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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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情報共有

ラミングの一件後、数日が経過した。


そんなある日、数名の者たちがミールの自室へと集まっていた。


目的は、仲間同士の親睦を深めるため。


今まで行動をともにした仲間だというのに戦争や異世界の進出、修行のせいかお互いの素性をほとんどなにも知らない。


だからこそ、ミールは仲間たちとの情報交流の場を設けた。


とはいえ、全員が適当に行動をしている上に通信手段も持っていない彼らで集まれたのは、ミール、ジャスティン、ルウ、ジーニアスの四名だけ。


「皆、集まってくれてありがとうね」


ミールが他の三人に語る。


「交流したいって言っていたけど、なにをするの? 一応、同室だから僕も話を聞くけどさ」


実際、なにをするのか分からなかったジャスティンが聞く。


ちなみに唯一携帯という通信手段を有していたヴェイグ、ジャスティンの兄妹は事前に会えなくともやり取りできたのだが……


世界(エリアース)が……オレを待っているんだ。大事な妹の願いでも今のオレを止められない」


と、まるで世界でも救いに行こうとしているような発言をし出したため、頭が痛くなったジャスティンは電話を即切りし、ヴェイグを不参加にさせていた。


「僕たちは一緒に行動をともにしている仲なのにお互いについてをよく知らないじゃん。お互いの理解を深めてより親しい友人の関係になりたくてね」


「ふーん、そう?」


ミールの考えとジャスティンの考えは違った。


兄のヴェイグが強くなりたいと願ったからこそ、ジャスティンは仕方なく行動をともにしているだけ。


別にお互いをよく知らなくても問題なかった。


「まずは自己紹介を兼ねて僕から。僕はR・ミール、魔法使いをしているんだ。出身地はスロートではないと姉さんが話していたから、僕にも本当の出身地は分からない。家族は姉のノール、妹のエールがいるよ」


「君も両親がいないの?」


ミールの言葉にルウが反応する。


「ルウ君もいないの?」


「今でも生きているかもしれないし、もう生きていないのかも。僕と兄さんは元奴隷だったから」


ルウの発言で室内は少しトーンダウンする。


「どうしたの?」


「ルウ君、それって本当なの? 奴隷って?」


「本当だよ。今は違うけどね」


「でさ、ルウ君を買ったのは誰?」


特になにも気にしていないのか、ジーニアスがストレートに聞く。


「ちょっ、ジーニアス」


ジャスティンは、どこか半笑いで止めようとする。


「僕と兄さんを買ってくれたのは、このスロートの隣国に位置するロイゼン魔法国家の城主ジークハルト様だよ」


「へえー、その人奴隷を買うわりには優しいんだ。ルウ君に強制させないみたいだしね」


「ジークハルト様は奴隷を奴隷とは見ない人だよ。奴隷の僕たちにも権利があって自分自身の幸福のために生きていいと初めて言ってくれた人なんだ。僕はあの人に生涯尽くそうと思っているよ」


「今はどうなの? 僕たちと一緒に暮らしているけど」


「ジークハルト様が修行に出る機会を与えてくれたの。必ず強くなってジークハルト様にまた仕えるんだ」


「それでルウ君は僕らと旅をしていたのか」


「ジーニアスはどうなの?」


ルウからジーニアスに話を振る。


「僕は見ての通り、エルフ族。僕たちエルフ族は様々な分野に秀でた才能を持つ優秀な者たちばかりなんだ。それでもエルフ族自体を知らなかったり、偏見を持っている人も世の中にはいる。僕の一族はエルフ族が優秀な種族だと満天下に知らしめようと日々努力をしているんだ。それは、僕の使命でもあるの」


「なんか凄い使命だね」


「そうだよね、でも人の価値観なんてどうすれば変えられるんだか」


どことなく他人事のようにジーニアスは語る。


「今、僕もこうやって色々としているけど、元々は他の前任者がいたの」


「他の人って?」


気になったルウがジーニアスに尋ねる。


「僕が産まれる前で会ったことがないけど、エルフ族から魔族になった人なんだよ。確か、ルミナスという名前の“女性”。その人の前にも魔族になった人がいて……」


「ルミナス?」


この中で唯一、ルミナスの名を知っていたミール。


だが、名前が同じなのだろうと特に問題なくスルーしていた。


「それはそうと、ジーニアスはどうしてあの格好を?」


ジーニアスの昔話に全く興味がなかったジャスティンが気になっていることを聞く。


「悪いの? 僕がなにを着てもいいじゃん」


あの時とは違い、ジーニアスは落ち着いた様子で話す。


元々、男の子として育てられてきたジーニアスだが、彼女も当然年相応の女の子らしく振る舞いたい時がある。


親元を離れている今なら誰からも文句を言われず自由に振る舞えるが知り合いに見られてしまい、なにかしてはならないことをしてしまった気がして逃げていただけ。


「次は僕が話させてもらうよ。全く皆、凄い過去や使命があるから僕は圧倒されちゃったよ」


と言いつつも、ジャスティンはかなりテンションが高い。


「僕は、ジャスティン・ルシタニア。エリアースの名家出身者さ。ふふっ、つまりはお金持ち!」


「お金持ちなの、ジャスティン君って?」


ミールが即座に食いつく。


「そうさ、ルシタニア家の名を聞いて知らぬと答える者は僕の故郷エリアースにいやしない。だって、五本の指に入る程のお金持ちなんだよ。でもまあ、文明が行き届いていない土人みたいな人たちは知らないかも」


「ねえ、僕にもお金を少し分けてくれない?」


「ミール、本気で言っているの?」


これ程ストレートに集りだす者を初めて見たジャスティンは冗談で言っていると思い笑ってしまう。


「僕は本気だよ。家が更地になっちゃったから……」


「あっ」


ジャスティンは笑うのを止めた。


「誰かに借りなくとも、お金も家もいずれ手に入るよ。それは僕が保証する」


フォローするようにルウが助け舟を出す。


流石は元奴隷の言葉。


異常な説得力があった。


「そういえば、この中でアカデミー出た人いる?」


ジャスティンが話題を変える。


他の者たちの経歴を見て、自らが優位に立てるような話題選びをしていた。


「僕はアカデミーに行っていたよ」


さりげなく、ジーニアスは語る。


「ジーニアスもアカデミー行ったんだ」


「当然さ、勿論首席だったよ。ジーニアスの名もその時に授かったんだ」


やけに自慢げにジーニアスは語る。


「ジーニアスって本名じゃないの?」


「そうだけど? 話していなかったっけ?」


「だったら、本名はなんなの?」


「セフィーラだよ」


「普通に可愛いじゃん、そっちを名乗ったらいいのに」


「あの、僕もまた話していい?」


ミールが他の三人に尋ねる。


「一番最初になんか言ったじゃん」


あんまり興味のないジャスティンが話す。


「しっかりと僕自身を話していないよ、もっと僕にも……」


「ミールはシスコンだって言いたいだけでしょ?」


「ジャスティン君……」


微妙にミールはショックを受けた。


「ところでさ、ノールさんはどうして一人称が“ボク”なの? 普通、“私”って呼ばない?」


「言われてみればそうだね」


ルウの問いかけにミールも不思議に思う。


「というか、君たち二人もだけどね」


ルウはジーニアスとジャスティンを指差す。


「そりゃ、戦争やこういう稼業は男の世界だからさ。僕が女の子らしい服装で女の子らしく振舞ったら貞操の危機。そういうわけで自らを僕と呼び、あえて男装をしているの。無難な対応といったところかな」


ジーニアスは最もらしいことを話す。


「ふーん」


それを聞いて如何にも小馬鹿にした感じのジャスティン。


胸も小さく子供同然の身長しかないジーニアスに対し、女性らしくしていても魅力があるのか?とでも言いたげ。


しかし、ジーニアスが良い人であり友人関係なので、ジャスティンは言葉にしなかった。


「僕は以前話した通りだよ。君たちと違って、兄貴のヴェイグと一緒に一年近く女人禁制のハンター養成所で過ごしていたから、もう自分を僕と呼ぶのに慣れちゃったんだよ。その、まあなんか貞操の危機だよ」


途中からちらっとジーニアスを見て、ジャスティンは半笑いで主張を変える。


「なんか、馬鹿にしていない?」


「………」


他の三人は話に盛り上がっていたが、ミールは暫しノールがあえて自らをボクと呼ぶ理由を考えている。


今まで一緒に生活をしていたが、ノールの一人称がボクとなった理由がミールも分からなかった。





ミールたちが集まっていた頃、空間転移により綾香とテリーは自室へ帰ってきていた。


女性同士ということもあり、よく二人で他の世界などへ出かけていた。


「お買い物に付き添ってくれてありがとうね」


楽しげに綾香はテリーに話す。


「ああ、いつでも誘ってくれ」


テリーも楽しげではあったが、テリー自身の物は特になにも買っていない。


代わりに綾香の買った服が入った紙袋などを持ってあげていた。


「疲れたわねえ、お茶にしましょう。待ってて、用意するから」


綾香はキッチンに行って、紅茶の用意をする。


「ああ」


その間にテリーはテーブルの傍に買ってきた物を置き、先に椅子へ座る。


「どうぞ~」


紅茶のカップをテリーへ渡し、綾香も椅子へ座る。


その後、二人は他愛のない話で談笑していた。


「私ねえ、ルーメイアに帰ろうと思うの」


「ルーメイア?」


「私の故郷の世界よ。スロートで修行をするとは言っても、私って特にすることないのよね」


「そういえば、そうだな。綾香さんは普段から趣味に時間を費やしていたな」


「私は重火器専門だから、スロートでは私の持っているショットガンを撃つ練習か、新しい銃火器のカタログ読むしかないのよ。他の重火器を扱うには近代的な世界の軍備基地に行かないと……ところで、テリーちゃんの故郷は?」


「オレに故郷は……もうないから、帰れる場所があるのは羨ましいな」


故郷と発言した、その一瞬だけ言葉が詰まる。


普段とは異なる悲しげな表情を、テリーは顔に浮かべていた。


視線を感じ、テリーが綾香の方を見ると綾香は静かにテリーを見つめていた。


「どうした?」


表情を見られたかなとは思いつつも、出された紅茶を飲み誤魔化す。


「なんか、テリーちゃんさあ。いつも男の子みたいな服装ね」


「今まで動きやすさを重視していたから。第一、戦っている最中に女性らしい服装はしたくない」


質問に対して、テリーは速答する。


この話題をテリーは気にしていた。


「それはそうね。スカートなんて履いて接近戦をすると見えそうだわ。見せ過ぎていたら露出狂っぽくていくらなんでも同じ女性として気持ち悪いわ」


話ながら綾香は今日買ってきた服をテーブルに一枚一枚乗せる。


「戦っていない時や修行をしていない時くらいテリーちゃんも女の子らしい服を着ましょうよ。ちょっと待っててね、似合うのを探すから」


「綾香さんの服を着ていいの? 買ってきたばかりなのに?」


「いいのよ、気にしなくて」


綾香はテリーに自らの服を何着か手渡した後、どこかに行こうとする。


「どっか行くの?」


「貴方の見た目を評価してくれる人を連れてくるわ。貴方は着てみたい服を着ていて」


「見た目を……?」


とりあえず、テリーは服を持って脱衣所へ入っていった。

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