情をしたまま牛乳を飲み、部屋から出ていった。


今の不思議な出来事にアーティは、一人思案する。


「もしかしたら、これは竜人族特有の能力かもしれないな。それなら、リュウにでも聞いてみるか」


ぶつぶつ独り言を話ながら、アーティも自室を出た。


向かう先はリュウの自室。


アーティはこれまでも同じ竜人族のリュウに自身の身に起きた不思議な出来事を伝え、強くなるための切っかけを探していた。


年上で自らよりも早く竜人化できるようになっていたリュウはアーティにとっても頼れる男。


「よう、リュウ。いるか?」


ノックもせずにアーティは堂々と室内へと入る。


「おまっ……ノックくらいしたらどうなんだ?」


部屋の中央に置かれたテーブルの椅子に腰かけ、コーヒーを飲みながらリュウは休息を取っていた。


当然のように入ってきたアーティに呆れている。


「なんだなんだ? まるでマナーだとでも言いたそうじゃないか。お前らしくもない」


「言いたそうじゃなくて普通のマナーだろ?」


「そんなどうでもいい話より、オレに不思議な感覚があったんだ」


「入り口で突っ立っているのもなんだからお前も椅子に座れよ」


「ああ」


アーティもテーブルの椅子に座る。


「あれ? オレのコーヒーは?」


「お湯は沸かしてあるから、インスタントのを自分で淹れろよ」


キッチンの方をリュウは指差す。


「ならいいわ」


「あっそ。で、今回はどんなことがあったんだ? 話してみろよ」


「それがな、デジャビュというか。いや、違うな。あれは経験則じゃなくて見えたというべきかな?」


「それ、なんなのかを知っているよ」


「今のだけでも分かるのか。やっぱり、竜人族の能力か?」


「確かにこれは能力の一つだ。でも、竜人族特有の能力じゃない。これは“シナリオ”という能力だ」


「シナリオ?」


「そう、シナリオは未来予知に匹敵する能力が種族の覚醒により……お前の場合は竜人化を切っかけに扱えるようになったはず」


「未来予知? オレは預言者にでもなったのか?」


「そうじゃない。未来を見られても見えた未来事象は簡単に変化させられるんだ。そのため、未来に起こり得るだろう一つの事象をただ確認したに過ぎないのが正確」


「それさ、あんまり意味なくないか?」


「ああ、オレも半分はそう思う。自分に全く変える気がなくともシナリオで見えた事象が必ず起きるわけではないし、その事象は覚醒した者のほとんどが見たいと思えば見られるしな。それでも藁にもすがりたい時には、この能力が生きるんだ。ちなみに見える事象は自分の過去、相手の未来だけ」


「随分、この能力を熟知しているんだな。お前は学者かよ? でもさ、おかしくないか? 普通、SFとかでは自分の未来、相手の過去だろ。自分の過去が見えてもなんの価値もない」


「そうとも捉えられるな」


一息吐くため、リュウはコーヒーを飲んだ。


「今思ったけど、アーティがSFなんて言葉を知っているとは思わなかったよ」


「オレは強くなるための情報収集を欠かさないからな。近代兵器や近代の敵とは凄まじいものだ。オレもさらに強くならないと」


「安心しろ、あの内容のほとんど全てがフィクションだ」


「はっ? あれは、近代の戦史だろ? ヴェイグがそう話していた」


「絵空事だから気にするな。そうだ、アーティ。シナリオを上手く扱えるように誰かの未来を見てみたらどうだ?」


「リュウはシナリオを使いこなせるのか?」


「まあな」


「そりゃそうだよな。使えるからこそ能力を知っているわけだしな」


「一応、大事なことを言っておく」


「なんだ?」


「シナリオは自分が見た内容を誰かに伝えたり、文字に書き起こそうとすると急速な勢いで見たものを忘れるんだ」


「ふーん、そうなのか」


話している途中、じーっとアーティをリュウは見つめる。


「なんだよ?」


「良い機会だから、お前にシナリオを使ってみた。それにしても意外だったよ。お前がまさかR派だったなんて……あっ」


斜め上を眺めながら、リュウは椅子から立ち上がる。


「そろそろ出ていってくれないか、もう疲れたんだ」


「疲れたって、シナリオを使っただけだろ? それになんかお前さ、今よく分からないこと口走ってなかった?」


「オレは竜人化をしていない。“人間化”した状態でシナリオを使ったはずだ。魔力を相当消費してしまっているのはこのためだろう。本来、竜賢人のオレなら竜人化した時に扱うべき能力なんだ」


「なんかよ、言い方が変じゃないか?」


「オレはなにをしていたのかを覚えていないんだ。お前がシナリオと話したから自分の状態を鑑みて話を合わせたに過ぎない。それと、疲れているんだよ」


「でも、オレはジーニアスにシナリオで見た内容を話しても忘れなかったし、疲れもしなかったぞ。今だって忘れていない」


「無意識のうちにシナリオを使ったからだろ? 予知夢みたいなもんだ」


「そういうパターンもあるのか。ところで、どうして竜人化しなかった?」


「別にいいだろ、オレは今から寝る。どっか行け」


「そんなに疲れているのか?」


仕方なくアーティはリュウの自室から出ていった。


「オレは、一体なにを見たんだ? どうせ下らないことだと思うが……」


ふらふらとベッドまで行くと、リュウは寝そべる。


「杞憂だとは思うが、もしも“見させられた”のなら不味い」


リュウは空間転移を発動し、手元へケータイを出現させる。


知らない振りをしていたが、元々リュウは座標指定型空間転移を発動できていた。


さらに持っていなかったはずの通信機器でどこかへ連絡を取り始めた。


連絡を終えたリュウは安心したのか、空間転移でケータイを消すとそのままベッドで眠りにつく。


アーティたちには知らせていないなにかをリュウは隠していた。





「よう、ノールはいるか?」


リュウの自室から出ていったアーティは次にノールの自室に移動していた。


扉をノックもせず、アーティは扉を開けたが後悔した。


誰なのか分からない少年をノールが抱き締め、その傍で微妙におろおろとしている杏里がいたから。


「……修羅場か?」


直感的に嫌な予感がしたアーティは即座に立ち去ろうとする。


「ちょっと待って、アーティ。この子を紹介するから」


「面倒事なら、オレは嫌だぞ」


「なら、さっさと帰って」


「そこは引き止めろよ」


暇潰しがしたいアーティは仕方なくノールの話を聞くことにした。


シスイから離れてノールが立ち上がると、至って普通にシスイも立ち上がる。


まだ生まれて間もないのに、ノールと同じ行動ができていた。


「見てよ、この綺麗な男の子を」


「なんかさ、どこかお前に似ていないか?」


アーティはシスイの顔を覗き込む。


「この子はシスイ君。ボクの魔力で創ったんだよ。まだ生まれたばかりだから赤ちゃんなんだ」


「オレより少し年下のようにしか見えないのに赤ちゃん? 魔力でそんなことができるのか?」


「母さん、この人は誰?」


シスイがノールの服を引っ張る。


「この人?」


シスイの問いかけにふわっとした笑顔を見せ、アーティの方に視線を移す。


「ほら、早く自己紹介」


若干ノールはムッとしていた。


「おい」


色々と言いたいことはあったが、アーティは我慢する。


「シスイ、オレは竜神族であり魔導剣士のアーティだ。ノールも所属しているギルドの長をしている」


「アーティさんですね、よろしくお願いします」


「シスイは礼儀正しいな。誰かさんと違って」


「ちょっと、それボクのこと?」


「お前以外にいないだろ。で、今回シスイをスカウトしてきたって話でいいんだろ?」


「だから、ボクが魔力で創った子供」


「……それ、本気で言っていたの?」


今までアーティは普通に冗談で話していると思っていた。


「お前ら付き合っていたのは知っていたけど、子供はこういう流れでできるものじゃないだろ」


「水分身という能力で創ったから、ボクのコピーを出現させたに近いね」


「水分身?」


なんとなくアーティの脳内には、ノールがアメーバのように分裂するイメージが浮かんだ。


「なんていうか、お前らしいよ」


「ありがとう」


イメージ通りで良いと思うと伝えたアーティと、子供をほしがったのがお前らしいと言われたと勘違いしたノール。


「日常生活は問題なさそうみたいだな。じゃあ、他の連中にもシスイを紹介してやれよ」


アーティの提案をノールは受け入れる。


その後、ノールとアーティはシスイを他の仲間に伝えるため、全員を城の中庭に呼び集めることにした。


他の者たちの都合上、集まるのは夜の九時となった。


「一部屋一部屋が広ければ、こんなところに集まらなくても良かったのにな」


迷惑そうな口調でアーティは語る。


兵士宿舎を無料で提供されているのに文句を語っていた。


「その子は誰だ?」


興味を持っているのかリュウはシスイに近寄り、顔を覗き込む。


「この純粋無垢で綺麗な美少年はボクと杏里くんの子供、シスイ君だよ」


「子供?」


アーティ、ノールを除いた他の者たちが杏里の方を見る。


「ち、違うよ。ボクはなにもしていない」


恥ずかしそうにうつむき、視線を杏里は逸らす。


「杏里くんがシスイ君のお父さん。血を使ったもん」


「おい、それはどういうことだ」


ノールが説明し出すと、ライルは一人だけその内容に強い反応を示す。


ノールのわずかな説明。


シスイを見て不審を抱いていたが、その説明で完全に合点がついたらしい。


「ノール、水分身を使ったのか? それは禁忌の能力じゃないか。水分身の魔導書を読んだのならお前も分かっているはず。創り出された者は創り出した者を殺すと」


「大丈夫、シスイ君はそんなことしない」


「いずれはするんだ。いかに危険な能力かをノールが一番理解しているはずだろ」


「でも、シスイ君に限ってそんなことしないよ」


「なんだと!」


全く緊張感がないノールに対してライルは怒りが抑えられない。


ライルはノールの胸倉辺りを掴む。


水人であるノールの身体は20キロと軽いため、わずかに宙へ浮いた。


「ちょ、ちょっとライル、恐い……」


「……悪い」


ノールの衣服からライルは手を離す。


「ノールちゃん、大丈夫?」


我先に杏里がノールを気遣う。


「別に大したことじゃないから気にしなくていいよ」


実際には落ち込んでいたノールは沈んだ声で話すとシスイの手を握り、シスイを連れてどこかへ行ってしまう。


「待って、ノールちゃん!」


杏里も二人を追う。


「その能力って扱っちゃ駄目なのか?」


今の話をアーティは気にしていた。


初めてシスイを見た時も、紹介のためシスイを連れ出した時もそのような行動を起こす者には一切見えなかった。


「水分身の魔導書にも水人に関する書籍にも定番のように記されている。創られた者は創り出した者を殺すと」


「そんなことが本当に有り得るのか? よし、ならオレが確認してやろう」


突然、アーティは竜人化する。


シナリオを扱い、ノールの未来を確認しようとしていた。


「なんで竜人化してんだよ?」


目の前で突然変化されたライルは不思議に思う。


「確認するには変化が必要なんだよ」


少しの間、アーティは静かになる。


「アーティ? さっきからなにしてんの?」


そもそも、シナリオという能力自体知らない他の者に代わってテリーが尋ねる。


「い、いや、なんでもない」


なぜか、アーティは焦りながら言葉を濁す。


「オレにもすることがあるんだ。先に戻るよ」


それだけ言うと、アーティは見た内容に関してなにも語らず、どこかに行ってしまう。


「なんなんだ、あいつ? それはともかく、あの……シスイ? シスイだったか? あいつがノールを倒すイメージが浮かばない。勝つとか負けるとかそれ以前の問題じゃないか?」


テリーがライルに尋ねる。


「水分身は簡単にいうとコピー能力なんだ。とはいえ、性別も性格も価値観も異なる存在が現れるだけだ。だが、レベルだけは同等で創られてしまう。なのにノールのように子供だと表現する奴ばかりらしい。そんな認識で対立でもすれば結果がどうなるかなんて分かるだろ。ノールの性格上、無抵抗のまま死ぬ」


「いや、いくらなんでも話が性急過ぎないか? とりあえず、シスイがどんな奴かを様子見すればいいと思うぞ?」


このままだとライルがシスイを殺しかねない気がしたテリーは落ち着かせる。


ひとまず、テリーの話した通り様子見する形で今日は解散となった。

能力紹介


シナリオ(未来予知の一つで、対象者の未来に起こり得るであろう結果の一つを事前に確認できる能力。覚醒した者なら大体誰でも扱える。確認ができるだけなので誰でも見れるし、変えようと思えば大概すぐに変えられる。確認した未来が今現在では過去の事象となれば確認したものを他人に話しても無害。まだ起きていない未来についてを話したり、知らせれば発動時に知り得た記憶を失い、代償として魔力のほとんどを消耗する)

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