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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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上位組織の務め

リリアが杏里と一緒に総世界中にある各地のギルドを回り始めてから数時間が経過していた。


総世界中とは言っても能力者用のギルドのみ。


魔力を有していない能力者用以外のギルドも様々な世界にあるが、そういった者たちに他の世界の存在を知らせるわけにはいかないため除外された。


それでも全て回るのにこれ程の時間がかかるのを初めて知ったリリアは疲れ切っていた。


だがそれもついに最後の一件。


最後の一件は、普通のなんてことのない個人店。


簡単な生活雑貨や書籍、家電などが売られていた。


店主はレジ前の椅子に足を組んで座りながら新聞を読んでいる。


見てくれは、どう見積もっても道楽でやっているような店。


客がほとんど全く来ない。


リリアが最後に貼った手配書は個人店の倉庫の壁だった。


ここが、ギルドとなっている。


しかしそんな場所がギルドであると簡単に分かる術がある。


それは手配書自体に魔力がこもっているから。


魔力を発するものが大量にあるところということで、魔力を有している能力者には分かりやすい目印とも言える。


「ようやく終わったね」


リリアが倉庫の壁へ手配書を貼り終えると、杏里が生き生きとした様子でそう話した。


一緒に全てのギルドを回ったのに、杏里に疲れの色はない。


「ようやく終わりましたか……」


リリアは手首につけていた時計で時間を確認した。


この世界ではまだ昼頃だが、R・ノールコロシアムの世界で合わせた時計の時刻はすでに夜の十時。


「リリア、総世界中のギルドの場所は覚えられたかな?」


「全てのギルドを空間転移で紐づけしましたので問題はないでしょう」


「これから月に数回ペースで今まで回ったギルドの全てに立ち寄って、依頼書を取ってくる作業も交代制であるから忘れないようにね。依頼書を取ってきたら今度は振り分け作業をして、総世界中の傭兵たちがいるギルドに依頼書を置いていく作業もあるから今度は挨拶回りを兼ねて全ての詰め所を回ろうか」


「まだ覚えなくてはならない場所があるのですね……」


「これが上位組織の仕事だから仕方ないよね。じゃあ早速……」


そう語り、杏里はこのまま全ての傭兵ギルドへ向かおうとした。


だが、リリアの疲れた様子を見て、止めた。


「全ての場所を回るのは大変だよね、ボクも疲れちゃった。最初は大変かもしれないけど、この他に自らが請け負った仕事も熟さないといけないからしっかり慣れるようにしてね」


「そういえば、私個人の仕事もあるのですね……」


「ねえ、リリア。君はこの仕事をしてみないかい?」


にこにこしながら、リリアに一枚の依頼書を手渡す。


「どれどれ……」


少し疲れた様子で、リリアは依頼書を眺める。


依頼の内容は、ギャングに家族を殺害された依頼者が敵討ちをして欲しいとの内容。


依頼者らは貧民街に住む者たち。


依頼者自身も自らの手ですでにこの世を去り、その残された一家の資産が依頼金代わり。


ギャングはその国の軍隊でも太刀打ちできない規模であり、ギャング自体が軍隊といっても良いレベル。


「あの……これは受けるべきなのでしょうか?」


依頼者がすでに亡くなっており、通常ならばこれはキャンセルすべき依頼。


「残された資産は数万程度の金額にはなる見積もり。ギャングの数は大体300人かな? 勿論、構成員が他にもいるかもしれないけど」


「たったの数万ですか?」


下位組織スイーパーでリリアが今まで請け負ってきた仕事は一件につき、平均で数千万程度。


一番安くとも数百万程度が最安値。


この規模なら情報集め、捜査、戦闘、捕縛と目白押しでせめて数億程度からにして欲しかった。


「リリアは……君には弱者救済の信念がないの?」


「………?」


「この人たちの行動で、これからももっと犠牲者が増えていく。虱潰しに丁寧に一人一人殺害していかないと駄目だ。そうして地獄に落ちた彼らから死後援助された土地財産を、委託されたボクらが代わりに全て売却して、全額を被害者や支援団体に寄付するの。そこまでやって初めて依頼は終わる」


「それはもう依頼の範疇を超えています」


リリアは話が分からなくなってきていた。


自ら殺害した者たちから奪い取った財産を救済として被害者たちへ分け与えるという意味なんだろうが。


なぜ、悪側が自ら進んで寄付したかのような口振りなのかが謎であった。


えげつない方法で殺害しているのに、杏里にとっては自らの行動で無事に改心した悪との共同作業なのが根底にある。


「そっか……残念だな。これは、ボクが受けるよ」


達成しても高々数万程度のお金しか受け取れない依頼書を大切そうにポケットにしまう。


リリアは杏里が見た目通りの可愛らしくて優しい女性のような男性だと思っていた。


しかし、やり口が恐ろしい。


罪の大小に関わらず殺害すると断言するのは、一言で言い表すと鬼である。


杏里のおかげで助かる命は今後を含めれば数多の数となるだろう。


だが、夥しい数の犠牲の上でしか成り立たない正義だった。


「さあ、リリア。帰ろうか」


「ええ」


率先して杏里が空間転移を発動。


二人は黒塗りの屋敷のエントランスへ移動した。


「リリアの自室は一階だよね。今日はここで解散しよう」


「あの、杏里さん」


「どうしたの?」


「貴方は今まで先程のようなことをしていたのですか?」


「当然さ」


少しだけ、杏里は寂しそうに語る。


「これは、ボクらの使命なんだ。でも知っているはずなのに、知らない振りをしている人が多い。天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさずというけれど、神様は決して助けてはくれやしない。この世の中は弱い者にとても冷たいの。だから、手を差し伸べてあげる人がいてもいいと思うんだ」


リリアに手を振り、杏里は屋敷の階段を上っていく。


自らも同じく正義の行いをしたいと考えているリリアだが、どうしても杏里のやり方には納得ができないでいた。


「それはともかくとして……」


疲れていたので、リリアは一階の自室へ向かう。


自室へ入り寝室へ向かうと、そこにある空間転移のゲートを潜り、高層マンションの方の自室へ移動した。


空間転移のゲートを設置した部屋を通り、リビングへの扉を開く。


「ただいま戻りました」


扉を開けた時、リビングに電気がついていたため呼びかけてから室内へ入る。


返答はなかったが、気配を感じた。


リビングのソファーに座りながら、うつらうつらとしているパジャマ姿のセシルがいた。


セシルの前に置かれたテーブルには、一つのコンビニ弁当とペットボトル飲料が用意されている。


「セシルさん、私の帰りを待っていて下さったのですね」


そっと、リリアはセシルに近づき、セシルの隣に座った。


「あら?」


ソファーの揺れに気づき、セシルは自らの隣を見た。


「リリア、帰ったのね」


「ええ、ただいま戻りました」


「お腹、空いたでしょう? 貴方の分も買って来ておいたの」


「お腹は空いていません」


リリアはセシルに寄り添う。


「なーに? 疲れちゃった?」


「ええ」


「それじゃあ、お風呂に入りましょうか」


立ち上がったセシルに手を引かれ、リリアも一緒に浴室へ向かう。


すでにセシルは入浴済みだったが、リリアの身体を洗ってあげたくて一緒に入浴した。


リリアは帰りを自ら進んで待っていてくれたセシルの優しさに嬉しさを感じている。


「セシルさんがいてくれて良かったです」


身体を洗い終え、一緒に浴槽へ入りながら、リリアはセシルに労いの言葉を口にする。


「どうしたの、急に?」


「いけませんか?」


「全然。もっと私を頼って、もっと褒めてくれると私は嬉しいわ」


「ええ、勿論です」


このセシルとの関係が、ずっと続けばいいとリリアは感じていた。


総世界最強の傭兵部隊に所属し、今後さらに強くなれると信じて。


命を懸け、デミスと相討ちしてでも勝利すると心に決めていたのに。


デミスを倒した後を、その先を見てしまい、心に揺らぎを生じさせていた。

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