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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
233/295

面接

空間転移を発動した次の瞬間。


リリアは黒塗りの屋敷前に現れていた。


この屋敷にリリアは見覚えがあった。


以前、R・ノールとともに二ヶ月間修行をした場所にあった建物。


ともすれば、背後には。


「………」


リリアは黒塗りの屋敷から視線を逸らし、後方へと振り返る。


そこには、ちょっとした木々や草木がある程度で他にはなにもなかった。


「よく来たね、リリア。歓迎するよ」


屋敷の玄関の方から女性の声が聞こえた。


「セフィーラさんですか?」


リリアは屋敷へと視線を戻す。


玄関の扉を少しだけ開いて待っているセフィーラの姿があった。


今日もコロシアム内にいた時と同じく、美しい大人のエルフ族の姿をしている。


異なる点は、エルフ族らしい緑色の髪色と瞳の色だけ。


「なにかあったの?」


「この屋敷の正面に使用人が住むようなログハウス風の家はありませんでしたか?」


「ログハウス風の家? そんなものはないよ。そんなものが屋敷の正面になんてあったら、この屋敷の景観に関わるじゃん」


「そうでしたか」


歩合制傭兵部隊リバースの副統領春川杏里に言われた内容とほとんど変わらないことをセフィーラは語った。


やはり、この黒塗りの屋敷前にはリリアとR・ノールがともに過ごしたログハウス風の家は存在していない。


「さっ、それはいいから。家に入って」


「分かりましたわ」


セフィーラに促され、リリアは黒塗りの屋敷内へ入った。


エントランスの正面には階段があり、左右には回廊が続いている。


屋敷は三階建てで、部屋数は約40室。


一部屋一部屋のサイズも広く、とても大きな屋敷だった。


「あの、こちらは?」


リリアがあるものを指差す。


階段方面へ向けられた矢印が描かれた小さな案内板が立っていた。


「リリアのための案内板だよ。初めて屋敷を訪れる面接に来た人用に案内板を用意しているんだ」


セフィーラの案内で三階のとある一室まで、リリアは案内される。


そこまでの道すがらには何個か同じ案内板があり、ここまで誘導されるようになっていた。


「この部屋にノールさん、杏里さんがいる。別に緊張とかはしなくていいから、普段通り話せばいいと思う」


「ええ、ありがとうございます」


ドアノブに、リリアは手を伸ばす。


「ちょっと」


「ああ、そうでしたわ。マナーでしたね」


セフィーラの注意でリリアは扉を軽くノックする。


「もし……もし……」


「どうぞ」


室内から声が聞こえた。


「ええ」


リリアは扉を開く。


室内はとても広かった。


LDKの室内には明らかにお金のかかった家具家財が見える。


その中には、この部屋には不似合な黒いアウトレットソファーもあった。


「こんにちは、リリアさん」


スーツを着込んだノール・杏里の姿があった。


テーブルを挟み置かれた高級そうなソファーに二人は座っている。


杏里が手招きしていたので、リリアはもう片方のソファーに腰かけた。


「なぜ、スーツ姿なのですか?」


スーツを着慣れていないのが、リリアからでもよく分かり尋ねる。


「それは前にも言ったじゃん。面接の基本だよ、リリアはスーツを一着も持っていないの?」


ノールが問いかけに答える。


姿形はノールそのものだが、実際はシスイが変化していた。


「持っていませんわ。姫である私の正装とは、このドレスだからです」


「それもそうだね、余計なことを聞いちゃったかな」


ふっと頬笑み、ノールの姿からシスイへと変化する。


「ようこそ、リリア。よく来てくれたね。僕たちは君をずっと待っていたんだ」


「私を?」


「率直に言うよ、歩合制傭兵部隊リバースに入ってくれないかい?」


「私は、スイーパーという傭兵部隊に所属しております」


「それについてはもうスイーパーの統領スクイードさんに話を通している。リリアの成長と、上位組織入りをとても喜んでいた」


「私は……八ヶ月後には死にます。そのような先を見据えた行動など取れません」


「ああ、なんだそんなこと? リバースに所属していれば死も乗り越えられるよ」


「死を乗り越えられる……?」


全く思いもしなかったことを聞かされ、リリアは言葉に詰まる。


「常に死と隣り合わせのコロシアムを経営している時点で、そういう能力が扱える者を用意しておくのは当然。魔力体としての死である分解さえしなければ、リリアが死んでも生き返られるよ。それにリリアがコロシアムで殺害したジス・レイアウッドも今では普通に生きている」


「本当にそのようなことが?」


「できるよ、実際に。リリアはジーニアスさんと戦った際に呆気なく死ぬと思っていたくらいだし。リバースに所属している人たちは僕を含め情け容赦ない人たちばかりだから、こっちも準備万端だった」


「では、貴方たちが控え室にいたのは……」


「やっぱり勝てなかったね、僕たちと一緒に強くなろうとでも生き返らせた後に話して、スカウトする予定だった」


「私をそこまでしてスカウトしたい理由とはなんなのですか?」


「単純に能力が高く、心も強いからだ。君こそリバースに必要な人材」


「そこまで言われますと……」


リリアの心は揺らいでいた。


リバースに所属してもいいかなと次第に考えるようになっていた。


しかし、リリアはスカウトの真意を気づいていない。


杏里・シスイの目的は行方不明になってからのR・ノールとなにかしらの関係が唯一あったリリアを自らの近くに繋ぎとめておきたいだけ。


できるだけ虚栄心の塊みたいな者の方が二人にとっては扱いやすくて良かった。


「私はリバースに入りますわ。かけもちで」


「?」


シスイは首を傾げる。


「ようこそ、歩合制傭兵部隊リバースへ」


シスイに代わって、杏里が答えた。


「ええ、ありがとうございます」


「急な話だったから、ボクたちリバースについて話すだけで今日は解散にしようね」


「ええ」


「待って、杏里姉さん。かけもちってどういうことなの?」


シスイには今でも意味が分からない。


下位組織からの引き上げ提案なのに、それがなぜかけもちの話になるのかが到底理解できない。


「スイーパーとリバースのかけもちでしょ。そんな小事にこだわっているようでは駄目」


「杏里姉さんがそういうのならそうだね」


シスイは簡単に折れる。


ノール・杏里の二人には基本的に逆らわない。


一応、上位組織の内情が下位組織に流出してしまうのを未然に防ぎたい気持ちがシスイにはあった。


「ボクたち、リバースについてを話そう。リバースに所属しているのは現在10人。統領のノール、副統領のボク、シスイ君、綾香姉さん、ルイン、エール、ジーニアス君、ライル君、ルウ君、テリーさん。皆強くて優しい人たちばかりだから仲良くしようね」


「リバースメンバーは存じております。手配書に全員が記載されていますので」


「リリアさんもできれば明日辺りにスタジオで撮影したいの、予定は大丈夫?」


「撮影ですか?」


「そう、手配書の」


「私は別になにも悪いことはしておりません」


「様々な世界の国々へ出向いて傭兵稼業をしていたよね? それでも悪いことをなにもしていないと言えるの?」


「悪いことをしていました」


「隠さないんだね、リリアさん。きっと優しい子なんだろうな。リリアさんの懸賞金は……とりあえず100億くらいにしておこうか」


「あの、これは一体なんのために?」


「できるだけ多くの人にリリアさんを周知させるため」


「そうですか」


エアルドフ王国の姫が犯罪行為を行っていたと知られれば不味いのではないかとリリアは考えた。


しかし、そういった総世界の事情を魔力を持たぬ者だらけのエアルドフ王国の者たちが知るはずもないと即座に気づく。


「多分これからの日々は、スリリングな生活になると思うよ。ボクらも最初はそうだったから」


「狙われるようになるのは嫌ですわ」


「想像を絶する程に強くなれば誰からも狙われない。誰かが自ら進んで戦いを挑んできてくれるうちが華だよ。ふふっ、この言葉がボクは好きなの。昔、ルインが話していたから」


杏里はソファーから立ち上がる。


「あとは、どの部屋をリリアさん用にするか決めようか」


「部屋……ですか?」


「この屋敷の部屋。別のところに住居がある人もこの屋敷に自分用の部屋があるの。リリアさんも一部屋自由に使っていいよ」


「それなら空いている適当な部屋を借ります」


「よし、じゃあ今日はこれくらいにして」


ソファーから立ち上がった杏里は少し移動して部屋の扉を開く。


「実はボクたち、これからコロシアムで仕事が」


「ああ、そうでしたの」


多方面に渡って活動している杏里たちは当然忙しいだろうなとリリアは思い、部屋を出ていく。


部屋の外には、セフィーラが待っていた。


「あっ、どうだった?」


「私もリバースへ入りました」


「良かった、これでもう僕たち仲間だね」


セフィーラは手を差し出す。


リリアは手を繋ぎ、二人で屋敷内を歩いていく。


「部屋はどこにするか決めた?」


「決めていません」


「それなら僕の部屋の隣に住みなよ」


「どこの部屋に住んでいるのですか?」


「一階エントランスのすぐ隣の部屋」


「では、その隣に住みますかね」


部屋の話になってはいるが、リリアはもうすでに自宅と呼べるものを複数所有している。


ミラディ城の自室、魔導剣士修練場の自室、新たに手に入れたR・ノールコロシアム隣のマンションの一室。


普通ならば喜ばしいものなのだが、あまりリリアは嬉しそうではない。


「僕の隣は嫌?」


「いえ、そのようなことはありませんわ」


「でも、嬉しくなさそう」


「私、実は……」


「あっ、そうか。コロシアムランキング100位内にいたね。それなら、あのマンションに住んでいるか。なら、この屋敷の部屋とマンションの部屋を空間転移で繋いでいればいいんじゃないのかな。部屋が広くなるよ」


「なるほど、そういう使い方もありますね」


新たな部屋は要らなくとも、大きな家には住みたいリリアはそれで納得する。


二人で話している間に一階のエントランスまで降りてきた。

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