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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
227/294

対セフィーラ戦

セフィーラとの試合申込の日から、一週間の時が経過した。


そして、今日この日。


リリアはセフィーラと戦うこととなる。


この日もリリアは自宅のリビングで背筋を伸ばし、胸の前で両手を合わせる形の精神統一をしていた。


「リリア」


傍まで来たセシルが呼びかける。


「試合の時間までもう少しだから、コロシアムへ行きましょう」


「そうですか、もうそんな時間に……」


リリアは焦っていた。


この差し迫った状況になっても一体どうすればセフィーラに打ち勝てるのか、いくら考えても勝機が見出せない。


どれだけイメージトレーニングしても、どれだけ過去のセフィーラの試合映像を見ても。


「リリア、その……今からでも」


「いいえ、それはできません。私から戦いを挑んだのです。それを私自らが止めるなどできません」


「それなら、駄目そうだと思ったらすぐに諦めて謝りなさい。戦う相手は一応上位組織の者。謝れば、命を取ろうとまでしないでしょう」


「それは分かっております」


少しだけ、表情に笑みを浮かべる。


別に余裕があってとか、セシルを安心させたくて笑みを浮かべたわけではない。


「では行きましょうか、セシルさん」


「うん……」


静かにセシルはリリアの手を握る。


どこか、セシルは落ち込んでいる。


「私が勝ちますから」


「うん……」


セシルが本当に心配していたのは分かっていたが、勝利するとしかリリアはもう答えようがない。


自分でも勝てるかなんて、そんなこと分かるはずがないのだ。


ひとまず、リリアは空間転移を発動する。


移動先は、当然コロシアムのロビー。


一瞬で移動し、ロビーから二人は選手控え室へ向かう。


それから、暫しの時間が流れた。


「リリアさん、お時間です」


リリア、セシルが待機していた選手控え室にコロシアム職員が呼びかけに来た。


「では、行きますか」


呼びかけに応じ、リリアは部屋を出ていこうとする。


「リリア、頑張ってね」


「ええ、勿論です」


控え室を出て、コロシアムの闘技場へ向かうリリア。


リリアは不安を抱いていた。


この数日間、精神統一中のイメージトレーニングで何度もセフィーラと死闘を繰り広げていたが、その中でもただの一度も勝利していない。


あの人物がどれだけ怪物なのかをいたく思い知らしめられたとはいえ、逃げるわけにはいかない。


「えっ……」


通路を進んでいたリリアの歩みが止まる。


リリアの前には、いつもと変わらないコロシアムの闘技場へ向かう通路が続いている。


だが、リリアはもう一歩も歩み出せない。


このまま進めば、間違いなく死ぬだろう。


通路の先から感じられる恐ろしく強い魔力の波動が闘技場へ近づくにつれて、そうリリアに訴えかけてくる。


「だからといって……」


こんなところで逃げるわけにはいかない。


無理して恐怖を堪え、再びリリアは闘技場へと向かう。


選手入場ゲートを通り、闘技場内へと入る。


辺りは静まり返っていた。


あの時とは違う。


ジス戦とは全く真逆の事態に一瞬面食らった。


周囲を見た時、静まり返っているのは当然だとリリアは気づく。


観客が誰一人として存在しない。


このリリア対セフィーラ戦は誰一人として観客のいない無観客試合だった。


集客力抜群なはずのランキング70位と100位の試合。


にもかかわらず、観客を無下に扱う無観客試合なのがリリアからしても理解できない。


そう思ったのもわずかな時間。


なぜならば闘技場中央には、セフィーラの姿があったから。


この日も年令相応の姿をしていた。


ブラウスにサーキュラースカートをまとっている。


戦闘コスチュームというよりは、普段着の姿といってもいい。


「お待たせしましたわ」


ついに、リリアとセフィーラは闘技場中央にて相対する。


「よく来たな、リリア! 本当によく来れたよ!」


静かな闘技場内にセフィーラの声は響き渡った。


その声量から、それだけセフィーラの怒りがよく分かる。


「ジーニアス、うるさい」


なにか、声が聞こえる。


闘技場の舞台の傍に誰かが立っていた。


剣士風の格好をした青い髪、青い瞳の男性。


上位組織歩合制傭兵部隊リバース所属のライルがいた。


「オレが審判だ。オレの合図でなにもかにもが始まる。分かっているな?」


全身に強い覇気を宿らせ、そして拡散させているセフィーラと異なり、ライルには全くやる気が感じられない。


眠いのか薄目で、疲れたようにぼそぼそしゃべっている。


普段、傭兵の仕事などを行う際に会う優しそうなライルらしさがない。


「さっさと試合を始めろ!」


セフィーラはライルの方へ勢いよく腕を振り、合図を送る。


「はいはい。はい、スタート」


これ以上ないくらいの、やる気が全く感じられない試合開始の合図。


こんな投げやりでいいのかと、流石にリリアもセフィーラも若干ながら戦意が削がれた。


「リリア」


先程までの声ではない、落ち着いた普通の声量でセフィーラが呼びかける。


「これからお前は徹底的に制裁を受ける。理由はただ一つ。上位組織リバースに喧嘩を売ったからだ」


「そうですか」


すっと、リリアは構えの体勢に移る。


「この勝負、私が勝ちます」


「違う。勝つとか負けるじゃない、お前が死ぬんだよ」


先程と同様に、セフィーラは強い覇気に満ち溢れる。


と同時に、セフィーラは床を蹴り、一気にリリアとの距離を縮めた。


「ああー!」


リリアは両手を前に出し、絶叫を上げた。


全身から力を、魔力を渾身の限り漲らせ、自らのベストコンディションまで一気に跳ね上げる。


戦いに置いての態勢が一瞬で全て整う。


これこそが、ノール流を極めた証といってもいい。


リリアも同じく床を蹴り、セフィーラが来るだろう位置に絶好のタイミングで拳を振う。


一切の反応がない。


即座にリリアは自らよりも上の方から強力な魔力を感知する。


セフィーラは空中を蹴るという人では有り得ない動きをし、逆さまに反転した状態で真上にいた。


両腕をリリアに伸ばし、高出力の魔法を放とうとした、その一瞬。


リリアは魔力障壁を張り巡らせた。


「発動、鉄砲水」


リリアの魔法障壁へと、高出力の水人魔法がぶつかり、その二つは一気に相殺された。


高出力で魔法を放ったセフィーラは反動を空中で堪え切れず闘技場の床へ叩きつけられる。


「あう……」


リリアも無事ではいられない。


相殺されたとはいえ、リリアにも二つの魔力が打ち消された衝撃は伝わる。


思い切り押し潰される程の衝撃がリリアの全身を襲い、床にうつ伏せになった。


「戦いは終わっていないぞ、リリア!」


先に体勢を整え、攻撃に移ったのはセフィーラだった。


まだ起き上がれずにいるリリアの首筋を背後から鷲掴みし、思い切り体全体を振り上げる。


そのまま一気に、リングの外へ向かって放り投げた。


しかし、リリアはリングアウトしなかった。


リングの周囲、四面を覆う封印障壁が張り巡らされていた。


高レベル同士の戦いになると、リング内以外にも被害が出てしまう恐れがある。


それをなんとかするためにほぼ全ての攻撃を跳ね返す封印障壁が張られるようになっている。


ライルが審判に選ばれた理由は、この封印障壁に寄るもの。


元々の能力が高い者でなくては高出力の攻撃を跳ね返す封印障壁を長時間に渡り発動できない。


封印障壁に当たれば、衝撃が跳ね返される。


当然、リリアには自らがぶつかった威力と封印障壁が受けた衝撃の二つがダメージとして跳ね返る。


こういった単なる投げ飛ばしも有効な攻撃方法となっていた。


「この……」


次への対処のため、リリアは即座に立ち上がり、構える。


ただ、セフィーラは一定の距離を取ったまま、近寄ってくる気配がない。


「発動、マジックネット」


リリアの周囲を覆い尽くすように魔力の網が突然現れ、それがリリアに向かって飛んでくる。


背後の封印障壁にへばりつけて行動不能に陥れ、なおかつ封印障壁により攻撃力を倍増させようとしていた。


危険を予知し、一気にリリアは側面へ飛び、魔力の網を躱す。


「なんだ、もう逃げの一手か」


セフィーラはもう次の能力、空間転移を先程のマジックネットを対象に発動している。


躱したはずの魔力の網が消え、リリアが側面へ飛んだ方向に出現していた。


不味いとリリアが思った頃には魔力の網にがんじがらめに絡まり、床へ仰向けに倒されていた。


対炎人対策として、魔力の網にはスパイク状の氷がびっしりとついている。


「終わりだね、リリア」


速効をかけ、セフィーラはリリアの腹部を両足で踏みつける。


両足にはご丁寧にも魔力の氷柱がついていた。


そして、片手に氷のナイフを出現させ、リリアの喉元へ突き刺す。


「禁止令発動、魔力体化」


この時点で勝負は決してしまった。


喉を潰され回復魔法を唱えらず、禁止令により魔力体化で全身の治癒も行えず、逃げようにもマジックネットで身体を拘束され、もはや死を待つのみ。


セフィーラの攻撃は続けざま行われ、リリアの顔面を鷲掴みし、氷のナイフをリリアの右目に突き立てる。


右目、脳を貫通し、床にまで深々と突き刺さっていた。


氷のナイフを床から少しだけ引き抜き、リリアの頭蓋骨内を連続で串刺しにしていく。


魔導士であるため、接近戦の苦手なセフィーラは魔法を駆使し、身動きを取れなくさせてから対象を殺害するのに手慣れていた。


流石はノール流免許皆伝者だけあって、R・ノール同様に情け容赦ないのは変わらない。


既にリリアは物言わぬ肉塊となっている。


「よし、僕の勝ちだ。上位組織に逆らうのがどういうことか分かっただろう? とはいえ……」


完璧な勝利を手にしたと考えていたセフィーラだが、明らかになんの反応もない。


それが非常に気にくわなかった。


「おい、ライル!」


審判役のライルに呼びかける。


「……はあ?」


肝心のライルは腕を組みながら、うつらうつらと立ったまま半分寝ていた。


「あっ」


ライルの目に、憤慨しているセフィーラと、血まみれになっているリリアの姿が映る。


「もしかして、もうカウントだったりする? ワン~」


「いや、とっくにKOだから!」


「そんなのはさ、まだ分からないだろ? ああもう、ジーニアスのせいで今カウントがどれくらいだったか分からなくなったじゃん?」


「最初からやればいいだろ!」


「それもそうだな」


ライルはカウントをまともに数えようとしていない。


R・ノール程ではないが、ライルもまた魔力体優位主義者の一人。


セフィーラが仲間であり友人なのに、リリアに対して露骨なまでに肩を持ち、依怙贔屓するのはなんら不思議なことではない。


それを理解しているセフィーラもスルーしているが、そのわずかなカウントの速度の差がリリアに恩恵をもたらすことへと繋がった。

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