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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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決戦の日

エール、セフィーラの協力を得られた時から数日が経過し、ついにデミスとの決戦の日となった。


早朝、リビングにはリリアの姿があった。


静かにリリアは、いつもの両手を合わせる形の精神統一で全身の魔力流動を行っている。


精神統一は前日の夜から、ずっと。


リリアは極度の緊張と焦りのせいか、寝るという行為をしていない。


元々、魔力体であるリリアは別に寝る必要がない。


人は睡眠によって体力を回復するが、魔力体は身体の魔力を整えることで体力を回復する。


よって一般的な魔力体は寝る必要性自体が存在しない。


だが、リリアは違う。


人の世界で生きてきたリリアは睡眠の仕方が分からなくとも、夜はベッドに横たわる生活習慣がある。


今まで律儀に行ってきた生活習慣なのに、それを捨てた。


一人静かに精神統一し、落ち着いているように見えても本当は絶叫して喚き、逃げ出したい程の重圧がリリアに伸しかかっている。


リリアの精神は爆発寸前だった。


「おはよう、リリア」


少し眠そうな感じで、セシルが寝室から出てくる。


「………」


リリアはなにも返答しない。


まともに返答できる精神状態ではなかった。


「もう……」


セシルはリリアに近づいていく。


リリアの背後から、ゆっくり抱きついた。


「えっ……!」


結構本気でリリアは驚いていた。


別に気配を消したわけでもなく、事前に声かけまでしたセシルの行動なのに。


考え込み過ぎて周囲の状況に対応しにくくなっているのが原因。


「リリア、負けてもいいのよ」


セシルは優しく抱き締め、小さく声をかける。


リリアの気持ちが限界なのは、セシルも知っていた。


「今回を糧に次に活かせればいいじゃない」


あえて負けてもいいと語る。


デミスを倒すべきタイムリミットもあり、そこまで急くことがない。


ここで手痛く負けを喫し、次の機会が訪れない方が不味かった。


それから、セシルはリリアの前に来て、リリアの精神統一の姿勢を崩させる。


「リリア」


再び、セシルがリリアに抱きつく。


「私の心臓の音が聞こえる?」


「ええ……」


しがみつくように、リリアはセシルに抱きついた。


わずかに自らの身体が震えていると、この時に初めて気づいた。


「今はゆっくりしていてもいいんじゃないかな?」


「ええ」


リリアは緊張や焦りが、内側から溶けて小さくなってゆくのを感じた。


緊張して硬くなり、柔軟な思考ができなくなっていた。


自らだけが戦っているのではない。


セシルもいてくれる。


その考えにもっと早く至っていればと、リリアは後悔した。


それから暫くの間、リリアはセシルに身を預けていた。


セシルもリリアが安定したと思うまで、リリアを決して離さなかった。


「セシルさん」


「なに?」


「朝食を……食べましょうか」


「うん、そうしよっか」


ゆっくりと、セシルから離れ、リリアと手を繋ぐ。


二人で朝食の準備を始めた。


戦いまでの時間を、なにげない日と同じように過ごした。


そして、戦いまであと一時間となった時。


「お待たせしました」


空間転移のゲートがある部屋から、ジスがやってきた。


「待っていませんよ、時間通りです」


リリア、セシルはリビングのソファーでコーヒーを飲んでいた。


リリアのだけは、砂糖とミルクが入ったカフェオレとなっている。


「準備は整っているようですね」


二人のゆったりした様子から、コンディションが万全とジスは見た。


「少し早めですが、コロシアムへ向かいますか?」


部屋の時計を見ながら、ジスは語る。


「ええ、そうしましょうか」


残っていたカフェオレを飲み干し、ソファーから立ち上がる。


先程までの緊張や焦りは微塵も感じない。


いつもの強さを感じさせるリリアがいた。


三人は各々の支度を整え、空間転移を発動する。


決戦の地となるR・ノールコロシアムへと向かった。


周囲の風景は変わり、いつも通りコロシアムのロビーへ三人は現れる。


この日も相変わらずコロシアムは盛況。


ロビーの時点で人で溢れ返り、爆発的な人気を誇っている。


「リリアとジスだ!」


早速気づいた人々が、二人の名を声高に叫ぶ。


コロシアムランキング100位以内に入る上位ランカーの出現に、周囲は一気に湧き立った。


「そうですね、次からはリリア姫と呼びなさい」


リリアは軽く手を上げ、周囲に挨拶する。


人々は相当近くまで集まっているが、誰もリリアやジスに触れようとはしない。


超有名人であっても、どちらも屈指のファイター。


機嫌を害させるようなことでもあれば、その代償が全て自らの身に降りかかるのを知っている。


三人の進行方向だけ人の波が開かれていく。


邪魔をしないように進む先にいる者たちは自ら避けていた。


それでスムーズに選手専用路へ進め、控え室に入ることができた。


「よっ」


控え室には、すでにセフィーラ、エールの姿があった。


各々、控え室のソファーにゆったりとした様子で座っている。


エールは現在ではバトルコスチュームとしている、あのゴスロリ姿であった。


セフィーラも年相応の美しいエルフ族らしい姿になっている。


二人とも万全な態勢であった。


「もうすでにいらっしゃったのですね」


「ついさっき、来たところ。ほんの数分前にね」


セフィーラがなんとなく話す。


「嘘だよ、アタシは一時間くらい前には来ていた」


エールが適当な感じで語っている。


「リリア、あれ嘘だから気にしなくていいから」


即座にセフィーラは語る。


そういうふざけた嘘が、セフィーラは大嫌い。


「そうですか、それはなによりです」


リリアは適当に流す。


「でさ、リリア。肝心の相手さんはどこにいるの?」


どこか暇そうにエールが語る。


「その者は、これから呼び出すことになります。セフィーラさん、ちょっとよろしいですか?」


「ん? なに?」


「コロシアム管理者としての貴方に頼みたいことがあります。この場で空間転移を開いてもらいたい先があるのです」


「もしかして、そいつは空間転移が扱えなかったりするの?」


「そうではありません。封印をされているのです」


「封印を?」


「我が国、エアルドフ王国では倒すべき者を……デミスを一人の魔力体が犠牲となる形で封印をしておりました。その対応をする者を御印と言います。普段通りならば、封印に関わる期限が過ぎる前に順序良く御印役の者が入れ替わる手筈だったのですが、今回デミスはそれを拒否しました」


辛そうにリリアは語る。


今回の件は、全て自分の責任だと感じているからだ。


民など顧みたことのない、わがままし放題だった小娘如きが。


人々から敬愛される国王を差し置いて、自らが国政を担うなどとんだ笑い話だ。


しかも順序立てて御印を交代さえすれば、なにも問題がなかった契約を破綻させ、命を懸けさせるに至った。


だが、リリアは強大な敵を前にしても諦めていない。


たった一度の勝利が全てを変えると信じている。


「今の御印役は、私のお父様です。お父様がいなくては、デミスの封印を解くこともできません。お願いします、セフィーラさん。この場に、指定する座標位置へ空間転移のゲートを通してください」


「なるほどね、そういうことだったのか。僕に任せて」


「ありがとうございます。それで、座標位置ですが……」


それから、セフィーラはリリアから教えられた座標位置を指定して空間転移を発動。


指定された座標位置と繋がる空間転移のゲートを出現させた。


ゲートの先の向こう側は、とある室内だった。

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