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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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予感

リリアが両手を使ってでも受け止めようとした拳。


強烈な勢いから阻むなど到底できず、自らの胸元へ叩きつけられた威力は絶大だった。


両手で受けた際に、強く命の危機を察したリリア。


事前に床を蹴り、背面へ後退していた。


とてもではないが、この威力は簡単に緩和できない。


リリアの身体は軽く浮き上がり、背後の封印障壁まで弾き飛ばされる。


「ぐうっ……」


呻き声を上げる。


そのまま全身を叩きつける形で封印障壁にぶつかってしまった。


封印障壁には、一つの特性がある。


対象から受けた衝撃をそっくりそのまま返す特性が。


元々封印障壁は敵対者から発動者が自らの身を守るために発動する能力。


このR・ノールコロシアムのように観客や施設を守るため、扱っているからこそ起こる弊害。


封印障壁により、リリアは背後からも大ダメージを受ける。


ぶち当たったリリアは、ずるずると封印障壁から崩れ落ちた。


封印障壁には血の跡がべったりと残っていた。


「封印障壁に当たった分を足せば、これで合計三打となりましたね」


ゆっくりとした足取りで、デミスはリリアのもとへ向かう。


「止めを刺す、そうでしたね? リリアさん」


言葉では、そう語る。


リリア自らが止めを刺してみろと話したことから、あえて口にしている。


デミスは止めを刺す気など毛頭ない。


勿論それは倒されたエール、セフィーラもそうだった。


相手に発破をかけ、再び自らの力のみで立ち上がらせ、限界からの能力開花を促す。


かなり強引な手法であるが、本人の精神的なものと上手く噛み合えさえすれば、さらなる能力の向上が見込める。


そんなデミスだったが、一定の距離を保った状態で歩みを止める。


リリアの弾き飛ばされた先に。


エアルドフの姿があった。


「リリア……リリア……」


封印障壁の外側からリリアの名を呼び、何度も封印障壁を叩いている。


「………」


言葉もなく、デミスは暫し立ち止まっていた。


だが、歩き出しリリアのもとまで行く。


「済まない、デミス。もうリリアを許してやってほしい……」


エアルドフが頭を下げ、リリアへの許しを乞う。


「ゆ、許すもなにも……オレはただ、リリアに同志となってくれればそれでいいんだ」


デミスに動揺が窺える。


この戦いは、デミスにとって殺し合いではない。


しかし、それはデミスからだけの視点であり他者には当然そうは見えない。


「ま、待ちな……さい……」


リリアが自らの身体に鞭を打ち、無理やり立ち上がろうとする。


ほとんど全ての指が圧し折れた手を床につく。


意識が遠のき、まともに動けない身体を起き上がらせていく。


受けたダメージ量が多過ぎたせいか、思考がまとまらず魔力体化をしない。


通常すべき行動を考えられる力もリリアには残されていない。


「お父様、逃げてください……」


リリアはエアルドフに逃げろと言う。


自らのすぐ傍にいる。


目があまり見えていないのか、それだけがリリアには分かる。


この状況で自らが完全に打ち倒されてしまえば、次は。


リリアの脳内には、コロシアム内での戦いであったなどという概念は喪失している。


それだけのダメージがリリアの身体にはあった。


「エアルドフ」


デミスが語る。


「リリアの意識を失わせる。オレがリリアの意識を失わせた時点で、この勝負。オレの勝利として終わらせてほしい」


「しかし、それではリリアが……」


「殺しはしない、無事に今後をリリアに生きてもらわなくては困るからだ。だから、エアルドフ。お前にはリリアが負けたという事実を本人に伝え、理解をさせてほしい」


「本当なんだな? それで、リリアは助かるんだな」


「最初からそのつもりだ、安心してほしい」


「分かった、約束しよう」


口約束ながらも取りまとめ、デミスはリリアの前に立つ。


封印障壁へ手をやり、支えにしてなんとか立ち上がった程度のリリアは最早構えすら取れない。


そんなリリアに、デミスは非常に手加減を加えたストレートのパンチをリリアの頭部に当てた。


がくっと体勢を崩し、リリアは床に倒れ込む。


「リリアさん」


デミスはリリアの肩に手を置き、語りかける。


「負けを認めてください」


「私は……負けません」


リリアは泣き出す。


悔しさをにじませ、後悔を感じている。


魔力の喪失で、リリアは次第に意識を失っていった。


リリアは動かなくなったが、魔力体の死である分解をすることもなく保っている。


殺さないと話した通り、実際にデミスは約束を守った。


「勝負あったな」


デミスはエアルドフに声をかける。


「エアルドフ、次はお前が約束を果たす番だ」


「ああ……」


再び封印障壁へ、エアルドフは手を伸ばす。


「そこの方、この封印障壁を解除してくれませんか?」


エアルドフは、ライルに呼びかけた。


「いや、まだだ。戦いは終わっていない」


さらっと、ライルは語った。


エアルドフの問いかけに答えたが、ライルはエアルドフを見ていない。


床に倒れているリリアに視線を向けていた。


リリアと同じくノール流の免許皆伝者であり。


なおかつ、リリアよりも熟練者のライルだからこそ分かる。


なにか途轍もないものが来る。


その予感があった。

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