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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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外殻

リリアにとって、聞き覚えのある声が響く。


それは、女性の声だった。


自らのうちから響き渡るその声は、リリアに強く訴えかけている。


目を覚ませと。


「………!」


声の意味を理解したリリアは驚き、目を見開く。


リリアが目にしたものは、先程のコンクリートの室内ではなかった。


リリアの目に映る風景は若干にじんでおり、全身を包む不思議な違和感があった。


いつの間にか、リリアは培養液が満たされた培養槽内に入っていた。


「おい、目が覚めているぞ?」


培養槽のすぐ傍には、二人の人物がいた。


操作盤を操作しているセラと、R・エールの姿があった。


「……リリア、さん?」


ありえないという表情で、セラがリリアの名を小さく語る。


「………」


開けろと発声しようとしたが、口内まで培養液で満たされているせいか、リリアは言葉を発せられない。


仕方なく培養槽内を叩く。


「少し待っていてください」


セラが操作盤を操作して、培養槽内の液を排出していく。


培養液が全て排出されたのを確認したリリアは、一度炎人化し全身を魔力と化して体内の培養液を全て抜き取る。


それからリリアは培養槽を出た。


「これは、どういうことですか。それにさっきの者たちは一体?」


「さっきの?」


エールが答える。


エールは手にカップ式自販機のコーヒーカップを持っていた。


どこかエールは暇そうにしており、リリアの話にあまり関心がないように見える。


「リリア、それよりも服を着たら? 見えちゃいけないところまで全部見えている。裸のままなのは嫌でしょ? アタシとしてはそのままでいてほしいけど」


「それよりも今は聞きたいことが山程あります」


「あっそう。だったら、アタシから今回の件についてを色々と説明させてもらう。リリアは他のリバースの面子に自己紹介した日のことを覚えている? その時、アタシが株式会社バロックでリリアを解析すると話していたのもさ」


「……いえ?」


「やっぱり忘れちゃった? 本当はすぐにでも解析したかったのだけど、邪魔してくれたよね兄貴が。でね、アタシがなにを解析したかったのかは姉貴についてだ。つまりは、リリアがノールなんじゃないかって話なの」


「でしたら残念ですね。私は、ノールさんではありませんよ」


「らしいけど?」


エールはセラに話を振る。


リリアを全く信用していない。


「今回解析した結果なのですが、確かにリリアさんはノール様ではありませんでした」


「なんだあ、やっぱりそうか」


さっきとは異なり、エールはどこか投げやりになっている。


違うと分かれば、最早どうでもいい。


「ですが、新たな事実を突き止めました」


「例えば?」


「リリアさんはノール様が創り上げた世界の外枠、外殻にあたる存在なんです」


「はっ、なにそれ? いや、ホントに」


意味が分からず、エールは聞き返す。


「リリアさん、貴方なら意味が分かるはず。貴方だけが行方不明のノール様に唯一干渉ができた。それは外殻であることが事実だからです」


「外枠だの、外殻だのと言われましても……」


頭を捻っても、一体なにを言っているのかがリリアには分からない。


「それよりも私の身体は問題ないのですよね? 今は、ノールさんよりも私の身体が黒いもやに覆われたことの方が」


「リリアさんの記憶は培養槽に入っていたことにより、脳内へ装置が干渉して見せた映像に過ぎず、現実で起きたできごとではありません」


「あれが現実ではない?」


「ええ、その証拠に」


セラは室内にある壁かけの時計を指差す。


時計の中央辺りにデジタルの部分があり、日付などのカレンダーも表示されていた。


時刻は朝の八時。


それで、セラとコロシアムで出会ってから一日程度しか時間が経過していないのが分かった。


「私は、一ヶ月程の修行をしていたはずじゃ……」


「いえ、現実ではありませんよ。単純に解析が終わるまでの時間的猶予が欲しかっただけです」


かなりあっさりとセラは真相を語る。


「例えばそうですね、セシルさんに今までなにがあったのかを聞いてみると良いでしょう」


「セシルさんはどこかに出かけています」


「そうでしたね、私がそのようにリリアさんが思うよう操作しましたから」


「そんなはずは……」


リリアは次第に頭がこんがらがってきた。


あの一ヶ月の修行分、リリアは確かに強くなっている。


自らの魔力は嘘を吐いていない。


それが、リリアの納得できない部分。


「リリアさんが得た経験は夢などの空想ではありませんが、確かに現実ではありません」


リリアの様子から、セラは一言だけつけ加える。


よく分からないことを煙に巻く戦法を取った。


「ひとまず、私は帰ります」


この場にはもういたくなかった。


自らの思考を容易に変化させる恐ろしいなにかが、この場にあると知ったから。


「リリア、ちょっといい?」


エールがリリアに近づき、右手でリリアの胸を掴む。


「空間転移発動、R・ノールのもとへ」


対象を指定し、空間転移を発動したが、エールの空間転移は不発に終わる。


「これでも駄目なのか? 一応、外殻なんだろ?」


「なぜ、私の胸を?」


「なんか掴みやすそうだったから。さっきの話が本当ならさ、姉貴のもとにアタシも行けると思ったんだけどね」


「そうですか」


リリアは自らの胸を鷲掴みしているエールの腕を離す。


それから、自分の服が入っているかごを持ち上げ、シャワールームへ歩いていった。


「リリアの身体つき良いね」


「それは私も思いました」


わずかに、セラが頬笑みを浮かべる。


「ああ、やっぱり? なんていうか一晩買いたいくらい、いくらくらいで寝てくれるかな?」


エールは胸を掴んだ方の手を握りながら、セラに視線を向ける。


「リリアが姉貴の世界の外殻って話だけど」


「リリアさんが、ノール様が創り出した世界の外殻なのは紛うことなき事実です。エールは、ノール様が……魔力邂逅がどのようなことができる存在なのかを知っているかしら?」


「魔力邂逅は魔力の源であり、発生源であり、根源なんだろ? よく知らないけど」


「そして、魔力体同士が出会う場所であり、発生する場所であるともノール様が話してくれました。それは魔力邂逅が新たな世界を創り上げられることを例えた表現なのだと今では分かる。現実にリリアさんの中に、一つの世界があったので」


「ていうかさ、それはどうやって気づいたの?」


「培養槽内にリリアさんが入っている間に、様々な情報をリリアさんに見せ、体験させたの。培養槽内に入れてからまだ一日程度だけど、リリアさんは一ヶ月程度の生活を行ったと認識している」


「ああ、それで一ヶ月がどうとか」


「その生活を行っていた最終日に、リリアさんの精神を侵食し、私の思い通りに動くよう操作しようとしたところ他からの干渉を受け失敗した。リリアさんが目覚めてしまったのは、それが原因なの」


「で、その干渉をしてきたのが姉貴だって言うのか?」


「間違いないわ」


「ならさ、どんどん姉貴が干渉したがるような状況にさせればいいんじゃね? リリアをもう一度あの培養槽内に入れよう」


「もう二度と入ってくれないわ」


「いつまで平和的思考でいるんだよ、無理やり押し込めばいいんだ。セラ、リリアが出てきたらさっさと“闇”を使え」


二人が話していると、シャワールームからドレスをまとった状態でリリアが出てきた。


「私はもう帰りますわ」


研究施設内にあるはずの空間転移のゲートへ視線を送る。


ただし、そこにあったゲートは培養槽内で思考を操作されていたリリアの記憶のうちにあるもの。


実際にはそんなものは存在しない。


「空間転移発動」


仕方なくリリアは空間転移を発動した。


だが、発動は効力を示さず不発に終わる。


「この研究施設内は空間転移結界が張り巡らされているから、部外者が空間転移を発動しても無駄なんだ。機密情報だらけだからさ。フリーパスで空間転移を発動できるのは、アタシらドールマスターだけ」


暇そうにエールが語る。


エールの周囲に数体の透明な人型が地面から湧き上がるように出現する。


スキル・ポテンシャル流体兵器の発動だった。


「ならば……」


リリアは一気に窓へ向かって駆け出す。


「はっ? そこの窓も簡単には割れない……」


エールはそう語ったが、リリアは窓へぶつかる気はない。


ぶつかる直前に魔力体化する。


魔力のみになったリリアはなにごともなく窓を透過し、空中へ浮いた状態で先程と同じく空間転移を発動。


ゲートを潜り、どこかへ消えていった。


「あっ、ヤバっ」


エールは急いで窓の傍までいく。


最早手遅れでとっくにリリアの姿はない。


「魔力体への対策をしておくべきだった……リリアはR・ノールコロシアムのランカーだから、行先はあのマンションだろうな。さて、どうしよっかな」


コロシアム傍の高層マンションは空間転移でのみ、立ち入りができるようにR・ノールおよびR・シスイが設定していた。


そういった事実が、エールの頭を痛めた。

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