表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
245/294

連戦

試合終了後、リリアは個人用の医務室へと運ばれた。


ベッドへ寝かされ、回復魔法などの処置をされた後、リリアを運んだ係員は医務室を離れた。


医務室から出ていった途端にリリアはベッドから身体を起こす。


運ばれている時に意識はとっくに冴えていた。


なぜなら、ジスへ貸し与えていた魔力が全てリリアへ回帰したから。


「ここは医務室ですね……」


自らが寝かされたベッドを見た直後、報復を受ける機会がないと悟ったリリアは落胆し、顔を両手で覆う。


これでは、ただの負け損。


大人数を相手に戦い、状況に合わせ戦える力や発想を実戦で得ておきたかった。


「リリア」


医務室内からリリアを呼ぶ声がした。


「?」


隣の方から声がしたので、そちらへ顔を動かす。


ベッドの脇にある椅子へ腰かけている杏里の姿があった。


係員と一緒に入ってきていたらしいがあまりに落胆していたせいか、一切気づかなかった。


「負けちゃったね」


「ええ……」


「なんか、あの試合。わざとだよね?」


「そうです」


「ジスさんは一方的に勝たされていたよね? リリアや君の友達のセシルさん、対戦相手のジスさんに関係がある者たちは誰も賭け行為をしていなかった。これは本当に八百長? なにがしたかったの?」


「私が負けたら大人数と戦えるとのことでしたので……」


「ああ、そういった報復行為も確かにあるね、お金がかかっているから。でも、リリアは自らの強さを忘れている。強い人が負けても普通は誰も挑めない」


「戦うのが好きな者はいないのですか?」


「人それぞれだし」


再び、リリアは肩を落とす。


これなら負けなきゃ良かったと考えている。


「それでも今回のことで分かったよ」


杏里はリリアの肩に手を置く。


「リリアは強い人と戦いたいんだね。わざわざジスさんを強くしていたのはそのためだよね?」


「ええ」


しっかり、杏里を見据えた。


「なので、私は貴方と戦いたいのです」


「いいよ、戦おうかリリア」


二つ返事でリリアの挑戦を受け入れる。


「先に断っておくけど、ボクはR・ノールコロシアムランキング2位だ。運営側の特権でこの位置にいるわけじゃない」


「存じております」


戦う前から杏里が強者なのは分かっていた。


杏里もデミスと同じく魔導人。


人の身でありながら、自らの身体で質の高い魔力を作り出せる存在。


「戦いたかったのです、杏里さんが魔導人だと知ったので」


「ボクはリリアのように優しくないよ」


杏里の腰回りにトンファーの入ったサイドパックが現れる。


空間転移により出現していた。


「ちょっと」


医務室の入口から声が聞こえた。


少しだけ医務室の扉を開いて室内を見ているルインの姿があった。


「あまり関与したくないのだけど……できれば、このコロシアムで戦うのは止めてほしいかな」


「止めるつもりですか?」


「桜沢グループ入りさせたいのに、肝心の社長のいもう……弟に手を出すのが問題なのよね」


その言葉の後、杏里はルインに手をかざす。


「手を出さないでね」


「最初からそのつもり」


「リリア、今からコロシアムのフリーファイトエリアに行こう」


「ええ」


杏里は空間転移を発動する。


現れた先は、コロシアムの受付前だった。


「あら、杏里様? 本日はどのようなご用件でしょうか?」


受付の女性が杏里へ声をかける。


いつもの水人の女性だった。


「フリーファイトエリアで一時間練習試合をするね」


「空いているエリアをご自由にお使いください」


「じゃあ、行こうかリリア」


リリアはうなずき、杏里についていく。


ついていく間、周囲にいたコロシアムの観客たちもどっさりついてきた。


イベントの匂いを嗅ぎつけ、ついて来ている。


R・ノールコロシアムランキング2位とランキング70位の綺羅星の二人が戦う。


しかも誰でも無料で見られるフリーファイトエリアで戦うのだから尚更である。


フリーファイトエリアでの戦いの際には、控え室はなく、選手入場ゲートを通る必要もない。


普通に観客と同じ通路を通ってエリアへ向かう。


フリーファイトエリアがある室内には、十数個の舞台があり、その上で各々が戦闘や訓練を行う形式。


ここでは賭けができない代わり、観客は誰でも無料で戦闘や訓練を見ることができる。


それは実技が行える単なるトレーニング場という側面があるから。


「さてと……」


舞台へ上り、リリアと杏里の二人は向き合う。


周囲に集まった観客からは歓声や、サインを書けとか、さっき負けていなかったかとか色々と聞こえる。


「ルールはどうしよっか?」


杏里が聞く。


「意識を失ったり、死亡した者を負けとしましょう」


「ということは、なんでもありね」


「ええ」


「なら、できるだけ本気を出そうかな」


杏里の瞳の色が銀色へ変化する。


明らかに先程までとは覇気が異なり、能力が格段に上がっている。


杏里は覚醒化の変化を行っていた。


「……これは、不味いですね」


杏里の能力値が跳ね上がり、リリアは嫌な予感を覚える。


以前戦ったセフィーラよりも杏里は強く、以前以上に死を感じた。


「変化をしないの?」


杏里はそこで不自然さを感じた。


通常ならば、相手が変化した瞬間に相対する者は変化を行う必要がある。


このままでは戦力差があり過ぎて負け一択となってしまう。


「変化とは?」


「まさか今の状態でボクと戦うつもりじゃないよね?」


「私はこのまま戦うつもりです」


「例えば覚醒化だったり、炎人だとすれば炎人化の上位変化の炎帝化をすればいいと思うの」


「それはどういう……?」


「リリアはジーニアス君に勝ったんだよね?」


頭を捻っても杏里には分からない。


レベル差や戦いの経験値からしてリリアがセフィーラに勝てる要素はない。


あるとすれば、それは変化を行えていて上手く立ち回れたからである。


「どうやって、ジーニアス君に勝てたの?」


「あの、それはセフィーラさんの話でいいのですよね?」


「うん」


「どのように勝てたのかは私にも分かりません。なぜか結果的に私が勝てていました」


「リリアには隠された力があるのかな? そうじゃないと、ジーニアス君には勝てない。あの子はボクと同じ魔導人だから」


ゆっくりとした足取りで、杏里はリリアに近づく。


リリアを仕留めるために。


それに合わせて、一気にリリアは突撃をかける。


先に動いた杏里の動きを乱す考えもあった。


「てや!」


渾身の直突きを杏里の顔面に放つ。


杏里は右手に持つトンファーを回転させ、リリアの拳を打ち払うようにして空振りさせた。


それを読んでいたように、リリアは強引に右足で前蹴りを放ち、杏里のみぞおち付近を蹴り込んだ。


リリアはいい蹴りが入ったと思った。


だが、そう上手くはいかない。


急所への蹴りなど意にも返さず、杏里はそのまま前進。


蹴り込んだままの状態だったリリアは体勢を崩し、背後へ押し切られ床へ倒された。


首筋にトンファーを押しつけられた状態で。


この一撃でリリアの首は圧し折られ、相当のダメージを負った。


「ま、待って……」


リリアは辛うじて声を出す。


「待つはずがないじゃん。自分の力で切り抜けないと」


片膝をつき、リリアの首筋に押し当てていたトンファーを杏里はリリアの胸部へと移す。


胸部を潰し切り、これで勝負を終わらせようとしていた。


差し迫った死に焦ったリリアは首の周囲を炎人化させ、ダメージを打ち消す。


首の怪我や神経が繋がり、身体が動くようになったリリアだが、すでに遅かった。


「えい」


リリアをトンファーで一気に潰していく。


胸部の骨も臓器も背骨に至るまで全て潰されてしまった。


魔力で防御をしていたのにもかかわらず、一撃で攻撃を決められたリリアは声もなく意識を失った。


立ち上がった杏里はトンファーを振るい、リリアの血を払う。


「エクス」


その後で、最上級回復魔法のエクスを発動した。


一瞬でリリアの怪我は癒えた。


怪我が癒えるのと同時にリリアは上体を起こす。


「私の負けですね……」


「一時間の練習試合だから負けだと判断するのは早いよ」


「まだ戦えるのですね?」


「うん」


「次は貴方を倒します」


リリアも立ち上がり、杏里に向かって構えの体勢へ移った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ