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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
270/294

同格

リリアに強力な魔力が集約する。


現在でも吸収態の発動は行われていた。


R・ノールコロシアム内に多くの魔力体が存在する限り、一瞬でリリアの魔力量は極地へと高められる。


先手を取ったのは、リリアだった。


右腕を振り上げ、ただ思い切りデミスの顔面に拳を叩きつける。


あまりの攻撃の速さに、空気が圧縮され波紋が広がり、ソニックブームが発生していた。


しかし、音がしない。


いちいち爆音が轟くのを嫌ったリリアが魔力を駆使して、音を黙殺させていた。


強い衝撃にデミスは大きく仰け反る。


続けて、リリアはノーガードになったデミスの腹部へ拳を叩き込んだ。


腹部を庇うようにして、デミスは再び態勢を崩す。


次にリリアは横合いから脳を揺さぶるようにデミスの側頭部目がけ、ハイキックを放った。


今度は大きく態勢を崩したが、それでもデミスは倒れない。


もう背後に封印障壁は張られていないため、デミス自身の力だけでリリアの攻撃を堪えられていた。


「ん?」


リリアの攻撃が止む。


デミスが目元に手を置き、涙を流していたから。


「どうだ、参ったか?」


なんとなく、リリアは聞いてみた。


「い、いや、悪い。リリアは攻撃を止めなくていい、オレに構わず続けてくれ。これは単に戦いに不必要な行動なんだ」


「不必要って、泣くことが? そりゃ痛かったら誰だって泣くでしょ。アンタの攻撃をもろに受けまくったら、ボクだって多分泣きたくなる」


「違うんだ、そういう意味じゃない」


デミスは腕で涙を拭い取る。


「これは嬉しいからなんだ」


「はあ?」


「リリアは紛れもなくR・ルールの生まれ変わりのような魔力体だ。これ程に強い魔力体はR・ルールの他にリリア、君意外にオレは知らない。これ程の魔力体と出会うことが他の同志たちには、きっと誰も成し遂げられなかったのだろう。なのに、オレは幸運だ。オレだけがついにあと一歩のところまで来れた」


「随分とまあ抜け抜けと……聞いて損したわ」


渾身の勢いを込め、リリアはデミスの顔面にストレートを放つ。


相当の魔力量が込められていたが、デミスはいともたやすく裏拳で軽く弾いた。


弾いた後、追撃してリリアの顔を正面から殴りつけた。


当たったからといって衝撃に対し、リリアは微動だにしない。


「マジで痛いわ」


素でリリアは言葉を口にしていた。


顔を強く下方へ振り、顔に当たっている拳を逸らさせる。


続け様にリリアはデミスの胸部を殴る。


先程の心室細動を引き起こした一撃と遜色ない威力。


例えそうだとしても、デミスは先程のような反応を見せない。


直撃を受けても至って普通の様子だった。


恐ろしく強くなっている。


リリアが率直に受けた印象はそれだった。


「もう、その手は通用しないんだ。リリア、良い勝負をしよう」


デミスが攻撃を仕かける。


合わせるように、リリアも。


互いに互いの身体を殴りつける。


どちらも避けもしない。


まず回避を捨て去った攻撃をし続けていく。


探り合いや、様子見は終わっている。


あとはもう相手を打ち負かすだけ。


「さっさと倒れろ!」


威勢良くリリアは言い放ち、デミスの首を左手で鷲掴みにする。


そのまま全力で、デミスの顔目がけ右の拳で連打を決める。


水人能力を駆使し、拳には氷柱がびっしりとついていた。


デミスは少しも体勢を崩さず、避けない。


目にも氷柱は当たっている。


なのに、目が潰れる気配もない。


「ははっ……」


若干、リリアから引き気味の笑いが出る。


正直な話、リリアは嫌になっていた。


自らが諦めることはない。


なくとも、相手もその通りなのだ。


間違いなく同格。


倒すに匹敵する抜群の攻撃を決められない。


「ふん!」


かけ声を上げ、デミスは首筋を掴んでいる手を振り払う。


お返しと言わんばかりに、リリアの右腹部へボディーブローを打ち込んだ。


ちぎれるような衝撃が走った。


「本当に強いな、リリア! 今のは相当痛かったぞ!」


わざわざデミスは痛さの加減を語っている。


まるで、相手を鼓舞するように。


「………」


リリアは理解ができなかった。


泣きそうな程に痛くても自分は声を上げなかったから。


自らの弱点を晒しているようで、意地でも言葉にしなかった。


だが、内心ほっとしている自分に気づく


ダメージがあるのなら勝てる。


そう思わせてくれるだけで、まだ戦える。


いつまでもいつまでも同じところを堂々巡りするような戦いだけは避けたい気持ちがあった。


まだデミスとの死闘が始まってから、十分が経過した程度。


戦いは全く終わる気配を見せない。


周囲の者たちは、ただただその光景を眺めていた。


二人の最も近くで戦いを眺めているセシルも、舞台の傍にいるライルとルウも。


三人が一様に、なにも語らず、戦っている光景を見つめている。


次元が違い過ぎて、もはや見るしかできない。


それでも時折。


「リリア!」


居ても立っても居られないセシルがリリアに大声で呼びかけている。


「………」


リリアはセシルの呼びかけに一度も反応を示さず、デミスに攻勢をかけ続ける。


それは当たり前だった。


今のリリアは“ノール”であり、リリアではない。


他人の名を呼ばれても反応などしない。


「声援があっていいな、リリア!」


デミスはリリアの首筋を狙い、強烈な一撃を打ち込む。


へし折れる音がした。


戦いの中で、デミスは次第にリリアの魔力による防御を射抜けるようになっていた。


それでもリリアのダメージは瞬時に治る。


魔力体であるため、炎人化すれば元通りの状態になる。


そのリリアを見ても、デミスにはリリアが戦いの中で感じているような思いがない。


嫌になったり、うんざりするなどとんでもない。


いくら攻撃をし続けても倒れないリリア。


寒気に似たものが背に張りつき、自らの身体を覆ってゆくのをデミスは体感している。


身体が震え出すのを感じる程の好敵手。


だからこそ。


やはり、戦いが楽しいとデミスは思ってしまう。


リリアを打ち倒し、敗北を認めさせたあとで、ともに世のため人のため活動していこうとの思いは決して潰えない。


その気持ちは依然として変わりないが、今は打ち負かすのではなく、できるだけ長くこの時が続いてほしいと願った。


「いい加減にしろ!」


リリアはデミスの顎にアッパーカットを放つ。


デミスが抱く思いなど、リリアには存在しない。


もし言葉でデミスから今の心情を聞かされれば、間違いなく切れるだろう。


「リリア」


顎に当たった腕をデミスは掴み取る。


一瞬、リリアはゾクッとするものを感じた。


デミスがさらにギアを一段階上げたのが分かったから。


「殺す気でいこう。だが、死なないでほしい」


渾身の力で、デミスはリリアをコロシアムの舞台から放り投げる。


しまったと、リリアは思った。


コロシアムの舞台周囲を覆っていた封印障壁を、リリアは吸収態で吸い取っていた。


それによって、リリアの身体は観客席を大きく越え、壁にぶち当たる。


当然、勢いは弱まらない。


そのまま壁を壊して隣のフロアへと、リリアは吹っ飛ばされた。


隣のフロアは、コロシアム内を人々が行き交う通路だった。


通路幅は約4メートル程度。


偶然にもリリアが誰かを巻き込むことはなかったが、リリアはより勝率が下がるのを感じた。

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