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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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知りたいこと 2

「ノールちゃん、ひとまず向こうを見なさい」


ある方向をアクローマは指差す。


言われた通りにその方向をノールは見た。


別にその方向になにかがあるわけではない。


「特になにもないけど?」


「この室内ではなく、もっと遠くの方よ。魔力体の貴方ならそっちに相当数の魔力を感じるはず」


ノールは身体に魔力を漲らせる。


維持した状態でその方向を見ると、アクローマの宮殿から数十キロ程離れた地点に非常に多くの魔力を感知する。


おそらくは数万人規模のなにかがいると、ノールは感じた。


「なにか、向こうに沢山いる気がする……しかも空中に」


「あの方角で天使、魔族、悪魔の三種族で大決戦を行っているからね。空中戦は凄いわよ、周囲360度の四方八方から敵も味方も攻撃も至るところから飛んでくるのだから。ノールちゃんももう少し早く来ていれば参加できたのよ。惜しかったわね」


「………」


それは一体どういうことなんだ?とノールは思った。


もしそれが事実なのだとしたら、指揮系統を担うはずの天使界の女帝がどうしてこんなところにいるのだとも。


「私はお留守番よ。だって、レティシアが軍の指揮系統の全権を握っているから」


見透かしていたようでアクローマは聞きたかったことを答える。


「つまり戦力外ってことだよね?」


「そんなことを言うような子に育てた覚えはないわ」


「育てられた覚えがないなあ」


「私たちは、たまにこうやってお互いの能力向上促進のために戦っているの。天使界を魔界の最高権力者邪神ミネウスが侵略してくるという前提でね。この事実を知っている者は私やミネウス、天使界と魔界の上位階級者のみ」


「前提? そもそもそれが理由じゃないの?」


「もし本当に侵略行為を行う者がいたとしたら、荒廃の天使アクローマが最前線へ出向いている。この天使界を簡単に奪われて堪るものですか」


「なにその、荒廃の天使って」


「昔の私の二つ名。私が神聖魔法以外に炎人魔法にも秀でていたことから、いつの間にかそう呼ばれていたの。この天使界の旧支配者たちは私の名を聞いて震え上がったものよ」


「昔は強かったんだ」


「今もよ、全く失礼ね」


「それよりも、どうして上位階級者のみが戦う理由を知っているの?」


「私とミネウスが親友だからね。はい、これ」


アクローマは空間転移を発動し、一枚の写真を出現させ、それをノールに見せる。


写真にはアクローマと一緒に写る二人の姿があった。


一人はエルフ族と思しき男性。


少しだけ尖った耳をし、緑がかった長髪、緑の瞳。


エルフ族らしい優男で美形な魔法使い風の見た目をした人物。


「こっちの男性がミネウスよ、こんな姿だけど手刀で戦う超接近戦タイプの人。そしてこっちが……」


ミネウスの隣に写る女性の姿。


それは、以前ノールが倒した魔王ルミナスだった。


「こっちに写っているのが熾天使階級者のルミナスちゃん。魔界の魔王階級者でもあるの。この二人はとっても仲が良いの。以前はお互いにエルフ族同士だったのがきっかけなのでしょうね。今回、こういう実践演習が急に始まったのは、このルミナスちゃんに理由があって。誰かがルミナスちゃんを倒しちゃったみたいなの」


ノールはルミナスが魔界の魔王どころか、天使界の熾天使なのをたった今知った。


そして、今回の実践演習はルミナスを倒した誰かをミネウスが探すためだと。


直感的に面倒臭いことに巻き込まれるだろうと考えたノールは脳内会議の結果、ルミナスなど知らぬ存ぜぬの立場を取ろうと決めた。


「誰だか全然知らない人たちだね」


「実は、魔王階級者のルミナスちゃんをあのタイミングで倒せる天使ってどう考えてもノールちゃんしかいないの。天使界は私が統治してから完全に実力主義の世界にしたから、あのルミナスちゃんに勝てる者はとても少ない。私が聞けばすぐに分かるけど、実際のところどうなの?」


「なんていうか、ルミナスは確かにボクが倒したよ。この人、人間たち相手に酷いことをしていたから追い払ったの」


「なんだ、やっぱり会っていたし、貴方が原因なんじゃない」


アクローマは苦笑いをしている。


「まあ、それはボク的にどうでもいいんだけどね」


「今回の実践演習は言うなればノールちゃんのせいで始まったみたいだし」


「そんなことよりも、ちょっと見てもらいたいものがあるの」


聖帝についてもそうだが、ノールは自身の変化について聞きたいことがあった。


「杏里くんと試合をしていたら、天使の羽が増えていたの」


それから、ノールは天使化する。


ノールの背には通常なら二枚となっている天使の翼が六枚になっていた。


ノールの身に起きた現象に気付いたアクローマは、驚きを隠せない。


「羽が六枚って……凄いわ、この天使界で150年振りに女神化できる天使が現われたなんて!」


「女神化?」


「貴方は女神化の意味も分からないのに変化ができたの? いいかしら、ノールちゃん。女神化というのは私たち女性天使の最上級形態よ」


「なんか、よく意味が分からないんだけど」


「せっかちね、本当にせっかちなんだから。今、私が説明しているのだから最後まで落ち着いて聞いてみなさいよ。少しは心にゆとりを持ってみたらどうなの? 女神となる者が常にヒステリックでは話にならないでしょう? ふふっ、若いのにヒステリックだなんて将来どうなってしまうのかしら。笑っちゃうわ」


「ねえ、アクローマ」


「なにかしら?」


「ぶん殴っていいかい?」


ノールの気配が若干変わっていた。


さりげなく呼び捨てに変わっていた辺りに強い怒りが感じられる。


「ひとまず、天使の公式的な形態は全部で三つ。一つ目は現在の天使である状態。二つ目はエターナル化。最後が女性限定の女神化ね。本当はもう一つあるけど、それは気にしなくてもいいわ」


「それで話を流したつもりかい?」


なんとなく、ノールはレティシアの苦労が分かった気がしていた。


「あーあと、以前話しておくつもりだったことがあるの。私たちの寿命についてよ」


「色々と言いたいことはあるけど、人間とは違うの?」


「天使と魔力体は寿命の長さが変わらない。どちらも同じく500歳まで生きられるの」


「ご……500? そんなに生きられるの? 50~60歳くらいまでだと思っていた」


「それは、ノールちゃんが暮らす人間の文化や医療レベルがその程度というだけの話でしょ。病死でもしない限りは500歳まで問題なく生きられるわ。あと、例え500歳になったとしても見た目は人間の30代程度となり外見が急速に衰えたりしないの」


「ボクも500歳まで生きられるのか……」


「ノールちゃんの場合は天使にならずとも500歳まで普通に生きられるのよ? 問題は以前ノールちゃんが連れてきた二人の子たち。あの子たちにそれだけ生きられるのを伝える前に貴方たちは帰ってしまったからねえ。ちゃんと伝えておきなさいよ? ところで……」


「まだなにかあるの?」


「あの眼鏡の子とは、これからも行動するつもり?」


「杏里くんのこと?」


「以前、R一族と敵対している桜沢一族を話したよね? 眼鏡の子がその桜沢一族なの。ある理由で私からあの子に手を下せない。貴方自身の手でやるのよ」


「どういう理屈なのそれ? ボクと杏里くんが敵対する理由が分からないし。あれでもボクの恋人なんだよ」


「恋人? まさか、身体を許したりはしている?」


「したよ、数回くらいかな?」


「星の数程、男がいるのにそれがどうして桜沢一族と? 第一、貴方は自分の年令を分かっているの」


「18歳だけど?」


「ああ、やっぱり。まだ、貴方は未成年なのよ? 通常なら天使は80歳辺りからそういうものを意識するはずなのに!」


頭を抱えていたアクローマだったが、玉座へ戻り力なく座り込む。


「なんで、80歳なの?」


「種族が異なるのだから成人となり得る年令も身体の構造も違うの。天使は80歳から成人として認められ、性的欲求もその年令辺りから意識し出すの。ノールちゃんは行為をすればなにが起きるか理解した上でしているのよね?」


「うん」


「貴方は“魔力体の水人”よ。あの子とは子供ができないの」


「えっ? 嘘でしょ?」


「良いかしら、この世には私たち人という生物と、貴方のような魔力体が存在しているの。人には種族という物があって、同じ種族同士でしか妊娠できないのよ。逆もまた然りで魔力体も魔力体同士でないと無理。つまり、魔力体の貴方と人の杏里くんには子供なんて初めからできないの」


「………」


信じられない事実を聞いたノールは黙ってしまう。


その様子を見たアクローマは少しだけ安心する。


あえて回りくどい説明をしたのは、ノールを混乱させるため。


普通に考えれば、互いに天使化できるのだから天使となった上で行為をすれば問題なく子供ができる。


そういった発想になってもらう前に早期に別れさせようとしている。


「これで“一子相伝の力”が桜沢一族ごときに流失せず済みそう。もうノールちゃんには眼鏡の子は不要になったはずよ。貴方の一族のためにあの子を消しましょう」


「嫌だよ! ボクは絶対にそんなことしない!」


事実を知り、呆然としていたノールだったが、そう叫んでアクローマから逃げ出す。


「待ちなさいよ、ノールちゃん!」


アクローマはノールを制止しようと叫んだが振り切られてしまう。


その後、ノールは天使界から逃げるようにスロートへ戻った。





結局、当初の目的だった聖帝の情報以上の様々な内容をアクローマから聞き出せた。


他種族同士では子供を宿せないという事実が、ノールの心に強いストレスを与えた。


だが、ノールはそれを打開する、とある一つの方法を知っている。


水人のみが扱える禁忌の能力。


禁忌とされているその能力を駆使すれば、種族差を乗り越えられるのではないかとノールは考えていた。

登場人物紹介


ミネウス(年令350才、身長178cm、魔族の男性、階級は邪神、心優しい性格。魔力を両腕に宿らせ戦う手刀使い。元エルフだがエルフの使命がどうのというドグマに嫌気がさし、魔界を訪れ魔族となった。自由主義者でリベラル派だと語っている。そのおかげで魔界は天使界と異なり、他種族の坩堝となった。同じくR一族派のアクローマとは大親友)

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