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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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デミスの意志

「ちょ、ちょっと待って、リリア」


敵対する者との会食。


当たり前のように、それを口にしたリリアの発言に、セシルは驚きを示す。


デミスを知るとか知らないとか、そもそもそれ以前に会食自体が必要ないとしか思えない。


「この私とでは不服ですか?」


「いいえ、そのようなことはございません。リリアさん、ご一緒しましょう」


「ええっ……」


普通に拒否するのかと思ったセシルは若干引いていた。


「急に食事だなんだと言われてもねえ……」


エールは困惑しつつ、セフィーラへ視線を向ける。


「別に良いんじゃないの? 問題は店をどこにするか、かな?」


「アタシはゴスロリ姿で食事をしているところを見られるのが嫌な人なんだよね」


「知らんがな」


率直に聞いて損したとセフィーラは思う。


「セフィーラさん」


リリアが呼びかける。


「ん、なに? 店はどこにするのか、もう決めてある感じ?」


「向かってもらいたい店があります」


「……ああやっぱり、店はコロシアム内の飲食店なのね。で、コロシアム運営側の僕に空間転移してほしいと。それなら人目にふれなさそうだし、別に問題ないかな?」


この大人数で道を歩けば、客との間で問題が生じるのは間違いない。


ランカーがたった一人で出歩くだけで、人でごった返すのだから。


「店は……」


リリアは、セフィーラに店の名前と場所を教える。


そこは以前、リリアとセシルで訪れた飲食店。


セシルがブラックカードを見せつけていたのに、それ程お金を使わなかった店。


気に入っているというわけでもないが、他にどんな飲食店があるのかあまり分からないから選んだ。


「それじゃあ、空間転移発動」


セフィーラは空間転移を発動する。


控え室の風景が変わっていき、とある飲食店内へと周囲が変化した。


指定した店の店内に、リリアたちは現れた。


「これは、セフィーラ様、エール様」


支配人や店員は、まずコロシアム運営側のセフィーラ、エールに対応する。


「なんか、個室ある? この人数でも問題ない感じの」


「ええ、ございます。すぐさま、お通しします」


ぺこぺこと頭を下げながら支配人は、リリアたちを広めの個室へ連れていく。


個室へ着いてからは、各々テーブルの椅子へと腰かけていった。


「どうぞ、こちらへ」


率先してリリアはデミスのために椅子を引く。


自分が座ろうとした隣の席だった。


「ありがとうございます」


礼を言い、デミスは椅子へと座る。


そして、デミスの隣にリリアが座った。


「本来なら、このオレがしなくてはならないのですが、気が利かなくて申しわけありません」


「そのようなことなど、どうでも構いません。今は食事を楽しみましょう」


それから各々が料理などを注文。


とはいえ、食後に戦うことが確定しているため、リリアとデミス以外は飲みものか軽食程度のものだけ。


順次、注文したものが運ばれてくる。


どうやら他の客などお構いなしに、この個室に最優先で食事が運ばれているらしい。


「周囲の風景や食事を見ただけで、オレが封印されてから一体どれ程の時が流れたのかを知ることができますね」


少し寂しそうに、デミスは語る。


「そうだ、リリアさん。このオレについてを知りたいそうでしたね」


「ええ、その通りです」


運ばれた食事を先にリリアは食べていく。


「以前もご紹介させてもらった通り、オレは魔導人であり、パラディンのデミスです。魔力体を皆殺しにする者です」


「そのようなことが聞きたくて尋ねたのではありません。聞きたいのは、貴方がなぜそのような考えに至ったか、なぜ封印をされ続けているかについてです」


「そこまで聞こうとする者は、リリアさんで三人目くらい……ですかね」


デミスは静かに語り出す。


「オレが魔力体の皆殺しを考えているのは、魔力邂逅のR・ルールという人物のもとに集った者たちの一人だからです」


「魔力邂逅のR・ルール?」


リリアにも聞き覚えのある言葉。


一文字違いだが、魔力邂逅のR・ノールなら知っている。


「R姓? アタシもR姓だけど、なんか関係ある奴なのか?」


同じくR姓とのことから、エールが反応する。


「君もR一族の者か。確か今現在、人世で実体化している魔力邂逅はR・ノールだけなんだろう? どこにいるのか分かるかな?」


「分からないんだな、これが」


「素直じゃないか、見た目に反して意外だな」


「おい、それはどういう意味だよ」


「エールさん」


リリアが声をかけた。


「はいはい」


手のひらをデミスへ向けた。


「R・ルールの存在自体を知らぬと言うのならば、これまた相当の年月が経過しているのだと分かる。R・ルールとは、R一族の礎を築いた初代R一族当主。最弱とも揶揄されたあの権利という能力でR一族を世に知らしめた者だ」


「なぜ、R・ルールのもとへ?」


「簡単なことさ」


デミスは仄かに頬笑みを浮かべる。


「優しかったからだ」


「えっ?」


「今では幾分かマシなのだろうな。ここは魔力体と人の共存ができているように感じるよ。おそらくは、R・ノールの支配地域なのだろう? あの時にできる限りの説得ができて良かったと感じるよ」


「説得とは?」


なにか、リリアは認識の齟齬を感じた。


「オレは共存こそが大切だと考えている。R・ルールのいた頃の時代は、人と魔力体との差が、それはそれは歴然たるもの。単純に魔力体と比べ、あまりにも人は弱過ぎた」


「弱い? そうでしょうか、貴方を見ればとてもそうとは思えません」


再び、リリアは認識の齟齬を感じていた。


なによりも今、共存こそが大切だと語らなかったかと。


あえて自己紹介時に毎回魔力体を皆殺しにすると語っているのに。


なにかが変だとリリアも気づいていた。


「総世界に改善が見られたのは、R・ルールのおかげだ。人と隔絶する強さを持っている魔力体との間にある明確な格差。そのあまりにも過ぎる不幸さに憐み、初めて魔力体側から歩み寄ってくれた人物が、R・ルールだった」


デミスは目元に手を置く。


「集うに決まっているさ……」


ぽつりと、小さく言葉を発する。


デミスの今までの行動は。


自らの浅はかで身勝手な思想から引き出されたものではない。


デミスは見てきたのだ。


過去、数万年前の現実を。


今現在まで続くデミスの強い信念は、そこから熟成されていった結果である。


数万年前、人々には偉大なる指導者がいた。


R・ルールという名の魔力邂逅。


初めて人側の立場に立ってくれた“優しい”魔力邂逅だった。


デミス自身が、あの化物じみた強さを有していても当時では指導者的な立場の者には到底なれない。


魔力邂逅R・ルールのもとに集った一人でしかないのだ。


数万年前に存在したパラディンに過ぎず。


R・ルールのもとへ集った他の者たちの序列トップに位置していたわけでもない。


ただ、人々を。


自らを封印してまで、次世代の魔力体や魔力邂逅が跋扈(ばっこ)する総世界を救うため。


魔力体の危機から人々を救い守りたいと、真に望んだ正義感溢れる男に過ぎなかった。


魔力体と封印の契約を結んだのも簡単なこと。


自らの力量を意にも返さない、その段階に至った魔力体が現れた時。


まさにその時こそ、自らの力が本当に必要となる瞬間だと感じていた。


人々の盾となり、魔力体たちの進撃を止め、再びR・ルールのような味方となり得る魔力体を手にする。


それが唯一、魔力体たちからの危機を防ぐ手段であるとデミスは考えている。


この考えがデミスの思考を覆い尽くす程に、数万年前の魔力体や魔力邂逅は神の如く恐るべき超越者だらけだった。


しかし、デミスの考え通りに事は進まなかった。


どんなに強烈で恐るべき存在だったとしても、どの魔力体たちも別に人々を征服したいなどと考えていない。


天変地異がいかに凄まじかろうと、人々を全て駆逐しないのと同義である。


逆に台頭した者は、自らと同じ人類のR一族たちだった。


結局デミスは数万年にもおよぶ時間を契約という言わばコールドスリープに似た方法で生き抜いてきた。


どんなに困難であろうとも立ち向かう意気込みを見せても。


どんなに正義の心があろうとも、ついには迷いが生じる。


そんな中、ようやく出会えた魔力邂逅がいた。


自らの力量でも、身体の芯から寒気がする程の実力者。


それが、現世に唯一人型で実在する魔力邂逅のR・ノールだった。


当初は強い闘気を漲らせ、懇切丁寧にお前を殺すと順序立てて語っていたが。


デミスの対応から根負けし、戦うことを止め、デミスの心境を親身に聞いてあげていた。


ノールは熱狂的な魔力体優位主義思想の塊のような人物だったが、人を襲う気配を毛程も見せず、逆に人々の側に立つ存在だった。


その者ですら、デミスの意志に理解を示してくれなかった。


デミスの心に変化が訪れたのは、まさにこの時だった。


同じ道を歩めないというのならば、歩ませればいい。


その適任者と“なってしまった”のが、リリアだった。


あえて大事なことは、なにも伝えていない。


契約が満了しても、御印となった魔力体が死なないことも。


上手く契約者を変更できなくても、デミスが現れるだけでデメリットがないことも。


契約期間が過ぎてから、同じ魔力体が御印となるのも構わない。


なぜならば、ただの一人が異次元にてコールドスリープの状態になるだけの効果しかないからである。

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