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一族の楔  作者: AGEHA
第三章 人対魔力体
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齟齬

「あの者の他の協力者は杏里さんだけですか……」


エージが去った後、リリアは本当に桜沢綾香を倒せるのかと思う。


味方は自分を含めてわずか三名。


普通に綾香との一騎打ちを視野に入れていたせいか、本題に辿り着く過程を忘れていた。


相手は総世界トップシェアを誇る大企業の長。


様々な悪事や悪い噂を人づてに聞いている。


「デミスさんにも協力を促しますかね」


随分適当にリリアは考えている。


こんな少人数でなんとかできる相手とは思っていない。


「さて……」


リリアは控え室を出ていく。


今では特段エージに対しての悪い印象がない。


リリアのうちに、ノールの魔力が再起し始めている。


実際に魔力挫きを対処する度量がノールにはあった。


それで、リリアは安心した。


リリアの向かう先は、コロシアムの受付。


戦いに勝利したリリアは受付でファイトマネーを受け取る必要がある。


勝利したことで、クレイシアの語っていた内容も気になっていた。


受付の前まで行くと、いつもより受付で対応している客の数が多い。


「クレイシア、私が勝ちましたよ」


特に気にせず、リリアは受付の前に行く。


「リリア……」


若干、ぼうっとした様子でクレイシアが受付内の隅の方に立っていた。


片手には、一枚の用紙を持っている。


そして、もう一人受付内には人がいた。


「ああ、リリア“ちゃん”。丁度良かった」


焦った感じで受付対応しているR・シスイの姿があった。


なぜかクレイシアが全く受付としての役目を果たさなくなった。


そのせいで、コロシアム支配人の一人であるシスイが急遽対応している。


それでも上手く行かず客が列を作り出していく。


「リリア、貴方にこれを渡さなくてはならないの」


クレイシアがリリアに持っていた用紙を差し出す。


「私に?」


ひとまず、リリアは用紙を受け取る。


用紙には殿堂入りの申請との旨の内容が記載されていた。


「殿堂入りとは?」


「リリアちゃん。それは、スルーしていいからね」


受付対応しながら、シスイがリリアに向かって言う。


とても口調が優しく、リリアは違和感を抱いた。


「リリアに話さなくてはならないことがあるの」


重々しい口調で、クレイシアが語り出す。


「以前、私がランキング6位だった話をしたのを覚えている?」


「ええ」


「このR・ノールコロシアムには一つの規定があるの。それは、ランキング上位を魔力体が占めるようになった場合は各々の魔力体に殿堂入りを打診して別の道を歩んでもらう、ということなの」


「それは、つまり……」


「今回の勝利で今後一切、リリアはランキングに載らず、ランキング戦にも参加できない」


「そんな……」


リリアは固まってしまう。


また戦おうと決意した第一戦目が終わった直後で、もう夢は潰えてしまう。


この現実がリリアを思考停止させた。


「そんなことには絶対にならないから安心してね、リリアちゃん。君なら僕の次の四位くらい……ううん、僕の三位の順位を譲ってあげてもいいよ」


相変わらず優しげな口調で、シスイは語っている。


「今までに例外は誰一人いない、認めても来なかった。なぜなら、R・ノールコロシアムは修行を行う場所ではない。ここは興行を行う場所」


リリアは肩を落とす。


クレイシアの話す内容は、とても真っ当なことだから。


「今後は私と同じく、R・ノールコロシアム内の職員となるか、この都市内で働くか、R・クァール・コミューン内の国家の王族となってもらう」


「なんなのですかその王族になるとは……」


特に一番最後の王族となってもらうとの一言が気になった。


「新しい国家が生まれる度に魔力体がその国家の王族となる決まりがあの世界群には存在するから仕方ないの。いつでもR・クァール・コミューン内は魔力体不足なのよ」


「王族になれと申されましても、私は元々R・クァール・コミューン内のエアルドフ王国王位継承権第二位の姫です」


「だとしたら……」


綺麗な笑顔をクレシアは見せる。


「私と一緒に受付をしましょう」


「それでもいいかもしれませんね」


「では、こちらへ」


促されたリリアは自然な流れで受付カウンターを透過して受付内に入る。


「リリアちゃん、君はR・クァール・コミューン内の王族だったんだ。今度、リリアちゃんの育ての親の魔力体に御挨拶しに行くね。きっと、リリアちゃんに似て凄い魔力体なんだろうなあ」


忙しそうに受付対応をしながら、シスイは話している。


「それよりも僕の話も聞いてほしいかな。ちょっと、クレイシアさん良いかな? リリアちゃんとお話ししたいから僕ともう受付の対応を代わって……」


「シスイ君、今忙しいの。お仕事頼むわね」


「今になってからそれ言うの?」


若干、イラっとした感じでシスイは受付内にある係員呼出ボタンを押す。


丁度近くにいたコロシアムの係員が急いで受付までやってきた。


その間に、クレイシアはリリアの手を引いて、事前にクレイシアが受付内に設置していた空間転移のゲートを通っていく。


行き先は、クレイシアの自宅高層マンションのリビング。


「こんにちは! 僕も家に入るからね!」


コロシアムの係員と受付対応を交代したシスイも空間転移のゲートを潜ってマンション内へと入る。


この高層マンションは、R・ノールコロシアムランキング100位入りをした際にもらえる特典の一つであり、リリアも所有している高層マンションの一室と同じ構造。


ただ、室内に置かれた家具はなにもなく殺風景で、とても人が暮らしているとは思えない。


そんなリビング内にリリアとクレイシアは一定の距離を置き、向かい合って立っていた。


「リリア、貴方と戦いたいと思っている人がもう一人いるの」


「それは誰ですか? そもそも私はもうランキング戦を行えないのでは?」


「そこが問題なの。いつ仕かけてくるのか分からぬ相手ともなればね。私は貴方に少しでも情報を与えたいと思うの」


「どのような相手なのですか?」


「まずは、リリア。私になにかしらの攻撃を仕かけなさい。これで貴方もなにかを掴めるはず」


「………?」


いかにも人の世界で生きてこなかった魔力体らしい話し方をされ、リリアは困惑する。


とりあえず、この場合は話を合わせればいいので、リリアは構えに移る。


「リリアちゃん、クレイシアさんは本当に強いから気をつけてね」


相変わらず優しげな口調でシスイは話している。


「もし、エージさんとの戦いで魔力が消耗しているなら僕が魔力を供給してあげるよ」


「………」


なにも答えず、リリアはスルーした。


先程からシスイをノイズとしか捉えていない。


「てやっ!」


リリアは一気にクレイシアに接近し、顔面を思い切り殴った。


クレイシアが、ただ突っ立っていたため、拳は芯を捉え威力は絶大。


「……なっ、なにが」


次の瞬間、リリアは背筋が凍るものを感じた。


クレイシアはリリアの手を掴んだ状態でいた。


顔にもダメージを受けた形跡はない。


そもそも最初から殴られてはいないし、当たってもいないとでも言えるかのように。


「これが、私のスキル・ポテンシャル。能力名アシンメトリーよ」


ほのかに、クレイシアは頬笑みを見せた。

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