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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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頼ってはならぬ者

急いでリリアのもとへ駆け出していたエアルドフ。


精一杯走っていても。


目の前で徐々に消失していく自らの娘のもとまで辿り着けない。


涙が流れ落ち、もう感情を抑えられなかった。


「リリア……」


エアルドフがリリアのいた場所まで来た頃には。


すでに、なにもなかった。


力なく膝から崩れ落ち、静かに泣くしかできなかった。


「……そんな、リリア」


ようやく、セシルは声を発する。


リリア、デミス、エアルドフのやり取りを黙って見ていた。


見ていてもなにも受け入れられない。


「リリア、どうしてエアルドフさんなの……」


デミスと戦っている間、自らを一度もリリアは見なかった。


死に至る瞬間まで一度も。


いつも傍にいた自分は、その程度だったのかと思ってしまっている。


「リリアさん……」


かすかに、デミスの声が聞こえた。


少しだけ首を動かし、セシルは仰向けに倒れているデミスの方を見た。


呻くような声で、デミスはなにかを語っている。


ゆっくりとセシルはデミスの傍に近づいた。


「リリアさん、そこにいましたか……」


近づいたセシルをデミスはリリアだと誤認していた。


致死量のダメージを受けたデミスには視力がなかった。


何者かが近づいた感覚から、リリアだと思っている。


「とても強かったな、リリアさん……」


一人、デミスは語り始めた。


「貴方は私が戦った魔力体の中で最も強かった。あのような苛烈な攻撃を、今まで私は一度たりとも受けたことなどない」


デミスは小さく頬笑む。


「本当に強かった、最後にリリアさんという魔力体と戦えて良かった」


デミスは目を閉じ、少し落ち着いたようだった。


しかし、それも束の間。


悲しみの表情に変わり、目元に涙が浮かぶ。


「どうか、死に行く私のために、一つだけ教えてくれないか? どうして、本気で……リリアさんは戦ってくれなかったんだ……」


命懸けで戦っていたデミスだからこそ分かる。


リリアが力の全てを出し切っていなかったことを。


勿論その時のリリアは、ノールである。


リリアの身体では、ノールは全力を出し切れない。


だが、そんな状態にあったことをデミスが分かるはずなどない。


「……あっ」


気づくと、デミスは息絶えていた。


表情には無念の思いが見て取れた。


「おう、お疲れ」


ぽんと、セシルの肩を誰かが叩く。


審判のライルだった。


「あんなヤベー奴を相手に四人も生き残れるとは思わなかったわ、とりあえずお疲れさん」


とても素っ気なく語っていた。


同じ魔力体のリリアが死んだのに、そのことにはふれもしない。


無事に勝利できたことだけを伝えていた。


それから、すたすた歩いてライルは次にエールのもとへ行く。


「リリア……ごめんよう……」


床にうずくまり、エールは泣きじゃくっていた。


自分が魔力の全てを分け与えたのは、なにも分解させ死なせるためではない。


まさか、リリアの意志がそこまでだったとは思わなかった。


「ライル」


床に横たわるセフィーラが呼びかける。


「いつもの症状が出ているから、エールに優しく接してあげて」


「優しく?」


エールの傍にしゃがみ、ライルはエールの頭にぽんと手を置く。


「よくやったな、お前の流体兵器が勝利を掴むきっかけとなったぞ。エールたちの勝利だ、おめでとう!」


気さくな様子で、ライルは優しく声をかけた。


「あっは、違うわ。色々と骨が折れているんだから、わざと笑わせんの止めてね」


「オレじゃ分かんねえよ、エクス発動」


セフィーラに向かって、ライルは最上級回復魔法エクスを発動させる。


一瞬のうちに、セフィーラの怪我が治った。


「よいしょっと」


立ち上がったセフィーラはエールのもとまで行き、抱き締める。


子供のようにエールはセフィーラにしがみついた。


「はいはい、一旦落ち着こうね。僕は一緒にいてあげるから。どこにもいなくならないから……ああ、そうだ、セシル」


セフィーラはセシルを呼ぶ。


「今は君も辛いだろうけど、あの人の支えになってあげて」


「………」


無言のまま、セシルは頷いた。


言われた通りにセシルはエアルドフのもとへ向かう。


エアルドフ王国の姫であるリリアが。


国を出て、強さを求め修行をし、命を懸けたのは。


父親のエアルドフを守りたかったから。


エアルドフはリリアが消えてなくなった場所で一人、泣いていた。


一歩一歩、エアルドフに近づいていくたびに。


セシルはエアルドフの意気消沈とした姿から、次第に自らの中にも悲しさが湧き上がってくるのを感じていた。


「エアルドフさん……」


涙で視界がぼやけながらも、セシルはエアルドフにすがりつく。


同じ悲劇を背負うものとして、悲しみや辛さを共有したかった。


暫し、二人は泣き続けていた。


他の者たちも、誰もがその場を離れようとはしない。


「おーい!」


コロシアムの舞台上へ観客席側から走り寄ってくる者がいた。


いつものボーイッシュな格好をした杏里だった。


この日、杏里は自らが請け負った傭兵稼業の仕事を熟していたので、コロシアムを不在にしていた。


タイミング良く舞い戻れたのは、綾香とルインから急報を伝えられたため。


あの時、綾香とルインがデミスに接近した理由は破格の強さを感じ取り、スカウトを行おうとしていた。


しかし、とてもではないが桜沢グループでは抱えられない。


それ程の怪物。


なので後処理の全てを、コロシアム総支配人の杏里に放り投げた。


結果的にリリアがデミスに打ち勝ち、杏里がデミスの討伐をする必要もなくなったが。


「遅かったか……」


舞台上の光景を見渡し、杏里は静かに語る。


リリアが死んだことに杏里は気づいた。


唯一、リリアだけがノールとの繋がりを持っていた。


ノールとの繋がりを解明する前にリリアを失ってしまったのは、痛恨の極み。


「ねえ、杏里……」


杏里に気づいたセシルがすがりつく。


「ねえ、言っていたでしょう。コロシアムの試合で死んでも生き返らせられるって。リリアをどうか生き返らせてほしいの」


「それが……駄目なんだ」


「どうして、なんでなの?」


「リリアさんは魔力体としての分解を起こして消えてなくなったんだ。人が死んだり、魔力体が姿を残したままの死なら、復活の魔法リザレクで蘇生ができるの。でも魔力体がそうなってはもう……」


「だ、だったら、もう他に方法がないの?」


「でももしかしたら、まだ方法が……」


とあることを、杏里は思い出す。


他人事ではなく、自分事であったのだから忘れられるはずがない。


今から約20年前のできごと。


一度、ノールは聖帝テリーの力により、完全に分解させられた。


そのノールを復活させたのも聖帝テリーの力。


「もしかしたら聖帝の力を借りれば、魔力体でも生き返るかもしれないの」


「本当なのよね、それって!」


「分解した魔力体の蘇生を見たのは、ボクは一度きりなんだ。また上手くいくかは……」


「私、テリーを探してくる!」


居てもたっても居られず、セシルは舞台から飛び降り、どこかに向かっていく。


「待って、セシルさん!」


杏里は大声で叫んだ。


「テリー、アーティは最低な人たちで、絶対に力を借りては駄目だ!」


全く悪びれもせず、大声で仲間を罵倒している。


どんな悪党にでも必ず敬称をつけるくせが杏里にはあった。


なのに、呼び捨てで罵倒しているのは二人の悪事が相当に気合が入っている証拠。


よりにもよって自らを神だなんだと宣っているあのマフィアを相手に頼み込むなど愚の骨頂。


ひたすらに金目のものを毟れるだけ毟り取られるのが目に見えている。


杏里は気にもせずに語っているが、この発言は一般人ならば致命的な自殺行為。


面子を気にするマフィアに対して真っ向からの批判は、単なる自殺志願となる。


口走った数時間後には、発言者の死体が発見されるレベルのもの。


そういった発言だったのだが、この杏里の言葉はセシルの耳に入らなかった。


セシルの頭の中にはもうリリアを生き返らせたい思いしかない。


そもそもコロシアム内に、テリーがいるかどうかも分からないのに探し続けていた。

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