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一族の楔  作者: AGEHA
第一章 二つの一族
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仲間同士の戦い

本選トーナメントが決まり、選手控え室でライル、ルウの二人が会話をしていた。


「兄さん、次の戦いは手加減しないよ」


「ああ、油断はするなよ」


ルウから目を逸らし、ライルは先に選手控え室を出る。


「ルウは益々強くなっていくな……」


控え室から出て闘技場に向かうライルはなにかに苦悩している。


「では、トーナメント戦の第一回戦を開始します!」


ライルの歩む廊下にもアナウンスが流れた。


アーティと杏里の戦いが気になったライルは悩むことを止め、そのまま観客席の方へと歩いていく。


ライルが観客席に着くとアーティと杏里は既に戦い始めていた。


戦い方は二人とも一撃必殺狙いで互いに相手の頭部、首などの急所や四肢しかほとんど狙っていない。


仲間同士であるのに躊躇いのない高度な戦いを繰り広げる様子を目の当たりにしたライルは自身と二人の能力差を感じた。


しかし、ライルが受けた印象とは裏腹にアーティと杏里はあることを実行しようとしていた。


「戦うのを止めにしないか? 本気で戦ってどうする? 対戦表は見たんだろ?」


杏里の攻撃を剣で防ぎつつ、アーティは攻めの手を緩める。


「もうさ、オレの負けで構わないからオレの身体のどこかを攻撃しろ」


「でも、アーティさんは全部ボクの攻撃を防いでいるじゃん?」


「攻撃速度が速すぎだ。オレが怪我するじゃん。分かったなら軽く打て。負けてやるから」


「それじゃあ、軽めに攻撃しますよ」


勝手な提案をしてきたアーティの腹部目がけ、杏里はトンファーで軽く殴打する。


その際、アーティはあたかも躱せなかったような素振りをする。


わざとらしく倒れて気絶した振りをし、アーティは動かなくなった。


「勝者、杏里選手~!」


勝者を知らせるアナウンスが流れる。


アナウンスとともに観客の声援と歓声が杏里の耳には聞こえた。


二人の戦いは高度なものだったので、誰一人として八百長には気付いていない。


戦いが終了し、杏里が控え室に戻ってくると救護室へ運ばれていたはずのアーティが既にいた。


「こんな勝ち方は良くないと思うの」


勝ったとはいえ、望んだ形の勝利とは程遠く杏里は自身の勝利に納得がいかない。


「なにが問題だ? こんなしょうもない戦いの勝ち負けにこだわる必要はない。それとも、そこまでして見世物を演じたかったか?」


「そういうわけじゃないけど」


「だろう? 分かったのなら冷静になってよく考えろ。金はウチらの面子の誰かが獲得する事実が確定している。なら後はどうでもいいことだ」


そういうアーティに対し、杏里はどうしても腑に落ちない。


二人の信念やスタンスの問題が現れた結果となった。


本戦トーナメント第一回戦が終了し、第二回戦のアナウンスが流れる。


次戦で戦うテリー、ジャスティンだったがともに辞退したため杏里が自動的に決勝戦進出。


そのため、第三回戦が開始される流れになった。


「ルウ、オレと戦うのか?」


観客席から控え室に戻ったライルの方からルウに話しかける。


「絶対負けないよ」


「水人と炎人との関係を知っているだろう? オレは水人で、ルウは炎人だ。種族上、余程の差がないと勝てない」


「知っているよ。僕だって兄さんと同じ水人として生まれたかったよ」


「違う、そういう意味じゃなくて……」


なにかをライルが言おうとした時、第三回戦を知らせるアナウンスが室内に流れた。


二人は控え室から闘技場の戦闘エリアに移動する。


「第三回戦を開始してください!」


試合開始のアナウンスが流れた。


序盤に動いたのは、ライル。


氷のナイフを空中に十数本程出現させる。


腕をルウに向かって振り、出現した氷のナイフはルウを貫こうと宙を進む。


「落ち着け、僕にだって勝てる方法はあるはず……」


自らに言い聞かせながら、ルウは魔法を詠唱する。


「ファイアウォール!」


ルウの周囲を囲うように炎の壁が出現し、氷のナイフは全て溶け消滅した。


「よし、次は反撃を……」


再度、ルウは魔法を詠唱し始める。


だが、ルウは不意に背中に違和感を覚えた。


それは一瞬の内に痛みへと変わる。


「氷のナイフを飛ばせば、お前がファイアウォールを使うのは読んでいた」


ルウの腹部の辺りが赤く染まる。


ライルは弟であるルウを剣で刺し貫いていた。


「簡単にお前の行動は読める。もう戦いは止めにしよう」


そう言いつつ、ライルはルウから剣を引き抜く。


ルウは体勢を崩すと床に膝をつき、正座のような体勢になった。


「死んでからじゃ元も子もないだろう。ルウ、オレたちの旅は終わりだ。一緒にロイゼンに帰ろう」


ライルはルウにささやく。


この時、ルウは不思議な気持ちだった。


なぜ、この旅を終わらせようとしているのか?


意識が飛びそうな痛みよりも、ライルの話した内容を考える。


本当はライルが自らに戦いから身を引かせようとしていたのを知っていたのに。


今まで戦いに関しての話題で微妙な雰囲気になっていたのはこれが理由。


ライル、ルウは血の繋がった兄弟ではない。


二人とも、ライルが口にした名の国、ロイゼン魔法国家に売られていた奴隷であった。


その頃、二人は数才程度の若さでお互い自らの貧しい境遇を支え合うように生きてきた。


そんな日々もロイゼン魔法国家国王が二人を買い、正規兵として育てたことから運命が変わる。


成長した二人はロイゼン国王に恩返しがしたく、二人の申し出を許し、今現在まで旅を続けられていた。


だが、ライルはロイゼンに帰ろうと語った。


自身の弱さのため、なにも為せずにみすみす帰国の途に就くわけにはいかなかった。


「兄さんは僕と同じく強くなりたいはずだ。なのに僕自身が戦いに向かないと思われてどうする。絶対に勝たないと……」


正座のような姿勢から一気にルウは正面に駆け出す。


腹部の痛みから完全に立ち上がられず、タックルのような体勢から一回転するとライルと向き直る。


「フラッシュオーバー!」


魔法の効果で、ライルどころかルウ自身の周囲の大気を一瞬で凝縮させる。


凝縮された大気は酷い大爆発を引き起こした。


凄まじい爆風でライルもルウも弾き飛ばされ、両者とも立ち上がることはなかった。


闘技場の爆煙が収まった頃、数人の係員がライルたちの救助へと向かう。


ライル、ルウの怪我は酷く両者ともに意識がなかったため、二人は医療室に運ばれていく。


その結果、戦いの勝敗は着かなかった。


ライル、ルウとの戦いが終わり、控え室にも第三回戦終了のアナウンスが流れる。


「あれ、もう四回戦?」


控え室のソファーに腰かけ寛いでいたノールは隣に座っていた杏里に声をかけた。


「ノールちゃんの相手は綾香さんだよ、頑張ってね」


「綾香さんが戦っているところ、見たことないんだよね。剣技や体術、魔術の練習をしているところも。綾香さんって強いの?」


「分からない」


杏里は首を傾げ、一応考えてはみている。


「ボクは簡単に勝てそうかもね」


ノールは杏里に笑顔で答え、綾香と戦うために控え室を出ていった。


早速、戦闘エリアに向かうと既に綾香がノールを待ち構えていた。


「では、第四回戦を開始してください!」


戦闘開始のアナウンスが流れる。


先手を打ち、綾香はショットガンの銃口をノールへ構えた。


「ノールちゃんに忠告。痛い目にあって泣いちゃうから戦うのを止めた方がいいわ」


「嫌だよ、勝つのはボクだから」


両手に水竜刀を作り出し、ノールは綾香に向かって駆け出す。


「銃火器を相手に接近戦? なにも考えていないのかしら?」


嬉々とした様子で綾香はショットガンを四発、ノールに向かって放つ。


元々、魔力で弾を作り出している綾香は弾をリロードする動作もなくノールの肘と膝へと重点的に命中させた。


「いったー、それって遠距離系の武器なのか。頭を狙われたら不味かったかも」


ノールの全身が少し半透明の状態になっている。


水人化をし、ショットガンでのダメージを回避しようとしていた。


だが、ショットガンの弾は魔力によるもの。


綾香は普段から対魔力体にも対応できる戦い方をしていた。


「水人化しても魔力がかかわっていたら水人化していない状態と変わらず、ダメージを受けるのか。でも、死なない程度の痛みなら問題ない」


ノールにはダメージらしいダメージがない。


ショットガンの散弾させる撃ち方では大きなダメージを見込めなかった。


「へえ、そう。だったら貴方には今よりももっと痛い思いをしてもらう」


綾香は、ある魔法を詠唱する。


「デススパーク!」


放った魔法の電撃がノールの身体を、一瞬で貫いた。


感電し悲痛な悲鳴を上げ、ノールは倒れる。


「対水人の戦い方は把握済み。対魔力体なら魔力による攻撃を、その魔力体が水人であるなら電気による攻撃をよ。特殊な者との戦い方もしっかり考慮しているわ、この私は」


「………」


綾香の話にノールは微動だにしない。


「死んじゃったの? ノールちゃん?」


笑みを浮かべ、倒れているノールに綾香が近付く。


それはあまりにも不用意な行動だった。


綾香の背後の床面から氷柱が数本現れ、綾香の背中へと向かって突き刺さる。


「えっ……なに……?」


背中から出血する血を確認した綾香は表情に苦痛と悔しさをにじませながらも踏み止まる。


「水陣結界を張り巡らせていたんだよ。ボクにどうやって攻撃するか分からなかったから先に張っていたの」


そう話しながら、ノールは立ち上がる。


「さっきまでは……」


「見えないようにしていたから」


「私の対魔力体の戦闘技術が劣っていたようね……次は頭から弾き飛ばすわ」


立っていられなくなり、綾香はショットガンを抱きかかえて床に倒れる。


綾香に勝利はしたが、水人のノールはデススパークの電流が身体に帯電し、深刻なダメージを受けていた。


まともに歩行もできず、控え室へ戻るのに、ずっと廊下の壁を伝っていた。


「ノールちゃん大丈夫!」


杏里は控え室に入ってきたノールを支える。


「綾香さんが雷系の魔法を使ってくるなんて思わなかったよ」


「大丈夫? 次は戦わない方がいいんじゃないの?」


杏里は支えながらノールを椅子に座らせた。


「嫌だよ、決勝戦で辞退なんてしたら勝った意味がないじゃん」


強い気迫でノールに言われ、杏里は辞退を促すのを止める。


杏里は勝ち負けにこたわるタイプだが、それはノールも同じ。


どちらが勝っても賞金を得られるが、ノールはどうしても種族優位性を示したかった。


「決勝戦の開始時刻が近付いています! 決勝進出者は戦闘エリアへ入場してください!」


係員のアナウンスが控え室に流れた。


「行こうか、ノールちゃん」


「……うん」


杏里に支えられ、ノールは椅子から立ち上がり、二人は闘技場へと向かう。


さっきはあんなことを話したが、ノール自身も最初から杏里が勝つと分かっていた。


戦闘エリアへ来ると、観客たちの大きな声援が辺りを覆っている。


ノールと杏里は係員の誘導のもと、戦闘エリアの中央で向かい合う。


「戦闘を開始してください!」


アナウンスの後、決勝戦が開始された。


ダメージを隠せないノールは杏里と距離を取りつつ、魔法を駆使し戦おうとする。


先程の水陣結界での戦いを行おうとしていた。


「行くよ、ノールちゃん!」


気遣っていたはずの杏里は、ノールを一撃で仕留めようと迫る。


前回の戦いを控え室のモニターで見ていた杏里は事前に対策を立てていたようで氷柱を躱し続け、ノールは接近を許してしまう。


略同時に戦術を変え、両手に水竜刀を作り出そうとしたノールだったが、身体が帯電したせいか水竜刀を発現できなかった。


その隙を見透かしたように杏里のトンファーがノールの頭部に直撃。


完全に致命傷のダメージを与えるよう狙い撃ちしたもので、ノールを死へと誘う。

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