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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
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後遺症

リリア対セフィーラ戦は、リリアの魔力奪取によるKO勝ちで終わった。


だがそれを成し遂げたのはノールであり、決してリリア本人ではない。


見た目は完全回復しているが、リリアの状況は最悪。


頭部内を氷のナイフで滅多刺しにされた痛みの記憶が残存し、発狂しそうな程の激痛を未だにもたらしている。


リリアの身体をノールが操作している最中に完全回復させたため、リリア自身は回復行動を取れなかったことで誤認が起きていた。


それだけ、リリアの実感した恐怖と激痛は想像を絶するものであった。


「リリア、控え室についたぞ」


「ええ……」


ライルに肩を貸され、なんとか歩けていたリリアは控え室まで戻ってきた。


ライルが控え室の扉を開くと、室内にはソファーに腰かけるセシル以外にも姿があった。


コロシアム支配人の春川杏里、R・ノールも近くのソファーに腰かけていた。


「リリア!」


息も絶え絶えになり、やっとの思いで控え室に戻ってきたリリアを見たセシル。


居ても立っても居られなくなり、リリアに抱きつく。


「アンタのせいね!」


ライルとリリアの後ろにいたセフィーラに怒声を上げた。


「これがアンタの正義なの? 上位組織だとか下位組織だとかそんなの知らないけど、ここまで一方的に弱者を痛めつけてなにが楽しいの?」


リリアの状態と、セフィーラの無傷な様子から、リリアが一方的に負けたのだとセシルは受け取った。


「勝手に勘違いすんな、勝ったのはそっち」


魔力切れでセフィーラも歩くのがやっと。


眠そうな目でリリアを指差し、それだけ答えた。


「ええっ、そうだったの? リリア?」


「私が……確かに勝ったようです。どうやって勝てたのか、まるで覚えていませんが」


セシルの問いかけに弱々しくリリアは答えた。


「そんじゃ、オレは仕事に戻るわ」


特に問題ない様子でライルは語り、セシルにリリアを預ける。


そして杏里とノールの方に、にやっとした笑みを浮かべつつ軽く指差した。


「どうしたの?」


意味の分からない杏里は不思議そうに話す。


「まあ、そのうちな」


適当にライルは語り、空間転移を発動して姿を消した。


「………」


セフィーラは静かにその光景を眺めていた。


今の状況なら分かる。


ライルは杏里とノール?の二人に、本物のノールがいたぞと適当に伝えていたと。


「杏里さんが控え室で待っていたのは、もしかしてそういうこと?」


セフィーラは眠そうに話す。


「そうなの、リリアさんの対戦相手にジーニアス君を指定したのはボク。そして、ボクの思った通りにリリアさんはジーニアス君に勝利した」


「なんかそういうの止めません? もう知っていたのでしょう、杏里さんは。もっとずっと前から」


「なんのこと?」


「隠すのなら探りません、今は引きます。僕にも話しても構わないのなら、その時に事実を話してください」


疲れ切っていてもう帰りたかったセフィーラはライルと同じく空間転移を発動する。


魔力切れが起きても問題なく発動可能なのは、セフィーラが他に影響されることなく体内で魔力を生成できる魔導人だから。


「あっ、そうだ。杏里さん、リリアの面接お願いします」


そう言い残し、セフィーラは姿を消した。


「あの、リリアの面接ってなに?」


自らに身を預けるリリアを抱きしめながら、セシルが杏里に聞く。


「歩合制傭兵部隊リバースでは一定の事柄があるの。ボクたちの誰かに勝利できる、もしくは死闘を繰り広げられる程の実力者をリバースに迎い入れようと」


「もしかして、リリアを勧誘しているの?」


「まだしていないよ、面接もしていないから。リリアさんが断ったのならそれで終わり」


「以前聞いた話だけど、面接って貴方たちがスーツとかで着飾って適当に四方山話をして終わりとか聞いたけど」


「それは……その」


にこやかに話していた杏里だが、なにか言葉に詰まっている。


「杏里くんはストレートにものを言うのが苦手だよね。代わりにボクが話そう」


杏里の隣にいたノール?が語り出す。


「歩合制傭兵部隊リバースという組織に雑魚は務まらない。でも、お前ごときでは無理だと、あっさり袖にするわけにはいかないじゃないの。こちらも正装で礼儀を持って対応するし、なにか話したいことがあるのならしっかり聞いているよ」


ソファーに座ったまま、ノール?が包み隠さず文句を言っている。


これが事実なら四方山話をされた瞬間にもう終わりということである。


「貴方は、R・ノールさんではありませんね」


辛そうな表情で、リリアが問いかけた。


「なんなの? 君が認めなくとも、ボクはR・ノールだから」


「身体のサイズ、仕草、発音、価値観、認識まではほとんど一緒ですが、魔力量とオーラが異なります」


「ああ、そうか。君にも分かるのか」


なにかを納得したノール?がソファーから立ち上がる。


次の瞬間には、R・シスイへと変化していた。


「どうしても魔力体には隠し通せないのが残念だ。僕の能力もまだまだ」


「えっ……ノールじゃないの?」


杏里もリリアも別になにも驚いていないが、セシルは普通に驚いている。


「どうして、シスイがノールに化けていたの?」


「諸事情で」


「へえ、そうなんだ」


特にセシルは詮索しなかった。


現在のコロシアム内で活動しているノールが、シスイであるとの事実に気づいておらず、なんらかの理由で今日だけノールの振りをしていたと考えているから。


なので、ちょっとした代理で変化していたと考えている。


「その、貴方たち。リリアを気にかけているのなら今はどこかに行ってほしいの。いいでしょ?」


「では、上位組織の統領R・ノールの代理として言わせてもらいます。リリアさんの調子が良くなれば必ず僕たちへ連絡をするように。数日経ってもなにも反応がなければ僕の方から会いに行きます」


「なにそれ、脅しのつもり? リリアは療養のため、これからマンションに籠りそうなんだけど」


「あのマンションの障壁は魔力で管理されている。それを一元管理しているのは、この僕R・シスイだ。僕だけはあのマンションの中をいつでもどこでも行き来できる。それでさっきの話になにか問題でも?」


「物凄く問題しかないじゃないの。もういいや、リリア。帰りましょう」


上下関係に一切興味のないセシルは杏里もシスイもスルーした。


さっさと空間転移を発動して、リリアとともにマンションへと帰宅する。


「あの人、とにかく凄く邪魔だな。こっちは数年がかりで初めて掴んだ手がかりなのに」


わずかに室内が軋み出す。


それが次第に大きくなり、ついには揺れが広がり、どこかで警報ベルが鳴り出した。


「シスイ君」


杏里が一言だけ話す。


揺れはすぐに収まった。


「ボクは君をそんな風に育てた覚えはないよ」


「分かっていますよ、杏里姉さん。今日のコロシアムの対戦相手に、この身の丈のストレスを全てぶつけます」


親しげにシスイは頬笑む。


口頭では注意をしたが、杏里もシスイと同じくセシルを邪魔だと感じていた。


杏里・シスイにとって、ノールは本当にかけがえのない大事な家族。


二人はノールが行方不明になってから、ずっと手がかりを探っていた。


本来なら行方不明になった事実を大々的に公表し、少しでも手がかりを得ようとするが肝心の探そうとする対象が不味い。


存在しないと知られれば即座に第三次広域総世界戦が勃発するだろうと二人は判断し、今までそれを直隠しにしてきた。


たった一人で、ノールはパワーバランスの一角を担う存在。


それだけの存在なため、リバースの仲間は勿論、杏里も他の家族を頼れずにいたが、ようやく手がかりが見えてきた。


なのに、それを露骨に妨害するあの女。


殺意を覚えないはずがなかった。

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