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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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独特な戦争 2

リリアがスマホで連絡を取った相手は。


このような戦いに置いて、確率などのいかなる要素や理屈を無視し、必勝必中の化物じみた者。


「ご機嫌いかがでしょうか、セフィーラさん」


連絡先は、リリアと同じく歩合制傭兵部隊リバース所属のセフィーラ。


「急ぎでお願いしたいことがありまして……」


数分程の会話を終え、リリアは兵士たちのもとへ戻ってきた。


「なにをしていらしたのですかな、リリア姫? 私たちに勝つ見込みがいささかでもありましたかな?」


文明レベルの差により、スマホを知らない隣国の兵士たちはリリアが一人でなにやら考えごとをしていたと見ている。


「ええ、ありましたとも。今から我が国最強のチェス名人が参ります。覚悟しておいてください」


「覚悟……?」


隣国の兵士たちは若干苦笑している。


実は、この兵士のうちの一人が隣国で最も強い打ち手。


元々同盟関係であった際の国際試合でも負けなしの実力。


エアルドフ王国の誰が来ても、この兵士には勝てない。


「なんなのですか、その態度は」


それを分かっていないリリアは相当頭に来ている。


「まあまあ落ち着きなさいよ、リリア。セフィーラが来たらなんとかなるんでしょ?」


リリアのぶち切れている様を見れたセシルは、どこか楽しげな様子。


どちらかといえば、チェス勝負などせず、リリアとセフィーラで武力鎮圧させるのだろうと考えている。


それから数分程、セフィーラがやってくるのを各々待っていた。


「来ましたわ」


椅子に座り待っていたリリアが立ち上がり、通りの方を眺める。


この場にいた皆が、同じく通りの方へ視線を移した。


長く綺麗な黒髪、黒い瞳で褐色肌の美しいエルフ族の女性。


元々の年令通りの姿となっているセフィーラがいた。


「全く随分なところに呼んでくれたじゃないか」


文句を語りながら、セフィーラがリリアのもとへやってきた。


「御足労頂き誠にありがとうございます、セフィーラさん」


「ここってさ、R・クァール・コミューン内じゃん。本当に最悪だよ、僕はあの人が大嫌いなんだ」


セフィーラはとても怒っている。


最初からダークエルフ化していたりと、この世界に来た際になにかがあったのは間違いない。


「ささっ、セフィーラさん。こちらへどうぞ」


「えっ、なになに?」


自らのことなどお構いなしにリリアが話を進め、セフィーラを椅子に座らせる。


「ここで、チェスを一勝負お願いします」


「チェス? なんで?」


「実は今しがた我が国が攻められておりまして」


「ああ……そういうの。あの女の意味不明なルールのせいか」


セフィーラには、なんとなく分かる様子。


「手を貸していただければ、我が国の英雄として貴方を迎えます」


「英雄なんて言われても、そんなできもしない口約束をされてもね」


「口約束などではありません。なぜならこの私がエアルドフ王国の姫なのですから」


「それって、R・ノールコロシアムのリングネームじゃん。もしかして、あれって奇抜な発想から適当に作ったリングネームじゃなくて事実?」


「私は自らを誇張するつもりはありませんので」


「へえ」


「そろそろ、よろしいですかな?」


隣国の兵士が声をかける。


二人の会話がすでに勝つ気でいるのが気にくわない。


「ええ、どうぞ」


とりあえず先行が隣国の兵士となった。


チェス勝負が始まり、まずは隣国の兵士がチェスの駒を動かす。


すっと駒を動かした後、セフィーラは兵士が手を引っ込める前にノータイムで駒を動かした。


兵士は特に問題なく、同じようにノータイムで次なる駒を動かす。


「ねえ、リリア」


セフィーラがリリアに話しかけながら、盤面の駒を一つ掴み動かす。


ノータイムついでにノールックで駒を動かしていた。


「セフィーラさん、盤面を見てください」


リリアは真剣に盤面を見つめている。


見ていてもリリアにはルールがよく分からない。


「………」


兵士は静かに今のセフィーラの行動を見ていた。


大差をつけて勝つと兵士の心の中で決まり、本気モードへ移行する。


「僕が勝った後、君は一体なにをしてくれるの?」


「まだ勝負は終わっておりません」


「僕が勝つことだけは事前に決まっている。それ以外にはない」


兵士が駒を動かした後、再びノータイムで駒を動かす。


それが十数手目で、ついに兵士の腕が止まる。


顎の下に手を置き、熟考が始まった。


「それ」


セフィーラは一つの駒を指差す。


「それを動かせば、僕はこの駒を。もし、そこの別の駒を動かせば、僕はこっちの方を」


兵士の熟考中にセフィーラは普通に口出ししていた。


「なにも教える必要はありません」


リリアがセフィーラに語る。


「いいんだよ、どうせ。相手が最善手を打とうが打つまいが、僕が勝つことだけは変わらない。僕のスキル・ポテンシャル必中はそういう能力なんだから」


セフィーラは腕を組む。


「僕はチェスのルールが分からない。駒の名前も分からないから、それとだけしか伝えられない。でも、最善手だけは打てる。チェス盤上を見ていても見ていなくとも」


最初からセフィーラは落ち着き払っていた。


表情もゆるく、勝負をしているようには見えない。


それから互いに数手を打ったところで、隣国の兵士が投了して勝負はセフィーラが勝った。


「やったー、我々の勝利です」


エアルドフ王国の兵士たちは喜んでいる。


「なんということだ……」


隣国の兵士たちは意気消沈としていた。


隣国側の負けは必至の状態に陥り、頭を抱えている。


「仕方がありません。我々はエアルドフ王国へ下りましょう」


「潔いですね、貴方方を見直しました。やはり戦いはこうではないと」


リリアは兵士の潔さに深く頷く。


負けたくせにやぶれかぶれに突っ込むのを、リリアは相当毛嫌いしている。


勝ちは勝ち、負けは負けで決まったのならそれを潔く受け入れる姿勢を持つべきだとリリアは考えている。


だが、その考えに反する者が多くいるのをいくども見てきた。


それだけで兵士たちの反応は褒められるべきものに映る。


「貴方、本当に凄いのね。私と一緒にコロシアムのカジノへ行きましょう」


チェス勝負に勝ったセフィーラに意気揚々とセシルが声をかける。


「僕のスキル・ポテンシャルを知れば、そう言ってくる人が必ずいるんだよね。生憎だけど、僕はコロシアムの運営者側だ。僕自身がそういうのを取り締まる側だから断る」


「ところで、ここで悠長とお話をしていてもよろしいのですか?」


セフィーラとチェス勝負をしていた隣国の兵士が語る。


「誰かに危害を加えていたわけでもなく、緊急性がないのではと思われますが?」


見たままのことを、リリアは口にする。


酒場の店主もあっさりチェス勝負で負けたんだろうなと、なんとなくリリアは思った。


「他からの援軍を阻むため、私がこの城門を護っていたのです。我々の本隊はもうエアルドフ国王と会っているはず」


「それはいけません……」


リリアは城内へ向かって駆け出していた。


おそらく、エアルドフも同じくチェスで勝負をしているはず。


こんな意味の分からない戦争ルールであろうとも、負けてしまえばエアルドフ王国は亡国となってしまう。

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