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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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変わった日常

身支度を済ませ、シャワールームからリリアは出てきた。


セラは相変わらず培養槽の傍にあるパネルでなにかを操作している。


「私のデータは取れましたか?」


「ええ、今でもしっかりと」


セラはパネル操作をしながら軽く頷く。


「今でも?」


「いえ、こちらのことです」


仄かに、セラは笑みを浮かべる。


「これで私はもう帰っても構いませんね?」


「それなら少し待ってくださいね」


操作を終えたセラは空間転移を発動する。


部屋の隅へ空間転移のゲートが現れた。


「この研究施設への直通路を作りました。リリアさんがバロック本社を指定して空間転移した場合、必ずこのゲートから来訪できます」


「行き来できるのは分かりましたが、こちら側から通った場合どこへ繋がっているのですか?」


「リリアさんが今行きたい場所ですよ。リリアさんの気分に応じて、フルオートで行き先は変化します」


「へえ、そのようなことができるのですか」


すたすたとゲートへリリアは近づく。


「では、私は帰りますわ」


「さようなら、リリアさん」


リリアは軽く手を振り、ゲート内へ入る。


次の瞬間、リリアが現れた場所は高層マンションの自宅内だった。


いつも空間転移時に現れるリビングへ移動していた。


「あれ?」


帰ってきてすぐに、リリアは気づくことがあった。


いつもならリビングのソファーに座っているセシルの姿がない。


「セシルさん?」


買い物に行っているのかなと思いつつも、リリアはリビングから寝室や他の部屋にも確認しに行った。


やはり、どこにもいなかったのでリビングに戻ると、ソファーの前に置かれているテーブルに一枚の紙が置かれている。


「あら……?」


先程までテーブルの上にはなにもなかった気がしたが、リリアは紙を見てみる。


やらなくてはならないことを見つけたから、マンションを暫くの間留守にするといった旨が書かれていた。


「やらなくてはならないこと……とは?」


リリアにはなにも思い当たらない。


普段からいつも一緒にいた仲なのに、突然なにも言わずにいなくなる程の理由など。


「セシルさん……」


リリアは急に寂しくなってきた。


なにかあるのなら頼ってほしかった。


相談してほしかった。


一言も理由を語ることなく、姿を消しても構わない。


そういった間柄ではないと勝手に思い込んでいた。


仕方なくリリアはソファーの近くへ立ち、いつもの精神統一を始め、体内の魔力流動を行う。


たとえセシルがいなくなったとしても、自らが今以上に強くなるための歩みを止めない。


結局、リリアは室内が暗闇に包まれる時刻まで精神統一をしていた。


「さて」


精神統一を解いたリリアに先程のような落ち込みが見られない。


よくよく考えてみれば、セシルはそういう人だったのではないかとの思いがあった。


いずれ帰ってくるのが分かっているのだから、もう気にしていない。


リリアは電気もつけずに浴室へ向かう。


脱衣所でドレスなどの衣服を脱ぎ、浴室では冷水のままシャワーを浴びる。


身体を洗い終えるとお湯が入っていない浴槽の中に入り、足を伸ばす。


セシルがいないため足を伸ばせるが、セシルがいないのでお湯はまだ張られていない。


壁にあるタッチパネルを操作して、リリアはお湯張りを選択した。


徐々にお湯が浴槽に溜まっていく。


リリアはその間ずっと目を閉じて精神統一をしていた。


無事にお湯は満たされ、入浴を済ませたリリアはパジャマに着替え、寝室へ向かう。


全ての部屋でリリアは電気をつけなかった。


そして、食事を取らないでいた。


魔力体のリリアはセシルがいなくては、人らしい生活をしようとはしない。


翌日早朝、リリアはいつもの時間にベッドから起き上がる。


さっさと朝の支度を済ませ、研究所と直通になっているゲートへ入った。


「あら」


すでに、操作盤の近くにセラがいた。


今来たばかりのようで、カップ式自販機のコーヒーを片手に持っている。


「今日は随分早いのね」


「特にすることがありませんので」


「ふうん」


静かに、セラはコーヒーを一口飲む。


「こちらとしては、とてもありがたい話よ。もう、実戦を行う?」


「お願いしますわ」


「分かったわ」


セラはパネルを操作し出す。


「もう昨日と違って培養槽に入らなくてもいいから、いつでも戦闘を始められるわ。準備が整ったら隣の部屋に移動して」


「ええ」


特に問題なく、リリアは隣の部屋に移動する。


コンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋。


無機質な室内にてリリアは一人、戦いの時を待つ。


「では、戦闘開始します」


セラのアナウンスが流れる。


昨日と同様にコンクリートの壁の切れ目が左右へ開き、その向こうに薄暗い部屋が現れる。


そして、筋骨隆々とした巨躯の黒いもやの化物が歩んできた。


この日もリリアは長く戦い続けた。


途中、昼休憩などの提案をセラにされたがそもそも魔力体のリリアは食事を取る必要がないため構わず続行。


結局この日は夜になるまで戦い続けた。


気が済んだリリアはセラのいる隣の研究室へ戻っていく。


「今日は終わりにしますか?」


セラはパネルにノートパソコンを置き、なにかの作業を熱心にしていた。


「ええ」


「今日は随分熱心でしたね」


「ええ、まあ」


自宅へ帰ってもセシルがいなくて寂しいから。


あとはもう寝るだけの状態にしておきたかっただけ。


「あの者たちはどうでしたか?」


「ああ、あの黒いもやたちですか? 私の力にはまだまだ遠く及びませんが、以前よりもしっかりと戦えるレベルにはなっていますよ」


「そうでしたか、それはなによりです。もう少し強めに設定しても良さそうですね」


「設定?」


「彼らはこの研究所で作り出された者たちですから」


「あの者たちは作られた存在なのですか?」


「ええ、私はそういった者を研究対象としていますので」


「まさか私を強くするためではなく、彼らを強くするために私は連れてこられたのですか?」


「半分はその通りですが、もう半分はリリアさん自身のためになっているのでは? お互いにwinwinの関係だと思いますよ?」


「それはそうですが……」


この場所で自由に戦わせてくれるのだから文句はないが。


ただどうしてもその研究対象と同格扱いなのが気に食わない。


だが指摘し続けたせいで、この環境から排除されたら困るリリアは文句を言うのを止めた。


「では、私は帰りますわ」


空間転移のゲートを潜り、リリアは帰宅する。


この日からリリアは自宅と研究施設の往復だけの生活をするようになった。


自宅にセシルはおらず、他にすることがないため、リリアは今の生活に疑問を持たない。


時折なにかを忘れている気がしたが、打倒デミスという目的の前に然程リリアは気にならなかった。

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