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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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変則マッチ 2

一定の距離を取り、コロシアムの舞台上で一人と五人が向かい合っている。


封印を解かれたデミスと相対するのは、リリア、セシル、ジス、セフィーラ、エール。


通常、一対一を基本とするR・ノールコロシアムでは異例中の異例の試合となっている。


「今回この舞台は貸し切りだから試合開始時刻もなく、審判もいない。そういうわけだから、アタシがスタートと言ったタイミングで戦いを始めようと思うんだけど、構わない?」


エールが他の者たちに語る。


「なんだ、随分律儀だな」


デミスは意外そうな反応をしている。


「オレが気を抜いた辺りで、一斉にかかって来れば良かっただろうに」


「一応、アタシはコロシアム支配人の一人なんだ。そのアタシ自らがズルを選択するだなんてのは、今後の運営に関わる」


「なにも今日で散らす命だ。そのような柵など考える必要はないだろう」


「復活の魔法リザレクを扱える者をコロシアム側で雇っているから、いつ死んでも問題ない。これは、今日死ぬお前のために話している」


「それは、ありがたい。安心した」


「よし、話は済んだな。スタート、試合開始だ」


エールが言葉を発した瞬間。


エール、セフィーラは一気にデミスから距離を取り。


リリア、ジスは構えの体勢へ移行する。


セシルは特になにもすることなく、棒立ちしていた。


「……ん?」


様子見とでもいうように、デミスは腕を組んだが、エールの行動で考えが変わった。


「流体兵器発動」


距離を取った直後に、エールはスキル・ポテンシャルの流体兵器を発動させる。


エールの右手から液体状のオーブが出現した。


流体兵器には相手の行動動作を学習し、自らのものとする付属効果がある。


戦闘が長引けば長引く程、この流体兵器はデミスそのものとなり得る。


それを、デミスは見逃すはずがない。


「オレが流体兵器を知らなければ、もう少しは善戦できただろう。惜しかったな」


一気に床を蹴り、体重を感じさせない一足飛びで、デミスは距離を詰める。


リリア、ジスは一瞬のうちに脇を素通りされた。


先手で取っていた距離も簡単に詰められ、エールの目の前にデミスが立っていた。


「ヤバっ」


俊足の動きに、エールは気づいたからといってなにも行動が取れない。


「防御へ移行しろ!」


デミスが絶叫を上げた。


直後、エールの腹部に右手から繰り出される強烈な直突きがめり込んだ。


骨が粉砕された激痛により、前屈みになったエールに続けて、デミスは顎をアッパーカットする形で打ち抜く。


なにも発することもなく、背後に仰向けのままエールは倒れ、液体状のオーブは立ち消えた。


「とりゃ!」


エールに攻撃を仕かけている隙をつき、セフィーラが右足に渾身の魔力を込めた飛び蹴りを放つ。


静かにセフィーラへ視線を移したデミスは、炎の揺らめきのようなゆらりとした紙一重の動きで躱す。


その躱しざまにセフィーラは右足を掴まれていた。


デミスは掴んだ部分を自らの握力に任せ、へし折る。


そのまま、一度振り回して勢いをつけ、セフィーラを頭部から床目がけて叩きつけた。


動きを読んでいたようで、セフィーラは右手を頭部に回し、頭から床への直撃を回避する。


「こんな程度で……」


セフィーラが言葉を発するよりも前にデミスは足から手を離し、跳躍していた。


床に仰向けで倒れるセフィーラの胸を目がけて、ニードロップを決めた。


びくんと全身が痙攣した後、セフィーラは目を開いたまま、動かなくなった。


「この程度で死ぬとは思ってはいない。オレと同じ魔導人だ。そうだろう?」


デミスは立ち上がった。


そこを狙い澄ましたように、デミスの右頬を射貫く直撃があった。


攻撃により、デミスをふらつかせたのは、ジスだった。


コロシアムにて多くの者をKOさせてきたストレートの一撃で、この試合初めてデミスにダメージが入る。


ふらつかせたまでは良かった。


ジスも同じタイミングで倒れなければ。


「知っているか? 攻撃をする瞬間が、一番隙を作るものだ」


なにも問題なさそうに、デミスは床に倒れたジスに語る。


あの攻撃を受けたタイミングでデミスはカウンターを放ち、手刀でジスの首筋を打っていた。


一撃でジスは意識を失い、倒されてしまう。


「………」


暫し、デミスは黙したまま封印障壁の向こう側に見える誰もいない観客席を眺めていた。


当時の再来。


あっさりと集めた仲間たちを打ち倒された。


あの時点では分からなかった自らとの力量差も、今のリリアになら十分理解できるはず。


一切勝ち目のなくなったリリアが即座に勝負を降りるのは分かり切っていた。


「いつまでも周囲を警戒したい気持ちも分かりますが」


デミスは声を聞いた。


この光景を見た後でも、全く声量に変化がない。


「起き上がって来ない者たちを見ていても仕方がないでしょう」


振り返ったデミスが見たものは。


自らから目を逸らさず睨みつけ、両腕を組み仁王立ちするリリアの姿。


「まだ戦ってくれるんだな、リリア」


「なにを血迷いごとを。さっさとかかってこい、デミス!」


構えの体勢にリリアは移行する。


強い覇気の宿るリリアを見て、デミスは胸に手を置き、安堵した笑みを浮かべた。


やはり自らが望んだのは、そういう者であったことをデミスは確信する。


手を組んでほしいと頼んだが、あっさりと簡単に負けを認める腰抜けでは話にもならない。


魔力邂逅から人々を守り抜く、そういうレベルに達するであろう強力な味方。


そうなり得る者でなくてはならない。


デミスは自らに震えが起きていることに気づき、胸に置いていた手を肩に当て抑える。


歓喜していた。


魔力邂逅のR・ノールが受け入れなかった思いに、リリアならきっと応えてくれる。


必ず打ち倒して、無事に勝利を収める。


そう思わずにはおられず、一歩一歩リリアに歩み出していた。


先程まで見せなかった強力な覇気をデミスは徐々にまとい始める。


「う、うそ……」


ずっと棒立ちしていたセシルは、恐るべきその姿を目の当たりにし、腰を抜かして尻餅をつく。


最初からそうだが、全然セシルは戦えていない。


セシルには全く目もくれず、ついにデミスはリリアの目前へと立った。

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