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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
281/294

是認

デミスの行く先。


それは、たった一つしかなかった。


長きに渡り封印されていた彼にとって行ける場所など、エアルドフ王国がある世界を除いて最早一つしかない。


「むっ……」


若干、驚いた感じの声をデミスは発していた。


周囲一帯は人、人、人と、多くの道行く人々でごった返している。


目の前にはやたらと馬鹿でかい建造物。


大規模なショッピングモールのような見た目をしていた。


そこを基点に、遠くまでビルなどの建物が続く。


ここは、R・ノールコロシアムのエントランス前。


空間転移でコロシアムを訪れる者は、必ずこの場所に現れる。


「こ、こいつは……!」


デミスのすぐ傍で、何者かが大声を出す。


「なにかな?」


視線や反応から自らに呼びかけられたものと判断し、デミスは声のする方へ顔を向けた。


筋肉質で屈強な体格の男性が、デミスを指差していた。


そこそこの能力値を誇り、コロシアムの闘士なのだろうとデミスは思う。


「お前、デミスだろ!」


「ああ、そうだが……?」


意味が分からず、普通にデミスは答えていた。


返答している間に、声の大きさから周囲の者も気づき出し、それぞれが適当に喋り出す。


「うるせえな、大声出しやがって」


「騒いでいる奴、ダートじゃん。今日戦うのかな?」


「ていうか、隣にいる銀髪……」


デミスの存在に気づいた何人かが、全力で逃げ出し始める。


一番最初に気づいた闘士、ダートもとっくに逃げ出していた。


おかげで周囲は混乱状態に陥り、なにがなんだか分からない者たちも全員が逃げていく。


その場に、デミスだけが取り残され、逃げ出した他の者たちは遠くから様子を窺っていた。


「参ったな、これでは話を聞くどころではないぞ」


意味の分からぬ状況が続き、呆気に取られていたがとりあえずデミスはR・ノールコロシアムへ入ろうとする。


「待て」


コロシアム内から、抑揚のない声が響く。


誰もいなくなったエントランスの一角。


受付のカウンターを飛び越え、デミスに向かって歩む者がいた。


今まで直隠(ひたかく)しにしていた本領が発揮されていく。


160cm程の背丈の女性。


長く綺麗な青い髪、青い瞳、独特なデザインの種族衣装。


現コロシアム受付担当の水人であり、元コロシアムランキング6位の実力者。


フリーファイトでの戦いを除き、ランキング戦全勝の傑物。


ノール流免許皆伝者の一人、クレイシアその人だった。


デミスとメンチを切れる位置まで迫り、腕を組んで仁王立ちする。


両者すでに間合いの位置で、打ち合い必死の距離。


クレイシアは凄まじい闘気を放っていた。


とても受付に収まっていられる存在などではない。


「こんにちは」


屈託のない笑顔で、デミスは語りかける。


「君は今、受付からやってきたな。ここでは、訪れた者に自ら会いに来てくれるのかな?」


「貴方のような人に限りね」


「どうやら君も周囲にいた者たちもオレを知っているようだな。それは、なぜだ?」


「コロシアム上位ランカーたちと、5対1のフリーファイトを行ったはず。他を圧倒し、唯一喰らいつけたのもリリアだけだった。命を投げ捨て、勝利を勝ち取ったリリアは分解して消えてしまった。なのに、貴方だけは戻ってきた。コロシアム側は貴方を脅威と捉えている」


クレイシアが話している間。


ゆっくりとした足取りで近づく者が、二人いた。


一人は、カフェの店主。


短髪でグラデーションがかった赤い髪、赤い瞳の炎人の男性。


炎人衣装はまとっておらず、半袖ジーパン姿で腰回りにカフェエプロンをつけている。


もう一人も、同じく炎人の男性だった。


コロシアムの換金所でテラーをしていた男性。


スーツ姿でかなりきちっとした印象の姿をしている。


カフェの店主も、換金所のテラーもクレイシアと同じくノール流免許皆伝者であり、元上位ランカー。


「お客様」


カフェの店主が、デミスの肩に手を置く。


「バターにしますか、それともマーガリン?」


笑顔で語りかける店主は周囲が軋む程の凄まじい闘気を放っている。


お前を溶かすと、暗に語っていた。


「まあ待て、待て」


落ち着き払った様子で、デミスは語る。


「今日は皆が聞きたいであろう話を持ってきたんだ」


「なにかしら?」


クレイシアが代表して答える。


「リリアは生きている」


「本当?」


メンチを切っていた状態から、クレイシアの表情が普通に戻る。


「やっぱり、ミルク飲んでいるの?」


カフェの店主は楽しげに語る。


「それなら安心。登録者情報消去しなくて良かったね」


テラーの男性は、クレイシアに笑いかけた。


「……エアルドフ王国のリリア姫という名前で登録されていただろう? リリアは実際にエアルドフ王国で暮らしている。今から証拠を見せよう」


根拠となる情報をまだなにも示していないのに。


納得している三人に、デミスは危機感を覚えた。


まさかと思うが、興味をなくしているのではと。


デミスは空間転移を発動する。


発動によって、空間転移のゲートが出現した。


ゲートの先に、どこかの城が見える。


「あっ」


クレイシアたちが、城の窓の向こうに見える風景を眺めた。


食堂で食事を取っているリリアたちの姿があった。


「無事だったんだ、リリア。分解したのに……」


普段から笑顔を見せていなかったクレイシアが、この時ばかりは優しい笑みを見せた。


「ミルクを飲んでいない……? トーストを食べていないせいか?」


店主は思いもよらぬ光景に不思議がる。


自然発生型の魔力体であり、食事が一体なにを意味しているのか今でも理解できていない。


「食事はね、気分だよ気分。あの人たちが運んできてくれるからリリアは食べているの」


配膳するメイドたちを指差しながら、テラーの男性が語る。


「とすれば、今からオレがミルクとトーストを持っていけば」


「まず、リリアはミルクとトーストから食べる」


「なるほど、そうなのか……」


店主は口元へ手を置き、全てを知ったような反応をしている。


「……オレと、リリアが生き返ったのは、R・ノールとR・ルールの力によるものだ」


まともに話を聞いているのはクレイシアしかおらず、デミスは話を進める。


「ノール、今どこにいるの?」


クレイシアだけが、デミスに尋ねた。


「我々が住む人世にはおらぬ。しかし、いずれはこの総世界へ戻ってくるはずだ」


「そっか」


それ以上をクレイシアは聞かない。


勿論、他の二人も。


「三人に聞きたいことがある。三人は三人とも、ノール流の者たちだろう? リリアと似た魔力操作をしていると感じられた」


「そうよ」


手短にクレイシアだけが語る。


「もしも君たちの師、R・ノールが人々に対して戦争を引き起こした場合、君たちはどうする?」


「R・ノールにつく」


三人が一様にそう語る。


怒りも敵意もなかった。


ただし、三人とも無機質な雰囲気があった。


人らしさが希薄となる今の状態。


これが、魔力体の一番恐ろしい瞬間。


「そこで君たちにお願いしたいことがある。もしそのような事態となれば、R・ノールを説得してほしい」


「説得?」


クレイシアは怪訝な表情をする。


たった今、ノールにつくと意見表明したばかり。


「君たちは、この街で仕事をし、暮らしているのだろう? だとすれば、ここでの暮らしを維持したいはずだ」


「ええ、そうね」


「壊したい、わけではないのだろう?」


「どうしてそんなことをしなくちゃならないの?」


「戦争とは、そういうものだ。強力な魔力邂逅につくとは、そういうことだ」


「貴方は、R・ノールを誤解している。そんなことをする魔力邂逅じゃない」


「申しわけない、もし万が一の話をしていたんだ。君たちの気分を害させる気はなかった」


「……貴方の言いたいことがなんとなく分かってきたわ。まずは、止めろと言うことね。これは、R・ノールだからというわけではなく、人々の暮らしを破壊する魔力体および魔力邂逅を止めてほしいと」


「その通りなんだ」


親しげに、デミスは頬笑んだ。


「分かったわ、もしもの時が来たら貴方の言う通りにしてみる。それよりも、さあ行きましょう」


クレイシアはコロシアム内の受付の方へ手のひらを向ける。


「ああ」


どこに行くのか分からないが、デミスはクレイシアの後に続く。


カフェの店主と、テラーの男性は軽く手を振り、空間転移で消えた。


デミスとクレイシアが受付に向かう中、周囲のざわつきが大きくなる。


「おい、あいつ。クレイシアに認められたぞ!」


「じゃあ、デミスがついに……!」


デミスにも、ざわつきの内容が聞こえていた。


それが、受付前まで来た時に理解した。


受付には、ランキング表があった。


自らの名が、ランキング8位の位置に存在している。


リリアの名は、デミスの一つ上。


7位の位置にあった。


リリアのランキング順位が7位にまで上昇したのは、デミスに勝利を収めたからである。


それをデミスは知らない。


人々の警戒の理由が、デミスにも分かった。


強く得体の知れない存在は相当怖かっただろう。


「これに記入をして」


受付に戻ったクレイシアが、参加者記入用の紙をカウンター越しに差し出す。


「ああ」


言われた通り、デミスは自らの事柄を記入していった。


「これでいいかい?」


記入した用紙を、デミスは見せる。


「ええ。ようこそ、R・ノールコロシアムへ。皆様が貴方をお待ちしておりましたよ」


クレイシアは仄かに笑みを浮かべた。


それを機に、周囲で距離を取っていた人々に変化があった。


一気にデミスの近くまで殺到する。


「デミス、次はいつ戦うんだ?」


かなりフレンドリーにデミスの肩を叩き、尋ねる者がいた。


「戦う? そうだな……」


デミスは腕を組む。


「君たちに聞きたい。困っていることや、戦わなくてはならない者について聞かせてくれないか?」

登場人物紹介


クレイシア(年令180才、身長162cm、B83W62H84、水人の女性、出身は不明。人との交流は希薄だが、気さくな性格。R・ノールと同じく熱烈な種族主義思想の持主であり、水人衣装を常日頃からまとっている。元はコロシアムランキング6位の闘士であり、ランキング順位戦では無敗の傑物。唯一負けたのは、フリーファイト戦でのノールとの戦い)


カフェの店主、換金所のテラー(二人とも炎人の魔力体。クレイシアと同じくコロシアムの闘士であり、元上位ランカー。フリーファイト戦で、ノールに負けている)


殿堂入り(人と魔力体では魔力体の方が強過ぎるため、R・ノールコロシアムでは上位を魔力体が埋め尽くし出すと、R・ノールなどが殿堂入りをそれらの魔力体に打診する。拒否すれば、ノールとの戦いが組まされ、負けた者たちは以後殿堂入りとなり、ランキング順位戦を行えなくなる。それ以降は第二の人生として職を斡旋され、各々が選んだ職務を熟していく)

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