表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一族の楔  作者: AGEHA
第三章 人対魔力体
291/294

復帰戦 2

煽る言葉を投げかけられても、リリアの感情に変化はない。


それだけ無駄口が叩けるのならば、もう待つ必要もない。


「………」


無言のまま、リリアは全身に魔力を集中させる。


瞬く間にリリアの魔力量が極致まで跳ね上がる。


これこそが、デミスとの修行で再度ノール流を極めた証拠。


リリアは一気に足を振り上げる。


身長差から、エージの心臓目がけての前蹴り。


完全にエージを捉えたと思いきや、蹴りは当たらない。


蹴りを放つ寸前にエージは若干前かがみとなっており、リリアに距離感を誤認させることでわずかな動作で回避していた。


エージはパーカーのポケットに両手を入れたまま戦っている。


攻撃を回避した隙をつき、リリアの後方へ移動。


背後へ回った瞬間、リリアの背中にソバットを放った。


あえて背面から心臓を狙っており、今さっきの攻撃が気に食わなかったらしい。


強い激痛が走ったが、デミス程ではない。


リリアには、エージが全力を出していないと分かる。


エージは自らの背後にいる。


瞬時にバックハンドブローをリリアは放つ。


この攻撃も完全に読まれていた。


エージは軽い身のこなしでポケットから右手を抜き、タイミング良く攻撃を受け止める。


受け止めたリリアの腕を引き、体勢を前へ崩させると、リリアの顎に飛び膝蹴りを叩き込んだ。


攻撃は芯を捉え、クリーンヒット。


先程とは異なり、殺すつもりの蹴り。


リリアは痛がる素振りも見せず、体勢を落とし一気にタックルを加えた。


飛び膝蹴りを仕かけたエージは足を地についておらず、空中にいる。


確実にリリアはエージをタックルで捉えたと思った。


次の瞬間、リリアはあり得ない光景を目にする。


飛び膝蹴りを加えた直後、なにもない空間を蹴り、エージは空中へと飛翔。


さらに距離間が近くなったことを利用して、リリアの顔を目がけ再度蹴り上げる。


強烈な蹴りを受け、リリアは背後に受け身も取らず倒れた。


執拗な顔への攻撃にリリアは倒れた数瞬の間、意識が飛んでいた。


完全に生殺与奪の権を握られた状況であったが、特段なにも問題なく切り抜ける。


リリアが無事でいられたのは倒れた後もエージが小突くように、リリアの側頭部を軽く蹴っていたから。


「リリアの戦い方ってさ、なんか大味過ぎるんだよね。あのバカネコとか、君が戦ったデミスとか正面からの打ち合いが好きな奴ばかりじゃないからね、この世の中は。特に、このオレみたいに」


エージもルインもインファイターだが、エージは技巧派の戦いを得意とするタイプ。


相手の動きを見て、できるだけ最小限の動作で打ち勝つ。


最もそれは発狂モードに移行しなければの話。


「なあ、リリア」


リリアの側頭部を蹴るのを止め、見下ろす。


「もうこんなことは止そう。いい加減、本気の君を見せてくれよ。できるんだろう、吸収態の発動をさ」


「いいよ」


急に、リリアの口調や声色が変わる。


変わったと同時に、エージは強いプレッシャーを感じた。


「でも、それは今じゃない」


右手を床に打ちつけ、反動で一気にリリアは立ち上がる。


リリアの瞳が綺麗な青色へと変化していた。


リリアの危機を感じ取り、ノールが前面に出ている。


「周りを見てみろよ、お前一人じゃないんだぞ。満員、フルハウスだ。今この状況でやるわけがないだろ」


「いつも思うけど、その能力燃費悪過ぎなんじゃないの?」


エージは会話をしている間。


リリアのわずかな体勢の動きを目で追っていた。


リリアは上段回し蹴りを放つ、との見立てができている。


エージはわずかに距離を取った。


と、同時にエージは床に倒れる。


「……当たった?」


意識が混濁し、エージは立ち上がれない。


相当に強い衝撃を右側の側頭部に受け、エージの耳や目から血が流れている。


同じ身体ではあるが、リリアとノールでは戦闘センスが異なり、若干間合いに差がある。


そこでエージは距離感を見誤った。


エージのうちに、とある疑問が浮かび上がる。


自らが受けたダメージが回復していかない。


エージのスキル・ポテンシャルは自動回復。


最上級回復魔法エクスがある以上、必要性皆無の弱小スキル・ポテンシャルであるが。


レベル20万以上の強者となったエージは、その能力の強化も連綿と行っていた。


それが発動しない。


つまりそれは……


「お前、オレの能力を……」


エージのスキル・ポテンシャルが自動回復なのを知っている者はわずか。


この段階までエージを追い込める者などいないに等しいからだ。


「まさかお前、本当にノー……」


即座にリリアは動く。


エージにこれ以上の会話をさせないために。


渾身の魔力を込めた蹴りをエージの顔に打ち込む。


だが、当たる直前にエージは床を転がり躱す。


実際にノールであるのなら、もうエージは手を抜かない。


躱しざまにリリアに飛びつき、首筋に牙を立てる。


自らの魔力を封じられているのなら、目の前の魔力体そのものから使えばいい。


リリアの首筋に強烈な激痛が走った。


噛みつくと同時にエージは奥義の魔力挫きを発動している。


魔力邂逅だろうがなんだろうが、魔力そのものを瓦解させる魔力挫きが決まれば消滅させられる。


首筋からは(おびただ)しい血が流れた。


たとえ魔力挫きが失敗しても、首元から噛み千切ればそれだけで致命傷は避けられない。


すでに勝利は決まっていた。


この女さえ相手ではなければ。


「……ここは引き受ける」


リリアが独り言のようになにかをささやく。


その瞬間、リリアは行動に移った。


自らの首筋を噛みついているエージの頭と肩を掴み、逆に引きちぎらせる。


エージは驚きを隠せなかった。


魔力挫きが直撃していてもなお、当たり前のように動いている。


リリアは最早なにも対処ができない状況となっていたはず。


驚きの感情も、わずかな間。


口を開き、引きちぎった血肉を吐き捨てる。


魔力挫きが効いている反応はあった。


効いているのなら、再び一刻も早く魔力を挫かなくてはならない。


エージが一気に噛みつこうとした時。


顔に軽くなにかが当たった感触がした。


「あっ」


エージはなにがあったのか、すぐに気づいた。


丁度、紙袋でも被された程度のサイズで顔の周囲を囲うように封印障壁が張り巡らされていた。


エージは見た。


抉られた首筋の傷も癒さず、自らの拳に渾身の魔力を込め、今まさに叩き込もうとするリリアの姿を。


リリアの拳は封印障壁を透過して、エージの顔へと直撃する。


封印障壁はエージの頭部側にもある。


よって、エージの頭部には顔面を打ちつけられた際のダメージと同等の威力が封印障壁から反射される。


反動で続けて正面の封印障壁にエージの顔がぶち当たる。


球は、エージの頭。


ここはもうすでに、エージにとって死のピンボール場と化している。


エージが即座に勝負を決めようとした通り、リリアも即座に勝負を決めようとしていた。


エージの顔に二発目の拳が当てる際、とあることにリリアは気づく。


エージは回復を行うわけでもなく、防御を行うわけでもなく。


自らの胸に向かって、人差し指を立てていた。


その先に、なにやら薄く魔力の文字が見える。


「あとで控え室に行くね」


そのように文字が表示されていた。


とにかくリリアは怒っている。


リリアが速攻で反撃できたのは、直撃した魔力挫きの影響を全てノールが引き受けたから。


魔力邂逅となったノールでも魔力挫きを直に受けるのは相当キツイ。


なんとか堪えられたのは、同じくエージ本人に魔力挫きを受けた過去があるから。


もしもリリア単体で受けていたのなら、一撃で勝負は決まっていただろう。


だからこそ、生かしてなどおけない。


絶対に殺すとの明白な殺意を込め、渾身の魔力で連打を打ち込む。


ぐちゃぐちゃの肉塊となったエージの頭部は千切れ果て、胴体は床に倒れた。


この時でもエージの死体は、パーカーのポケットに手を入れたままだった。


「勝者、R・リリア選手!」


係員のアナウンスが響き渡る。


一挙に会場内に歓声が上がった。


特に勝ち名乗りもなく、リリアは人々の歓声を背に、闘技場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ