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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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独特な戦争 3

チェス勝負の勝利後、リリアは城内へと急いで入った。


なんとしてでもエアルドフのもとへ向かい、救い出さなくてはならない。


焦りで気持ちが落ち着かず、リリアからは強い闘気が放たれている。


「いたぞ、リリア姫だ!」


すでに城内へ侵入していた隣国の兵士数人が城内へ入ったリリアに気づく。


即座にリリアを捕らえようとした。


「退きなさい!」


目にも止まらぬ勢いで、リリアは隣国の兵士の一人に顔面を狙った掌底打ちを放つ。


そこから顔を鷲掴みにし、押し込む形で頭部を床へ叩き込んだ。


「うわあ……」


人間が紙切れ同然の動きを見せたのが、他の隣国の兵士たちに強烈な衝撃を与えた。


「安心しなさい、私には武の心得があります。命に別状はありませんよ」


強い闘気を放ったまま、リリアは語る。


それからとにかく急いで、エアルドフのもとへと向かった。


無事であってほしい。


父親への思いが強くリリアの胸中に膨らむ。


そして、リリアはエアルドフの自室へようやく辿り着いた。


「お父様!」


思い切り、部屋への扉を開け放つ。


広い室内には、両国軍の兵士やメイドなど沢山の者たちがいた。


室内の中央に置かれたテーブルで、城門前と同じようにこちらでもチェス勝負が行われている。


戦っている者は、エアルドフ王と隣国のレクタ王子。


それを幾重にも覆う人だかりが、勝負の行く末を見守っている。


「皆さん、通してください」


リリアが呼びかけ、人だかりは左右へ別れた。


「お父様、この私が参りました。もう大丈夫ですわ……」


久しぶりに見る父親の姿。


以前と変わりない様子に少しだけリリアの気持ちが和らいだ。


だが、テーブルに置かれたチェスの盤面を見て、それも変わる。


チェスがよく分からないリリアにも分かることがあった。


それは、このチェス勝負もあと少なくとも二手で終わることだった。


「リリア姫」


隣国の王子レクタが呼びかける。


「久しぶりに見た君は、やはり美しい」


「今はそのようなことどうでも良いです」


「今は少しだけ待っていてほしい。私の見立てでは、この勝負。あと、二手だろう」


「……お父様」


リリアはエアルドフを見る。


エアルドフは深く考え込んだ表情で、チェスの盤面を眺めたまま、リリアに反応を示さない。


それでも、すっと手を動かしてチェスの駒を一つ掴む。


あと二手で投了だというのに、さっさと負けてしまおうとでも思っているのか、手の動きが早い。


「リリア姫」


エアルドフが駒を動かしている途中で、レクタが言葉を発する。


「勝負が決すれば、君はエアルドフ国王ともども王族から平民の身分となる。だが、私はそれを良しとしない。リリア姫、君を私の妃として迎えたい」


「なにを血迷いごとを……」


イラッとしたリリアはテーブルの脚の部分に、自らの足を引っかける。


怒りのせいか力加減を間違えたリリアは思い切りテーブルをひっくり返してしまった。


「おや、急にテーブルが……?」


誤魔化そうとしたが性格上やはり無理だった。


これ以上の嘘を吐けない。


「これはこれは……仕方がありませんね、もう一度最初から勝負を」


言い直していると、周囲の様子が変わっているのを、リリアは肌で感じた。


周囲の者たちはざわつき、口々にある言葉を口にする。


それは……


「ついにリリア姫様が国家反逆罪を……」


「勝負は、レクタ王子の反則勝ちでエアルドフ国王の負けで終わったか……」


リリアのこめかみに青筋が立つ。


もう取り繕うこともできないレベルで、リリアの素が出てしまった。


「黙れ!」


リリアがぶち切れる。


全身全霊で非常に強力な魔力をまとい始めた。


唐突に人外レベルの恐るべき存在が出現し、周囲の者の視線はリリアに釘づけとなった。


「見ろ!」


バルコニーへと続く窓を指差す。


室内にいる全員の視線が窓へと集中した時、リリアは構えの体勢へと移行した。


それから、窓の方へと向かってストレートを放つ。


窓がある方向に立っていた者たちもいた。


彼らがそよ風を感じた後、窓が外側へと向かって豪快にぶち破られる。


ストレートともに放たれた魔力の波動が一気に窓をぶち破り、物凄い轟音とともに空へと放たれていった。


さも当然のように人だけを避けて、攻撃を行えていた。


「皆さんに質問です」


落ち着いた声で、リリアは話す。


「私は今、エアルドフ王国王位継承権第二位のリリア姫でしょうか? それとも私は今、平民のリリアでしょうか?」


リリアは胸の位置に手を置いた。


「エアルドフ王国の王族は決してチェス勝負などでは屈しません。私たちを屈する方法はただ一つ。武力による闘争のみで私たちに打ち勝つことです。先程の私の行動を見ていたでしょう。私に打ち勝てると思うであれば、戦ってやろう。無理だと思うのなら、この部屋から出ていきなさい」


リリアの言葉に皆が互いに互いの顔を見やっていたが、そそくさと部屋から出ていく。


もはや誰も勝っただの負けただのは一言も話していなかった。


室内に残されたのは、リリアとテーブルの椅子に座るエアルドフ、レクタの三人だけ。


「お父様、リリアが参りました。もう大丈夫ですわ」


椅子に座るエアルドフの肩に手を置き、リリアは優しく語る。


「レクタ王子」


その後で、同じく椅子に座るレクタへ視線を移す。


「いつまでこの部屋に居座るつもりですか? 無血開城を為そうとしたその心意気を良しとして、私も命を取るつもりはありません。今は祖国へ帰りなさい」


先程までぶっ飛ばそうとしていたのに、リリアはクールダウンして冷静になっていた。


「リリア姫、今はエアルドフ国王の話を聞いてほしい」


レクタは椅子に座ったまま、動こうとしない。


「全く……」


不満に思いながらも、とりあえずエアルドフから話を聞こうとした。


「リリア、なぜ今日という日にやってきたのだ?」


「私の舎弟がエアルドフ王国の危機を伝えてくれましたの。戦争の気配を感じ取って舞い戻っては来ましたが、この世界の戦争は他世界のものとは大きく異なるのですね」


「……もし、帰って来なければエアルドフ王国は本日を以て隣国の領地となっていた」


「そうはなりませんでしたね。喜んでください、私が迅速に行動した結果です」


「帰って来なくとも良かったんだ。そうなれば、私たちは国王でも姫でもなく、普通の魔力体でいられた」


「お父様、私にはなにを仰っているのかが分かりません」


「エアルドフ……リリアには今の現状についてを嘘偽りなく伝えたことがあるのか?」


「?」


一瞬、その声を聞いて誰が話したのかと思った。


先程まで紳士的な姿勢を崩さなかったレクタとは異なり、今はとてもカジュアルな口調で語っていたからだ。


急にレクタの性格や雰囲気が変わり、リリアは状況を飲み込めない。

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