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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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二人の仲

ラミング帝国から帰還したノール、杏里は報告のため、図書館のクロノのもとへ向かう。


図書館のフリースペースに相変わらずいたクロノはノール、杏里の姿を確認し椅子から立ち上がる。


「どうした? もうラミングに向かっている頃だと思っていたが?」


「もう、ラミングを攻めていた連中はボクが倒したよ」


「本当か! でも、どうやってこんな短時間でラミングまで? まさか、空間転移って奴か?」


「そう、空間転移。ボクたちはどんなに遠くても一瞬で目的に辿り着けるの。クロノもラミングへ送ろうか? 結構酷い状態だったから早く助けに行った方がいいよ」


「そうしてもらった方がいいのだろうが、止めておく」


「どうして?」


「空間転移を認知している者がこの世界に一体どれだけいるだろうか? おそらく知っている者はお前ら能力者くらいだろう。そんな中で当たり前のようにラミングへ現れてみろ。最初はありがたがられても、平時になれば持たれる必要のない危機意識がラミングからロイゼン、ステイなどの国に波及してしまうとオレは考えているんだ」


「なんか、面倒臭いね。本当にそんな風に思われるのかな?」


「ないとは言えないな。オレはスロートの指導者としてできる限りの危機は回避したい。でも、お前たちの優しさには感謝している。ノール、杏里、ありがとうな。お前たちに頼んで正解だった」


「あの二人は、ボクが倒したんだよ」


自信たっぷりに倒したと発言するノールに杏里は微妙な気持ちが芽生えたが特になにも言わない。


討伐の知らせから準備の整っていたクロノはラミングに救援隊を派遣する。


役目を終えたノール、杏里は自室へと戻った。


「ねえ、ノールちゃん」


「なに?」


「ちょっと……お願いがあるの」


「なんなの?」


杏里のぎこちない言い方にノールは率直に語る。


正直、こういう風に語りかけられるのがノールは嫌い。


「あのさっき、ボクにさ……」


「はよ言え」


「キス、したよね?」


「そうだ、お昼ご飯まだ作っていなかったね」


空腹を感じているように見えないが、ノールは料理を作るためキッチンへ歩いていく。


「ボクの話を聞いて!」


杏里が強く声を発して、ノールを手を取り、引き止める。


「な、なんなの?」


強引な杏里を見たのは、ノールにとって初めてだったので少し驚いている。


「ボクたちは恋人同士だよ、そろそろノールちゃんとしたいな」


「えっ……」


ノールは困った顔をし、少し考え込む。


「それ、なんとかならない?」


「どうして?」


「初めて、なんだよね。一度もしたことがないの」


「それなら、ボクも同じだよ。ボクも初めて」


「はいはい、じゃあ後でね」


早くこの話題を終わらせたいノールは関心がない素振りで話を流し、キッチンへと向かった。


杏里に関してはノールと違い、ノールとの行為の約束ができて緊張し、ノールが会話の後に作った昼食をぎこちなく食べていた。


それから数時間後が経過した。


夜も更け、ノールたちの普段の就寝時間が近付いた。


「そろそろ寝ようかな」


四人がけテーブルの椅子に座り、エリアースで販売されているファッション雑誌を読んでいたノールは軽く口に手を当てあくびをする。


立ち上がると眠たそうにベットの方へと歩いていった。


「今から?」


同じく椅子に座っていた杏里は興奮しながら落ち着きがない。


「ん?」


嫌そうな表情でノールは杏里を見る。


「やっぱり、しない?」


「たった今思い出したよ。しなきゃいけなかったんだね」


「うん」


すっと、杏里も椅子から立ち上がり、ノールの傍に行く。


「服、脱がせるね」


杏里は水人衣装に手をかける。


「さわるな」


「ご、ごめんなさい」


唐突に怒声を上げられ、水人衣装から手を引く。


「不純な気持ちでふれないでほしいな」


魔力を高め、ノールは水人衣装を身体から消す。


ブラとショーツ、レギンスを履いた姿でノールは杏里の傍に立っている。


ノールの見たかった姿を見れた杏里は少しの間、ノールを眺めていた。


「あの、脱がせるんじゃないの?」


「でも、ふれるなって……」


「水人衣装に、だよ」


それは、ノールの魔力体優位主義の思想から出てくる感性。


別に水人衣装以外なら脱がされてもいいとノールは思っている。


「じゃ、じゃあ脱がせるよ」


そっと、下着を脱がしていく。


水人らしい華奢な身体付きに似合わない張りのある形の良い乳房、女性らしい細身の腰付き。


しっかりと見たかったところを杏里は凝視していた。


「どうするの?」


ノールは脱がされた下着をベッドの脇に畳み、置いた。


杏里に見られていても肌を隠す素振りがない。


「ベッドに……」


「うん」


ノールはベッドへ横たわった。


「杏里くん、顔が赤いよ?」


「き、緊張しているからだよ。ノールちゃんは恥ずかしくないの?」


「恥ずかしいとか、ボクはそんなこと思わないな」


「そう?」


落ち着いた感じのノールを見て、杏里も少しずつ冷静さを取り戻していく。


そして、杏里も服を脱ぎ出して服を同じように全て畳んで、ベッドの脇に置いた。


「あれ、その……あれ?」


さっきとは違い、ノールが焦り出す。


「どうしたの?」


ノールの隣に杏里も横たわる。


「あの、思っていたよりも……その……」


杏里の顔を見てから、杏里の下腹部の方を見る。


「女の子みたいな顔だし、女の子みたいな身体付きだったから安心かなって……でも、やっぱり男の子なんだね」


「ねえ、もうしてもいいかい?」


「その、やっぱり止めにしよう」


「ボクに任せて」


「そ、そう?」


自信に満ちた声で語られ、ノールは杏里を受け入れることにした。


それから数十分程、ノールは杏里に身を任せていた。


行為後、一息吐くため二人はベッドで横になっていた。


二人は別に汗をかいていない。


魔力体のノールは温度を感じないためであり、杏里に至っては暑いどころか逆に寒い程である。


魔力で身体を守らずに水人をふれ続けるのは低体温症へ繋がる危険な行為。


「どう、だった?」


若干震えているが、杏里は幸福そうな顔をしている。


考えていた以上の快楽を感じ、ノールも同じく良い時間を過ごせたと考えている。


ただ、ノールは不安そうな表情をしていた。


「痛いって、ボクは言ったよね?」


怒っているような、どこか心配しているような声でノールは話す。


小説などで事前に得ていた知識とは異なり、痛みしか感じなかったのも要因となっている。


「うん」


「もう止めてとも、ボクは言ったはずだよ? 怖かったんだからね」


「うん……」


「それにさ、どうして最後までしたの? 先に言ってもらえば、なにかしら対処もできたかもしれないのに」


「ごめんね……」


「他にさ、ボクに言うことはないの?」


「責任を取るよ」


しっかりとした口調で、杏里は言う。


その言葉を聞いて、ノールは今までの不安げな表情を一変させた。


「本当なの? 良かった、これでボクたちは結婚だね」


「結婚って、本当?」


「ボクは本気。こういう肌がふれあう関係になるといずれボクたちの子供ができちゃうじゃん。流石にその辺は決めておかないと」


「ノールちゃんは結婚するつもりで、したの?」


「するのだから、そういうことになるでしょ? 君もそう感じているのか分からなくて最初は凄く悩んだけど」


「ノールちゃん、ボクたちにはまだ結婚は早過ぎるよ」


杏里が言いかけた瞬間、部屋の空気が急激に息苦しさを覚える程に重く変化した。


数秒後、ノールは重い口調で静かに語る。


「なんで?」


「ボクたちはまだ旅をしている途中だし、お金も持っていないよ……」


「それ、関係なくない? ボクにしたいだけしといてそんなこと言うの?」


どのように杏里が捉えているのか分からず、イラッとしたノールは杏里の首筋に手をやり、胸元までなぞる。


途端に杏里は呼吸ができなくなった。


水人能力を駆使し、呼吸器に魔力の水を発生させたようだが唐突に呼吸ができなくなった杏里はパニック状態に陥る。


無理やりノールの手を引き離した時にようやく呼吸ができたので杏里はノールの仕業だったと気付き、恐怖を感じた。


「あ、あの、ノールちゃん……」


「どうしたの?」


再び、ノールは胸元へと手を置こうとしている。


今まで実感したことのない殺意に、杏里は子供ができれば結婚すると決めた。


流石にその頃には生活も豊かになっているだろうという甘い見通しで。


どちらかというと、例え甘い見通しでもノールの求める答え通りに回答しなくては危険だと杏里は感じていた。


だが、二人は自分たちが異種族同士だという点を全く考慮に入れていない。


人と同じ見た目だが水人の魔力体であるノールと、元々は人間で現在は天使である杏里の違いについてを。


人間よりも他の種族は人口比が圧倒的に少ない。


そのためか、種の存続をかけ、同種族でのみ種を残せるような状態へある意味の進化をしていた。


別にそういった進化もない人間のみ、他種族相手でも快楽を感じられるのはそういった原因。


異種族同士の二人では子供を宿すことも、宿させることも不可能だった。

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