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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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対戦相手

空間転移のゲートの先。


向こう側に現れた室内は、とても豪華なもの。


明らかに王族の者が暮らす部屋。


そこには、恰幅の良い貴族の男性と、その傍らに幼く可愛らしい貴族の少年の姿があった。


リリアの父親エアルドフ国王と、弟のレト王子だった。


「リリア」


エアルドフがリリアに呼びかける。


「ついに、この日が来てしまったね」


「ええ、そうですね」


「………」


エアルドフは言葉もなく、寂しげな表情をしていた。


リリアでは勝てないと見ている。


人が天変地異に勝つくらいには、勝率が低いだろうと。


「勝ちます、私は必ず勝ちますから」


強く訴えるようにリリアは語る。


「リリア、もしかしてこの人が」


セフィーラが尋ねる。


初対面なので誰なのか分からない。


分からないが、この人物がリリアの父親なのだとなんとなく分かった。


「私のお父様です」


セフィーラの問いかけに答える。


「やっぱり? じゃあ、次は封印を解くんだね?」


「その通りです。これからお父様にお願いをします」


再び、リリアはエアルドフへ視線を移す。


「お父様、デミスの封印を解いて頂けないでしょうか?」


「ああ……」


以前のリリアがスクイードたちとともに戦った時と同様にエアルドフの雰囲気は暗い。


「今の私たちでも、デミスに敵いませんか?」


「……敵わないだろう」


静かに、エアルドフは頷く。


「へえ、随分と言ってくれるじゃないの」


エアルドフの言葉に、エールが少し怒った口調で語り出す。


「初対面なのによく言えるね。アタシが本気を出した時の能力も魔力量も知らないのに? なにか勘違いしていない? リリアだけが戦うんじゃないんだよ」


「勘違いなどしていないよ。ゲートの先の、貴方たちのいる場所には多くの能力者を感じる。その全てがともに手を取り合い、デミスに戦いを挑んでも敵わないだろう」


「ふん、なにを言っているのやら。戦う前からそんなに気弱になっているようじゃ、相手が誰だって負ける。とりあえず、さっさとデミスを出しな」


「リリアちゃん」


エールをスルーして、エアルドフがリリアに語りかける。


「もし駄目だと感じたら、すぐにでも私はデミスを封印する。構わないね?」


「構いません。今日この日がデミス討伐を成し遂げた日となるのですから」


「分かった……」


エアルドフは目を閉じる。


心の中で強く念じ、デミスの封印を解く姿勢に入った。


次の瞬間、エアルドフの近くに一人の人物が現れる。


神職者特有の神聖なオーラを身にまとう、銀色の長髪をした男性。


見知らぬ軽装の装備、徒手空拳の姿。


古の聖堂騎士の出で立ち。


デミスの封印が解かれていた。


「……エアルドフか?」


ゆっくりと目を開き、デミスは語りかける。


「ああ、そうだ」


「なにか、とても良い感覚だ。このゲートの先から数多の熱き闘志を感じる」


空間転移のゲートの先。


つまりは、コロシアム内の参加者たちをデミスは感じ取っている。


「リリアさん……」


ゲートの先へ視線を移した時、デミスはリリアの存在に気づく。


リリアを呼びかけたデミスは言葉を失っていた。


表情がほころび、とても愛しいものを見たような反応を取っている。


デミスはとても感動的な気持ちの中にいた。


リリアに脅威を抱かせぬよう、ゆっくりとした足取りで空間転移のゲートを通り、控え室までデミスは歩いてきた。


「デミスさん、またお会いしましたね」


「あっ……そうでした、ご挨拶が遅れてしまい申しわけありません」


軽く頬笑んでから、デミスは会釈をする。


敵意など微塵も感じず、まるで街中で旧友と再会したような反応をデミスはしていた。


「リリアさん、貴方が前回お会いした時以上に強くなっている様を見て、私は感動の念を抑えられなくなりました」


「そうなのですか。私は、あの敗北から今日にかけてを必死に生きて参りました」


すっと、リリアはデミスを指差す。


「貴方に勝つために」


「ありがとうございます。とても嬉しい次第です」


ちらっと、デミスは他の者たちに目をやる。


「この方たちが、リリアさんとともに戦うのですか?」


「その通りです」


どこか誇らしげにリリアは語る。


さっきまで勝つか負けるか考えていた発想がリリアにはない。


「ハイ」


軽く手を上げて、エールがデミスに挨拶をする。


若干、エールは顔が引きつっている。


完全に化物じゃねえか。


それが、エールが思った第一印象だった。


周囲に迷惑をかけないよう極力抑えているデミスの魔力量の底が見えない。


どの程度の強さかは、すでに見立てが済んだ。


自らの姉、R・ノールとほぼ変わらないか、もしくはそれ以上だと。


その印象は、セフィーラも変わらなかった。


どちらかと言えば、セフィーラの方がよりヤバさを感じている。


それは、デミスと同じ魔導人となっているから。


「これは珍しいものを見た。時が経過した今の時代にも私と同じ魔導人がいるのか。ということは、君は魔力邂逅R・ノールの弟子だな?」


「ああ、そうだ。ということは、お前がノールさんが話していた魔導人のデミスだな?」


「そうだった、自己紹介が遅れてしまっていたな。私が魔導人であり、パラディンのデミスだ。今日は良い試合をしよう」


そして、デミスはリリアを見る。


「いずれは、リリアさんも優秀な魔力邂逅となられるはずです。今からその時が待ち遠しいですね」


「残念ながら、その日は来ません」


「なぜですか?」


「貴方は今日ここで果てるからです」


「そうなるよう、ぜひお願いしますね」


優しげにデミスは頬笑む。


家族を相手にしているかのような綺麗な笑顔だった。


「ですが、その前に」


「どうしましたか?」


「貴方を知りたいと感じております。今から食事などどうですか?」


「構いませんが……」


デミスは不思議そうな表情をしている。


そのようなことを語る者など今までいなかったからでもあるが。


一番の理由は、魔力体にも魔導人にも食事は生存に不必要な行為。

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