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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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一騎打ち

デミスに対して、リリアは強い睨みを利かせている。


真逆に、デミスはとても大切なものを見るような柔和な眼差しを向けている。


「二人きりになりましたね」


「ああ」


「さっさと構えなさい。私は無抵抗の者を殴りつける無頼漢ではありません」


「ああ」


すっと、デミスは両腕を上げ、構えの体勢に入る。


デミスの声は期待や歓喜に満ちていた。


どれだけ強くなっているか。


どれだけ立ち向かえるか。


精神力ならもうすでに強者の風格がある。


あとは例え弱かったとしても、互いに支え合いながら、これからより強くなればいい。


自分がいて、そしてリリアがいる。


この二つで強力な魔力体や魔力邂逅に立ち向かえる。


そのように、もうデミスは先のことしか見ていない。


「………」


対して、リリアは不機嫌な様子。


構えたのに、闘気や殺気をまるで見せず、味方同士で会話しているような雰囲気のデミスに腹が立っている。


「行くぞ、デミス!」


体内の奥底から魔力を全身へと急激に漲らせていく。


魔力流動を駆使し、リリアは一気にベストコンディションまで能力値を跳ね上げる。


真に自らが信じられるノール流でデミスを打ち倒すと決めていた。


「……す、凄い」


呆けたようにデミスは語っていた。


直後、デミスの顔面にリリアの拳が直撃した。


「ぐうう……」


一気に打ち抜かれるのを、全身に力を加え堪える。


次にリリアは床を蹴り軽く飛び上がると、若干上向きになっているデミスの顔面を狙って強烈な肘打ちを放った。


堪らずデミスは背面へ仰向けに倒れる。


この試合始まってから、ようやくデミスがダウンした。


「とやっ!」


駄目押しにリリアはデミスの顔面へフットスタンプを加えた。


ここまで執拗に顔や頭部に衝撃を与えれば、通常ならば死に至る。


リリアは一時、デミスから距離を取った。


「悪かった」


デミスから声が聞こえる。


「こんなに強くなっているとは思わなかった……これは、オレの落ち度だ」


仰向けの状態から自らの傍らに手を置き、上半身を起こす。


「どうか許してほしい。もう嘗めるような行動を取ったりはしないから」


デミスが話しているところへ、リリアは一気に接近して顔面を狙ったサッカーボールキックを放つ。


そのタイミングでデミスは両手を床に打ちつけ、衝撃で一気に跳ね上がり、両足から着地する。


攻撃を躱されたリリアはデミスが降り立った方へ構えた状態で向かい合う。


デミスにはダメージがほとんどなかった。


唯一、ダメージが確認できるといえば、右鼻から鼻血が流れている。


あれ程の打撃でも脳にダメージがない。


「そうだ、リリアさん」


いきいきとした声で、デミスは語り出す。


「これから打ち合いをしよう。楽しいぞ、きっと」


鼻血を手の甲で拭い取ったデミスは子供のように笑い、中空へ向かって拳を二度放つ。


「はあ?」


イラッとしたリリアは、デミスの正面へと立った。


わくわくした気持ちをデミスは隠せずにいた。


先程、仲間たちが簡単に打ち倒されていたのに。


そんなことを気にせず正面へ立ってくれたリリアにデミスは感謝していた。


「私から先に殴っても構いませんね?」


「どうぞ、オレもタイミング良く攻撃しますので」


「分かりましたわ」


再び、リリアは構えに移る。


心臓が強く高鳴っている。


本当は正面に立つなど恐ろし過ぎて、身体の芯からくる震えが起きていた。


リリアの様子にデミスは気づいていない。


デミスはもう戦いの先を夢見ている。


それがどうしても、リリアには我慢ならなかった。


「さあ、リリアさん」


優しげに、デミスは手のひらをリリアの方に向けて見せる。


これからぶん殴られるという状況なのに、全く敵意も悪意も恐れもない。


「………」


静かに、リリアは目を閉じた。


これから恐ろしいことになる。


勝負が決する時。


自らは確実に死んでいるだろう。


だが必ず、デミスだけは打ち倒すと決めていた。


決心したように、リリアは目を開く。


先程よりも綺麗に整っている理想的な魔力の流れ。


完璧と言っても過言ではない魔力流動ができていた。


「凄いな、リリアさ……」


感心した素振りで眺めていたデミス。


ノーガードだった顔面へ、リリアの放つ右フックがぶち当たる。


豪快な一撃にデミスも一歩後退りしたが堪えた。


「効きましたよ、リリアさん。次は、オレの順番で構いませんね?」


顔に押し当たっているリリアの拳を裏拳で弾き、勢いをつけてストレートのパンチをリリアの顔目がけて放つ。


ゆっくりと動いている。


そう、リリアには見えていた。


同時に死へのプレッシャーが迫っているのも強く感じている。


パンチがリリアの顔に突き刺さった時。


リリアは堪えられず、思い切り背後へ卒倒していた。


混濁する意識の中。


なんとか数秒で、リリアは意識を取り戻した。


震える手つきでリリアは自らの顔へと手を伸ばす。


今でもそこに存在するのかを確認しておきたかった。


確かに顔はあった。


殴られた箇所はぐしゃぐしゃに骨がへし折れ、おそらくは陥没をしている。


それでもなんとかリリアは自らを落ち着かせ、炎人化を発動。


炎人化によって魔力のみの姿と化したリリアは怪我を一瞬にして癒し、ダメージを打ち消した。


怪我が消えたことにより、視界も開け、リリアは周囲を確認する。


自らが倒れている近くにデミスが構えた状態のまま立っていた。


床に倒れる自らには目もくれず、正面だけを見据えている。


なにを考えているのかが分かったリリアは立ち上がる。


こんな、ただの一撃で終わるわけにはいかなかった。


「お待たせしてしまったようですね」


「待たせるだなんて、そんな……オレはリリアさんなら立ち上がってくれると最初から分かっていました」


すっと、デミスはある方向を指差す。


その方向には、瀕死のセフィーラ、エールの姿があった。


二人とも意識不明の重体のようで身動き一つしない。


「あの二人は立てなかった。彼らは貴方よりもレベルが高いはずなのに」


「私には待ってくれましたが、あの二人には止めを刺したではありませんか」


「そうでしたね」


デミスの顔は緩み、笑顔を浮かべる。


「今度は止めを刺すつもりで行きますか?」


「最初からそのつもりで来なさい!」


怒声とともに、リリアは攻撃を開始する。


右腕を振り上げ、一気にデミスの頭部へ鉄槌打ちで叩き落とす。


頭部から腕をあえて引きずる形で引き離すと、引いた右手で即座にデミスの喉元目がけ貫手を放つ。


瞬間、リリアは悲しい気持ちになった。


先程から全くノーガードのデミスは痛がる素振りも見せずに、苦しそうな反応も見せない。


信頼できる仲間の努力の成果を、尊敬の眼差しで見つめている。


そのような反応をデミスはしていた。


「この!」


頭に来たリリアは、本当はしたくなかった股間へのローブローを狙う。


わずかに背後へ下がり距離をつけると、股間へと右手で鉄槌打ちを放った。


ノーガードのデミスは、この攻撃も普通に受けた。


流石にこの攻撃は効いただろう。


そう思ったリリアはデミスの表情を眺めた。


「………?」


デミスは不思議そうに首を傾げ、リリアの顔を見返す。


隙ができている、と言葉もなく伝えていた。


「三打だけでよろしいのですか?」


「……痛くないのですか?」


「あっ……ああ、痛いですよ。やはり貴方は凄い魔力体です」


デミスはなにかを思い出したように、首筋を片手で押さえる。


そこは貫手でダメージを与えた箇所ではない。


痛くも痒くもないところを人は心配する必要性がない。


自らの決死の攻撃が、デミスにとってはその程度と分かってしまったリリアは呆然としてしまった。


「リリアさん、生きてください。そして、敗北を受け入れてください」


デミスは構えの体勢に移行する。


リリアの全身が総毛立つ。


また、あの一撃が来る。


しかも次は三連続で。


いきなり正念場となった戦い。


リリアは渾身の魔力で防御へと移行する。


デミスはリリアをなにも恐れていない。


なんの警戒もなく、リリアの間合いへと入る。


続けて、リリアの腹部目がけ直突きを加えた。


この攻撃をリリアは堪えた。


数秒の間をおいて、リリアの口元から血が溢れ出す。


大ダメージだが、デミスが手を引くとすぐにダメージは消える。


炎人化を行っていた。


一撃は死ぬ程に重いが、即座にダメージが消え去ればなんとか対処できる。


これがリリアの対処法。


炎人化を解き、人間化した状態へと戻る。


「貴方の攻撃は……こうすれば対処ができます」


若干、顔色悪くリリアは語る。


「そういう方法もあるのか、器用だな。だが、その隙を与えなかった場合はどうする?」


デミスは拳を振り上げ、リリアの胸元へ向かって放つ。


今さっきの攻撃よりも魔力量が込められた拳から繰り出される威力。


その拳をリリアは両手で受け止めたが、そんなものは意にも介さず。


なにも問題なく、リリアの胸元へ叩き込まれた。

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