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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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帰宅

やっとの思いで、バロックの研究施設から逃げ出したリリア。


空間転移により、向かう先はエールの思惑通り、R・ノールコロシアム傍にある高層マンションの自宅だった。


自らにとって最も安心できる先にリリアは向かう。


いつも通り、リリアは自宅のリビングへ空間転移で戻ってきた。


「ただいま戻りました」


「リリア……?」


リリアが戻ってきたと同時に、リリアの名を呼ぶ声が聞こえた。


リビングのソファーにセシル、ジスの二人が座っている。


セシルはスマホを両手で持ち、涙を流していた。


リリアを視認したセシルは持っていたスマホを床に落として、リリアの傍へ駆け寄る。


「リリア!」


思いっ切り、リリアの頬を平手打ちする。


「どこに行っていたの! 心配したんだから!」


その後で強くリリアを抱き締めた。


「申しわけありません、セシルさん」


リリアもセシルを抱く。


セシルを実感して、本当に安心できた気がした。


「何度も連絡したじゃない。リリアが全然電話に出なくて、リリアを指定して空間転移もできなかったから……私、怖かったの。リリアの気持ちが弱っていたからもしかしたらと思うと本当に……」


「心配をかけてしまい、申しわけありません」


「昨日、散歩をしに行ってからなにをしていたの?」


「昨日……」


この一言で、リリアはようやく自らの体験が現実ではないと理解する。


リリアは昨日セラと出会い、株式会社バロックの研究施設で能力を高めるためと騙され、培養槽で翌日まで囚われていた。


同会社に勤めるセラとエールは最初から結託しており、リリアが培養槽内にいる間ずっとノールの情報を探っていた。


リリアに甘言を語っていた内容も当然ながら嘘で、リリアが強くなるかどうかなど興味も欠片もない。


これが本当に起きた真実。


「私は昨日散歩をしていた時に、セラという女性と出会いました。セラは能力を高めるための場を私に提供すると話していたので、彼女についていきました。ですが、それが大きな間違いだったのです」


「セラって……誰?」


「株式会社バロックの社長秘書を務めるセラという女性です」


「バロック……」


セシルには、その名に思い当たる節があった。


過去にバロックの刺客アリエルと会っていたからだ。


バロックにはドールマスターたちがいる。


そのいずれかが自らを、シェイプシスターを創り出した存在であり、倒すべき存在。


「バロックと言えば、桜沢グループが台頭してくるまで総世界の製造販売シェア一位を独占してきた企業ですね。総世界有数の大企業グループの一つです」


ジスが思い出しながら語る。


総世界という存在を知った能力者たちにとって、普通に誰でも知っている大企業だった。


「そのようですね、私は全く知りませんでしたが」


一度、セシルからリリアは離れる。


「私は、R・ノールコロシアムで杏里さんに勝てず、負けが込んだせいで正常な判断ができなかったのです。彼の者でも信用したのは、強くなれるのならばという思いが前に出てしまう程、藁にでもすがりたい気持ちがあったからでしょう。それに……セラはデミスを知っていた」


「セラも? あの化物を?」


「株式会社バロックがデミスと契約をしていると話していました。しかし、今デミスの封印を担う御印の役目はお父様のはず。なぜ、契約をしているのか。なにについてを契約しているのか。それは聞きそびれてしまいましたが」


デミスとの契約についての本質を、リリアはなにも知らなかった。


今でも、一つの世界に封印された恐るべき存在としかデミスを知らない。


「私はもう一度、バロックへ行ってみたいと思います」


「止めてよ、リリア。あんなところへはもう行くべきじゃない」


「私もそう思いますが、デミスを倒すための手がかりはわずかでも欲しいです」


「手がかりなんて言っても……」


「……少し待ってください」


セシルが話していると、なにかをリリアは気にし出す。


「どうしたの?」


「通知が来ました」


「通知?」


リリアは手のひらを胸の位置まで掲げる。


一つの赤色の宝石が手のひらから湧き上がるように出現した。


綺麗にカットされたガーネットのような宝石が。


「それ、なに?」


「見覚えがありませんか?」


「いつ買ったんだっけ?」


「買ったのではありません。私が創り出したものです」


「嘘っ、リリアは宝石が作れるの!」


こうしてはいられないと率直にセシルは思った。


こんな近くに鉱脈があったのを知らなかっただなんて、なんと酷い冒涜なのか。


とんでもない宝の持ち腐れだ。


やはり自分は金持ちにならざるを得ないのだという気持ちが、いくらでも湧き出ていた。


もうセシルにはついさっきまでのリリアを心配していた気持ちがない。


「私の魔力を集約して創り出したものです。それと、セシルさんはこの宝石を覚えていないようですね」


リリアは宝石を指でつまみ、セシルに見せた。


「これは、セシルさんと初めて会った日に酒場の店主に渡したものと同じものです」


「初めて会った時? だったら、あの夜の街での……」


懐かしい記憶が、セシルの脳内に浮かび上がる。


あの時、リリアに出会えたから今の自分がいる。


「でも酒場の店主になにか渡したっけ? 逆にお金をもらっていたような?」


セシルの記憶は曖昧になり、よく覚えていなかった。


「ひとまず、この宝石は通信手段として扱えるのです。いわゆる、スマホですね」


そう言うと、口元近くへ宝石を持っていく。


「リリアです、なにかありましたか?」


宝石に向かって、リリアは呼びかけた。


「リリア先生……? リリア先生ですか!」


やけに太い男性の声が聞こえる。


あの酒場の店主の声だった。


「なにか問題が発生したようですね、話してみなさい。場合によっては手を貸しましょう」


「リリア先生は知らないんですか! オレたちの街に隣の国の連中がいくらでも入ってきている! この辺にも来ているんだ、なんとかしてくださいよ!」


「いくらでもって……それは誰がですか?」


「兵士ですよ、兵士!」


「つまりそれは戦争では……」


リリアの顔から、表情が消える。


それは本当にぶち切れている時の反応。


「どこの国でしょうか? とりあえず分かりました、私に任せておきなさい」


リリアは手のひらを握り締める。


次に手を開いた時には、持っていた宝石が消えていた。


「セシルさん、ジス。貴方方の力が必要です。どうか私に手を貸してくれませんか?」


「な、なにを言うの。そんなの当たり前じゃないの、セシルちゃんが手を貸さないと思ったの? 頼まれなくても手を貸しちゃうんだから!」


赤い宝石に目が行っていたせいで、急に話を振られたセシルは若干焦っている。


「丁度、身体が鈍っていたんです。リリアさんの国を救うために私も力を尽くしましょう」


力強くジスは語る。


ようやくリリアの力になれると気合が入っていた。


「ありがとう、二人とも」


二人の意思を聞けたリリアはほのかに頬笑む。


「早急に対応しなくてはなりません。二人とも急ぎ支度をお願いします」

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