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一族の楔  作者: AGEHA
第三章 人対魔力体
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休息

空間転移によって、リリアはエアルドフ王国の自室に戻ってきた。


自らのドレッサー近くに現れたリリア。


すぐに部屋の中央にある紫色の天蓋つきベッドに目が行く。


ベッドには、メイド服姿のセシルと、ドレス姿のセレニアが横たわり、お昼寝をしていた。


「おかえりなさい!」


目を閉じていたが、セレニアはリリアの帰宅に即座に気づく。


セレニアは身体を起こし、ベッドから飛び降りて、リリアの足に抱きついた。


「リリアお母様、あのワンちゃんの能力は……」


セレニアの感心は、ずっとあの能力について。


彼女の認識では母親であるリリアの勝利よりもさらに大事なこと。


もう本当にそれは、一体の魔力体としての反応。


「セシルさんが寝ています。ここでは静かにしましょう」


「………」


静かに、セレニアは頷く。


「ひとまず、それについては湯浴みの際に話しましょう」


戦いを終えたリリアは、湯浴みをして身体を綺麗にしたい。


セレニアを連れて浴場へ向かう。


セレニアはリリアの足に抱きついたまま離れようとしないがリリアは気にもせず歩いていき、自室を出た。


「……えっ、セシルちゃん起きているんですけど?」


とても眠そうな表情で、セシルが身体を起こす。


タッチの差で目覚めただけで実際は普通に寝ていた。


その間に、リリアたちは王族用の浴場へ辿り着いていた。


この時セレニアはリリアの脇腹辺りまでよじ登り、しがみついていた。


抱っこでもおんぶでもするわけでもなく、特にリリアにこだわりはない。


どちらも魔力体らしさが出ている。


しかし、そこに愛がないわけではない。


果たして、人らしさとは魔力体にとって愛なのだろうか。


「どなたか、いらっしゃいますか?」


浴場に着いたリリアは呼びかける。


「はい、リリア姫様」


丁度、部屋の片づけを行っているメイドが一人いた。


「今から湯浴みをします。支度をしなさい」


「かしこまりました」


礼をしてから、メイドはリリアのドレスを脱がし始める。


「セレニアは座っています!」


そう言いながら、セレニアは子供用の小さめの椅子に座った。


服の脱がしてもらったリリアは、メイドからタオルを受け取って先に浴場へ。


次に、セレニアの番。


「はいはい、セレニア様~」


満面の笑みで、メイドはセレニアに駆け寄る。


まだ幼いセレニアはメイドたちにとっても大事な愛しき存在。


「セレニアは自分で脱げます!」


椅子から飛び跳ねて一気に立ち上がり胸を張る。


ドレスや下着などの一式が全てセレニアをすり抜け、足元へと落ちた。


「あらあら」


急いで浴場へ向かうセレニアを背に、メイドはくすくすと笑う。


これは単純に炎人化して魔力となり、一糸まとわぬ姿へなったのだが。


人には絶対不可能な超常現象が起きていても、この世界では問題なく成り立つ。


魔力体が魔力体らしく振舞うのに誰もが違和感など一欠けらもない。


これが明白なR・クァール・コミューン内であることの証拠。


セレニアは浴場の戸を開け、リリアのもとへ向かう。


すでにリリアは非常に広い円形の作りになっている浴槽の湯に浸かっていた。


浴槽は丁度背をつけやすい角度に作られているので、足を伸ばしてゆったりとリリアは寛いでいる。


「えいっ」


セレニアはリリアの隣まで行き、浴槽内へ飛び込んだ。


「セレニア、はしたないですよ」


浴槽内へ飛び込んで入ってきたセレニアに注意を促す。


ちらっと、セレニアは水中からリリアを見上げ、そっとリリアに寄り添った。


「ふふっ」


親しげに頬笑みかけ、リリアは目を閉じリラックスし出す。


「お母様? あのワンワンはどんな……」


「リリア!」


そのタイミングで、浴場の戸が一気に開く。


一糸まとわぬ姿のセシルがそこにいた。


「ねえ、ねえねえねえ。セシルちゃん起きていたんですけど」


ざぶざぶと浴槽内を歩いていき、リリアの前に立つ。


「………」


リリアは目を閉じたまま、なにも語らない。


「全くもう……」


セシルはリリアの両足の間に、自らの足を差し込み、左右へ動かして開かせる。


「私が来たら足を広げるようにしなさいって」


足を開かせたことでできたスペースに、セシルは座り込んだ。


リリアの胸を枕にする形で。


「もう、手はここでしょ」


リリアの両手を掴み、セシルは自らの左右の胸に置かせる。


「こうしないと私が落っこちちゃうでしょ、もう気が利かないんだから」


「………」


片目を開き、リリアは状況を確認する。


以前からセシルは無礼な振る舞いをしていたが、結婚した今となっても変わらない。


これがもう“らしさ”と捉えているが、リリアの不満は募る。


ちなみに本来これは“二人”でいる時だけ行われるはずの行為。


「こうしていると昔を思い出すわ」


静かにセシルは語り出す。


「初めて会った時から私たちはきっとこうなると分かっていたの。あの酒場でリリアは私に服をプレゼントしてくれて、友達にもなってくれた。身分の差なんてものともせず、この私をお城にまで招待してくれて……」


「………?」


楽しげな様子でセシルは語っているが、現実は色々と異なっている。


当時、娼婦の他に女衒の仕事もしていたセシルが夜の街に迷い込んだリリアを金に困った落ち目貴族と思い込み、知り合いの酒場のマスターに売りつけようとしていたのが事の発端。


名前も覚える気がない程に興味も欠片もなかったが、リリアの優しさ(上辺を取り繕う貴族仕草)に絆され、そこからリリアを好きになっていった。


リリアもリリアで、セシルの見た目や職業から最下層民と通常よりも一等低く見ていたこともあり、あえての訂正をしない。


「リリアもあの日を覚えている? そう、雲一つなく綺麗に晴れた日だった。私の心はあの頃からずっとリリアに寄り添っている。そして今、私たちは本当の愛を手にしたの」


ほろりと、セシルの瞳から一滴の涙が流れる。


明らかに決まったという感じ。


このように知能指数が下がった物言いをした時のセシルは泥酔状態か寝起きで頭が回っていない。


そういったこともリリアはよく知っている。


それだけ、二人は一緒にいて互いをよく知っている。


「セシルさん」


ようやくリリアは言葉を口にする。


「……なあに、リリア?」


「セレニアがいます」


「えっ」


自らの胸からリリアの手を退かし、セシルは立ち上がった。


すぐに左右を確認した。


どこにもセレニアの姿はない。


流石のセシルもセレニアに先程のような姿を見せるのは教育上悪いとは分かっている様子。


「どこにも……」


途中まで言いかけて、本当は分かっていた。


リリアの傍らに。


セレニアが沈んでいた。


「………!」


口から心臓が飛び出そうになる程、セシルは驚愕していた。


思い切り、リリアの頬を叩いてからセレニアを救出しようとしたが、寸でで止まる。


そういえば、魔力体だったと。


「も、もうセレニアちゃんたら……」


水中にいたセレニアをセシルは抱き上げる。


抱き上げられたセレニアには、炎人らしく水が一滴もついていない。


「ちゃんと、リリアお母さんに抱っこされていなきゃ駄目でしょ」


「セレニアはもう大人ですよ?」


抱っこされながら、セレニアは自慢げに語った。


セシルがリリアに話していたから、セレニアは聞きたい欲求を抑えて静かにしていた。


それはもうセレニアにとって大人な対応。


「それよりも、リリアお母様。あのワンワンは……」


「セレニア、あの能力はですね……」


そこで、リリアは話すのを止めた。


傍に人の気配があったから。


「あれ、ここは……」


浴槽内に、シスイが立っていた。


「ああ、リリアちゃん。ここは……お風呂?」


「そうですよ、ここはエアルドフ王国の王族用の浴場ですわ」


「いやいや、それよりも先に言うことがあるでしょ」


どこかイライラしながら、セシルが話している。


別に見られたくない部分を隠そうなどはしていない。


魔力体の男性は性的な認識を一切しないのが分かっている。


分かっていても、なんでお前がここにいるんだとは思っている。


「母さんの世界に行くまでは、R・ノールコロシアム内にいたんだ。だから、あの世界を離れればコロシアムに戻るかと思っていた。どうやら、リリアちゃんを基点に戻るんだね」


「なんなのよ、その確認動作みたいな言い方は。さっさとどっか行きなさい」


「リリアちゃん」


「はい?」


リリアは変わりなく湯に浸かりながら、ゆっくりしていた。


「母さんの世界で、僕は僕なりにすべきことを理解した。僕も男として引けない時がある。大事なものは自分の手で守りたい。もし良かったら、リリアちゃんも……」


言いかけて、止める。


「良いはずがないよね……僕はどうしてこんなことを」


どこか落ち込んでいる。


そこには申し訳なさが確かにあった。


「?」


セシルは首を傾げた後、リリアの方を見て、くいっと軽く顔をシスイに向ける。


さっさと帰らせろと言葉なく発している。


「シスイさん、それよりも私たちは今お風呂に入っているのですよ」


「そうだった、ごめんね。僕はもう行くよ」


「ええ、ごきげんよう」


軽く頬笑んでから、シスイは空間転移を発動して消えた。


「なんだったのかしらね、あいつ」


再び、セシルは湯に浸かる。


今度はリリアに寄り添う形になった。


「あの、セシルさん? あいつと呼ぶのは止めてくれませんか? あの方は一応、私の兄です」


「はっ?」


「私の母親は、R・ノールです。なので、その息子であるR・シスイが私の兄となるのです」


「ええっ、じゃあなんか急にリングネームがR・リリアに変わったのも……」


「私の本当の名前だからです」


「てっきり、私はR一族に喧嘩を売っているのかと思っていたわ……」


なにかを思い当たり、セシルは静かになる。


それも束の間。


「あれ、えっ、じゃあヤバくない? あのコロシアムはリリアの、つまりは私のものにもなるってことよね?」


「流石にそれはどうでしょうか……」


金品や金目の類いのものにはすぐ飛びつくのがセシルらしさ。


だが、今それを見せてほしくはなかった。


「……そろそろ上がりましょうか」


リリアの視線はセシルに抱き締められたセレニアにあった。


「………」


なにも語らずに、セレニアはじっとシスイがいた位置を眺めている。


シスイの想像を絶する魔力量がセレニアの心を打った。


エージの能力のことは忘れてしまった。


「まだ入ったばかりで髪も洗っていないでしょ?」


「軽く入るつもりでしたから。また今夜にも入りますよ」


「こういう時、シャワーが存在しない文明レベルは困るわねえ」


三人は浴場から出て、脱衣所に向かう。

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