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一族の楔  作者: AGEHA
第二章 一族の意味
217/294

勝ち方

「君が……リリアなのか?」


ブースの外には見覚えのある姿。


今さっき、リプレイで見たばかりのジス本人がいた。


リリアなのか?と聞いていながら、おかしいと首を傾げてもいる。


「アンタって確か……」


「ああ、この私がジスだ。そこに映っているな」


ジスはブース内を指差す。


「どうして、ここへ?」


驚いていたセシルはジスの近くにもう一人の人物がいるのに気づく。


黒いバトルドレスを身にまとう、どこか妖艶な雰囲気のある女性。


恐らく魔族だが、元々はエルフ族らしくエルフらしい美しさや気品が感じられる。


女性は特になにも語らず、セシルをこれと言った感情もなく見つめている。


明らかにセシルを見下していた。


「君が私の試合映像を閲覧していたからだ」


「?」


セシルはパソコンの画面を見る。


「もしかして、これって相手に見たっていう情報が流れるの?」


「見ている者が真にその人物を知りたいと強く感じた場合に限りな。このコロシアムのそういった部分を構築したのは魔力体だ。そして、この施設は魔力が扱える能力者限定の施設だ。魔力を媒介にして互いに情報が得られやすいよう設定したのだろう」


「へえ」


あまり考えたこともなかったが、魔力体は一体どういう技術を持ち得ているのかがセシルは気になった。


「しかし、肝心の君をコロシアムで見た覚えがない。恐らく参加者ですらないのだろう?」


「ええ、私はコロシアムに参加しないわ」


「ならば、君の友人が魔力体のリリアなのだろう? 私は戦い方を見られ、研究されたからと言っても一向に構わない。ここは参加者同士がお互いに強くなり、高みを目指すために作られた施設なのだから」


「そう。だったら、アンタはここになにしに来たの?」


「今日は複数の試合を熟す必要があってな。それで次に戦う者へも一度挨拶をしようと思ったんだ。単にその程度だ」


「あっそう」


「話は終わった? ジスは随分と暇なのねえ」


バトルドレスをまとった女性が文句を語る。


「お待たせいたしました、ルミナス様。では、帰りましょう」


そういうと、ジスとルミナスはその場から空間転移により消えた。


「ルミナス? どこかで聞いたような……」


ふと、セシルは思い出す。


エルフ族らしい気品さ、美しさを持つ魔族ルミナスについてを。


ルミナスは魔界の最高位邪神の地位につく女性。


自らが元々エルフ族であることから魔族だけではなく、様々な人種からも分け隔てなく能力ある者たちを登用していた。


魔界という全く関わりのなかった場所で頭角を現し、ついにはその最高位にまで登りつめた女傑ルミナスを同じ“女性”としてセシルも一目置いていた。


ただ、セシルにも知らない事実がある。


ルミナスのやり方、それは前任者で旧魔界の邪神ミネウスと全く同じだということ。


邪神になれたのもR・ノールが大きく関わっていた上に、ミネウス自体もルミナスの内縁の夫として今現在もバックアップしている。


ルミナスがなにもかにもを達成した上で成り立った形ではなかった。


「にしても、リリアにはどう伝えたらいいだろう……」


落ち込んだ様子でブース内へとセシルは戻る。


実際にジスを目の当たりにして、セシルが得られた感想。


それは、リリアの負け一択で戦いが終わるだろうというもの。


最悪な気分だった。


ひとまず、こんな場所にはもう用がなくなった。


さっさとセシルは魔導剣士修練場へ空間転移を発動し、帰宅する。


「ただいまーっと」


セシルが自室へ現れると、朝と全く同じ場所にリリアの姿があった。


精神統一をしているリリアはセシルが部屋に現れても全く気にせず、反応もしない。


「リリア、セシルちゃん帰ってきたの」


「遅かったですね」


呼びかけて、ようやくリリアは精神統一を解き、セシルの方を見る。


「もしかして、ずっとそうしていた?」


「今日は特になにもする必要がありませんでしたから」


「なんというか、よくやるわね」


買ってきた商品の袋を、ベッドの上に乗せ、それを開封していく。


「ご飯は食べたの?」


「いえ?」


「ふうん」


リリアと一緒に暮らし始めて分かったことが、セシルにはあった。


自分と一緒にいる時は時間通りの生活を心がけるが、リリア一人だけだと平気で人らしさを捨て去る傾向があると。


「ジスの試合、見てきたよ」


「ならば安心して頂けたでしょう」


ふっと、笑顔を見せる。


「そ、その……」


セシルには、一体どこからそんな余裕が出てくるのかが謎だった。


「私がどうやって勝利するのかはもう決めております。こうですわ」


普通に立った状態から、右腕をゆっくりと自らの胸の前まで振り上げる。


「ただ、コロシアム内という衆人環視の中で戦うというイメージがどうしてもできませんでした。この私がコンディションを崩す可能性があるとすれば、それが要因となり得るかもしれません」


端からリリアは勝つ気でいる。


戦う相手を確認もせず、イメージトレーニングだけでリリアは今日を過ごしていた。


「リリア」


呼びかけてから肩に手を乗せる。


頬を平手打ちし現実は甘くないと伝えたかったが、リリアの精神状態を考慮してそれは止めた。


「本当に勝てると思っているの?」


「もう勝利しか見えません」


「そっか」


もしかしたら、勝てる秘策があるのかもしれない。


最初からずっと自信に満ちているリリアにそう考え始めた。


「ところで今日はなにをしていたのですか?」


昼過ぎには帰ると話していたのに、セシルが帰って来たのは五時頃。


リリアにはジスの試合などよりも、セシルの行動の方が気になっていた。


「まあ、見ての通り」


ベッドの上に置いた商品の数々を指差す。


「リリアのもあるから好きなのを選んでいいよ」


あえてセシルは試合内容を一度も話さなかった。


「では、見てみましょうか」


リリアはベッドの上にあるものを見ていく。


「実は明日にですね」


「なに?」


「私はジスと戦います」


「えっ? もう?」


「先程、私のスマホに連絡が来ました」


非常に簡素にリリアは伝え、商品を見ていく。


リリアも一応、スマホを持っている。


通話機能、写真撮影の二つしか扱い方を知らないが。


「今日のことは、なにも言わない方がいいのね?」


「私を思ってのことだとは分かりますが必要ありませんわ。確実に勝利する者が、より相手を知り尽くすのはあまり良いとは思えません」


「それならいいの」


リリアの反応から、セシルも考えを変えて今日買ってきた商品や体験した話をする。


本当は心配だったが、もうそれについてはなにも言えなかった。

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