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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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強化の流れ

ジスがリリアに救われてから数時間後。


夜の六時頃にセシルが空間転移を扱って自宅へ帰ってきた。


「ただいま~」


セシルの声は上機嫌。


以前作ったブラックカードを使いまくり、様々な店でショッピングを楽しんできていたらしい。


その証拠に両手にはブランド品の買い物袋が沢山。


「あら……?」


上機嫌だったセシルの表情が強張る。


リビングにはソファーに座るリリア以外に、もう一人上下スウェット姿の男がいたから。


この時、リリアは普段の紫色のドレス姿ではなかった。


近代的な世界の若い女性らしい流行りの服装をしていた。


「誰よ、アンタ!」


「セシルさん、静かにしてください」


「ええ……でも、そこに」


セシルは引き気味に、ジスを指差す。


「この方は、私とコロシアムで戦ったジスです。本日より、ジスもこの家に住みます」


「どういうことなの! そんなことさせない!」


「このマンションは私がコロシアムのランキング100位になった際に手に入れた特典です。つまりは、私の所有物。セシルさんがとやかく言う権利はありません」


「やだよう……せっかく、私とリリアだけの場所なのに……」


「リリアさん、私は……」


めそめそし出したセシルを見て、ジスはなにかを話そうとする。


「仕方ありませんね。ジス、貴方は以前私たちが住んでいた部屋で生活をしてくれませんか? 空間転移のゲートはそちらの部屋に続いています」


リビングから出入りができる一つの部屋をリリアは指差す。


その部屋には魔導剣士修練場のリリア、セシルの自室へ繋がるゲートと、R・ノールの屋敷の自室へ繋がるゲートがあった。


「セシルさんも、それなら構いませんね?」


「……そっちなら私たちのものはなにもないし」


釈然としない様子だが、セシルはひとまず納得する。


「でもどうして、ジスを家に? なんかその、見た感じ痩せた?」


ジスになにがあったのかを知らないセシルは適当に話している。


「ええ、色々とありました……」


「ああ、いいのいいの。私は重い話が聞きたくない。貴方の中だけに大事に取っておいて」


「全くこの人は……」


リリアはセシルになにか言いたくなったが止めた。


セシルが失礼なのは、なにも今に始まったことではないと思いながら。


「リリアはどうしてジスを家に連れてきたの?」


「とても無様でしたので」


リリアはジスへ視線を移す。


実力も経験もあるこの男が、この地位にまで貶められるのは相応しくないと感じている。


「なので、ジスにはもう一度コロシアムランキング100位以内に入ってもらいます」


「100位に? あれ、ジスのランキング順位って?」


リリアとジスが戦った際、ジスのランキングは丁度100位だった。


リリアに負けてもジスはランキング101位に落ちるだけ。


例えジスが弱っていたとしても、100位以内への復帰は簡単なことだとセシルは思う。


「今現在のジスのランキング4万位程です」


「えっ? そんなに下がるの?」


いくらなんでも下がり過ぎだと、セシルは驚いている。


「ジスは敗北後に様々な者たちから当てつけや嫌がらせを徹底的に受け続けていました。あの試合はお金がかかっていましたから、自分たちに降りかかった損失分、ジスに地獄を見せてやろうと躍起になった結果でしょう。戦えないジスを無理やり戦いの場に担ぎ出し、嬲り続けた。対戦相手は楽に勝て、仕返ししたい者は楽しい時を過ごせるので利害が一致した、とても恐ろしいことです」


あまりにも負けが込むと、一位分だけ順位が下がるのではなく、数千位単位でも下がってしまう。


もうそれは徹底的に負け続けた証拠であり、通常ならもう二度と武に携わる気概すらなくなる。


以前、スクイードが話していた内容と、ジスの今の状況はそれに似通ったものだった。


「ええ……それって誰も止めなかったの? いくらなんでも違反行為でしょ?」


「関係者にお金でも握らせていたのではないでしょうか? もしかすると、その時現場にいた者も損害を被っていたとかでは?」


「そういえば、ジスは魔界の……」


ジスと魔界の邪神ルミナスがともに行動していたのをセシルは思い出す。


「ええ、魔界の権力者に裏切られたのです。魔界の邪神ルミナスもジスへ賭けていたのでしょう。しかし、その損失を負わされては堪らない。とのことで、ジスは見捨てられたようです」


「なるほどね、それで可哀想になって助けてあげたんだ。リリアのそういう優しいところは大好き。誰にでも好かれるお姫様らしい感じが出ているわ。でもそれって私だけに向けてくれてもいいのよ?」


相変わらず、セシルは適当に話している。


「最終的には、ジスがこの私に勝てるようになってもらいます」


「無理でしょ、この前の戦いではリリアの……アッパーカットで一撃だったじゃないの。ジスじゃ絶対に勝てるわけない」


「いいえ、勝たせるのです。そのようにさせるのが、今後を見据えた私の目標でもあります」


「まさか勝たせてあげるってこと? そんなの露骨な八百長じゃないの。下手なやり方じゃあ簡単にバレちゃうよ。だって、運営しているのは上位組織の連中なんでしょ? 絶対に戦闘に関して目の肥えた武闘派ばかり」


「ですから八百長ではなく己の実力だけで勝ってもらいます」


「ええ……」


セシルは絶対に無理だと感じていた。


リリアはジスなら確実に自らに勝てると考えている。


元々レベル差だけならば七万程もあるのだから、自分が手心を加えて鍛え直せば成し遂げられるだろうと。


ジスはリリアの話に無言で頷いていた。


リリアが道を作ってくれているのは分かるが、それを成し遂げるにはただの一撃で自らを屠った者に勝たなくてはならない。


リリアに勝つなど、とんだ夢物語だとジス自身も思っている。


だからこそ、ここからが正念場だとジスは心を決めていた。


リリアの恩義に報いるため、リリアを必ず打ち倒すと。


「では、話はまとまりましたね」


ソファーからリリアは立ち上がる。


続いて、ジスも。


「えっ、なに、どうしたの?」


セシルが不思議そうに聞く。


「セシルさんが帰ってきたら、ジスの服や下着、アメニティグッズなどを買いに行こうとしていました」


「ああ、そう。確かに上下スウェット姿じゃあねえ……あれ、前の服は?」


「ぼろぼろだったので捨てました」


「リリア、買い物に行くならこの世界以外で買うようにして。二人が恋人同士だとか報じられると腹が立つから」


「そのつもりで服装も着替えておきました。勿論、別の世界で買ってきますよ」


リリアは空間転移を発動し、ジスとともに消える。


それから、ジスのための服などの様々な生活道具を購入していく。


この日はもう夜遅くとなっていたため、リリアがジスを鍛えるのは翌日からとなった。

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