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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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次なる作戦

リリア・セシルの二人は、エアルドフ王国から高層マンションの自室へ戻ってきた。


先に帰らせたジスは室内におらず、魔導剣士修練場側の部屋に戻っている様子。


「はあ、疲れちゃったなあ」


セシルは戻ってくるなり、ソファーへ座る。


「早くリバースの皆さんのもとへ参りましょう」


「ええ、分かっているわ……」


とりあえず、セシルは立ち上がった。


二人は空間転移のゲートが設置された部屋へと向かう。


室内には、黒塗りの屋敷の部屋側へ向かうゲートと、魔導剣士修練場の部屋側へ向かうゲートがあった。


黒塗りの屋敷側のゲートを潜り、二人は屋敷のリリアの部屋へ移動した。


「へえ、ここがR・ノールの屋敷……」


セシルは黒塗りの屋敷を訪れるのは初めてだった。


思いの外、豪華で広い室内に流石はR・ノールの屋敷だとなんとなく思う。


「案外良いところじゃないの、広くて豪華だし。ねえ、リリア。ここの部屋もしっかり使わないと勿体ないわ」


「この場所で暮らすのは構わないのですが、私は今暮らしているマンションの方が好きですね」


やはり、リリアは住みやすさよりも自らの手で勝ち取ったマンションの方を好んでいる。


「あちらから廊下へ出られます」


部屋の入口の扉をリリアは指差した。


リリアが先行して歩き、扉へ近づく。


扉を開いた時、廊下にとある人物がいた。


「おっす」


廊下の壁に背をつけて立っているR・エール、セフィーラの姿があった。


声をかけてきたのは、エール。


エールは若干ぼさぼさの黒髪でノーメイク。


だぼだぼで長めのパーカーを着て、お腹辺りにあるポケットに両手を入れている。


セフィーラは幼い時の姿だった。


身長も130cm程度で髪の毛も短髪となっており、この姿では幼い男の子にしか見えない。


「やっぱり来た。アタシの思った通り、屋敷でぐうたらしていて良かったあ」


エールはリリア・セシルが屋敷を訪れることなんてお見通し。


というわけでもない。


今日は単純にオフの日であったから、セフィーラの部屋へ勝手に押し入り、テレビを見ていた。


エアルドフ王国から戻ってきたセフィーラが、王国であった件を話したおかげで暇潰しができると思い、ようやく部屋から出てきただけ。


性格が違い過ぎるが、この二人は仲が良かった。


「クァールと会ったんでしょ?」


言葉少なめにエールは尋ねる。


当然ながら、エールもクァールが苦手。


「ええ、会いましたよ」


対して、リリアはエールを強く警戒している。


またあの培養槽へ入れられるなど堪ったものではない。


なによりも、エールから悪意を感じていた。


「なんだか……アタシが怖いの?」


にた~っと、エールは笑う。


あの三白眼で見つめられながら語られると、リリアはより怖さを感じた。


「そんなことよりもさ、この屋敷に二人が来たのは僕らに助けてもらいたいからじゃないの?」


話が進まないと感じたセフィーラが助け舟を出す。


「気づいていたのですか?」


「R・クァール・コミューン内にまで立ち入れさせられた身からして、まだ他になにか厄介事を抱えているんだろうなとは思っている感じ」


「実は、その通りなのです。皆さんの力を貸して頂きたいのです」


「それは別に構わないよ。でも、当然……」


セフィーラは片手でお金のジェスチャーをする。


「お金の話ですよね?」


「それが前提でなくては、僕らが一体どんな稼業をやっているのかが分からなくなる。先立つものがなにもないなら、いくらリリアからの頼みであっても興味が湧かない」


セフィーラは腕を組み、話を聞く姿勢になった。


「でさ、僕になにを頼みたいの?」


「私の暮らす世界には、デミスという恐るべき存在がおります。このデミスを打倒するため、皆さんの協力が欲しいのです」


「他のギルドの傭兵たちでは駄目?」


「全く歯が立たないでしょう」


「ふーん……」


セフィーラはなにかを考え始める。


セフィーラにも、デミスという名には聞き覚えがあった。


過去にノールがデミスと会った際の話を、セフィーラは聞かされている。


懇切丁寧にお前を殺すと説明しても、恐るべき強さを誇る魔導人のデミスは戦いもせず紳士的にその場を収めたと。


「アタシはあ、お金なんて要らない。だって、アタシには欲なんてないもの。親切心が服を着て歩いているような人だしさ、協力してあげてもいいよ」


リリアに近づき、エールは上目使いで見ている。


普通に魂胆が透けて見える。


「あっ、そういえば……綾香さんとルインが手を貸してもいいんだってさ。なんかアタシはよく知らないけど、桜沢グループに席があるらしいよ」


「はあっ?」


不満げに声を出したのは、セフィーラだった。


そんなことなど聞いた覚えがない。


そもそもこの提案は、たった今リリアからされたばかりなのだから。


「構いません、桜沢グループに入りましょう」


以前は全力で拒否していたのに、二つ返事で答える。


「そうなの? でも、桜沢グループ入りするのは嫌なんじゃないの。もしもまたリリアが培養槽に入ってくれるなら、桜沢グループに入らなくともあの人たちに協力させるけど、どうする?」


「それでも構いません、手を貸してください」


「いいよ、乗った。全部アタシに任せて」


楽しげにエールは頬笑む。


今の話に出てきた桜沢グループに関しては全てエールの狂言。


嘘を吐いて、上手いこと優しくリリアの味方についた振りをしているだけ。


「そんなにズバズバ決めていいわけ? モルモットにされるだけだよ?」


白い目つきでセフィーラがエールを見ている。


人の弱みにつけ込んでいるのが許せない様子。


「勝てれば構いません」


「そこまで言うのなら」


セフィーラはエールの語り口も嫌いだし、リリアの従順な姿勢も嫌い。


「先に言うけど、エールが役に立たなかったら培養槽になんて入るな。当然、僕も役に立たなかったらお金なんて受け取れない。一定の水準に達していない者に報酬など必要なし」


「傭兵なのに報酬を伴わず仕事をするつもり? 絶対やる気に関わるよ、それ。これから命の取り合いなのに、大したことのない敵の対応にすら足元を掬われそう」


にやにやしながら、エールは語る。


「このアタシに限って役に立たないだなんて有り得ない。そもそも他人どうこうよりも以前に、ジーニアスが役立てる方法を少しは考えればいいんじゃないのかな?」


普通にセフィーラは睨みつけている。


互いに仲は良好なのだが、性格が違い過ぎるせいで変なタイミングで対立する時があった。


「お二人の力を借りたいのです、協力をお願いします。ところで、他の皆さんもいらっしゃいますか?」


「いないよ。他の人らも傭兵稼業以外にも本業があるから」


相変わらずにやにやしながら、エールは語っている。


エールは傭兵稼業を本業と思ってすらいない。


ともかく二人の協力を得られ、リリアはこれで問題ないと思った。


本当は、リバース副統領の杏里などにも力を借りたかったが。


もしも、全員の力を借りても勝てなかった際の状況を考えたくもなかった。


「リリア、とりあえず僕はこれで」


セフィーラが人差し指、中指を揃えて見せるジェスチャーをした。


簡単に言えば、20億で請け負うと表現していた。


「構いません」


即決でリリアは答える。


どちらかといえば、案外安いなと思っていた。


デミスは、同じく魔導人である春川杏里よりも強いだろうから。


「……ふふっ」


鼻で笑い、セフィーラから目を逸らしながらエールが同じポーズを取る。


こちらは別に20億を要求しているのではなく、セフィーラを馬鹿にしているだけ。


「なんか馬鹿にしていない?」


「では、戦いの期日が決まりましたら参りますのでよろしくお願いします」


協力関係を得られたリリア・セシルは自宅マンションへ帰ることにした。

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