手配書貼り
「私は、チャンスを掴みます」
どこか発想の根源が似通っているのか、リリアはエールの発言をそのまま話している。
得体の知れない方法で、自らを調べられるかもしれないのに。
「ほら、兄貴。リリアもそう言っているよ? アタシの提案通りじゃん。良かったね、アタシがいて」
すたすた歩いて、エールはリリアの隣に立ち、リリアの手を掴む。
見れば見る程、エールはゴスロリ風の姿をしていたあの時の女性とは思えなかった。
化粧をしておらず、すっぴんで眉だけが描かれているだけ。
三白眼で、どこかにやっとした感じの表情をしている。
あの時の整った可愛らしいお人形のようなエールとは異なっていた。
「ん? なに?」
顔をじっと見られ、エールは不思議に思っている。
「以前、会った時の服装や化粧ではありませんね」
「リリアもゴスロリに興味があるの? それならゴメンね、あの格好はコロシアムでの衣装ってアタシの中で決めたから、もうコロシアムでしか着ない」
「そうでしたのですか」
まさか、あの時とは印象が違うとも言えず、納得したような反応をした。
「リリア、これから予定ある?」
「あるよ」
リリアではなく、杏里が答える。
「これから写真を撮りにスタジオ行かないと」
「もしかして、手配書の写真撮るの?」
「うん」
「いつも思うけど、犯罪者扱いされるのをわざわざ律儀にしたがるのって謎だよね」
「犯罪者からも、弱者の味方からも一目置かれておくのがいいの。まず顔が知られていなきゃ意味がないから」
「そういうもんですかねえ」
「いつ、リリアをバロックに連れていくの?」
「今すぐにでも」
リリアの手を少しだけ強めに引く。
少しだけ、エールの雰囲気が異質なものへと変化していた。
「駄目だからね。さっきも言った通り、これから写真撮影」
「はいはい、兄貴。分かりましたよ」
なにか言いたげな様子で、エールは部屋を出ていく。
屋敷内にある自らの部屋へ帰った様子。
「リリア、ゴメンね。エールってああいう子だから」
杏里は微妙そうな表情をしている。
「化粧をしていなかったから、エールは今日オフの日なんだ。きっと、バロックへ連れていこうとしたのも冗談みたいなものだと思うの」
「そうなのですか? 知りませんでした」
「誰かに褒められたい、認められたいと考えている子だから。別に悪気があるわけじゃないの」
「あの、ところでスタジオとは」
「コロシアム内の商業施設に写真を撮るスタジオがあるの。まずはそこへ行こっか」
「ええ」
「それじゃあ、シスイ君。コロシアムの方、よろしくね」
杏里はシスイへ話を振る。
「うん」
返答をしたシスイは再びノールの姿へ変化する。
変化を終えると、空間転移を発動し、コロシアムへと向かった。
「それじゃあ、ボクたちもスタジオへ行こうか」
杏里は空間転移を発動する。
杏里・リリアの見えている風景が徐々に切り替わっていった。
「あれ?」
R・ノールコロシアム内に移動した瞬間、リリアは不思議に思うことがあった。
すでに、コロシアム内の大きなスタジオ前にいた。
「ここは一体?」
「他の人たちは、R・ノールコロシアムのエントランスに現れるよう空間転移結界で設定しているけど、ボクたち運営側は別なの。どこにでも行きたい場所に空間転移ができるんだ」
リリアの反応を見て、杏里が説明する。
「なるほど……」
どこでも移動が可能なのは、とても便利だと思った。
「リバース入りした私も今後できますか?」
「コロシアムの運営者じゃないから、リリアはできないよ」
「それもそうですね」
軽く一蹴され、リリアは残念そうな表情をした。
杏里の話したボクたちとは、リバースのメンバーではなく、コロシアム経営者側のこと。
テリーやアーティ、綾香とルインも同じくエントランスから入って来ている。
R・ノールコロシアムから外へ出る際は誰でもどこからでも空間転移できるが、入る際は必ず認証が必要ということだった。
ひとまず、二人はスタジオ内へと入っていく。
スタジオのスタッフは全てを分かり切っていたように、テキパキ行動してリリアの写真を撮影していく。
リリアも他の者たち同様に非常に綺麗に写真を撮られた。
撮影後、二人は談話室へ通される。
あとは印刷で少しの間、待たされることとなった。
数十分待機したのち一人の男性が談話室を訪れた。
「杏里さん、手配書をお持ちしました」
「うん、ありがとう。さあ、リリア。手配書が完成したよ」
男性から手配書を受け取り、それを杏里はリリアに見せる。
「どれどれ……」
リリアは写真の写りを確認する。
手配書には、モデル撮影した綺麗な自らが掲載されている。
綺麗な笑顔の美しき女性の姿が確かにそこにあった。
他の悪党たちとは雲泥の差で、他のリバースに所属している者たちと同様に犯罪者らしさが欠片もない。
「これで、リリアにも懸賞金がついた。さっきも話した通り、これからはスリリングな毎日が訪れるよ。一緒に悪を叩き潰していこうね」
凄く優しそうな笑顔で杏里は語っている。
「そうですね……」
しっかりと仲間入りしたのは分かったが、自分はこれで百億の賞金首が確定。
普通の賞金首はデッドオアアライブだが、デッド限定となっている。
捕まったり生け捕りになった際は、その対象を中心に大規模レベルの魔法を打ち放つ取り決めがリバースには存在する。
ノールが決めた取り決めだが、未だかつて敵に捕まるようなへまをした者はいない。
「リリア、これから総世界中のギルドへ手配書を貼りに行くよ。君もギルドがどの場所にあるのかを知るためでもあるから覚えるようにね」
「分かりましたわ」
リリアは杏里と一緒に総世界中のギルドを空間転移で巡っていく。
巡っていく間に自らと同じような多くの傭兵たちに出会ったが、その者たちのことごとくがリリアを知っていた。
新たにリバースへ加入されたリリアという者の名は、猛者として傭兵たちに広く知れ渡っていた。
これは自らが非常に強くなれた証拠だとリリアは自信に満ちたが……
「とはいえ、なぜ私が自らの手配書を自らの手で貼らないといけないのでしょうか?」
行く先々のギルドの壁へ自らの手配書を丁寧に貼っていく作業にリリアは疑問を感じていた。
それも十数件目となり、率直な意見として杏里に尋ねる。
「これは、とても大事なことだから。他の皆もリリアと同じように、一枚一枚自分の手で貼っていったんだよ」
「そ、そうなのですか」
意味が分からないが、上位組織であるのならそういうのこそ、下位組織の者たちに任せればいいのではないかとリリアは思う。
「リリア」
「どうしましたか?」
「ボクと戦いたいという話、ボクは受けるよ。近いうちにコロシアムで戦ってみようか?」
「……本当ですか?」
唐突なタイミングで語られ、リリアは少し驚いている。
「なんか、気乗りしない感じ?」
「いえ、いずれは戦うつもりですが……今は戦えません」
あまりにもタイミングができ過ぎているとリリアは思った。
まさか八百長紛いの行動をしようとしているのが、すでに勘づかれているのではと考えてしまう程。
今の状態で杏里とまともに戦えば負けるだろうと考えているリリアはこの段階で杏里と戦うつもりがない。
ジスとの戦いを終えるまでは、コロシアム内での自らの価値を落とすわけにはいかなかった。
「今が無理なら、ボクはいつでも構わないよ」
「それなら助かります」
「そっか」
再び、リリアは自らの手配書を丁寧に貼り始める。
「もしかしたら、悪だくみを考えていたりしない?」
「………」
リリアの手が止まる。
「今まで大量の悪党をあの世に葬ってきたからか、ちょっとした機微でもなにかしらの悪事を働こうとしているのかがボクにはなんとなく分かるの。ボクには言えないなにかを隠しているよね?」
「やはり、分かってしまいますか?」
「うん」
杏里は笑顔で答える。
今の話を疑いもなく信用して素直に認めたリリアの嘘を吐けない性格を杏里は気に入った。
「私は……次の試合に負けます」
「R・ノールコロシアム内で八百長を行うつもりだったんだね?」
「はい」
「少しリリアにはガッカリしたかも。でも、行動を起こす前に間違いを認められたのは褒められるべきことだとボクは思うよ」
「ええ」
「えっと……次のリリアの対戦相手は……」
スマホを取り出した杏里はなにかを確認し出す。
「次の対戦相手は、セロットさんだね。この人に負けるつもりだったの?」
「誰ですか、その人は?」
「この人じゃないの?」
「そもそも私の対戦相手とは?」
「?」
杏里はなにがなんだか分からない様子。
リリアの反応から嘘を吐いていないのも分かったから。
「じゃあ、次のレアードさん?」
「全く知りませんわ。初めて、その者らの名を聞きました」
「もしかして、リリアは自らが誰かに挑まないとコロシアムで戦えないと思っていたりする? ここは誰もが挑戦権を有しているの。リリアも大小関わらずレベル差のある者から戦いを挑まれる立場だよ」
「そうでしたか。ところで、その……セロットとはいつ戦うのですか?」
「今日から一週間以内だね。リリアの態勢が整ったらいつでもOK」
「でしたら、明日にでもまとめて戦いましょうかね」
リリアの様子を見て、杏里はなんとなく不正な行為はしないだろうなと思った。