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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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安心

「リリア、本当に大丈夫なの?」


セシルが心配そうに尋ねる。


耐えられるとは言ったが、リリアの顔色は悪く、目にも力が入り、痛みを堪えているのが一目で分かる。


「ええ」


「リリアが我慢するのなら僕は構わないよ。弱っている女の子がいいようにされるのは好き。でさ、もうしちゃう?」


「善は急げね。できるだけ早くした方がリリアも助かるだろうし」


「助かる……?」


散々弱っているリリアに行為を強いる時点で助かるはないだろと、シェラは言い出しそうになったが止めた。


自らの発言が原因となり、このタイミングでお開きにされては溜まらない。


「それじゃあ、私も」


セシルも服を脱ぎ出し、裸になる。


シェイプシフターとしての能力を扱っていないため、セシルの身体は女性のまま。


「あー、ちょっと待ってね」


シェラはリリアと同じくセシルにもおへその下辺りにふれ、呪印を施した。


「ねえ、こういうのって女の子だけにつけるんじゃないの?」


「全然……」


そもそもお前も女の子だろ、と思ったがあえてシェラはスルーした。


「これは、二つの種族を一つに繋ぎ合わせる儀式なの。この呪印さえあれば二人は一時的に同種であり、結婚適齢期で子供も十分に宿せる状態になれる」


「へえ、こんな簡単に……」


「それでさ、セシルは無償でなにからなにまでしてあげる親切で優しいインキュバスだなんて僕のこと思っちゃいないよね?」


「お金の話? どれくらいかかるの?」


「僕は魔界の魔王階級者だと、さっきも言ったよね? お金なんて要らない、元々腐る程にあるし。要るとすれば君たちの身体。最初から感触を確かめるのが目的だから」


分かりやすいように、セシルを指差す。


「えっ、そんなの私、聞いていないよ。貴方に相談した時に教えてくれなかったじゃない」


「教えても教えていなくとも僕の考えは少しも変わらないし、しないというのなら僕は呪印を消して帰るだけ。どうする? 二人で相談して決めて。できれば手短に」


「リリア、私が……」


元娼婦のセシルは今更経験人数が一人増えたところで全く問題視しない。


だが、リリアは別だと感じている。


なによりもずっとリリアを独り占めしたかったセシルにとってはこちらの方が大問題。


「構いません。しかし、貴方の子供は要りません」


「そう? それはなにより」


リリアから普通に拒絶されてもシェラの感情に変化がない。


逆にそう言われた方が、ありがたいことこの上ない。


「僕は君たちに子供を宿させようなんて考えていない。呪印がついている者同士の一度目が最優先されて、それ以降に第三者がいくらしても無駄なの。だって、もうその時点で妊娠しているから」


「そうですか」


意味が分かっていないが、一応リリアは返答していた。


「セシルも分かったね?」


「その話だけど、私一人が貴方の相手をする。それで構わないかしら?」


「僕としては構わないけど、とりあえず僕はリリアとするよ。それで良いなら、セシルとはしなくていいや」


「一番ムカつくパターンじゃないの」


「嫌なら帰るよ」


リリア、セシルの考えなどシェラにとってはどうでもいい。


「ゴメンね、リリア。私がしっかりとしていなかったから、リリアが傷物に……」


「いや、君が先にリリアを傷物に……というか、僕はそういう言い方は好きじゃない」


「?」


二人が貞操観念でなにかを語っていたが、リリアには分からない。


ただ、デミスとの決戦までに残された期間の約八ヶ月を一人の女性としても過ごしたかった。


全身全霊で命の期限を全うし、デミスに打ち勝つまでにしたいことの一つが行為をし、子供を宿すこと。


自分が死んだ後でもエアルドフとレトが寂しくないようにと、リリアは生きた軌跡を残そうとしていた。


ただし、そのような願いを色欲な二人が理解しているはずもなく……


「話がまとまったのなら、さっさと始めてくれないかな?」


「急かされるのって本当に嫌い」


シェラの言い方に不満を覚えながらも、セシルはリリアをゆっくりとベッドへ寝かせ、リリアに覆い被さる。


「あっ、そういうの」


変化もせず覆い被さったのを見て、シェラがある誤解をする。


やっぱり、この二人はそうだったのかと。


暫し、二人で抱き合っていたが、ようやく決心したのかセシルが男性の姿へと変化し始める。


セシルは男性の姿での女性経験が全くない。


ドールマスターたちに造られた存在として、その血筋を残したくないとの考えが根底にあり、決してそれをさせなかった。


ともかく二人は無事に行為を終えた。


その身にリリアは子を宿し、どこか安心した表情をしている。


幻肢痛の痛みも消えていた。


「なんだ一回でいいの? じゃあ代わって。次、僕の番」


最後まで二人の行為をベッド脇で眺めていたシェラが暇そうに語る。


「アンタの番じゃないから」


流石にイラッとしたセシルは、リリアの意向も聞かず続けていく。


最終的には呪印の魔力がより効き始め、結局二人で楽しい時間を過ごしていた。


翌日。


いつもの早朝五時にリリアは目を開く。


普段通りの時刻でベッドから起きようとしていた。


だが、すぐにそれを止めた。


昨日の疲れからか、全身に気怠さを感じていた。


また、傍らにはセシルとシェラが一緒に寝ている。


それから、リリアは昨日のできごとを二人が目覚めるまで考えていた。


昨日の行為の途中で、リリアの頭痛は終息し始め、すでに痛みを感じていない。


「おはよう……」


七時に差しかかった頃、ようやくセシルが目覚める。


目を覚ますとリリアに抱きついた。


「リリア、昨日はその……ゴメンね」


「なにがですか?」


そうするのが当たり前のように、リリアもセシルを抱き寄せる。


リリアはセシルが実際の意味で好きになっていた。


「なんでもない」


了承を得ているとはいえ散々好き放題にしてしまったのが悪かったとセシルは感じている。


「ん? なに、もう起きたの?」


二人が抱き締め合っていると、シェラも起きた。


「あー、今日は調子がいいなあ」


とてもゆっくりとした動きで、シェラはベッドから立ち上がる。


シェラは高級そうなシルクのパジャマを着ていた。


あの普段着ている露出の激しい服ではない。


夜をともに過ごしていたが、シェラは二人の行為に混ざらなかった。


それも二人には呪印をつける際にふれたのが最後。


セシルではなく、リリアからなにか強い決意を感じ取り、あえて二人の時間にさせていた。


種族や見た目、考え方の割りに下半身だけでは行動しないらしい。


では、なにをしていたかというと空間転移で自宅のノートパソコンを出現させ、事務方作業をしていた。


それが終われば、シルクのパジャマに着替え、二人が行為中のベッドに普通に横たわり就寝するという剛の者だった。


「二人は七時に起きるのが日課なの?」


「違うわ、私とリリアはとっても朝早いから。でも、今日は疲れていたからか七時に起きちゃったみたい」


「それよりさ、いつまで抱き合ってんの? さっさと起きればいいじゃん」


「多分、私もリリアも同じことを考えていると思うの。これから……」


「僕には先約の予定があるんだよね」


シェラは指を鳴らす。


「えっ」


セシルはぼんやりとしている。


「………」


リリアもセシルの方を見ながら静かにしている。


指を鳴らしたことで、今まで二人にかかっていたインキュバスの呪印が消えた。


二人にあった性的な欲求や感情が一気に浄化されていく。


「さて……」


セシルから視線を逸らし時計を見て、リリアは起き上がる。


リリアは浴室の方へと歩んでいった。


「ほったらかしにされたね」


ぼんやりした目でシェラはセシルを見つめる。


「淫術にかかっていないと私の魅力にはあんまり興味がないみたいなのかな?」


セシルもベッドから起き上がり、浴室へ向かおうとする。


「そうかもね、魔力体だし」


両手を上げながら背伸びをすると、シェラは空間転移のゲートを出現させた。


「僕は帰ろうかな。あと、セシル。リリアはもう妊婦なんだから運動は程々にするよう伝えて。流れても僕にはどうにもできないから」


「それについては分かっているわ、リリアだって」


「それは良かった。たまに僕のせいにする人もいるからさ」


「ところで先約って」


「君たちと同じことを頼んできている人がいるんだ」


「そういえば、貴方は私たちに変なことしなかったよね。そういう予定だったのに」


「ああ、いいのいいの。他でするから」


シェラは空間転移のゲートを潜る。


あえて、シェラは感じ取っていたことをなにも語らなかった。


一応、占い師としての素質があるシェラにも、過去にアルテアリスが気づいたように、リリアから死相が見えた。


それもあの時の四年後とは異なり、数ヶ月後にリリアは……


これが分かると、リリアが生き急いでいるのにも納得できるし、シェラは彼女の時間を大切にさせてあげたかった。


シェラが帰ったことで、セシルもリリアがいる浴室へ行き、朝の支度を済ます。


リビングへ移動すると、二人で食事ができるよう朝食を用意した。


今日は簡単に、トーストとコーヒーだけの朝食。


リリアのコーヒーにはミルクと砂糖が入り、カフェオレになっている。


「リリア、昨日のことだけど」


ソファーに腰かけ、セシルが隣に座るリリアに聞く。


「ええ」


「私としてみてどうだった?」


「初めての感覚でした。頭に確かにあった激痛が改善し、我が子もこの身に宿りました」


「ああ、そういえばリリアは頭が痛かったのよね。完全に忘れていたわ」


そう言いながら、セシルは子供の名前はどうしようと考えている。


「それもそうだけど、気持ち良かった?」


「そうですね」


「また、シェラを呼んでもいい?」


「………」


そこだけは、リリアは答えなかった。


話しているうちに二人は食事を終える。


「今日は、シスイさんに会ってみようと思います」


「大丈夫なの? アイツ、なんか嫌な感じがするのよね。私はあのタイプ、信用できないかな」


「なにも問題はありませんわ。ただ、話をするだけですから」


軽く髪の手入れをしてから、リリアは空間転移を発動する。


指定先は、R・シスイ。

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